中南米を中心に感染が拡大する「ジカ熱」【環境】

中南米を中心に感染が拡大する「ジカ熱」

 蚊が媒体となる感染症「ジカ熱(ジカウイルス感染症)」が、中南米を中心に流行が拡大しています。WHOは2月1日、感染が他の地域にも広がる恐れがあるとして「国際的な懸念の対象となる公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。
 ジカ熱に感染しても、症状が出ないことや症状が軽いために気付かないことがあります。しかし、妊娠中の女性が感染すると、ジカ熱が原因ではないかと疑われる「小頭症」の胎児がブラジルを中心に急増し、世界中を不安に陥れています。

中南米を中心に感染が拡大する「ジカ熱」 - 1947年にウガンダのサルから発見 -
 ジカ熱は「ジカウイルス」によるウイルス性の感染症で、1947年にウガンダのアカゲザルから見つかりました。ヒトへの感染が確認されたのは1952年のことです。それ以降、ジカ熱はアフリカから中南米、アジア太平洋地域などに広がっていきました。
 今回の大流行は、昨年5月にブラジルで感染が確認されて以来、中南米を中心に25か国・地域に拡大しています。また、アメリカやヨーロッパなどでも、流行地を訪問した人が帰国後にジカ熱を発症した例が報告されています。WHOによると、今後1年間に400万人もの感染者が出る恐れがあると警告しています。
 2014年に西アフリカで猛威を振るい、まだ完全に終息していない「エボラ出血熱」では、WHOの対策が後手に回ったと指摘されています。この教訓から、ジカ熱に対する予防措置を徹底させるために緊急事態宣言が出されました。
中南米を中心に感染が拡大する「ジカ熱」 - どのように感染が広がる? -
 ジカウイルスを媒介するのは、熱帯地域や亜熱帯市域に生息する「ネッタイシマカ」や、北海道を除く日本のほとんどの地域に生息する「ヒトスジシマカ」です。
 ジカ熱は、蚊がジカ熱に感染した患者の血を吸い込み、蚊の体内でウイルスを増殖させ、その蚊が他の人の血を吸うことで感染が拡大していきます。
 ジカウイルスに感染すると、3~10日の潜伏期間を経て発熱や頭痛、関節痛などの風邪に似た症状を起こします。現在、ジカ熱を予防するワクチンや特効薬はなく、症状を和らげる対処療法を中心とした治療が行われています。しかし、ジカ熱患者の多くは発症から2~7日で治り、予後は比較的良好な感染症です。また、感染しても発症する人の割合は20%程度だとされています。ジカ熱は良性の感染症のため、これまであまり注目されませんでした。
 ところが、ブラジルなどで数多く誕生する小頭症の新生児とジカ熱の関連が疑われ、世界中を不安に陥れています。
中南米を中心に感染が拡大する「ジカ熱」 - 心配される小頭症との関連 -
 ブラジルでは、ジカ熱の流行と同じ時期に小頭症の新生児が相次ぎ、疑い例を含めると昨年10月から今年1月までに約4000例の小頭症児が報告されています。小頭症とは、先天的に頭が小さく、脳の発達が遅れることで知的障害などを引き起こす恐ろしい病気です。
 WHOは、亡くなった小頭症の赤ちゃんの血液や、出産後の母親の羊水からジカウイルスを検出していることから、ジカ熱と小頭症の関連に強い疑いを表明しています。
 ブラジル保健相は、妊娠中のジカ熱感染と小頭症に関連が見られると発表しました。1月15日には、現地で調査中のアメリカ疾病対策チーム(CDC)の詳細な調査結果を得るまでは、流行地域へ妊婦の渡航を控えるように警告を発しました。日本政府も、流行地に渡航する人に対し、蚊に刺されない対策を呼びかけ、妊婦には渡航を控えるように勧めています。

- ジカ熱に対する日本の予防体制 -
 厚生労働省は2月5日、ジカ熱を4種感染症に指定しました。4種感染症とは、動物や飲食物を介してヒトに感染し、国民の健康に影響を及ぼす感染症のことで、デング熱や鳥インフルエンザ、狂犬病などが指定されています。
 ジカ熱が4種感染症に指定されたことで、医師が患者を診察した際には、保健所に報告することが義務付けられました。空港などの検疫所で、感染が疑われる人にウイルス検査ができるようにウイルス検査の試薬を配布して日本での流行に備えています。また、ジカ熱で高温が出ることは稀なため、ジカ熱の名称を「ジカウイルス感染症」と改めることにしました。

- 蚊に刺されない対策を? -
 日本では、5月から10月にかけてジカウイルスを媒介するヒトスジシマカの活動が活発化します。8月6日からリオデジャネイロオリンピックが開催され、日本人がジカ熱の流行地を訪問する機会が増えると思われます。旅行中にジカウイルスに感染し、帰国後に蚊に刺されることで感染を拡大させる恐れがあります。このため、ブラジルなどの流行地から帰国後は、肌の露出を避けるなど蚊に刺されないように注意する必要があります。ジカ熱に対するワクチンや治療薬がないため、個人でできる対策は蚊に刺されないようにするしかありません。もし、ジカ熱が疑われる症状が出た場合は、医師に渡航歴を伝えることが必要です。
 一昨年の夏、日本で69年ぶりとなるデング熱に感染した患者が発生しました。デング熱はジカ熱と同様、日本に生息するヒトスジシマカによって媒介されたデングウイルスによるもので重症に陥ることがあります。このため、感染場所と見られた代々木公園などが封鎖されことを記憶している人も多いと思います。この教訓をジカ熱の流行予防に生かしたいものです。
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