花粉症の季節がやってきた【環境】

花粉症の季節がやってきた


- 国民病とも呼ばれ、国民の約20%が患者に!! -
 春の訪れを待ち焦がれる半面、あの鬱陶しい花粉症のシーズンを迎えます。現在、国民の5人に1人が花粉症に悩み、患者は子供から中高年にも及ぶことから国民病とも呼ばれています。
 花粉症とは、その名の通り花粉によって起こるアレルギー性の病気です。日本では、花粉症といえばスギが原因といわれるほどスギ花粉症が蔓延しています。このスギの花粉が飛び散る2月ごろから、各メディアなどを通じて花粉の飛散情報が流され、花粉症への注意が呼びかけられます。この2月になりました。花粉症の原因や発症の仕組みを十分に理解して花粉症に備えましょう。


花粉症の季節がやってきた - イギリスで最初に花粉症を発見 -
 古くから、さまざまな風土病の中に花粉症らしき疾病が紹介されていました。しかし、近代的な臨床記録では、イギリスで19世紀初めに最初に発見されました。
 産業革命以降、イギリスは森林や里山を牧畜のために開墾し、イネ科の雑草が繁茂する牧草地へと変えていきました。ところが、これに触れると風邪のような症状を引き起こす「枯草熱」が広がっていきました。この病気の原因が、イネ科の雑草の花粉が原因であることが19世紀後半に確認され、枯草熱は花粉症と呼ばれるようになったのです。
 北アメリカでも、19世紀後半に原野に繁茂するキク科のブタクサによるブタクサ花粉症が報告され、現在でもアメリカやカナダで毎年5〜10%の発症が報告されています。日本ではスギ花粉症があまりに有名です。花粉症患者の約7割は、スギ花粉が原因だとされています。日本でスギ花粉症が報告されたのは、スギ並木で有名な日光です。1963年のことで、以降、北海道と沖縄を除いて全国的に蔓延し、患者数は増加の一途を辿っています。
 日本で蔓延するスギ花粉症は、イネ科、ブタクサと並んで、世界の三大花粉症と呼ばれています。
花粉症の季節がやってきた - どうして日本にスギ花粉症が多い? -
 日本にスギ花粉症の人が多い理由は、国土に占めるスギ林の面積が非常に大きくなっているためです。
 第二次大戦後、急ピッチで進む復興で木材の需要は増え、広葉樹を中心とした森林や里山は伐採され、そこに新たに早生樹種の代表ともいえるスギやヒノキが大量に植えられました。日本の国土面積に対する森林面積は約67%ですが、人工林の比率は約4割にも達します。このほとんどがスギなどの針葉樹となっています。
 木材の需要増加に応えるために作られた人工林ですが、次第に外国からの安い木材の輸入によって需要が減り、伐採されなくなっていきます。その結果、樹齢30年以上の成熟したスギ林が増加し、そこから大量の花粉が舞い飛ぶことでスギ花粉症が発生し、蔓延してきたのです。
 多くの人がスギ花粉症に苦しめられていますが、森林も人間の都合で伐採されるなど植生のバランスを崩されて病んでいるのです。これは日本だけのことではなく、イギリスやアメリカでも同様のことがいえます。花粉症は自然に起こるものではなく、自然界からの厳しいしっぺ返しによって起こったといえるかも知れません。
花粉症の季節がやってきた - 花粉症の原因植物は多種多様 -
 日本の花粉症の原因の約7割はスギ花粉となっています。次いでイネ科、キク科と続きますが、この他にも60近い多種多様な植物が花粉症の原因植物になっています。これらの植物の花粉の飛散時期は、種類によって異なります。春にはスギ・ヒノキ科、夏はイネ科、秋はキク科の植物が中心になります。
 花粉症を引き起こす植物は、ほとんどが風で花粉を運ぶ風媒花で、大量の花粉を飛ばして種の保存につとめます。一方、観賞用の植物の多くは虫媒花のため、虫が効率よく花粉を運ぶために花粉の数は少なく飛び散ることはありません。このため、室内に置いておいてもほとんど心配ありません。
花粉症の季節がやってきた 【原因と発症の仕組み、そして対策法を考える】

- 花粉症はどのように発症する -
 花粉症は、花粉が原因で起こるアレルギー疾患の総称で、主としてアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎を起こします。
 花粉が鼻に入ると、激しいくしゃみ、鼻水、鼻づまりなど風邪に似た症状を示します。その結果、鼻づまりによる頭痛、鼻や喉の炎症反応による微熱、だるさなどの症状を起こします。目に入ると、目がかゆくなり、涙が流れ、目が充血してきます。
 本来、人間の身体は外部から入る異物から体を守る機能を持っています。例えば、くしゃみや鼻水、涙などは外部からの異物を弾き飛ばす防御反応です。ところが、アレルギー反応を持つ人は、防御反応が過剰に働いて神経を刺激し、さまざまな辛い症状を引き起こしてしまいます。

- 花粉症が発症する仕組み -
 人間の身体には、異物を監視し排除する「免疫」という防御機能を持っています。風邪のウイルスなどが入ってくると、免疫はその持てる力を総動員してウイルスを撃退します。おたふく風邪やはしかは、一度かかると二度とかかりません。これは、最初の感染で免疫が働いてウイルスを記憶し、次にウイルスが侵入した時はすぐに反応して排除するためです。この免疫反応を引き起こす原因物質を「抗原」、抗原を攻撃して排除する物質を「抗体」といいます。
 アレルギー体質の人が花粉を鼻から吸い込むと、アレルギーの原因となる「抗原」を鼻の粘膜から細胞に取り込んでしまいます。すると、異物を認識する細胞(マクロファージ)と出会い、抗原侵入の情報はヘルパーTと呼ばれる細胞からBリンパ球に伝えらます。Bリンパ球は花粉にピッタリ合う「抗体(IgE抗体)」を作り、IgE抗体は粘膜の中に存在する肥満細胞(マスト細胞)の表面に結合します。この状態をアレルギー反応の「感作」、症状を起こす量の抗体が結合した状態を「感作の成立」といいます。
花粉症の季節がやってきた - 原因物質はヒスタミンやロイコトリエンなど -
 感作が成立した後も花粉を取り込むと、肥満細胞状の抗体と結びついて肥満細胞を刺激し、内部に貯蔵していた抗原物質であるヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどといったアレルギー症状の原因となる化学物質を放出させてしまいます。
 抗原と抗体の結合は、鍵と鍵穴の関係に似ており、例えばスギ花粉の抗原の刺激でできたIgE抗体は、スギ抗原にだけ反応することから「スギ特異的IgE抗体」と呼ばれています。
 肥満細胞から放出された化学物質によって、くしゃみや鼻水、鼻詰まりが起こります。こうしたアレルギー反応が繰り返されると、鼻の粘膜に好酸球と呼ばれる細胞が増え、鼻の粘膜は傷付けられて過敏性が増します。この結果、症状は重症化・慢性化するとともに、花粉の飛散後も症状は長く続きます。

- 花粉症にかからないために -
 花粉症は、花粉に接することで発症するので、できるだけ花粉に触れないように心掛けることが大切です。人間の身体は花粉に触れると、抗体を作って対処します。しかし、何らかのきっかけで大量の花粉に触れることで発症してしまいます。また、軽症で花粉症に気づかなかった人でも、花粉を吸い込むことで花粉症の症状が強く現れるようになります。このため、花粉症にならないためには花粉に接しないという一番簡単で実は難しい方法を実行することです。
 花粉に触れない方法として、洗顔、うがい、マスク、メガネ、衣服の洗浄などさまざまな方法が紹介されているので面倒がらずに実行に移すことが大切です。

- 花粉症の効果的な治療法 -
 花粉症に対してさまざまな治療法が試みられています。症状によって治療法は異なりますが、大別すると現在では対処療法、抗原特異的免疫療法、手術療法の三つの治療法が採用されています。
 対処療法の中心は、飲み薬や点鼻薬、点眼薬による治療です。抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬などが組み合わされて処方されます。これらの薬剤で、花粉症で体内に増えているアレルギー細胞を抑制し、アレルギー細胞から症状の原因物質が放出されるのを抑制します。
 根治治療として採用されているのが、抗原特異的免疫療法(減感作療法)です。花粉の成分(抗原)を、最初は濃度を下げて薄くしたものを注射し、その後少しずつ濃度を上げて注射し、花粉抗原に対する免疫力を高める方法です。長期間にわたって、定期的に注射するため、治療に時間がかかることが難点となっています。
 手術療法を用いるのは、飲み薬や点眼薬で効果が見られない場合に採用されます。レーザーや電気メスで鼻の粘膜の表面を焼いたり凝固させて、症状の軽減を図ります。

- 自然と上手く付き合うことで克服 -
 人類の歴史は、次々と襲いかかる疾病との戦いの歴史でもあります。まだ、克服すべき難病は存在するものの、人類の英知は多くの難病を克服して今日に至っています。
 花粉症は30~40年の間に全国に広がり、注目を集める国民病となっていますが、過去の難病とは性格を異にしています。自然の循環サイクルに、人間が勝手に手を加えたことによって発生した人災ともいえる疾病だからです。
 森林や里山に生い茂った樹木は、人間に清浄な環境や憩いや安らぎを与えてくれました。しかし、ある時から樹木は木材資源として重宝されるとともに、経済性が問われるようになりました。自然界における根源的な役割から、経済性を競う木材資源として新たな役割を負わされるようになったのです。この結果、自然の森林は破壊され、花粉症の蔓延という思いもしない難問を投げかけられているのです。
 現在、品種改良によって花粉の少ないスギや、遺伝子組み換えによる花粉症緩和米の研究などが行われています。しかし、最も確実で効果的な対策は、自然と程よく付き合うことではないでしょうか。
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