原発の後始末を考える【環境】

原発の後始末を考える


【廃炉のプロセスと放射性廃棄物の最終処分】
 東京電力福島第1原発事故から6年。廃炉作業は難航し、汚染物質・汚染水の処理や溶融燃料の除去など困難な課題がのしかかっています。日本には稼働実績のある商用原発が57基あり、事故や老朽化などで当面15基を超える原子炉が廃炉されます。廃炉作業は30年から40年の長い年月と膨大な費用が伴います。しかも、使用済み核燃料の中間処理や放射性廃棄物の最終処分の見通しは立っていません。日本は「原子の火」の後始末という大きなツケが残されています。

原発の後始末を考える - 計1496体の核燃料が溶けてメルトダウン -
 東日本大震災による津波で電源が壊れた福島第1原発(1、2、3、4号機)は、核燃料を冷却水で冷却する機能が働かなくなりました。
 このため原子炉内の温度は300℃以上に上昇し、1~3号機で計1496体の核燃料が溶けてメルトダウン(炉心溶融)を起こしました。現在、溶けた核燃料(デブリ)が原発内部の機器やコンクリートなどと混じり、冷えて石のように固まっています。
 また、1、3、4号機では原子炉建屋が水素爆発で破壊され、放射性物質が大気中に拡散しました。その放射性物質は雨水に混じって地上に降り注ぎ、周辺地域を汚染しました。
原発の後始末を考える - まず冷却プール内の核燃料棒を取り出す -
 事故に見舞われた福島第1原発の建屋の上部には、冷却プールの中に使用済み核燃料(一部未使用を含む)が貯蔵されています。廃炉作業ではまず建屋の上部を解体し、冷却プール内に貯蔵されている核燃料棒を取り出して搬出します。メルトダウンを起こした原子炉の場合は、溶けて格納容器内に流れ出した溶融核燃料(デブリ)を取り除かなければなりません。
 メルトダウンしなかった4号機は事故当時停止中で、原子炉に核燃料が無かったことが幸いして、2014年12月に1533体の使用済み核燃料の取り出しが終了しています。


- 難航する溶融燃料(デブリ)の現状調査 -
 1~3号機の建屋上部の冷却プールには計1533体の核燃料棒が貯蔵されています。すでに水素爆発で破壊された建屋の瓦礫が撤去された3号機は、18年度半ばから566体の核燃料棒を取り出す予定です。
 この後、2号機は615体の核燃料棒を20年度から、1号機は392体の核燃料棒を21年度からそれぞれ搬出する計画です。
 問題は散らばった溶融燃料(デブリ)の除去です。メルトダウンした1~3号機で計1496体の核燃料が溶融し、原子炉の圧力容器を突き破って流れ出しました。
 昨年12月から3ヵ月間、まず2号機でロボットによってデブリの位置や量の調査を行い、一部原子炉内の破損状況を捉える試みがなされました。
 しかし、高い放射線量の下での作業は難航し、ロボットによる遠隔調査も思ったように格納容器に近づくことができず、デブリの状態を把握することはできませんでした。

- 2021年からデブリの取り出し作業開始へ -
 東京電力では1、3号機でもデブリの除去に向けた内部調査を予定していますが、水素爆発した1号機、3号機は2号機より原子炉内の放射線量は高く、しかも核納容器内に数メートルの汚染水が溜まっているため作業は一層の困難が予想されます。
 デブリの取り出し方法には、格納容器内に放射線を防ぐ働きのある水を満たして除去する「冠水工法」や、格納容器が破損している場合に空気中で取り出す「気中工法」などがあります。
 原子炉内部の強い放射線は半導体を使ったハイテク機器には弱点となるため、放射線の影響を受けない水圧やバネを用いた「筋肉ロボット」の活用が考えられます。
 政府と東電は今年9月にも溶融燃料の取り出し方法を検討し、事故から10年となる2021年度からデブリの取り出し作業を開始する方針です。

- 当面の課題は汚染物質、汚染水対策 -
 福島第1原発では使用済み核燃料を冷やす冷却水が、セシウムなどの放射性物質を含む汚染水となっています。さらに原子炉建屋内に流入した地下水も放射能に汚染されています。日々増加する汚染水の対策が緊急の課題となっています。
 東電は「サブドレン」と呼ぶ建屋近くの井戸で地下水を汲み上げたり、全長1・5キロの凍土壁で地下30メートルの地盤を凍らせるなど地下水流入の防止策を講じています。しかし、こうした汚染水対策も抜本的な解決には至っていません。
 また原発敷地内では汚染処理された水が約1000基のタンクに保管されていますが、「トリチウム」と呼ばれる放射性物質は完全に除去されておらず、原子炉建屋内に貯まっている約7万トンの汚染水とともに、その除染処理の見通しがついていません。

- 廃炉完了に30-40年の歳月と膨大な費用 -
 東京電力福島第1原発は、1号機から6号機までありますが、事故当時、非常用電源が利用可能で惨事を免れた5号機と6号機も、事故を起こした1~4号機とともに廃炉が決まっています。
 日本に原子の火が点って半世紀余り。60年代以降日本には57基の商用原発が建設されました。福島第1原発事故を契機に政府は「原発運転原則40年」の40年ルールを打ち出し、運転を初めて40年以上の原発は、稼働を延長するか廃炉するかを決めなければなりません。今後10年以内に15基が廃炉の予定です。
 通常廃炉には出力100万kW級で約600億円のコストがかかるといわれます。事故やトラブルが発生すればさらに費用がかさみ、建屋の解体作業から廃炉が完了するまで30年から40年を要するといわれます。

- 核のゴミの最終処分地も処分日程も未定 -
 原発は「トイレのないマンションだ」と揶揄されます。排泄物である核のゴミ、つまり使用済みの放射性廃棄物は一時預かりの状態で保管されており、最終処分の場所も処分スケジュールも決まっていません。
 原子力発電所から出る使用済み核燃料は、原発内の冷却プールに一時的に貯蔵する「プール方式」と、金属製の密閉容器(キャスク)で放射線を遮蔽して保管する「キャスク方式」があります。このキャクス方式は国内外で使用済み核燃料の輸送にも使われています。
 「核のゴミ」といわれる放射性廃棄物は、使用済み核燃料を再処理加工してウランやプルトニウムを回収した後に残る廃液のことです。極めて強い放射線を出すため、フランスやイギリスなど海外の再処理工場で、溶かしたガラスと混ぜ合わせて固化した「ガラス固化体」にし、青森県六ヶ所村にある日本原燃の「高レベル放射性廃棄物貯蔵センター」に運び込んで保管しています。

- 約1万8000トンの使用済み核燃料が一時保管 -
 六ヶ所村の貯蔵センターは、ガラス固化体2880本を収納できる貯蔵ピットがあります。ここに昨年11月時点で1830本のガラス固化体が保管されています。30~50年間かけて冷却された後、最終処分場へ搬出されるのを待っています。
 現在、国内の原発などの貯蔵プールで一時保管されている使用済み核燃料は約1万8000トンで、ガラス固化体に換算して約2万3000本分にのぼります。
 日本原燃は六ヶ所村の貯蔵センターを、将来的に4万本を超えるガラス固化体が収容できる施設にする計画です。しかし、あくまで一時保管の施設であり、全てのガラス固化体を最終処分する場所の選定が急がれています。

- 急がれる地層処分のための場所選定 -
 国は放射性廃棄物をガラス固化体にし、地下300メートル以上の深い安定した地層に数万年以上にわたって「地層処分」する計画です。これを法制化した特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)が2000年に成立しました。この法律に基づいて国は全国の自治体に最終処分地の公募を行いました。
 しかし、最終処分地の誘致に手を挙げる自治体はなく、放射性廃棄物の地層処分は見通しが立っていません。
 現在稼働している原発は、九州電力川内原発1、2号機と四国電力伊方原発3号機、関西電力高浜4号機の四つですが、半世紀にわたって排出された使用済み核燃料の最終処分地は決まっていません。
 原発再稼働の賛否とは関係なく、核のゴミの最終処分場の選定は早晩解決を迫られる国民的課題と言えます。

- 世界初の最終処分施設「オンカロ」建設 -
「核のゴミの最終処分」
 核のゴミの最終処分を巡ってこれまで世界中の科学者が熱心に議論してきました。ロケットで宇宙に飛ばす宇宙処分や南極の氷底や海底に沈める方法、地上での長期管理などが検討されました。いずれも環境問題や安全性などの面から実現性に乏しく、1977年に経済協力開発機構(OECD)は安定した地層に埋設する「地層処分」が最も適切な処分法と評価しました。
 世界に先駆けてフィンランドのエウラヨキ・オルキルオト島が核のゴミの最終処分地に正式決定し、現在最終処分施設「オンカロ」が建設中です。使用済み核燃料を地下約520メートルの岩盤地層に埋設するもので、2020年までに運用を開始し、その後100年間にわたり埋設処分する予定です。
 使用済み核燃料に含まれるプルトニウムの半減期は2万4000年ですが、生物に安全なレベルまで放射能が下がるには10万年かかるといわれます。「オンカロ」では金属性容器に封印した放射性廃棄物を、10万年にわたって地下に隔離し続けます。
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