国と国との争いを仲裁する国際司法裁判所とは?

国と国との争いを仲裁する国際司法裁判所とは?

国際紛争は武力に訴えず裁判で決着を!

 国際司法裁判所は、二度にわたる悲惨な世界大戦の経験から、「国同士のもめ事は裁判で解決しよう」という願いのもとに、第2次大戦後に国連の機関として設立されました。翌年の1946年にオランダのハーグに本部を設置して活動を開始しました。
 国家間の争いでは、国境や領土を巡る問題が多いのですが、最近では他国からの政治的干渉や核兵器の使用、テロリズム、人権問題といった国際社会全体の利益に関わる事件や問題が国際司法裁判所に持ち込まれています。
 国際司法裁判所に訴えを起こすことができるのはあくまで国家のみで、個人や会社などの民間団体は裁判することができません。

何を基準にして、どんな法に基づいて裁判するのか?

国連本部

 今、国連には世界192ヵ国が加盟していますが、国際司法裁判所は加盟各国から選ばれた15人の裁判官で構成されています。任期は9年で、日本からは皇太子妃のお父さまの小和田恆(ひさし)氏が裁判官を務めています。公用語は英語とフランス語です。
 日本の裁判制度は、日本の法律に基づいて裁かれます。最初の判決に不服があれば、高等裁判所、最高裁判所と原則3回まで裁判が受けられる三審制を採っていますが、国際司法裁判所は1回だけです。ただ、新たな事実が出てくれば改めて裁判する「再審」の道があります。
 国際司法裁判所では、価値観も法律も違う国々の利害がぶつかり合う争いを裁きますが、何を基準にして、どんな法に基づいて裁判するのでしょうか?

当事国間の条約と国際慣習による「国際法」で裁かれる

 国家間の紛争を裁く基準には二つあります。一つは2国間の条約です。紛争の当事者同士の間で2国間条約を結んでいれば、それが共通のルールとして一つの基準になります。これを「特別国際法」といいます。
 もう一つは、文章で表現されてはいませんが、世界各国で長年にわたって慣習となっている慣習法です。これを一般国際法と呼びます。国内法のように体系的に明文化された「国際法」は存在しませんが、国際的な慣習や2国間の条約がそれに当たります。
日本の裁判制度では、現状の法律が憲法に違反しているかどうかを最高裁判所が判定しますが、いわゆる国際法では、それが合法か違法かを判定する機関がありません。
 このため、国際司法裁判所の裁判手続きは非常に慎重で、訴える国と訴えられる国の双方が同意してはじめて裁判が行われます。逆に言えば、どちらか一方の国が同意しなければ裁判することができないのです。それはどういうことでしょうか?

国際裁判の歴史
 「戦争は政治の延長である」というのはプロシャの軍事理論家クラウゼヴィッツの有名な言葉ですが、国家間の争いを戦争に訴えず、平和的に解決しようというのが国際裁判の精神です。
 アメリカはイギリスから独立後も、両国でさまざまな外交上のトラブルを抱えていました。しかし、武力に訴えずに話し合いで解決しようと1794年に誕生した仲裁裁判が国際裁判の始まりです。
 日本が国際裁判の当事者になったのは明治5年(1872年)のことです。横浜に停泊していたペルーの「マリア・ルス号」の船内にいた231人の中国人奴隷を日本政府が解放したことで、ペルーと外交トラブルが発生しました。
 この時、ロシア帝国の仲介で国際裁判が開かれ、日本政府の主張が認められて無事解決しました。
 第1次大戦後の1922年に国際連盟が本格的な国際裁判所である常設国際司法裁判所をオランダに設置しました。ところが、1940年にナチスの侵攻によって活動が停止し、戦後その役割は国連に引き継がれました。
 中東やアフリカを中心に世界の各地で武力紛争が絶えませんが、国際司法裁判所を舞台にした平和的な解決に努めてもらいたいものです。

竹島の領有権問題では、韓国が拒否したため裁判は行われない

竹島

 日本海に浮かぶ無人の竹島は、1905年に正式に島根県に編入された日本の領土です。しかし、戦後韓国は自国の領土であると主張して監視施設を設け、監視員を常駐させて実効支配を続けています。
 日本は竹島の領有権問題について、韓国に「国際司法裁判所できちんと決着をつけよう」と提案しましたが、1954年、62年、そして2012年の3回とも韓国側に拒否されて裁判することができません。
 国際司法裁判は、当事国同士(竹島の場合は日本と韓国)が共同で裁判を申請(付託といいます)することで開かれます。どちらかが単独で提訴しても、もう一方が応じなければ裁判は開かれません。
 ただ、国際司法裁判所に加盟している多くの国々(67ヵ国)は、どこかの国から単独で提訴された場合、それに応じなければならない「選択条項受諾宣言」を受け入れています。
 しかし、韓国はこの宣言を受け入れていないため、日本が単独で提訴しても強制的に裁判に持ち込むことができないのです。

調査捕鯨問題で日本は初めてオーストラリアから訴えられた

日本の調査捕鯨船

 日本が国際司法裁判所の当事国として初めて裁判を争うことになったのが、2010年5月にオーストラリアから訴えられた南極海の調査捕鯨の問題です。
 わが国が、クジラの生態調査のために行っている調査捕鯨が、「研究目的の捕鯨を認める国際的な取り決めに違反しており、商業目的の捕鯨だ」とオーストラリアが訴えたのでした。現在、日本は裁判で争う準備を進めています。
 オーストラリアとは1950年代に、同国北岸のアラフラ海の真珠貝漁業をめぐって紛争が起こりました。日本は国際司法裁判所に提訴しましたが、裁判に入る前に交渉で解決したことがありました。
 このほか、1972年に日本政府は北方領土問題解決のため旧ソ連に国際司法裁判所での裁定を提案しましたが、ソ連に拒否されています。
 ところで、世界ではどんな事件が国際司法裁判所に持ち込まれたのでしょうか?

19世紀末から英仏で争われてきた小島郡は英国領の判決

プレア・ヴィア寺院

 マレー半島南部の沖合にある無人島のペドラ・ブランカ島は、マレーシアとシンガポールが28年間にわたってお互いに領有権を主張してきました。2008年に国際司法裁判所はシンガポールに帰属するとの判決を下しました。
 また、カンボジア北部のタイとの国境の山中にある世界遺跡のプレア・ヴィア寺院の領有をめぐる争いで、国際司法裁判所は1962年にその寺院がカンボジアに属すると裁定しました。しかし、その後もカンボジアとタイが紛争を繰り返したので、2011年に両国に撤退命令が出されました。
 19世紀末からイギリスとフランスが、ドーバー海峡の小さな島嶼(とうしょ)であるマンキエ&エクレオの領有をめぐって対立していました。
 両国は1952年に国際司法裁判所に訴えを起こしました。裁判では英国が実質的に占有していた事実を重く見てイギリス領との判決を下しています。

1996年に核兵器の違法性について勧告的意見を出す

西岸地区に築かれた分離壁

 このほかにも、2008年にコソボがセルビアから独立したのは違法だとセルビアが国際司法裁判所に訴えました。裁判ではコソボの独立は国際法に違反しないとの判決が出されました。
 国際司法裁判所では、領土紛争の裁定のほかにも、さまざまな国際問題について勧告的意見を出します。例えば、1996年7月には核兵器の違法性について勧告的意見を出して注目されました。
 また、イスラエルがパレスチナの占領地に築いた分離壁について、国際司法裁判所はイスラエルに対して分離壁の違法性と壁構築の中止、賠償義務などの勧告的意見を表明しました。
 一般に裁判での判決は強制力があり、判決に従わなければ差し押さえや強制執行を行いますが、国際司法裁判所の判決には強制力はあるのでしょうか?

判決に従わない場合の処置は国連安保理にゆだねられる

安全保障理事会会議場

 国連憲章第94条に「国際司法裁判所の判決に従わない場合、国連安全保障理事会(安保理)が適切な処置を取ることができる」とあります。
 安保理が動くことで、国連平和維持軍によって紛争を強制的にやめさせたり、制裁を加えたりすることができるというものです。
 安保理は国連の最高決議機関で15の理事国で構成されますが、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアの5つの常任理事国のうち、1ヵ国でも反対すれば議決できません。これを拒否権といいます。
 このため、どこまで国際司法裁判所の判決がきちんと執行されるのか疑問が残ります。
ほかにもある国際裁判所 - 個人を裁く国際刑事裁判所、会場の紛争は国際海洋法裁判所

国際刑事裁判所

 国と国との紛争を裁くのは国際司法裁判所ですが、国際紛争で個人や特定の団体を裁く国際刑事裁判所があります。また、国際海洋法条約に基づいて設置された、海洋を舞台にしたトラブルや紛争を扱う国際海洋法裁判所があります。
 国際刑事裁判所(ICC)は個人の国際犯罪を裁く常設の国際裁判所で、2002年7月にオランダのハーグに設置されました。
 特定の民族や宗教団体の壊滅を狙った集団殺害(ジェノサイド)や、一般住民の虐殺や性的虐待など人道に対する罪。さらに捕虜の取り扱いなどを定めた戦争法規定違反(戦争犯罪)などを裁判することができます。
 121ヵ国が加盟していますが、世界各地に派兵しているアメリカは、国連平和維持軍の活動に関わる様々な課題が未解決ということで加盟していません。
 国際海洋法裁判所は、1996年にドイツのハンブルグに設立されました。国際海洋法条約の解釈や適用に関する紛争を解決します。
 最近では、2007年に日本がカムチャッカ半島沖でロシアに捕獲された日本漁船の早期解放を求め、国際海洋法裁判所に訴えを起こしています。
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