震災から3年、被災地はいま【環境】

震災から3年、被災地はいま


【新たな「復興」の形を模索する段階に】
 2011年3月11日、14時16分。未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生から早や3年が経過しました。特に被害の大きかった岩手・宮城・福島では、いまだ「復興」を実感しないとの声も多く聞かれる一方、一つの転換期を迎えたとの見方もあります。
 同じ国に住む私たち一人ひとりがいま出来ること、すべきことを改めて考えてみましょう。

震災から3年、被災地はいま -避難者は今も約26万人。復興へ課題は山積み-
 警視庁の発表によると、今年1月時点で東日本大震災による死者は15884人、重軽傷者6150人、行方不明者2640人となっています。被害はいまだ癒えることなく、現地では復旧・復興に向けた努力が続けられています。
 復興庁が昨年11月にまとめた「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」によると、当初約47万人にのぼった避難者は昨年末には約26万人に減り、仮設住宅などへの入居戸数も徐々に減少しています。ライフラインや公共インフラの復旧をはじめ、津波に備えた高台移転や土地のかさ上げの着工も順次行われるなど、住まい再建に向けた動きが進められています。
 こうした半面、住宅の集団移転や災害公営住宅の用地取得、原子力災害からの復興など問題はまだまだ山積みです。
震災から3年、被災地はいま -復旧の中、変わりゆく風景 産業は徐々に回復傾向-
 被災地である東北地方は、古くから農業や漁業などの第一次産業を担う町として知られてきました。しかし、津波によって浸水した地域では、海水による農地の塩害や地盤沈下、漁船や水産加工施設の崩壊などで、多くの人が職を失いました。
 現在は農地復旧や除塩の実施で、昨年12月時点で被災した六県(青森・岩手・宮城・福島・茨木・千葉)の農地21480haのうち、13470haで耕作再開が可能になりました。被害の大きかった岩手県、宮城県は震災前とほぼ同レベルまで、福島県では85%に回復しています。
 政府は、平成27年度末までに再開希望者全員の施設の復旧・復興を目処とする一方で、企業を誘致して大規模な太陽光発電所の建設を開始するなど、離農や集団移動で空いた土地を円滑に利用するための計画も進めています。
 水産業でも被災した約2万9千隻の漁船はほぼ復旧し、水産加工施設の78%にあたる638施設が業務を再開。宮城県気仙沼市は、昨年も16年連続で生鮮カツオの水揚げ日本一を記録しました。
震災から3年、被災地はいま -終わりの見えない除染作業 人口流出の不安も止まらず-
 徐々に回復傾向が見られる東北地方ですが、東京電力福島第一原発事故による被害を受けた福島県では、農林水産物の風評被害が大きな爪痕を残し、本格的な復興が今後の課題となっています。
 復興庁のデータによると、福島県の避難指示区域などからの避難者は約10.2万人で、このうち約4.8万人が県外で避難生活を送っています。これは福島県全体の人口の約2.5%で、残りの人々はさまざまな問題を抱えながら、いまも県内での生活を続けています。
 昨年、環境省は国が直轄で除染を行う11市町村のうち、1つの市で除染を完了させました。しかし、7市町村では当初の計画を断念し、完了まで2~3年遅れると発表しています。
 除染したといっても効果に確実性が見られず、本当に家に帰れるのかどうか住民の不安は拭えません。また部分的な除染では効果が上がらないため、広い範囲を何度も除染して少しずつ線量を下げるほかないのですが、費用対効果の問題や作業員の被曝管理の問題などがあります。
 除染の際に出る大量の汚染土は、運搬先となる中間貯蔵施設建設の完成が当分の間見込めないため、袋詰めされた汚染土は街中に仮置きされたままです。

-急がれる「心の復興」経済的に困難な子どもが増加-
 避難生活が長期化すると、ストレスが増えて心身に悪影響を及ぼします。平成7年に発生した阪神・淡路大震災では、被災から3年を経過した頃に自殺者が増えたといわれています。このため、復興庁は被災者の心のケアやサポートに力を入れています。
 また、東日本大震災で保護者が亡くなったり仕事を失ったりして経済的に困窮した子ども達のために、国が学費や給食費などを支援した子どもの数が、昨年度は5万8300人に上りました。
 臨時的な措置として始まった制度ですが、支援を受ける子どもの数はほとんど減っておらず、継続を求める声が上がっています。震災前、子どもたちにとって当たり前にあった学習の場や部活動、安心して遊べる環境などもまだまだ回復にはほど遠いようです。


『東北に学んだ教訓を、自分の暮らす街に生かそう』
震災から3年、被災地はいま -復興を加速させ全国に先駆けた未来社会を作る-
 被災地では、災害で住まいを無くし、自力で家を再建するのが難しい住民のための「復興住宅」の整備が進められています。同時に、高齢化と人口流出が進む被災地で新たな入居者が期待できるのか、空き家の維持管理はどうするかといった問題も出てきています。
 今回の東日本大震災は、日本が以前から抱えている少子高齢化、地域の過疎化、産業の衰退、医療やコミュニティの崩壊といった問題の深刻さを露呈しました。
 こうした中、東北ではこれらの課題を解決し、日本や世界のモデルとなる「新しい東北」の創造をめざしています。被災地の中で最も多い約4千人が死亡・行方不明となった宮城県石巻市の仮設住宅では、地域で高齢者を支える「地域包括ケア」の試みが始まりました。
 厚生労働省はこれを「高齢者福祉の柱」と位置付け、高齢者が地域社会に参加し、自立的に快活に暮らせるためのシステムの構築はもちろん、若者が力を発揮できる社会づくりをめざしています。

-災害時の停電を想定した再生可能エネルギーの活用を-
 災害時の避難先となる学校では、停電が続くことを想定した再生可能エネルギーの見直しも始まっています。
 国立教育政策研究所は今年、間伐材を生かした木質ペレットによる暖房や、雪を使った冷房やトイレ用水への活用など、実際に震災時に活用された再生可能エネルギーの事例集をまとめました。各都道府県の教育委員会に配布されるとともに、同研究所のホームページでも公開されています。
 岩手県釜石市の小学校では、太陽熱を利用した暖房設備と太陽光発電パネルを屋根に併設していたため、停電中でも暖房を使うことができました。福井県若狭町の中学校は、地元の工場が間伐材や廃材から作った木質ペレットを校舎の暖房に利用しています。木質ペレットは運搬や貯蔵にも優れることから、被災地の避難所でも貴重な資源として活躍しました。
 文部科学省によると、昨年4月の時点で全国の公立小中学校約3万校のうち21%が再生可能エネルギーの設備を導入しています。しかし、停電時も使用できる設備はその30%程度に過ぎないため、改善が待ち望まれています。

-小中学校、高校へ新たな放射線副読本を配布-
 今年3月、文部科学省は東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、内容を大幅に見直した「放射線副読本」を公表しました。これは放射線などの基礎的な性質について理解を深め、国民一人ひとりが自ら考え、判断し、的確に対処する力を育むことを目的としたもので、小学生用と中・高生用の2種類があります。
 小学生、中・高生用ともに、第1章では福島の原発事故の説明や被害の実態、除染作業の様子や被災地に対する風評被害・差別について触れています。第2章では放射線・放射線物質・放射能の違い、放射線量と健康との関係、放射線の事故から身を守る方法などを紹介しています。
 希望する全国の小中学校や高校、特別支援学校などに配布されるほか、同省ホームページでも閲覧が可能です。

-防災対策を見直し南海トラフ地震に備える-
 被災地での懸命な復旧・復興が続く中、注目度を増しているのが30年以内に70%の確率で発生するといわれている南海トラフ地震です。
 政府が昨年4月、東日本大震災を教訓に被害想定を見直したところ、東日本大震災と同じM9級の地震が発生した場合、死者は最悪32万3千人と平成16年度の想定時のおよそ倍に、経済被害は国家予算に匹敵する約95兆円と推計されています。電気関係の出火対策を徹底すれば死者や被害額を減らせるとの見方もありますが、いずれにしても甚大な被害に見舞われることが予想されます。
 減災社会を構築していくためには、日本全体の防災力向上や対策強化はもちろん、人と人が互いに支え合い、助け合える社会コミュニティの形成が欠かせません。東日本大震災を風化させることなく、そこから学んだ教訓を次代に伝え、自分達の暮らす地域に生かすことが、被災地だけでなく日本の未来を支える力になっていくでしょう。


【現地のいまを知ることが復興支援の第一歩】
震災から3年、被災地はいま  今年3月5日、神戸のポートアイランドで公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構が主催する「東日本大震災生活復興フォーラム」が開かれました。東日本大震災から3年が経ついま、被災者の生活復興の現状と課題を阪神・淡路大震災の経験者も交えて考える場に、全国各地から多くの人が集まりました。
 会場では、被災地の生活復興に関する現状や課題のほか、被災地の学生が主体となって設立したNPO法人による支援活動の様子など、テレビやインターネットからの情報だけでは伝わりにくい現地の生の様子が語られました。
 私たちは報道を通して、被災地のことを「分かったつもり」「分かっているつもり」でいても、実際は正しく理解できていなかったり、誤解していることが少なくありません。気仙沼で震災の被害にあったある学生は、3泊4日のボランティア活動を通して「被災地にいるのに被災地のことが分かっていなかった」と語ったそうです。
 真の復興とは何か、そのためには何が大切なのか。皆さんも一度現地を訪れ、被災地のいまに触れる機会を作ってみてはいかがでしょうか。
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