廃スマホから東京五輪のメダルを作る【環境】

廃スマホから東京五輪のメダルを作る


【街中に眠る金属資源、都市鉱山とは?】
 2020年に開催される東京五輪のメダルを、使用済みのスマホや携帯電話などから作る準備が進んでいます。廃棄された家電や電子機器にはさまざまな金属が含まれており、これらは「都市鉱山」と呼ばれます。金、銀、銅などの貴金属だけでなく、先端的な工業製品に欠かせないチタンや、コバルト、ニッケルといったレアメタルなども含まれ、日本は世界有数の鉱物資源国といわれます。街中に眠る資源の宝庫、都市鉱山を探ってみましょう。

廃スマホから東京五輪のメダルを作る - 資源リサイクルを東京五輪のレガシーに -
 日本は天然資源には恵まれていませんが、都市の廃棄物には様々な資源が眠っています。とくにパソコンやスマホ、携帯電話などの使用済み情報機器には様々な貴金属やレアメタル(希少金属)が含まれています。  昨年6月、東京五輪・パラリンピック組織委員会や環境省、東京都、NTTドコモなどが参加して「持続可能な未来」をめざす「東京2020運営計画への連携プラン提案」の検討会が開かれました。その中で「日本の小型廃家電だけで五輪メダルを全量作ることが可能」という結論が出されました。  現在、廃棄されたスマホや携帯電話などから回収した金属資源を再利用して、東京五輪・パラリンピックのメダルを作る準備が進んでいます。日本の環境先進性を世界にアピールすると共に、オリンピック史に新たなレガシー(将来への遺産)を残すことになるでしょう。

- リオ大会では5130個のメダルが作られた -
 オリンピックとパラリンピックを合わせて東京大会のメダルはいくつ必要でしょうか。  2012年開催のロンドン大会ではオリンピック、パラリンピック合わせて4700個、昨年7月のリオデジャネイロ(リオ)大会では、5130個のメダルが製造されました。  20年の東京オリンピックでは新たに野球、空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィンの5競技が追加されるので、メダルの製造数はさらに増えると見られます。   オリンピックで用いられるメダルは、かつてオリンピック憲章で直径や厚さ、純度などの基準がありました。しかし2004年のアテネ大会以降は撤廃されて、開催地ごとに独自の工夫が凝らされるようになりました。  リオ大会の金メダルは直径8.5㎝、重さは500gで、ロンドン大会より100g増えて、五輪史上最も重いメダルとなりました。

- 東京大会で初めてメダル全量を回収資源で -
 現在の金メダルは純度92・5%以上の銀製のメダルに6g以上の金メッキを施したものが一般的です。また銀メダルは強度を保つ必要から、銅を混ぜたスターリングシルバーと呼ばれる銀合金が使用されています。   それではオリンピック、パラリンピックのメダルを作るにはどれだけの金、銀、銅が必要なのでしょうか。  2012年のロンドン大会のメダルで使われた金属の量は、金9.6㎏、銀1210㎏、銅700㎏でした。東京大会のメダルでは、これをかなり上回る金、銀、銅が必要となります。  東京大会ではオリンピック、パラリンピックすべてのメダルを再生資源で作ろうとしていますが、2013年4月に施行された小型家電リサイクル法に基づく廃家電、情報機器の回収・再資源化への取り組みで十分確保できるとしています。  リオ大会では銀と銅のメダルの材料の3割にリサイクル資源が用いられましたが、金・銀・銅のメダルを全量リサイクル資源で製造するのは東京大会が初めてとなります。

- 2014年度に廃家電から7550tの金属を回収 -
 ネット社会を迎えて情報機器の普及・利用が拡大すると共に、使用済み情報機器が急増し、資源を有効活用するため、リユース(再利用)、リサイクル(循環利用)など再資源化の取り組みが活発に進められています。  情報機器リユース・リサイクル協会(RITEA)の調査によりますと、2014年度にリサイクルを目的にパソコンや携帯電話など105万台(前年度比18%増)の使用済み情報機器が回収され、その中から7550トンの資源を分別回収して再資源化されました。  このうち、556tが再利用部品にリユース(再利用)され、差し引き6994tが再資源材料として循環利用されました。この中で一般にベースメタルと言われる鉄、銅、アルミニウムが合計5470tとなっています。とくに市場で重宝される銅は279tが再資源化されました。

- アジアの国々から出稼ぎに -
 高度経済成長期からバブル期にかけて、日本は発展途上のアジアの国々の中で唯一経済的繁栄をなしとげていました。貧しい国の人々は外国で働くことを考え、労働力不足の国は外国人労働力を受け入れようとします。これが当時の日本とアジア諸国を巡る図式でした。  日本には出入国管理規定があり、高度な専門的・技術的労働者は積極的に受け入れますが、単純労働者については慎重に対処しました。この結果、人手不足が深刻な中小企業などでは、観光目的で日本に来た外国人を不法労働と知りながらも就労させ始めたのです。  また、この頃から日系人が日本へ流入し始め、日系人2世・3世へと引き継がれるようになりました。これらの人々は日本国籍を持っていたり、日本人と結婚して在留資格を持っている人が多く、国内でどのような仕事にも就くことができます。こうして外国人労働者は、不法滞在者を含めて増えていったのです。  バブル景気は199 1年に終り、日本は長期にわたる経済不況に見舞われます。外国人労働者は、不況であっても外国人労働者を必要とする地域や職種があり、外国人労働者は幅広い地域や職種に分散されていきました。しかし、日本人が嫌う過酷な条件下での仕事が割り振られ、それに見合う賃金を得ることは出来ないという現実もあります。こうして日本人が嫌う仕事は、外国人労働者の独占的な職場となっていきました。
廃スマホから東京五輪のメダルを作る - 使用済み情報機器の山は良質の都市鉱山 -
回収された再資源材料のうち貴金属は、金が300㎏、銀が1.8tとなっています。また希少金属のレアメタルは、クロム、コバルト、ニッケル、パラジウムなど合計で2.9tが回収されました。  とくに水素吸蔵合金として利用され、経済的価値の高いパラジウムは110㎏回収されました。このほか金属以外ではプラスチック1316t、ガラス203tが再資源化されました。  回収された金300㎏は、全体の再資源量7550tの0・004%。また銀1.8tは同じく0・024%に当たります。一般に金は鉱石1t中に約5g(0・0005%)、銀は鉱石1t中で約130g(0・013%)以上取れれば採算ベースにのるといわれます。  使用済み情報機器からの回収率(金0・004%、銀0・024%)はいずれも有望な天然鉱山からの回収率に匹敵しており、「都市鉱山」は良質の鉱脈ということができます
廃スマホから東京五輪のメダルを作る - 日本の都市に金約6800t、銀6万tが埋蔵 -
 「都市鉱山」と呼ばれる廃家電や使用済み情報機器にはどれだけの金属資源が「埋蔵」されているのでしょうか。  パソコンやスマホなどの情報機器や家電には大量の電子基板(集積回路)が組み込まれています。これらの基板材料の中には金、銀、銅やタングステン、プラチナなどの貴金属が使用されています。  物質・材料研究機構が2008年に行った試算によりますと、日本の都市鉱山には約6800tの金や6万tの銀、3800万tの銅が眠っていると推計しています。  全世界の埋蔵量との比較でみると、日本の都市鉱山に埋蔵されている金(約6800t)は、世界の現有埋蔵量4万2000tの16・4%に当たります。銀は世界の埋蔵量の22・4%、銅は同じく8.0%に達し、日本は世界有数の金属資源国といえるのです。

- 都市鉱山開発で日本は消費国から資源国へ -
 世界最大の金の産出国として知られる南アフリカ共和国の金鉱山でも、1tの鉱石から採れる金はせいぜい5g程度です。これに対して携帯電話1t(約1万台分)から約400gの金、1.4㎏の銀、100㎏の銅、40gのパラジウムが採取できるといわれます。  またレアメタルでは、ディスプレイや太陽光発電に用いられるインジウムは世界の埋蔵量の61%、電子部品に広く使用されるスズは11%、タンタルは10%と、日本の都市鉱山には世界の埋蔵量の1割を超える多くの貴重な金属資源が眠っていることが分かります。  日本には天然の金属資源、レアメタル資源がほとんどなく、ほぼ全量を海外からの輸入に頼っています。しかし、世界有数の消費国である日本が、都市鉱山開発に本格的に取り組めば、世界有数の資源国になる可能性があります。

- メリットは環境負荷軽減と資源の安定確保 -
 都市鉱山の開発は、天然鉱山からの採掘に比べて多くのメリットがあります。  遠い海外で採掘、運搬、精錬という一連の作業に比べてCO2の排出量が少なく、採掘に伴う環境破壊の心配もありません。天然資源の節約にもつながり、廃棄物をリサイクルするためゴミの減量や最終処分地の寿命の延長効果も期待されます。  また、確定埋蔵量が明らかなため資源探査の必要がありません。資源である廃家電や情報機器は、もともと一旦加工されたものだけに天然鉱石より純度が高く高品質です。  しかも国内の都市に集積されているため、天然資源のように海外の資源産出国の政情や国際的な政治情勢に影響されず、安定して有用な金属資源を確保できる利点があります。

- 課題は回収システムの構築とコスト低減 -
 ただ都市鉱山の開発には問題もあります。一つは多くの小型電子機器が個々の消費者の手元に分散しているため、それらを効果的に回収するリサイクルのシステムの構築が必要です。これを「分散の壁」といいます。  廃家電や情報機器が国内で回収、再資源化されずに再生可能資源として海外に流出しているケースがあり、その対策も大きな課題となっています。  また、分別、解体などの作業にコストがかかるため再資源化しても採算が取れないことから、他の廃棄物と同様に焼却や埋め立て処理されるケースが少なくありません。  このため、膨大な廃棄物から有用な金属資源を低コストで効率的に分離・回収する再生プロセス技術の確立が急がれます。これは「コストの壁」と呼ばれます。

- 不要な小型家電、情報機器はリサイクルへ -
 政府は都市鉱山のリサイクルを推進するため、2013年4月に小型家電リサイクル法を施行しました。経済産業省の調べによりますと、日本では年間約65万tの使用済み小型家電が発生しますが、小型家電リサイクル法による回収は10万tにも満たないのが実情です。  私たちの家庭にも使わなくなった携帯電話やパソコン、小型家電などが押し入れや机の引き出しにゴロゴロしているのではないでしょうか。  政府や地方自治体は、より効率を高めるため多様な回収方法の導入に努めていますが、私たち消費者もルールに従って使わなくなった小型家電、情報機器のリサイクルに積極的に協力していくことが必要です。

《「レアメタルとレアアース」》
資源リスクの軽減につながる都市鉱山開発

 鉄や銅、亜鉛、鉛、アルミニウムなどのように生産量が多く、様々な材料に大量に使用されている金属を一般にベースメタルと言います。また、希少で耐腐食性のある金、銀、プラチナやパラジウムなどの8元素を貴金属と呼びます。  これに対して埋蔵量が極端に少なかったり、技術やコストの面から抽出するのが難しい金属資源を総称して「レアメタル(希少金属)」といいます。半導体部品に使われるゲルマニウムや電気自動車の電池に使われるリチウム、発光ダイオード(LED)に用いられるガリウムなどが代表的です。  レアメタルの元素の一部に「レアアース(希土類)」があります。イットリウムやランタン、セリウムなど17種類の元素を指します。  レアアースは微量を添加するだけで主要な金属の性能を飛躍的に高めることができる機能性材料として、光触媒や磁性材料に使用され、ハイブリッド車のモーターやモバイル端末の振動モーター、パソコンのハードディスクのモーターなどに用いられています。   このほかにも液晶テレビのガラス基盤の研磨材、電子部品や各種センサー、自動車の排ガス浄化の触媒など、さまざまな先端製品で使用され、日本は世界需要の約半分を占める大消費国です。ハイテクに欠かせないレアアースは、世界の産出量の97%以上を占める中国からの輸入に頼っています。  先端産業を支える貴重な金属資源であるレアメタル、レアアースは、海外からの供給が不安定になると、産業や私たちの生活に大きな影響を与えます。いわゆる「資源リスク」がそれです。都市鉱山の開発は資源リスクの軽減につながると期待されています。
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