プラスチックごみで深刻化する海洋汚染【環境】

プラスチックごみで深刻化する海洋汚染


【脅かされる海の生態系と環境保全を考える】
 海に捨てられる膨大なプラスチックごみが、深刻な環境問題として浮上しています。細かな粒となって海洋を漂うプラスチックを魚が飲み込むと消化できないため、病気の原因となって死に至ります。国連食糧農業機関(FAO)によると、日本の周辺海域を含む北西太平洋では24%の海洋生物の生存が持続不可能な状態となって、生態系への影響が懸念されています。今国際社会では、ストローやレジ袋など使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する動きが広まり、日本でも最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックの開発と普及に力を入れています。海洋プラスチックごみと海の環境保全について考えてみました。

プラスチックごみで深刻化する海洋汚染 - 海を漂うマイクロプラスチック -
私たちの暮らしを支えている身近なプラスチックがゴミとなって海を汚染し、海洋の生態系に深刻な影響を与えています。
海を漂うプラスチックごみは、日光の紫外線や潮流による波の力で砕かれ、5ミリ以下の「マイクロプラスチック」とよばれる微粒なプラスチックとなります。
マイクロプラスチックは回収が困難なうえ有害な化学物質を吸着する性質があり、これをプランクトンなど小さな生き物が取り込
み、それを魚などが食べます。
食物連鎖によって誤飲した小型魚、大型魚を通じてマイクロプラスチックが人間の体内に取り込まれ、健康に悪影響を与えるリスクも指摘されています。

- 毎年1300万トンのプラスチックが海に流出 -
国連環境計画(UNEP)によりますと、不法投棄などで川や海に流れ込むプラスチックごみは毎年1300万トンに達するといわれます。海に漂うプラスチックゴミの総量は1億5000万トン以上と推定されます。
プラスチックごみは深い海底まで汚染しており、国連環境計画と日本の海洋研究開発機構が潜水艇を用いて調査したところ、マリアナ海峡の水深1万898メートルでプラスチックごみが見つかりました。
水深6000メートルより深い場所で見つかったプラスチックごみの9割は、レジ袋やペットボトルなどの使い捨て製品といわれます。
プラスチックごみは自然には分解しないため海に溜まり、海流に乗って世界に広がります。このままだと、海洋プラスチックごみは2050年までに魚の総重量を超えるともいわれます。

- 海洋生物は過去40年間で50%も減少 -
ペットボトルやストロー、レジ袋などは用済みになれば捨てられます。日本や欧米では多くがリサイクルや焼却処理されますが、プラスチックごみそのものを減らすことの重要性は言うまでもありません。
例えば、日本ではリサイクルされないペットボトルがゴミとして年間38億本も発生しているといわれます。
ゴミ収集体制が整っていない新興国や途上国では、投棄されたプラスチックゴミが大雨や風に流されて河川に入り海に流入します。世界自然保護基金(WWF)によると、海洋汚染によって世界の海洋生物は過去40年間で50%も減少したと推計しています。
さらに、この半世紀で世界の人口と1人当たりの魚介類の消費量はともに2倍以上伸び、世界の魚介類消費量は約5倍に膨らみました。海の温暖化、酸性化やプラスチックごみの流入による海の環境悪化と、乱獲や違法操業が水産資源の枯渇に拍車をかけています。

- 日本周辺海域のプラスチック濃度は世界平均の27倍 -
環境省の調べによると、2010年の推計で海洋流出したプラスチックごみで最も多いのが中国の353万トン。次いでインドネシアの129万トン、フィリピンの75万トン、以下ベトナム73万トン、スリランカ64万トンと続きます。日本は6万トンでした。
とくに東南アジア地域でのプラスチックごみの海洋流出が多いため、海洋を漂うマイクロプラスチックの濃度は高くなっています。九州大学の磯辺篤彦教授の調査では、日本の周辺海域でもマイクロプラスチック濃度は高く、世界平均の27倍にも達していると指摘しています。
また、国連環境計画によれば、世界で毎年5000億枚のレジ袋が使われ、飲料のペットボトルは1分間に100万本が売れているといいます。プラスチック製品のほぼ半分が一回使った後に廃棄される使い捨てプラスチックで占められており、リサイクルされるのは捨てられるプラスチックの9%に過ぎないといわれます。
プラスチックごみで深刻化する海洋汚染 - 昨年6月のG7で「海洋プラスチック憲章」 -
昨年6月カナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7)で、プラスチック容器の再利用またはリサイクル率を2030年までに55%以上、40年までに100%達成を目指す「海洋プラスチック憲章」が宣言されました。
プラスチックごみの削減に踏み込む発生源対策を、世界規模で促進するための行動宣言です。しかし、日本は「国民生活や国民経済への影響を慎重に検討すべきで、先進国以外の取り組みも必要だ」としてアメリカとともに署名を見送りました。
その後、環境省は年間国内消費量約300億枚といわれるレジ袋の有料化をはじめ、「海洋プラスチック憲章」を上回るプラスチックごみ削減やリサイクルの数値目標を盛り込んだ「プラスチック資源循環戦略」の策定に着手しました。今年6月大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議までに具体的な方針が打ち出されます。

- EUが30年までに使い捨てプラスチックの使用禁止 -
世界の国々も相次いでプラスチックごみ対策に乗り出しています。国連環境計画によると、現在60以上の国や地域がプラスチック製品の使用削減に取り組んでいます。
昨年5月、EU(欧州連合)は、2030年までにストローなど使い捨てプラスチック製品の使用禁止を打ち出し、25年までにプラスチックボトルの90%を回収することを加盟各国や欧州議会に提案しました。
一方で、これまで年間約700万トンのプラスチックごみを受け入れて処分していた中国が、昨年1月から廃プラスチックの輸入を禁止しました。続いてベトナムやタイも使用済みプラスチックの輸入制限に乗り出しました。
このため中国や東南アジアなどに、年間140万トン余りのプラスチックごみの処分をまかせていた日本をはじめ、途上国に廃プラスチックを輸出していた欧米諸国は大きな打撃となり、こうした背景も手伝ってプラスチックごみ対策がにわかに活発になりました。
プラスチックごみで深刻化する海洋汚染 - スタバが20年以降プラスチックストロー廃止 -
世界では1日に10億本以上ものプラスチックストローが使用されているといわれますが、飲食業界ではストローなど使い捨てプラスチック廃止の動きが相次いでいます。米国のスターバックスは2020年以降、全世界に展開している2万8000の店舗でプラスチックストローを廃止すると発表しました。
日本でもすかいらーくが20年までにグループ約3200店舗でプラスチックストローを全廃する方針で、セブン&アイ・フードシステムズや日本ケンタッキーフライトチキン(KFC)などもプラスチックストローの廃止を打ち出しました。
家具チェーンのイケアも20年までにストローやゴミ袋などの使い捨てプラスチック製品の販売を中止して、再生可能な材料に切り替える方針です。

- 水とCO2に分解する生分解性プラに期待 -
使い捨てプラスチック製品の廃止や削減の動きに伴って、代替製品として期待されているのが、トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料とした非石油系のバイオプラスチックや生分解性プラスチックです。
とくに使用後に自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチックは、わが国では「グリーンプラ」と表示されて約200品目の食品包装や食器、繊維製品などに用いられています。
国内のプラスチック製品の消費量は2016年度で約9804万トンとなっています。政府の地球温暖化対策プランでは、30年度にバイオプラスチックの国内出荷量を167万トンに増やす目標を掲げていますが、コストが高くつくことから15年度の出荷量は4万トンにとどまりました。
このため環境省では、策定中の「プラスチック資源循環戦略」で、30年までにバイオプラスチックの導入を年間約200万トンに引き上げるとともに、35年までにすべての使用済みプラスチックを100%有効利用する政策目標を盛り込む予定です。
プラスチックごみで深刻化する海洋汚染 【生分解性プラスチックとは】

- 微生物の働きで水とCO2に分解して土に還る -
微生物と酵素の働きで最終的に水と二酸化炭素に分解されるプラスチックを生分解性プラスチックといいます。廃棄する際に環境負荷が低減される「環境配慮型素材」として注目されています。
自然に還る、あるいは土に還るといった性質が必要とされる農業用フィルムや園芸資材、土木工事用資材を中心に商品化が進んでいます。万一、自然界に散逸しても自然に分解されて環境への負荷を軽減するため、海洋分野では漁業に使用されるロープ類や漁網、釣り具などに製品化されています。また、生体への適合性にも優れているため、肌に優しい繊維や、医療用の資材などにも採用されています。
生分解性プラスチックは製法によって、大きく微生物系、天然物系、化学合成系に分類されます。まず微生物系には、微生物によって蓄積されるポリエステルなどの高分子から製造する微生物産生ポリエステルや、ポリアミノ酸、多糖類のバクテリアセルロースなどがあります。
天然物系は植物や動物が作る天然の高分子から製造されるものです。さまざまなセルロース誘導体やでんぷん、キチン・キトサンなどの多糖類などで、フィルムやシートといった農業・漁業用資材へ応用されています。
さらに化学合成によって作られる高分子から製造したものが化学合成系で、脂肪族ポチエステルやその変性系などがあります。乳酸を原料としたポリ乳酸が、透明性や物理特性に優れているため工業用材料に用途開発が進んでいます。

【プラスチックのリサイクル】

- 廃プラスチックのリサイクル率は84% -
プラスチック循環利用協会によると、2016年のわが国の廃プラスチックの総排出量は約899万トンで、主な分野別内訳は包装・容器、コンテナ類が407万トン(45・3%)、電気・電子機器・ケーブルなどが182万トン(20・2%)、生産・加工時のロスが72万トン(8%)、建材63万トン(7%)、家庭用品、家具、玩具などが60万トン(6・7%)などとなっています。このうち廃プラスチックの有効利用量は759万トンでリサイクル率は84%となっています。
現在プラスチックごみのリサイクルの方法は大きく3つに分類されます。一つはプラスチックごみをそのまま原料にして新しい製品を作る「マテリアルリサイクル(再生利用)」です。廃プラスチックを溶かしてもう一度プラスチック原料やプラスチック製品に再生するもので、コンテナやベンチ、シート、土木建築資材などに再利用されています。
次いで廃プラスチックを化学的に分解して新たな化学原料に再生する「ケミカルリサイクル」があります。高炉でコークスの代わりに還元剤として使用したり、ガス化して水素やメタノール、アンモニアといった化学工業の原料に用います。もとの原料である油に効率的に戻す油化技術の開発も行われています。
そして三つ目が、廃プラスチックを焼却炉で燃やして熱エネルギーを回収したり、固形燃料にする「サーマルリサイクル」です。最近広く用いられているラミネートフィルムは、様々な機能を持つ樹脂が多層フィルムの形で密着しているので再利用が難しく、サーマルリサイクル処理されています。
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