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コロナ禍を乗り越え、未来をめざす航空業界

CO2削減など諸課題に対策
「大空を駆ける飛行機にあこがれて」「世界を飛び回る仕事がしたい」――華やかな印象から航空業界は人気の高い業界のひとつです。
これまで順調な成長を続けてきた航空業界でしたが、2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、日本国内でも旅客数、航空貨物取扱量が大きく落ち込み苦戦を強いられました。現在はようやくコロナ禍前の水準に戻りつつあります。航空業界が直面するCO2(二酸化炭素)削減といった新たな課題等を取り上げ、これからの航空について考えてみます。

【コロナ禍で大きく落ち込んだ旅客数】
日本の航空旅客数は、国内線・国際線ともに開設以来順調に成長してきましたが、2008年のリーマン・ショック等による景気後退、2011年の東日本大震災の影響を受け、一時的に落ち込みました。しかしLCC(ローコストキャリア=サービス効率化等により低価格・簡素化された輸送サービスを行う航空会社)の参入、また訪日外国人旅行者の急増等により増加に転じ、国内線は2017年に1億人を、国際線は2016年に2000万人をそれぞれ突破しました。
順調に推移していた矢先、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年2月以降、国内線・国際線の旅客数は大幅に減少しました。その後、国内線は緊急事態宣言が段階的に解除され、7月から旅行費用の一部が助成されるGoToトラベル事業が始まった効果もあって、6月以降は回復に向かいました。それ以降、感染症が拡大するたびに打撃を受けましたが徐々に回復し、2022年12月秋にはほぼコロナ禍前の水準に回復しました。
国際線については、感染症の世界的大流行を背景に入国制限措置が長く継続したこともあって底をうったような状態が続きました。しかし、2022年3月以降の入国制限の段階的緩和により、少しずつですが回復の兆しをみせています(グラフ1参照)。

【改めて注目を集める航空機の役割】
2022年3月から始まったロシアのウクライナ侵攻にも少なからず影響を受けています。ヨーロッパの航空会社はロシア上空の飛行を制限され、日本の各社も当初はヨーロッパへの全便を欠航しました。しかしロシア上空を避けるよう運行計画を見直し、通常より2~4時間以上も運航時間が長くかかる北回り・南回りルートで一部の運航を行っています。国内各社はコロナ禍の影響で就航を延期したままの欧州線の開設に踏み切りたい考えですが、就航開始にあたってはロシア上空の飛行でと考えており、先行きは不透明なままです。
こうした中、紛争地からの逃避などの旅客輸送や物資の緊急輸送、また医療専用ジェットなど、航空機が果たす役割が改めて注目されています。船や鉄道、自動車などに比べ、航空は長距離を短時間で移動できる社会インフラとして現代には必要不可欠な輸送手段です。航空貨物輸送についても2020年コロナ禍で大幅に減少しましたが、以降少しずつ回復の兆しをみせています。

【航空業界最大の問題はCO2削減】
現在、航空業界が直面している最も大きな問題はCO2削減目標の達成です。気候変動への対応の観点から、航空機は多量のCO2を排出しているとして、ヨーロッパの国々を中心に批判が高まっています。国連の専門機関のひとつで、民間航空機の運航ルールを定める国際民間航空機関(ICAO)は昨年10月、2024年以降に国際線の航空機が排出するCO2の量を2019年比マイナス15%にするという目標を掲げました。これを受けて日本の航空各社でも、運航方法の効率化、機体の軽量化、エンジンの低燃費化や電動化、省人化に向けた自動化など、新技術の開発に取り組み、排出量の削減を進めています。
今、世界の航空業界では植物や廃油などを原料とする代替燃料SAF(サフ)の普及に力を入れています。持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation-Fuel)という英語の頭文字をとった言葉で、従来の化石燃料と違って原料に石油を用いず、トウモロコシなどの植物のほか食品廃棄物や廃プラスチック等の原料から創出される燃料です。SAFを用いることで、CO2排出量を従来比8割程度に削減できるとされています。いちはやくSAF採用を決め、導入への動きが広がる欧州に比べ、日本ではSAF確保への取り組みが遅れています。
世界の航空燃料生産量のうち、SAF生産量の割合は現在0.03%に過ぎません。急増する需要に供給がまったく追いついていないのですが、国土交通省は2030年に日本の航空会社の燃料におけるSAFの割合を10%にするという目標を立てました。日本の航空各社は海外の先行企業から入手する試みを始めましたが、それだけでは十分な量が確保できず、SAFの国産化を見据えた活動をスタートさせています。国内のトップ企業である全日空と日本航空の幹部も「個別の社の問題ではなく、日本の航空インフラそのものを左右する問題。SAF開発・生産には民間企業の努力だけでは限界がある。国をあげての支援が必要だと考えます」と語っています。

【国産ジェット機開発撤退から学んだ課題】
次に日本の航空機産業について見ていきましょう。
航空機1機は100万におよぶ部品で構成されており、航空機需要が進展すれば製造業などへの波及効果が大きいと見込まれ、それに伴う経済的効果が期待されています。現在、日本の航空産業の規模は世界シェアの5~6%です。政府や経済界はこれを拡大させ、航空機産業を自動車に次ぐ日本の基幹産業に育てたいという思惑なのですが、「国産初のジェット旅客機、開発から撤退」という残念なニュースがこの春に報じられました。
開発がスタートしたのは2008年。日本の航空業界にとって国産機の設計・開発・製造すべてを一元的に取り組む試みは、プロペラ旅客機YS11の生産以来50年ぶり。国産旅客機の復活へ官民一体で進めた事業でした。2015年初飛行に成功し、アメリカでの試験飛行を開始しましたが、安全性の基準に適合する証明(型式証明)を米連邦航空局から取得することができず、主翼の設計変更や安全システムの抜本的見直しなど迷走を続けてしまいます。改良した試験機はようやく完成しますが、コロナ禍で試験機をアメリカに送ることすらできず開発は中断。そして今回の発表につながりました。
今回の国産ジェット旅客機の開発をめぐって、日本の航空業界には膨大な技術と知見が蓄積されたはずです。失敗から学んだ課題を見極め、高い技術力を有機的・複合的に生かさなければなりません。その上でCO2削減の流れをチャンスととらえ、新規技術獲得への挑戦や代替燃料の開発など、国として航空産業育成の指針を策定し直すことが必要だと思われます。

【「大量一括」から「少量多頻度」輸送へ】
近年、世界の航空業界は利用者ニーズの多様化により、大量一括輸送から少量多頻度輸送へとシフトしています。ジャンボ機に代表されるようなCO2排出量が多い大型機の需要は減少し、少量の旅客の輸送に適した中型・小型機に対する需要は伸び続けています。今年1月にはジャンボ機(米ボーイング社のボーイング747)の製造が終了しました。日本では日本航空が2011年、全日空が2014年にジャンボ機をすべて引退させ、燃料の消費量を格段に抑えたボーイング社の新型小型機をここ数年のうちに導入することも決めています。
そうした中、2025年大阪万博で会場とターミナルとを結ぶ交通手段として「空飛ぶクルマ」の商用運航がめざされています。運航指定事業者のひとつで、日本航空などが出資するヴォロコプター社のヴォロシティがこのほど公開されました。2人乗り・巡航速度は90㎞/h、18基のプロペラを装備した電動航空機です。このような新しいタイプの航空機は、世界でベンチャー企業を中心としてスピーディーに開発が進められています。重厚長大で機動力不足が指摘される既存の航空会社が新領域に踏み出すには、こうした企業との協業を促進することも選択肢でしょう。
国際航空運送協会(IATA)のレポートによると、2024年の航空需要は世界的に見てコロナ禍前のレベルに回復し、特にアジアの経済成長を背景に航空機需要はそれ以降も成長が続くとされています。CO2削減などの課題をいかに乗り越えていくか、航空産業の未来を注視していきたいと思います。

実用化が期待される空飛ぶクルマ

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