大きく変容する市民マラソン大会【スポーツ】

大きく変容する市民マラソン大会


 2007年に開催された東京マラソンをきっかけに、市民マラソン大会は一過性のブームに終わらず、日常のイベントとして定着してきています。市民マラソン大会は、ただ走るだけではなくランナーや大会ボランティア、そして沿道で応援する人びとが、それぞれに楽しめる経験となっています。人びとを引き付ける市民マラソン大会の魅力を探ってみました。

大きく変容する市民マラソン大会 - 都市型市民マラソンの人気 -
 日本で市民マラソン大会が集中するのは、気候のよい10~11月です。東京都心をコースとした東京マラソンが成功したことで、横浜、名古屋、大阪などの市街地を舞台とする都市型市民マラソン大会の人気が年々高まっています。人気の大会には、ランナーの参加登録が集中します。そのため、多くの大会では、抽選により参加ランナーを選んでいます。最も抽選倍率が高いのは、約35000人が走る東京マラソンです。2007年の第1回大会の倍率は約3倍でしたが、毎年倍率が上がり続け、2017年開催予定の大会の倍率は12倍にも達しています。都市型市民マラソン大会の人気は、有名な観光スポットを眺めながら走ることができるなど、コースの設定に工夫が凝らされていることです。2017年の東京マラソンは、東京都庁をスタートして東に向かい、東京スカイツリーを見上げながら浅草へ、そして南に向かって銀座、東京タワーを経由して東京駅前にゴールするコースを予定しています。多くのランナーにとって、ふだん走ることのできない車道を走ることは得がたい貴重な経験です。神戸マラソンでは、10キロから25キロまでの区間は、海岸沿いのコースを走ります。天気さえよければ青空のもと、潮風をうけながら気持ちよく走ることができます。ただし、数千人規模のランナーが、5~6時間の制限時間内での完走を目指して走る都市型市民マラソン大会では、意外な難題が起きています。まずは、ランナーが使うトイレの数が足りません。もちろん沿道に数か所トイレは準備されていますが、ランナーが集中すると、トイレの待ち時間が生じるのです。また、ランナーには数か所の給水所ならぬ「給食所」が設けられ、地域の名産品をはじめとした軽食が提供されますが、数に限りがあるため、遅いランナーが給食所についたころには残っていません。そのため、沿道のコンビニでは、ランナーが走りながら食べられるおにぎりなどが飛ぶように売れています。 近年、都市型市民マラソン大会の人気が高く、年々大会に参加すること自体が難しくなっています。大会エントリーの倍率が数倍に達する大会も珍しくないのです。
大きく変容する市民マラソン大会 - 「スポーツ・ツーリズム」 -
 最近の観光旅行の主流は、かつてのようなショッピングなど消費中心の旅行ではなく、イベントへの参加やサービスの体験など体験型旅行に転換しています。旅先でしか経験できない特別な「出来事」に、旅行の価値を見出す人が増えているのです。とくに人気なのが、スポーツ観戦やスポーツ体験を目的とする旅行で、「スポーツ・ツーリズム」と呼ばれています。市民マラソン大会への参加も、スポーツ・ツーリズムのひとつに分類できます。たとえば、1973年にアメリカ・ハワイではじまったホノルルマラソンには、多くの日本人が参加しています。東京オリンピック開催と同じ1964年に日本人の海外旅行が自由化されて以来、日本の庶民はハワイ旅行にあこがれてきました。1985年に日本航空がホノルルマラソンの大会スポンサーとなったことをきっかけに、多くの日本人ランナーがホノルルマラソンを体験しようとハワイに旅するようになりました。ホノルルマラソンには完走の制限時間がないため(最長完走記録は19時間あまりです)、初心者にとっても参加しやすいということもあり、毎年3万人近い日本人ランナーが参加しています。世界遺産をめぐる市民マラソン大会も人気を集めています。イタリアの水の都・ヴェネツィアで開催されるヴェニスマラソンは、世界で最も美しい大会と言われており、毎年8000人前後が参加しています。ヴェニスマラソンでは、街を流れる大運河にランナーだけが通行を許される浮き橋がかけられるなど、大会参加者が大会で「特別な1日」を実感できるような仕掛けがなされています。これまで市民マラソン大会の認知度が低かった中国でも、市民マラソン大会が盛りあがっています。2015年に開催された上海マラソンには、2万人のランナーが参加しました。

- SNSでのコミュニケーション -
 ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が身近になったことは、市民マラソン大会の運営にも影響しています。これまで、ランナーはただコースを黙々と走り続けるだけでしたが、スマートフォンを手にした最近のランナーは、走りながらSNSに写真やコメントを投稿して、自分の位置や今の思いを、リアルタイムで発信しはじめたのです。実際に沿道で応援していなくても、それどころか会ったことのない人でも、ランナーのSNSのアカウントをフォローしていればランナーとつながり、応援のメッセージを送ることができます。また、ランナー同士でもSNSでつながり、互いを励ましあいながら完走を目指しています。グループで参加するランナーも増えています。主催者の側も、SNSで積極的に情報を発信しています。大会への参加登録はもちろん、大会当日までさまざまな情報をSNSで共有することで、ランナーの大会への意識を盛り上げていくことができるのです。
大きく変容する市民マラソン大会 - 「ファンラン」と「シャルソン」 -
市民ランナーの裾野がひろがるなかで、タイムを競わない初心者向けのマラソンイベントとして、ファンラン(fun running)の人気も高まっています。fun=楽しむという語源からもわかるように、ファンランはランニングを「楽しむ」ためのさまざまな体験型イベントと組み合わされて実施されています。とくに多いのが、食にかかわるイベントとランニングの組み合わせです。給水所などで主催者側から提供されるいろいろな食べ物を味わえるファンランは、若者の支持を集めています。 また、ランナーにSNSの利用が浸透したことで、市民マラソン大会から新しいイベントが生まれました。ソーシャルマラソン(シャルソン)です。シャルソンとは、これまでのように決められたコースを走ってゴールするのではなく、ゴールする場所だけが事前に決められており、ゴールまでのコースも距離もそれぞれのランナーが自由に決められるイベントです。参加したいランナーはSNSで参加の意思を示し、走っている最中にSNSで自分が走っている沿道の情報などを発信するという仕組みになっています。ランナーは歩いても、タクシーに乗っても、公共交通機関を利用してもよく、走る必要もないイベントです。なぜコースが自由なのかというと、ランナーがそれぞれ沿道の魅力を見つけ出し、SNSで世界中の人びとに発信してほしいという主催者の願いが込められているからです。タイムを競うよりも、地域を楽しみ、地域の魅力を見つけ出すこと、それがシャルソンのねらいです。まち歩きを通じて、地域の魅力を再発見し、人びとのつながりを生み出しているシャルソンも、じわじわと人気を集めています。

- 市民マラソン大会の運営を支えるボランティア -
ボランティアという言葉の語源は、「自ら志願して行為をなすこと」です。1998年に開催された長野オリンピックでは、市民がボランティアとしてオリンピックの運営を支え、オリンピックを成功に導きました。これをきっかけに、スポーツが生み出す感動を共有したいボランティアが、さまざまなスポーツ大会の運営を担うようになったのです。市民マラソン大会でボランティアが担う仕事はさまざまです。2017年2月に開催予定の京都マラソンでは、コースの設営や撤収をはじめ、ランナーに手渡す資料の封入作業、受付でのランナーの本人確認、ランナーの手荷物預かり、ランナーへの給水、コース整理などをボランティアが行います。外国人ランナーのための通訳や、コース周辺のう回路への車の誘導なども、ボランティアの仕事です。大規模な市民マラソン大会では、ボランティアの力なしでの運営は考えられません。

- 市民マラソンを盛り上げる市民 -
ランナー、ボランティアだけではなく、沿道で応援する人びとも市民マラソン大会を支える大切な力です。2011年にはじまった大阪マラソンは、沿道で応援する人びとの温かい心配りで知られています。手作りの焼きそばやたこ焼き、「あめちゃん」(キャンディーのこと)を差し入れながら、ランナーに精一杯の声援を送る沿道の人々の存在は、ランナーが歩を進めるための大きな助けになっています。ランナーもまた、それぞれ工夫をこらした仮装姿で走ったりして、大会を盛り上げています。子どもに人気の戦隊ものキャラクターの姿で走る5人グループのランナーや、楽器を弾きながら走るランナーもいます。ただし、2017年開催予定の東京マラソンでは、テロ対策などの警備上の理由から、仮装が制限される予定です。

- 2017年開催予定の市民マラソン大会(一部) -
[1月] いぶすき菜の花マラソン、石垣島マラソン
[2月] 京都マラソン、北九州マラソン、熊本城マラソン、おきなわマラソン、姫路城マラソン、東京マラソン、青梅マラソン
[3月] 篠山ABCマラソン、鳥取マラソン、静岡マラソン、鹿児島マラソン、能登和倉万葉の里マラソン
[4月] 霞ヶ浦マラソン、徳島マラソン、掛川新茶マラソン、長野マラソン、東北風土マラソン
[5月] 洞爺湖マラソン、豊平川マラソン
[6月] 千歳JAL国際マラソン、さくらんぼマラソン、函館マラソン
[8月] 北海道マラソン
[9月] オホーツク網走マラソン
[10月] 大阪マラソン、ちばアクアラインマラソン、新潟シティマラソン、水戸黄門マラソン、金沢マラソン、山形まるごとマラソン、筑後川マラソン
[11月] 群馬マラソン、神戸マラソン、福岡マラソン、岡山マラソン、福知山マラソン、淀川市民マラソン、揖斐川マラソン、大田原マラソン、埼玉国際マラソン
[12月] 湘南国際マラソン、奈良マラソン、那覇マラソン、青島太平洋マラソン、加古川マラソン
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