動き出したリニア中央新幹線計画

動き出したリニア中央新幹線計画

 リニア中央新幹線は、その名の通りリニア、つまり超電導リニアモーターによる磁気浮上で走ります。ある種類の金属、合金、酸化物を一定温度以下に冷却すると、電気抵抗がゼロになる現象を「超電導」といいます。

 超電導リニアでは、ニオブチタン合金を使用して、液体ヘリウムでマイナス269℃に冷却して超電導状態を作ります。そして、超電導状態となったコイル(超電導コイル)に一度電流を流すと、電気抵抗がないため電流は永久に流れ続けて、非常に強力な磁石(超電導磁石)となります。

 リニアモーターカーでは、車両に超電導磁石を搭載し、地上の車両が走行する左右の側壁(ガイドウエイ=従来の鉄道のレールに相当する)の内側にある推進コイルとの間で電磁気的な相互作用を起こすことで浮上し、非接触で列車が走行する仕組みです。

■超電導の原理

マイナス269度Cで超電導状態を作り出す
 ある種類の金属、合金、酸化物を一定温度以下に冷却すると電気抵抗がゼロになります。この現象を「超電導現象」といいます。超電導リニアの場合は、超電導の安定性を高めるためにニブチタンといわれる合金を使用し、液体ヘリウムでマイナス269度Cに冷却することによって超電導状態を作り出します。
 超電導状態となったコイル(超電導コイル)に一度電流を流すと、電気抵抗がゼロですから電流は永久に流れ続けて、極めて強力な磁石(超電導磁石)となります。

■超電導リニアモーターカー

軌道に非接触で超高速走行
 車両に搭載された超電導磁石と、地上側に施設された走行路となるガイドウエイ(従来の鉄道の軌道に当たる)内側のコイルとの電磁気的な相互作用で、車両は10センチ程度浮上し、走行路のガイドウエイトに触れることなく超高速で走行する鉄道。
 磁石同士の相互作用(反発力と吸引力)で、超電導磁石を搭載した車両を推進させるもので、騒音や振動がなく、快適な乗り心地が約束される近未来の理想的な新交通システムといえます。

テスト走行距離は地球15周にも

■東京-名古屋間が2025年開業へ

 近未来の理想的な交通手段であるリニア新幹線構想は、かなり古い歴史を持っています。最初にリニアモーター推進浮上鉄道の研究が始まったのは、1962年のことで47年も前のことです。

 その後72年に有人運転で時速60キロの磁気浮上走行に成功し、97年に山梨県内の山梨実験線での走行試験がスタートしました。これまでに実施したテスト走行距離は、地球15周にも匹敵するそうです。

 そして、2003年にはJR東海が有人運転で時速581キロという鉄道の世界最高速度を更新し、05年に国土交通省の実用技術評価委員会から、超電導リニア鉄道実用化の基盤技術が確立したと評価されました。今後も実験線の延伸、設備の更新を行なって、2025年の開業目標に向けて実用レベルの試験を展開していく計画です。

 リニア中央新幹線計画では、2025年に東京-名古屋間の開業を目指していますが、環境アセスメントで3年、建設工事が10数年を要するといわれます。25年の開業にこぎつけようとすれば2010年には着工の必要があり、あまり時間的余裕はないのです。

 そして今、最大の論点となっているのがルートの確定です。計画を推進するJR東海は、東京-名古屋間約290キロメートルの路線を想定し、路線建設費、車両費を含め5兆1000億円(2007年12月のJR東海試算)という巨額の事業費を自力でまかないます。このため、JR東海は、コスト削減効果が高い南アルプスを貫通する直線ルートへの理解を呼びかけています。

 現在、東海道新幹線「のぞみ」による東京-名古屋間の所要時間は1時間36分です。リニア中央新幹線は、その半分以下の45分に短縮できるのです。

南アルプスを東西に貫通トンネル

■諏訪湖付近へ北側迂回ルートも

 JR東海のプランでは、山梨県都留市付近にある山梨リニア実験線(18.4㎞)を、2013年までに3550億円を投じて42.8㎞に延伸。そしてJR東海は、この実験線を東西にほぼ一直線に伸ばしたルートを想定しています。

 もともと東海道新幹線のバイパスと位置づけてリニア中央新幹線事業に臨んでいるJR東海は、2007年12月に困難が予想される標高3~2000級の山々が南北に立ちはだかる南アルプスを、東西に貫通する未踏の鉄路を前提とした計画を発表しました。

 一方、東京、神奈川、山梨、永野、岐阜、愛知、三重、奈良、大阪の、リニア中央新幹線沿線9都府県で構成する「リニア中央エクスプレス建設推進期成同盟」では、JR東海が提唱する南アルプス貫通ルートではなく、北側に迂回して諏訪湖付近を経由するルートを希望しています。

 山梨県と長野県の県境の南アルプスを、ほぼ直線で10㎞以上におよぶ長大なトンネルで貫通する工事はこれまでに例がなく、鉄道建設史に残る難工事が予想されます。

 ただ、JR東海によると、南アルプスを北に迂回するルートを採用すると、東京-名古屋間の距離は直線ルートの290㎞より50~60㎞延びて、建設費は1兆円増えるとの試算をもとに、直線ルートの有効性を訴えています。

■リニア中央新幹線の想定される3ルート

激化予想される中カネキの誘致合戦

■都心部は大深度 地下トンネル採用

 新しい鉄道新線が計画されると、路線ルートとともに、中間駅の誘致が熾烈化します。その昔、東海新幹線の中間駅を「おらが町へ」とばかり、誘致を巡って大物代議士が暗躍したのは語り草になっています。

 今、リニア中央新幹線では、沿線各自治体が「地元活性化の好機」とばかり、中間駅の誘致に積極的な運動を展開しています。JR東海が自力負担を表明しているリニア中央新幹線の建設事業費も、中間駅は地元負担ということで計上されていません。

 また、新幹線の倍のスピードですっ飛ばすリニア新幹線の特性を発揮するためにも、中間駅は極力絞り込みたいところです。沿線自治体では「1県1駅」の設置を要望していますが、JR東海では現在までのところ神奈川、山梨、長野、岐阜の各県に中間駅を設置する考えです。

 東京-名古屋間を2025年に運転開始を打ち出していますが、ようやく青写真が見えてきたようです。JR東海首脳のコメントなどから、首都圏でのターミナルは品川、中部圏は名古屋に固まりそうで、建設工法として都心部は大深度地下トンネルの採用が有力視されています。

 大都市圏では土地権利関係が複雑に入りこみ、また土地利用も高度・複雑化して全体工期の長期化が予想されています。このため東京や名古屋、大阪などの都心部を通過するためには円滑な用地確保策として大深度地下空間の利用が浮上してきました。

 また、ターミナル駅では、すでに品川駅について、JR東海はJR東日本に対して地下の地質調査協力を要請したと報道されています。さらに名古屋駅では、松坂屋名古屋駅店などが入居している「名古屋ターミナルビル」をJR東海が2010年中にも取り壊して、超高層ビルを建設、2016年度開業を予定しています。この計画に合わせてリニア中央新幹線の駅建設が進められると思われます。

■リニア中央新幹線のあゆみ
1962年
リニアモーター(LIM)推進浮上鉄道の研究が始まる
1972年
超電導磁気浮上LIM推進実験車の浮上走行成功。時速60キロ、有人運転
1973年11月
リニア中央新幹線の「基本計画」が決定
1987年2月
宮崎実験線で有人走行で時速 400.8キロを達成
1995年1月
宮崎実験線で有人運転で時速411キロを達成
1997年12月
山梨実験線で有人走行で世界最高速の時速531キロ達成
1999年4月
山梨実験線で有人走行で世界最高速の時速552キロ達成
2003年12月
山梨実験線で有人走行で世界最高速の時速581キロ達成
2005年3月
リニア鉄道実用技術評価委員会から「実用化の基盤技術が確立」との評価が下る
2007年8月
山梨リニア実験線累計走行距離が60万キロ達成

東海道新幹線大回収のバイパス

■最大の大動脈を守るリニア新幹線

 東京オリンピックに合わせて、東京-大阪間を結ぶ現在の東海道新幹線は、1964年の開通以来45年を迎えようとしています。現在東海道新幹線は東京-名古屋-大阪の太平洋メガロポリスを結ぶわが国の大動脈。

 東京-新大阪間の所要時間は「のぞみ」で最速2時間25分。最高時速270キロで運航されています。列車本数1日301本を数え、利用客数は1日約39万8000人、年間収益約1兆400億円(いずれも07年3月)など、押しも押されもしない世界最高、最大級の鉄道路線です。

 その東海道新幹線も齢(よわい)45歳。もともと東海道新幹線は70年の耐用年数を想定して設計されているそうです。すでに施設の老朽化などが懸念され、大規模な改修工事が必要になってくるでしょう。JR関係者の間では、東海道新幹線が老朽化に伴う大改修を行なう前に、リニア中央新幹線を是非開通させたいと願う気持ちが高まっています。

 危機管理の面からも、東海道新幹線の代替としての役割も担うリニア中央新幹線の一日も早い開通を待望しているのです。東海道新幹線の東京-名古屋間の大部分は、国の東海地震防災対策強化地域の範囲内にあります。

 1995年の阪神淡路大震災では、山陽新幹線の全線復旧に3ヶ月もかかりました。もし、東海地震が発生して東海道新幹線が被災して復旧に長期間運休すれば、山陽新幹線とは比較にならない大きな経済的損失、社会的混乱は避けられません。

 その意味で、東海道新幹線のバイパスとして構想されたリニア中央新幹線は、老朽化が進む東海道新幹線の大規模修復のための代替路、不測の大災害に備えた日本の大動脈を守る重要な、そして急を要する大プロジェクトといえるでしょう。

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