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インターンシップで働く意義を体感

【貴重なチャンスを積極的に活用しよう】
インターンシップとは、生徒や学生が実際に仕事を体験して社会に出る準備をする職業体験のことです。主に専門学科、総合学科の生徒や、大学生が対象というイメージのある人も多いかと思われます。しかし、最近ではインターンシップを実施する高校も、高校生を受け入れる側の企業や自治体も年々増えてきています。
インターンシップ制度の概略についてまとめてみました。

【インターンシップはいつごろから始まった?】
インターンシップとは、社会に出る前に企業や自治体などの職場に飛び込んで、実際の仕事を体験することで「仕事をするとはどういうことか」「社会人になるとはどういうことか」「仕事のやりがいとは何か」などを学ぶ場です。
いつごろから始まったのでしょうか。一説には、今から100年ほど前、アメリカ・シンシナティ大学のヘルマン・シュナイダー博士が、学生たちに実践的なスキルを体得してほしいと、自分が部長を務めていた工学部の学生を地元の工作機械メーカーに就業体験させたことが始まりといわれています。
日本では、研修医制度や教育実習といった形で昔からインターンシップが行われてきました。今ほど世の中に浸透し始めたのは1997年の頃からです。この頃の日本はバブル崩壊後の不景気が続き、学生は就職難に直面していました。また情報技術の進展、デジタル化により、従来の社会や産業を取り巻く環境が一変し、若者の職業に関する意識も大きな転換期を迎えます。
就職した会社で一生務めあげるといった、それまで主流だった就労スタイルが崩れ、人生の選択肢を増やしたいと考える若者たちによる早期退職者の増加といった問題もあらわになってきたのです。

【キャリア教育の一環として注目】
この問題について、当時の文部省(現文部科学省)は、求人環境と雇用システムの変化による要因が大きいとしながらも、子どもが成長する過程において生活・社会体験の機会が少なくなり、産業が機械化・細分化されて仕事をする大人の姿を目にする機会が減ったことによる若者の職業観の確立の遅れを指摘しています。このため、社会的・職業的自立に向けた能力や職業観を育てる「キャリア教育」の必要性を打ち出しました。具体的な方法としてインターンシップが注目され、経済関係団体、自治体、PTA団体などへ働きかけて、インターンシップ連絡協議会が構成され、インターンシップ制度の充実と推進を行ってきました。
その結果、2004年の全日制高校のインターンシップ実施率は全国平均で59.7%だったものが、2017年には73.9%に拡大しました。2017年の調査では、国・公・私立高校におけるインターンシップの実施率はそれぞれ15.0%/84.0%/45.9%となり、全国の高校生数約340万人のうち11.2%にあたる約38万人が体験しています。
学科別にみると、国・公・私立高校の普通科の生徒の実施率は11.8%/79.7%/38.2%、専門学科の生徒の実施率は0.0%/87.3%/75.9%、総合学科の生徒の実施率は50.0%/92.0%/85.2%という数字になっています。専門学科や将来の職業選択をも視野に入れた学習を重視する総合学科のほとんどの生徒は、学校の正課授業の中でインターンを体験しています。これに比べ、普通科の場合は授業の中ではなく、長期休暇中などを利用して希望者を募るケースや、選択科目の中での体験が多いのではと、文部科学省は分析しています。学年的には60.1%の生徒が高校2年生で体験しています(以上、国立教育政策研究所調べ)。

【高校生が参加するメリット】
高校生がインターンシップに参加するメリットとはどのようなものでしょうか。

<働くことの意義を実感できる>
実際の職場では、顧客をはじめとする社会に対する責任が伴います。インターンシップではそんな環境の中、仕事を成し遂げる経験を通して、達成感や充実感を得ることができます。仕事を媒介として自分と社会とがつながることを感じられるでしょう。インターンシップは、そもそも「生徒・学生に社会や会社を経験してもらう」という企業や自治体サイドの積極的なモチベーションに支えられて実施されているので、仕事の面白さを感じられる内容に組み立てられていることも少なくありません。

<進路選択の参考になる>
自分の将来展望に沿ったインターンシップ体験ができれば、自らの視野を大きく広げ、適性を考える機会にもなります。「こういう仕事につきたい」という自分の気持ちを確かめることができれば、自らの進路を積極的に考え、自分の志望を固めるきっかけにもなります。また進学を希望する人にとっても、大学とその学部・学科の選択が自分の志望にあっているのかどうか、進学後にどのようなことが学び、卒業してどのようなことがしたいのかといったことに対して、より明確な展望・視野を持つことができます。

<学ぶことの意欲が向上する>
どのような職業にも一定の知識・技能が必要です。インターンシップを経験すると、仕事に活用する知識・技能を獲得するのには、これまで積み上げてきた学校での学習が必要不可欠だということがわかるはずです。文章理解に始まり、幅広い知識の集積と論理的思考の探求、アートやスポーツを通じた感性や能力の錬磨まで広範囲にわたる日々の学びが、自分の将来に大きく関わっていることを実感できれば学習への意欲向上につながります。

<社会のルールやマナーを学べる>
さらに職場で多くの先輩の働く姿を見て、社会人としての責任感、社会のルールやマナーを学ぶことができます。日ごろ学校生活で出会うのは、興味の方向が同じだったり、気が合う同学年の生徒が中心だと思います。インターンシップに参加することで、考え方や行動スタイルが違う先輩や、また年齢差の大きい社会人との交流を通じて、言葉づかいなどの礼儀や、異世代の人たちとのコミュニケーションの仕方を理解することができます。自分の考えをわかりやすく確実に伝える必要性を経験することで、その場に適したコミュニケーションの取り方を学び、社会を担う社会人としての自覚と認識を育むことができます。こうした交流を通じ、刺激を得ることで、自己理解の深化も図ることができるでしょう。

【高校生のインターンシップ、その効果は】
高校生におけるインターンシップの効果についてはグラフのような調査報告があります。「人生に影響を与えたもの」「モチベーションを上げられたもの」「印象に残っているもの」という項目で、いずれも一番当てはまる活動がインターンシップでした。これは進学者が多数を占めるA高校における調査ですが、働くことへの理解と職業観の醸成を目的に実施されたキャリア教育プログラムの中で「インターンシップは他のプログラムと比べて職業観の醸成に特に効果がある」と文部科学省も指摘しています。
同レポートには、生徒たちから「これからの生活のモチベーションを高められたと思う」「上下関係や社会のルール、マナーなど、自分が甘かったことを自覚した」といった声が寄せられています。インターンシップを担当された高校の先生たちからは「学校と家の往復だけでない社会と接する貴重な機会」「現場での空気感を実感できることは大きい」「生徒たちは自分たちの想像した世界以上のものを感じ取ってきてくれる」などの声があがっています。

【主な目的は働くことへの理解を深めること】
インターンシップには1日だけのもの、1週間〜1カ月程度のものなどさまざまな形態があります。一般的に高校生を対象としたものは3〜5日間のものが多いです。またインターンは、生徒が実際に業務を体験することで働くことへの理解を深めることが主な目的で、労働の対価として収入を得ることではありません。ですから多くの場合、給与等は発生しません。
参加する際に、注意したいのは主に次の点です。「挨拶をしっかり」「自分から積極的に行動」「分からないことがあれば聞く」。挨拶は他者に受け入れてもらえる第一歩です。積極的に行動することで多くのことを学べるだけでなく、周囲からの評価も得やすく、働くことの楽しさに近づくことができるかもしれません。インターンシップに参加すると自分では分からないことが必ず出てきます。それをそのままにしておくことはNGです。自分に対しても得にならないばかりか、場合によってはそのまま放置しておくことで周囲に迷惑をかけてしまうこともあります。
インターンシップに臨むにあたっては、しっかりとした目的意識を自覚し、常に積極的に行動することが大切です。職場の規則やマナーを守るのはもちろんですが、受け身にならないよう、与えられた仕事にとどまらず他の作業にも興味を持ち、チャレンジする姿勢を持つようにしましょう。

【さらに積極的に参加したいと考える人には】
さらに積極的にインターンシップを活用したいと考える人はどうすればいいのでしょうか。高校生の場合は募集が増えてきたとはいえ、大学生に比べて少ないのが現状です。困ったときは、まず高校の進路関係の先生に相談してみてください。受け入れている組織は民間企業、大学、自治体などです。インターンを受け入れている企業等と通学している高校とが提携している場合もあります。
また中央省庁でも、募集人員は多くはありませんが、インターシップの受け入れを行っています。個人から直接申し込みを受け入れるところもありますが、学校経由の場合もあるので確認が必要です。Webで探すのも一つの方法ですが、必ず家族や先生、周囲の人に相談し、慎重に行動しましょう。
インターンシップはもちろん楽しいことばかりではないかもしれません。職場が自分の想像とは大きくかけ離れていて残念に感じたり、現場での人間関係に嫌気が差したりすることもないとは言い切れません。そうした負の経験も、社会の複雑さや仕事の大変さの一端を知るという意味で後になってみれば〝いい経験〞と感じられることも少なくないのです。ただし少しでも疑問を感じたら、受け入れ先の担当の人にすぐに聞きただしましょう。たとえば長時間労働を強いられる、休憩時間が十分にもらえない、パワハラめいた言葉を投げかけられるといった場合には、一人で抱え込まず、家族や先生、都道府県労働局などに速やかに相談してください。
人生の早い段階で職場を経験することは、その後の就業活動、進路選択に役立つだけでなく、仕事を通じて社会を知り、視野を広め、その後の人生の財産になることと思います。積極的に、能動的にインターンシップを活用してみてはいかがでしょうか。

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