脱化石燃料にシフトする国際社会【環境】

脱化石燃料にシフトする国際社会


【パリ協定と地球温暖化対策を検証する】
 21世紀末までに地球の平均気温上昇を産業革命前に比べ2℃未満に抑え、さらに1.5℃以下にできるよう努力する―という目標を掲げたパリ協定が2016年11月に発効し、20年から始動します。これにともない、国際社会は一斉に脱化石燃料へ舵を切り始めました。ガソリン車からEV(電気自動車)への転換、再生可能エネルギーの積極活用、森林保全と持続的な森林経営などで、人間活動が原因の温室効果ガスの排出量を21世紀後半に実質ゼロにしようというものです。米国のトランプ政権が脱退を表明して注目されるパリ協定と、脱化石燃料にシフトする国際社会の温暖化対策にフォーカスしてみました。

脱化石燃料にシフトする国際社会 - 温暖化がさまざまな気候の変動をもたらす -
 米航空宇宙局(NASA)は、2016年上半期に世界の平均気温が1880年以降の観測史上最高を記録したと発表し、地球温暖化の急激な進展に警鐘を鳴らしました。
 世界の平均地上気温は1880年から2012年で0.85℃上昇し、特に最近30年の各10年間は、1850年以降のどの10年間より高温だったとされています。地球の平均気温の上昇がさまざまな気候の変動をもたらし、大型台風・ハリケーンの多発や集中豪雨、異常寒波、異常高温といった現象を生んでいます。
 一方で温暖化に伴う海水温上昇や酸性化が進み、グリーンランドや北極、南極の氷床、世界各地の氷河の減少などによって海面水位が上昇しています。海抜の低い沿岸部は水没の危機に見舞われ、生態系だけでなく地球環境全体に極めて大きな影響を及ぼしつつあります。
 さらに地球温暖化は農耕地の干ばつや森林後退、緑地の砂漠化を促し、産業や経済へ打撃を与えて国際紛争の発生リスクを増大させています。
脱化石燃料にシフトする国際社会 - 温室効果ガスの濃度が高まり地球が温暖化 -
 地球温暖化の原因と考えられるのが、大気中に含まれる温室効果ガス濃度の増大です。主な温室効果ガスに、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、オゾン(O3)、一酸化二窒素(N2O)などがあります。
 これらの気体は赤外線を吸収して再び放出する性質があります。このため太陽の光で暖められて地球の表面から外に向かう赤外線の多くが、熱として大気に蓄積され、再び地球の表面に戻ってきます。この戻ってきた赤外線が、地球の表面付近の大気を暖めることを温室効果といいます。
 温室効果が無い場合の地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられており、温室効果によって現在の地表の平均気温はおよそ14℃に保たれて生態系を維持しています。大気中の温室効果ガスのうちCO2が76.7%を占めています。

- 21世紀後半に温室効果ガス排出量をゼロに -
 18世紀後半の産業革命以来、人間は石炭や石油、ガスなどの化石燃料を大量に消費してきました。地球温暖化問題を考えるために1988年に設立された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に公表した第5次評価報告書によると、CO2排出量削減など有効な温暖化対策を取らなかった場合、21世紀末の世界の平均気温は20世紀末に比べて2.6~4.8℃上昇すると予測しています。
 そして大気中のCO2濃度は、産業革命前1750年の280ppmから2013年には400ppmを超えて40%以上も増加し、CO2の排出量と世界平均地上気温の上昇はおおむね比例関係にあります。
 また20世紀(1901~2010年)の間に海面は19㎝上昇し、今後地球温暖化に伴う海水温の上昇による熱膨張と氷河などの融解によって、21世紀末には最大82㎝上昇すると予測しています。
 世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるという目標を達成するには、21世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにして、脱化石燃料社会を実現しなければならないとされます。
脱化石燃料にシフトする国際社会 - パリ協定は2016年11月発効、20年に始動 -
 2015年12月にパリでCO2をはじめとした温室効果ガス削減に関する国際的な取り決めを話し合う「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP21)が開かれ、20年以降の温室効果ガス削減に関する国際的な枠組み「パリ協定」が採択されました。 
 国際的な枠組みとしては、1997年に京都で開かれたCOP3で採択された「京都議定書」に続くもので、パリ協定は締約国だけで世界の温室効果ガス排出量の約86%、159カ国・地域をカバーするものとなっています(2017年8月時点)。
 パリ協定は16年11月に発効し、20年から始動します。現在、具体的なルール作りが進められ、今年12月にポーランドで開かれるCOP24までに「ルールブック」が完成する予定です。
脱化石燃料にシフトする国際社会 - 参加国すべてに排出量削減を義務付ける -
 それではパリ協定でどんな取り決めがなされているのでしょうか。
 まず世界共通の長期目標として、21世紀末までに世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。そのためできる限り早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半にはCO2などの温室効果ガス排出量と、森林などによるCO2吸収量のバランスを取るとしています。
 1997年12月に京都で開かれたCOP3で採択された「京都議定書」では、排出量削減の義務が先進国のみに課せられていました。このため参加国に不公平感を募らせ、当時最大の排出国だった米国も批准(自国の国会で承認)せず、議定書の実効性に疑問が残りました。
 これに対してCOP21で採択されたパリ協定では、発展途上国を含むすべての加盟国と地域に、2020年以降の温室効果ガス削減・抑制目標を定めることを義務付けています。また、長期的な「低排出発展戦略」を作成して提出することを規定しています。

- 日本の電源構成は30年に化石燃料56%へ -
 パリ協定では参加各国の温室効果ガス排出量の削減目標を、各国の国情を勘案して自主的に策定することが認められています。削減目標は5年ごとに更新して提出することになっています。
 日本では、中期目標として2030年度の温室効果ガスの排出を、13年度の水準から26%削減する目標を掲げています。
 このため政府は17年11月に、太陽光や風力、水力などの再生可能エネルギーやバイオマス、水素エネルギーを積極的に導入する「エネルギーミックス」政策を打ち出しました。
 発電のためのエネルギー源の比率を示す電源構成は、2016年度で石炭30%、LNG(液化天然ガス)39.5%、石油5.4%、その他火力8.5%、原子力1.7%、水力7.5%、太陽光4.8%、バイオマス1.7%、風力0.6%、地熱0.2%でした。化石燃料が約75%を占め、水力を含めた自然エネルギーは14.8%に過ぎません。
 これに対して「エネルギーミックス」政策による2030年度の電源構成では、化石燃料の比率を56%程度に抑え、原子力が22~24%程度、自然エネルギー(再生エネルギー)が22~24%の割合を目指しています。

- EVへシフト強める欧州、中国、インド -
 2020年のパリ協定の始動を前に国際社会は一斉に脱化石燃料へのシフトを強めています。とくに世界の石油消費の7割弱を占める自動車など輸送機器の「脱石油」が世界の潮流になりつつあります。
 イギリスやフランスは昨年7月に「2040年までにガソリン車とディーゼル車のすべての販売を終了する」方針を打ち出しました。インドも30年までにすべての販売車を電気自動車(EV)とする方針です。
 また急速にモータリゼーションが進んで大都市の大気汚染問題が深刻化している中国では、2020年までに新規販売自動車の12%を電気自動車(EV)またはプラグインハイブリッド(PHV)とする計画です。すでに中国はEVの生産台数が世界の40%を占めて目下世界一のEV大国となっています。

- CO2排出量の約1割は森林の減少や劣化 -
 地球温暖化が進む要因の一つとして森林破壊が挙げられます。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次報告では、世界のCO2排出量の約1割は森林の減少や劣化が関わっているとしています。
 国連食糧農業機関(FAO)によりますと、毎年世界で九州と四国を合わせた面積に当たる516万へクタール、世界の森林面積の約0.1%の森林が消えているといいます。
 とくにブラジルやインドネシア、ミャンマーなど途上国を中心に、世界各地で人口増にともなう食糧増産のために森林破壊が広がり、熱帯雨林の減少が続いています。
 木は成長する過程でCO2を吸収して蓄えますが、燃えたり腐食するとCO2を排出します。パリ協定では途上国を支援して森林保全と持続的な森林経営を目指す「REDD+」の仕組みを推進することをうたっています。
 「REDD+」とは、森林の保全・育成に努めてCO2排出を削減した量に応じて先進国から途上国に資金が提供されるしくみで、環境に配慮した農作物の技術指導なども期待されています。
【米国のパリ協定離脱】
- 実際の離脱は4年後で決断は次期大統領に -
 アメリカのトランプ政権は、昨年8月にパリ協定の離脱を正式に通知しました。米国の石炭産業や重工業産業を中心に「温暖化対策は経済成長を阻害する」としてパリ協定離脱を主張してきましたが、それはトランプ大統領の選挙公約でもありました。
 しかし一方では、CO2排出量を削減しながら経済を活性化させる新たなビジネスモデルを構築し、米国が温暖化対策で国際的リーダーシップをとるべきだとする声も根強く、トランプ大統領はパリ協定の離脱表明時に「公正な協定を再交渉したい」とも述べています。
米政府も化石燃料の効率利用や再生可能エネルギーの活用を進めて、温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいくとしています。
 パリ協定の規定では、米国の離脱が可能となるのは発効日(2016年11月)から4年後の2020年11月です。その前日に次の大統領選挙があるので、実際にパリ協定から離脱するかどうかは次期大統領が決めることになります。

【低炭素社会の実現】
- 水素エネルギーや人工光合成などに期待 -
 パリ協定では長期目標として今世紀末に温室効果ガスの実質排出量ゼロの実現を掲げています。このため2050年までにCO2の排出量を80%削減することが世界の共通目標となっています。日本ではこの目標達成のために環境省が「長期低炭素ビジョン」を策定しています。
 徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーなどの活用で電力の低炭素化を推進するとともに、家庭や自家用車など国民の生活からのCO2排出量をほぼゼロとする低炭素社会の実現を目指しています。また世界自然保護基金(WWF)ジャパンは、2050年までに自然エネルギーの比率を100%に高めるビジョン「脱炭素社会に向けた長期シナリオ2017」を提唱しています。
 低炭素社会の構築に向けたクリーンエネルギーとして期待されているのに水素があります。自然界に豊富に存在する水素は酸素との化学反応で発電する燃料電池の開発が進み、燃料電池車(FCV)や家庭用燃料電池「エネファーム」としてすでに普及が始まっています。
 また太陽エネルギーを利用して、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から炭水化物やメタノールなどの有機化合物を生成する人工光合成の研究も進んでいます。人工光合成プロセスが実用化されれば、発電所や工場から排出されるCO2が資源として石油製品に代わる有機エネルギーや工業資材として活用でき、脱炭素社会への大きなステップとなることでしょう。
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