たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方【環境】

たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方


【見通しが立たない最終処分場の建設】
 東京電力福島第一原子力発電所の事故をうけ、原発の安全性や経済性、地球環境、エネルギー需給などさまざまな角度から議論が起こっています。
 こうした中、昨年の小泉純一郎元首相の「即時原発ゼロ」発言で、改めて注目を集めているのが高レベル放射性廃棄物の処理問題です。約半世紀にもわたる原発の使用で放射性廃棄物がたまり続け、その最終処分地の目途がまったく立っていません。原発から発生する放射性廃棄物は極めて放射線量が高いため、最終処分を引き受ける自治体が見つからず、行き場のない核のゴミ問題が大きくクローズアップされています。


たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方 【原子力発電の仕組み】
- ボイラーを原子炉に置き換えた -
 原子力発電の基本部分は、原子炉と発電用タービンで構成されています。火力発電のボイラーを、原子炉に置き換えたものといってもいいでしょう。
 火力発電では、ボイラーの中で石油や天然ガスといった化石燃料を燃やして水を沸騰させ、沸騰した蒸気の力でタービンを回転させて電気を起こします。水力発電は、水を高い所から落として、発電用タービンを回します。
 これに対して原子力発電は、原子炉の中でウランを核分裂させて得られる熱で水を沸騰させ、蒸気の力でタービンを回転させて電気を起こします。蒸気はタービンを回した後、復水器というところで海水によって冷やされ、再び液体に戻って原子炉で再加熱され、発電用タービンを回します。この作業を繰り返しているのです。
たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方 - 日本の原発の中心は軽水炉 -
 現在、日本にある原発の多くは、アメリカで開発された軽水炉と呼ばれるものです。この原子炉は、軽水(普通の水)が減速材と冷却材に兼用されているのが特徴で、燃料は濃縮ウランを使用しています。軽水炉には、福島第一原発など東日本で多く導入されている沸騰水型軽水炉と、関西電力など西日本で採用が多い加圧水型軽水炉の二種類があります。
 沸騰型軽水炉は、原子炉で沸騰された蒸気で直接タービンを回します。加圧水型軽水炉は、高い圧力がかけられているために水は沸騰せずに熱交換器に行き、そこで加熱・沸騰して発電用タービンを回します。
たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方 - 原子炉の中で核分裂 -
 物質はすべて原子核とそれを取り巻く電子によって成り立っています。この原子核が2つ以上に分裂することを核分裂と呼んでいます。原子核は陽子と中性子から構成され、陽子の数によって原子の種類が決まってきます。例えば水素の原子核には陽子が1つしかないので原子番号は1、2個ならヘリウムです。
 核分裂はさまざまな原子核で起こりますが、ウランは特に起こりやすい物質です。ウランの原子核に中性子を当てると原子核が分裂して2~3個の中性子が発生します。この中性子がさらに近くの原子核に衝突すると新たに2~3個の中性子が放出し、ネズミ算式に核分裂が起こります。こうした核分裂が瞬時に行われると、膨大なエネルギーを発生します。この原理を利用したのが原子爆弾です。
 一方、原子力発電は、原子炉内でウランの核分裂反応をゆっくりと継続的に進め、長期間にわたって得られるエネルギーでタービンを回転させて発電機で電力を起こしています。

- 使用済み燃料棒から高レベル放射性廃棄物 -
 燃料となるウランは、焼き固められてペレットに加工され、燃料被覆管に詰められて高さ約3~4m太さ1㎝ほどの燃料棒となります。この燃料棒の間を水が流れ、燃料棒が核分裂反応で出す熱で水を沸かし、蒸気が発電用タービンを回して発電するのです。
 この燃料棒は出力を保つために3~4年で新しいものに取り換えられます。使用済みとなっても燃料棒は強い放射線と高熱を発しているため、水につけて冷やし続けます。この使用済み核燃料が溜まり続けているのが現状です。

【核燃料サイクルと放射性廃棄物】
- 複雑かつ膨大な核廃棄物 -
 原発は「トイレのないマンション」と呼ばれることがあります。核廃棄物の処理という厄介な問題を先送りにし、利点だけに目を向けて建設を急いできたためです。現在の科学技術を総動員しても、放射能の毒性を減らすことができません。しかも、半減期が何万年という長い放射性物質が混じっているため、何世代にもわたって自然環境や人類に害を及ぼさないように保管・管理し続けなければなりません。
 原発に関わる核廃棄物は、すべての段階で発生します。まず、燃料となるウラン鉱石の採掘現場での残土、ウラン鉱石を精錬する時に生じる鉱滓、さらにウランを濃縮して燃料に加工する際に生じる廃棄物はすべて放射能に汚染されています。
 原発を運転すると、燃料棒は3~4年で使用済みとなります。使用済み燃料からは非常に高い放射線が放出され、高レベル放射性廃棄物として我々を悩ませているのです。

- 核燃料のリサイクルで減量化? -
 資源の少ない日本は、原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再び燃料として使用する方針を取ってきました。
 これを核燃料サイクルと呼び、高レベル放射性廃棄物の発生抑制や増加するプルトニウムの消費をめざしていました。最初に茨城県の東海村に小規模な再処理工場が作られました。そして、さらにスケールアップした再処理工場が青森県六ケ所村に2016年の完成を目指して建設が進められていますが、相次ぐトラブルで完成予定が延びているのが現状です。
 本来なら、再処理工場で取り出したプルトニウムを「高速増殖炉」という原子炉で使用する予定でした。しかし、1994年に福井県で運転を開始した高速増殖炉「もんじゅ」は、翌年ナトリウム漏れによる火災を起こし、その後もトラブル続きで運転を停止したままです。これでは原爆の材料にもなるプルトニウムが増え続け、海外から懸念する声が高まるばかりです。

- 「MOX燃料」を燃やすプサーマル計画 -
 そこで、作り出されたのがウランとプルトニウムを混合した「MOX燃料」で、これをこれまでウラン燃料で運転してきた軽水炉で 使おうというものです。これを「プルサーマル計画」といいます。
 しかし、ウランとプルトニウムといった性格の異なる燃料を一緒に燃やすため、安全性への疑念を払しょくできず、地元自治体や地域住民などから反対の声が寄せられました。各電力会社もMOX燃料の導入に慎重な姿勢で臨みましたが、1999年に経済産業相の許可が下り、九州電力や関西電力、四国電力の一部の原発でMOX燃料が使用され始めました。
 今回事故を起こした東京電力福島第一原発の三号機では、このMOX燃料が使用されており、大量のプルトニウムが放出されたのではないかと心配されています。
たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方 【保管され続ける使用済み核燃料】
- 地下に数万年眠らせて安定化 -
 原発から出た使用済み核燃料は、六ケ所村の再処理工場や各原発の敷地内に保管され、その量は約1万7000tにも達しています。2012年にまとめられた国の「革新的エネルギー・環境戦略」では、再処理政策は維持するものの、使用済み核燃料の直接処分の研究も指示されています。資源とみなされてきた使用済み核燃料は、高レベルの「放射性廃棄物」へと性格を変えます。
 これまでは、再処理時に出る再利用できない放射性物質をガラスで固め、高レベル放射性廃棄物として扱ってきました。ガラス固化体は、ステンレス製の容器に高レベル放射性廃棄物をガラスで固めたもので、約500㎏の円柱形となっています。これを地下300m以深の地底に埋め、放射線量が十分に低くなる数万年以上にわたって隔離する計画です。
 しかし、日本は火山活動や地震などの自然災害が予測され、長期に安定した地層を見つけるのは困難で、まだ候補地は見つかっていません。

- フィンランドとスウェーデンで動きが -
 最終処分地の建設問題に悩んでいるのは日本だけに限りません。原発大国のアメリカやフランスでも最終処分地を確保していません。こうした中、フィンランドは2001年、オルキルオト島に最終処分場を設置することを決定し、2020年ごろから操業を始める予定です。フィンランドには4基の原発があり、使用済み核燃料は再処理せずにそのまま地中に埋める計画です。
 スウェーデンも2009年、フォルスマルク島に使用済み核燃料の最終処分場の建設を決定しました。現在、世界で決まっているのはこの二か所に過ぎません。
 原発を使い続ける限り、核廃棄物は増え続けます。核エネルギーは私たちに大きな恩恵をもたらしてくれるとともに、核廃棄物の処理・処分という重い問題を突き付けています。次世代に負担を先送りすることなく、問題解決のための道筋を明示するのが恩恵を受けた我々の責務といえるでしょう。
たまり続ける核のゴミ(放射性廃棄物)の行方 『原子力発電と原子爆弾の違い』
 天然ウランは、核分裂を起こすウラン235と核分裂しにくいウラン238で構成されていますが、ウラン235は0・7%程度しか含まれていません。原子爆弾は、この核分裂しやすいウラン235の割合を100%近くまで濃縮し、瞬時に核分裂連鎖反応を引き起こして大量のエネルギーを一気に発生させます。いわゆる核爆発です。
 原子力発電では、ウラン235が3~5%しか含まれていない燃料を使い、3~4年かけて核分裂させ、少しずつエネルギーとして取り出していきます。この燃料を一気に核分裂させようとしても、ウラン235と一緒に含まれる核分裂しにくいウラン238が中性子を吸収するために核分裂連鎖反応を制御し、原子爆弾のように爆発することはありません。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について