南海トラフ巨大地震に備えよう【環境】

南海トラフ巨大地震に備えよう


【被害想定では最大死者数32万3千人、被害額約220兆円】
 南海トラフ巨大地震とは、静岡県の駿河湾から四国沖まで約700㎞を震源とする東海地震、東南海地震、南海地震が連動して発生するマグニチュード8から9クラスの地震のことです。国の有識者会議の被害想定では、南海トラフ巨大地震が発生すると、死者数は最大で32万3千人に上るとされています。2016年6月に公表された全国地震予測地図では、前回の14年版より太平洋沿岸地域での地震発生確率が最大で2ポイントほど上昇しています。このため、南海トラフ巨大地震発生のメカニズムを理解し、万一の事態に備えることが急務となっています。

南海トラフ巨大地震に備えよう - プレートの境界上にある日本列島 -
 地球の表面は、「プレート」と呼ばれる巨大な十数枚の岩盤で覆われています。日本列島は、太平洋プレートやフィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートという4つのプレートが接する境界に位置しています。
 海のプレートである太平洋プレートとフィリピン海プレートは、陸のプレートの下に年間数㎝から10㎝程度のゆっくりとした速度で沈み込んでいます。このため、引きずり込まれた陸側のプレートの先端部に歪みがたまり、100~200年位すると歪みの蓄積が限界になって壊れてずれ動き、陸側のプレートの先端が跳ね返ります。この時の衝撃で起こるのが「プレート境界型地震」です。
 プレート境界型地震は、2011年3月11日に起きたM9の「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)」のような巨大地震を起こします。東日本大震災は、三陸沖の太平洋プレートが北米プレートの下に潜り込む地点で発生しました。このため、地震の揺れによる被害とともに、沿岸地域に大津波が押し寄せて甚大な被害を及ぼしました。すでに地震発生後6年が経過しましたが、復旧への道半ばというのが現状です。こうした中、心配されているのが南海トラフ巨大地震です。
南海トラフ巨大地震に備えよう - 南海トラフ巨大地震発生のメカニズム -
 南海トラフとは、駿河湾から四国沖の約700㎞にわたって延びる水深約4000mの深い溝(トラフ)のことです。この地点で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートにぶつかり、ゆっくりと沈み込んでいます。この付近では、過去にプレート境界型地震の特徴である津波を伴うM8前後の巨大地震が、100年から150年の間隔で繰り返し発生してきました。
 これまで、地震の震源域によって東海地震、東南海地震、南海地震と呼ばれてきました。南海トラフ巨大地震とは、この3つの地震が連動して、あるいは同時に起こる地震のことです。南海トラフ巨大地震は東日本大震災と同様に、海底で起こるので地震に伴って大津波が押し寄せると考えられています。

- 南海トラフ地震の被害想定の見直し -
  国は2011年の東日本大震災のあと、宮崎県沖の日向灘を加えた南海トラフにある3つの震源域が同時に、あるいは連動して起こることを想定した被害想定の見直しに着手しました。
 2012年4月に内閣府の「中央防災会議」の下に「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」が設置され、同年8月に第1次報告として南海トラフ巨大地震が発生した場合の被害想定を公表しました。また、翌13年3月に第2次報告として施設や経済被害などの推定結果が発表されました。

- 東日本大震災を大きく上回る被害想定 -
 これらの報告によると、今後30年の間に南海トラフを震源域とするM8から9クラスの大地震の発生確率を70%程度と想定しています。そして、最悪の場合の死者は32万3千人に達するとしています。東日本大震災の死者・行方不明者数18446人(2017年3月現在)の約17倍もの人が命を落とすと想定されています。
 この死者数の想定は、東海地方の冬の深夜に南海トラフ巨大地震が発生した場合の想定です。このうち、津波による死者が約23万人で最多となっています。しかし、効果的な呼びかけで迅速に避難すれば、死者数は大幅に減少することができるとしています。次いで建物崩壊による死者、火災による死者、急傾斜地崩壊による死者、野外落下物による死者と続いています。
 建物の被害は、火の気の多い冬の夕方に多く、最大で238万6千棟が全壊や焼失すると想定されています。また、停電件数は約2710万件、通信の不通は930万件にも達します。経済被害は資産などの被害が169・5兆円、経済活動への影響が50・8兆円、合わせて最大220兆円もの経済被害が、南海トラフ巨大地震によって発生すると推測されています。

- 巨大地震の発生確率がやや上昇 -
 2011年の東日本大震災を受け、政府の地震調査研究本部は今後30年以内に強い地震の発生確率をまとめた「全国地震動予測地図」を公表しています。 2016年版では、建物の倒壊が始まる震度6弱以上の地震の発生確率が、太平洋側の南海トラフ巨大地震の震源域周辺で、前回の14年版に比べて最大2ポイント程度上がっています。
 太平洋側で確率が上昇したのは、この2年間で地震を引き起こす海側と陸側のプレートの境界に歪みが増したことが原因と見られています。確率が2ポイント上昇したのは静岡市、津市、和歌山市、徳島市、高知市など太平洋の沿岸都市です。
 一方、16年版では最新の断層評価を反映させたため、長野市で13%から5・5%、富山市で7・2%から5・2%など低下した地域もあります。

- 南海トラフ巨大地震対策の基本計画 -
 政府の中央防災会議は、2014年に南海トラフ地震防災対策推進基本計画をまとめました。基本計画では、今後10年間で想定される死者数を32万3千人から8割以上の減少、建築物の全壊・全焼棟数を5割以上減少させるなどの数値目標を定め、さまざまな取り組みを推進しています。
 2015年には、甚大な被害が想定される静岡県から宮崎県にかけての10県に対し、被災地以外の自衛隊や警察、消防から3日以内に最大14万2600人を投入できるよう、救助部隊や物資輸送についての応急活動計画をまとめました。
 自然災害である南海トラフ巨大地震を避けることは難しいため、地震防災上必要な教育や広報活動にも力が注がれています。何時発生するかも知れない南海トラフ巨大地震に対し、国の対策はもとより、個々人がその時に備えて主体的に対応できるよう、日頃から備えておく必要があります。

- 南海トラフで発生した過去の地震 -
 南海トラフでは、これまで概ね100~150年の間隔で大規模地震が発生しました。
 1605年に、M7・9の「慶長地震」が発生しました。千葉県の犬吠埼から九州までの太平洋沿岸に津波が押し寄せました。この津波で八丈島、浜名湖、紀伊西岸、阿波宍喰、土佐甲浦などで家屋流出や死者が出たことが記録されています。
 慶長地震から102年後の1707年に「宝永地震」が起きました。M8・6の巨大地震で、震源は東海・東南海・南海地震が同時に発生した南海トラフ巨大地震です。東海道から伊勢湾、紀伊半島、九州にかけて激しい揺れと津波によって多大な被害を与えました。地震による被害は太平洋沿岸全体に及び、死者2万人余、倒壊家屋6万戸余です。津波が押し寄せた土佐では、家屋流出が1万1000棟以上、死者1800人以上を記録しています。
 宝永地震から147年後の1854年に発生したのが、M8・4の「安政東海地震」と「安政南海地震」です。安政東海地震は、遠州灘沖から駿河湾を震源とする東海・東南海地震です。この地震による被害は、家屋の倒壊及び焼失が3万軒、死者2千人~3千人と推定されています。安政東海地震から32時間後に発生したのが安政南海地震で、死者は数千人と推定されています。安政東海地震と連動して起こったと見られ、二つの地震を合わせて安政地震と呼ぶこともあります。
 1944年に発生したのがM7・9の「東南海地震」で、その2年後の1946年にM8・0の「南海地震」が発生しています。東南海地震は静岡、愛知、三重など東海地方に甚大な被害を及ぼしました。死者・行方不明1223人、倒壊家屋約1万8棟、流出家屋約3千棟などと記録されています。一方、南海地震での被害は、九州から近畿にかけての西日本で目立っています。死者1330人、家屋の全壊約1万2千棟、流出家屋約1500棟、焼失家屋約2600棟と記録されています。
 1946年の南海地震以降も、南海トラフを震源域とする地震は度々起こっています。しかし、M8・0前後の巨大地震は発生せずに71年が経過しました。南海トラフでは、100~150年の間隔で巨大地震が発生しており、次に予想される南海トラフ巨大地震への備えが急がれています。
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