「平成の開国」といわれるTPPって何だ?【国際】

「平成の開国」といわれるTPPって何だ?


 国には国境があって、国と国との貿易には関税という税金がかかります。今、国際社会では、この関税をなくしてもっと自由に貿易をしようという動きが活発です。モノだけでなく人材も、色んな国で自由に働けるようにしようとしています。これを菅直人首相は「平成の開国」と呼んで、日本はもっと世界に開かれた国にしようと訴えています。「平成の開国」で私たちの暮らしや日本の経済、産業はどうなるのでしょうか。

「平成の開国」といわれるTPPって何だ? - ニュースでよく登場するFTAやTPP、EPAとは? -
 最近テレビや新聞のニュースで、FTAやTPP、EPAというアルファベットの略字をよく目にしませんか?
 何やら難しそうに見えますが、一言で言えば世界の国々ともっとオープンに自由にビジネスや貿易を行なおう、という国と国との取り決めのことです。
 あとで詳しく触れますが、FTAとは国と国との自由な貿易協定をいいます。TPPというのは2国間の自由貿易協定を、太平洋に面した環太平洋の国々に拡大した協定のことです。環太平洋パートナーシップと呼びます。
 そしてEPAというのは、自由な貿易だけでなく、お金(投資)や人材(雇用)などを含めた経済活動をもっと自由に行なおうという取り決めのことです。経済連携協定といいます。

- 輸入品に高い関税をかけて、自国の製品や産業を守る -
 あまり規制を行なわずに、国と国との間で自由に貿易や経済活動を行うことは、産業やビジネスが活発になって、国際社会は活気があふれてきます。
 しかし日本やアメリカ、ヨーロッパなどのような先進国と、アフリカやインド、中南米や東南アジアなどの発展途上にある新興国が、いくら自由にといっても「好き勝手に商売する」わけにはいきません。
 同じ条件で貿易や経済取引を行なうには、あまりにも国力や経済力、技術力に格差があるからです。このためこうした新興国の多くの国では、色んな条件や規制を設けて、自国の産業や農業、経済活動を守ってきました。
 外国から入ってくる輸入品に高い税金(関税といいます)をかけるのもその一つです。
 例えば、今中国はめざましい経済成長を続けていますが、日本や欧米の自動車、家電製品などには高い税金がかけられていて、中国国内では非常に高額な商品となっています。
 外国製品を高くすることによって、自国(中国)の製品が売れるように国が保護しているのです。

- 日本に入る外国のお米は価格の八倍、バターや砂糖も三倍以上の関税 -
 日本でも、アメリカで作られるカリフォルニア米など外国産の米には778%、つまり販売価格の8倍近い関税をかけています。
 このため私たちは 高い外国産の輸入米ではなく、それより安い日本のお米を食べています。これによって日本のお米が売れるようにし、農家を保護しているのです。
 参考までに、海外から輸入されるバターには360%、砂糖は328%、輸入牛肉には38.5%の関税がかかっています。
 お米をはじめとして、海外から日本に入ってくる輸入品にこうした高い関税をかけることによって、とくに国内の米作や酪農、畜産といった農産物、農業生産を守ってきたのです。

- 貿易自由化は、グローバル時代の国際ビジネスの大きな流れ -
 しかし、いつまでもこうした『保護貿易』的なやり方を続けるのではなく、将来的には関税をなくしてもっと自由に世界の国々と貿易を盛んにしましょう―というのが自由貿易や経済連携の考えなのです。
 それは経済のグローバル化とともに、最近の大きな国際ビジネスのトレンド(流行)となっています。こうした世界経済の流れとして、FTAやTPP、EPAが世界の多くの国で締結されるようになって来ました。
 そのハイライトともいうべきものがTPP(環太平洋パートナーシップ、環太平洋経済連携協定ともいいます)なのです。
「平成の開国」といわれるTPPって何だ? - TPP(環太平洋パートナーシップ)とは?
                        日本は6月に参加の判断をする -

 TPPは二国間の自由貿易を進めるFTA(自由貿易協定)を、環太平洋の国々に拡大したもので、現在参加を表明している九カ国で交渉が進められています。
 もともとTPP(環太平洋パートナーシップ)というのは、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの4カ国で2006年に発足した4Pと呼ばれる貿易自由化の取り組みのことです。
 この4つの国の間では、関税がほぼ100%撤廃されて自由な貿易が行なわれています。その後アメリカが参加し、環太平洋のグローバルな自由貿易・経済圏を目指すようになりました。
 現在、東南アジアからは、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシア。オセアニアからはオーストラリア、ニュージーランド。南北アメリカからはアメリカ、チリ、ペルーの合計9カ国がTPPの参加交渉を進めています。
 このTPPに日本も参加しようとしているのですが、国内では反対論も多く、菅直人首相が今年の年頭に、「6月ごろに参加判断のメドをつけたい」とアピールして、今盛んに論議がなされているのです。
 とくに民主党政権の菅首相はTPPへの参加に意欲的で、日本のTPP参加を「明治の開国、戦後の開国に続く第3の平成の開国」と唱えてマスコミをにぎわせています。

- お米に高い関税。飼料用トウモロコシや大豆は無税 -
 確かに貿易自由化が進めば、関税がなくなって輸出入は増え、経済活動は活発になって景気は良くなり雇用も増えるでしょう。
 海外からの安い農産物が市場に出回り、海外製品は安く手に入ることになります。一見良いこと尽くめのように見えますが、実は大きな問題があります。
 それは戦後ながらく政府が手厚い保護を行ってきた日本の農業がどうなっていくのか、ということです。
 現在ほぼ100%を輸入に頼っている大豆や家畜の飼料用のトウモロコシは、畜産農業保護の意味もあって輸入関税はゼロです。しかし、日本の農業を代表する主食であるお米には、778%という高い関税をかけてきました。海外から安いお米が入ってくるのを防ぐためです。
 TPPに参加して関税が撤廃されると、日本の米作は壊滅的な打撃を受けて、農家は立ち行かなくなる、と農林水産省や農業団体は強く反対しています。
「平成の開国」といわれるTPPって何だ? - TPP参加で農業生産は四兆円に半減する―農水省試算 -
 農林水産省は、日本がTPPに参加すれば農業生産額は4兆円に半減し、340万人も雇用が減って、食料自給率は現在の40%から14%に下落すると試算して反対しています。
 今、日本の農業の就業者は約7割以上が60歳以上の高齢者です。おまけに家族経営の個人農家が中心で、海外から安いお米や農産物がドッと流れ込んだらひとたまりもないといいます。
 しかし、日本がTPPに参加して関税がなくなれば、本当に日本の農業は壊滅してしまうのでしょうか?TPPは日本の農業にとってマイナス面だけでプラスに働くことはないのでしょうか?


- TPP参加でよみがえる日本の農業新しい輸出産業へ脱皮 -
 日本は今後ますます人口減少が進んで、国内での米の消費は減っていきます。しかも農家の高齢化はますます進んでいきます。5年後、10年後を考えれば今のままでは、日本の農業はやがて行き詰っていくでしょう。
 幸い、今日本の農産物は「高品質で安全性が高い」「味が良い」と、海外から高く評価されています。海外産品と比べて競争力のある日本の農産物は、関税がなくなることで逆に有望な輸出商品としての拡大が期待されています。
 それには、家族単位の農業経営から、会社組織(法人化といいます)によって農業の規模を拡大し、生産性を高めて国際競争力をつけることが必要です。
 現在、日本の「ササニシキ」や「コシヒカリ」といった高級ブランド米は、中国や韓国などでも引っ張りだこです。
 政府は、とくに中国市場へ米の輸出拡大を狙って、北京に常設の展示館を設置する方針です。農水省では、現在年間100トン未満にすぎない中国向け米輸出を、20万トンに拡大する目標を掲げています。
 TPPに参加することで、日本の農業はよみがえり、新しい輸出産業に転換する道があります。法人化、大規模化によって雇用を拡大し、生産性を向上させることで地方の活性化にもつながる―という非常に前向きな見通しもあります。

- 貿易、経済活動の自由化は国際化時代の自然の流れ -
 TPPといえば農産物やモノの関税に議論が集中しがちですが、日本の社会に貢献する海外のすぐれた人材をより自由に採用することが出来るようになります。
 すでにアジアの国々から日本に対して、看護師や介護士、医師や薬剤師など、専門的職業につく人材の受け入れを強く要望しています。このため、国家資格試験の改正なども検討すべきだという意見があります。 今、地域によっては医師や看護師、介護士の不足が深刻化しています。海外からの優秀な専門職業人が日本で自由に働けるようになれば、こうした問題の解決にも役立ちます。
 日本のTPP参加は、歓迎すべき面と、解決すべき問題点もあります。しかし、産業や経済の国際化が進むにつれて、貿易や経済活動の自由化は避けられない時代の流れともいえます。
 これからのグローバル時代に対応していくためのさまざまな改善や改良の努力が必要だと思います。
「平成の開国」といわれるTPPって何だ? 【FTAとは】
- 関税がなくなって国内産業が活発になる!? -
 FTAは、国と国や地域同士が、輸出入品にかかる関税をなくして、より自由な貿易を目指す自由貿易協定のことです。
 輸出入品にかかる関税がありませんから、外国から安い工業製品や材料、安い農産品がドーンと国内に入ってきます。消費者にとっては、海外の製品が安く手に入りますし、乳製品や牛肉、ワインなど海外の食料品を安く購入できます。
 また、日本が輸入に頼っている石油や鉄鉱石をはじめとした鉱物資源、綿や肥料などが安く輸入でき、この安い原料を用いて製品を安く作り、海外に関税なしで輸出できます。
 いま日本企業の多くは海外に進出して生産していますが、関税がなくなれば海外に出て行く必要がなくなります。国内での生産が増えて雇用も増大し、海外の安い商品を消費者がどんどん購入して消費が拡大し、全体的に国内の景気は良くなっていくでしょう。
 すでに世界では170以上のFTAが存在しています。





【EPAとは】
- 人、モノ、金が国境を越えてより自由に行き来する -
 関税の撤廃など貿易の自由化をめざしたFTA(自由貿易協定)をさらに一歩進めた経済連携の取り組みをEPA(経済連携協定)といいます。
 自由貿易に加えて、自由に会社を作ったり、出資することができるほか、人材の確保(雇用)や特許、著作権など知的財産権の保護や技術協力が、あまり制限されずに行なえます。
 日本はこれまでタイやインドネシア、フィリピンなど13の国・地域とEPAを結んでいます。ただし日本が高い関税をかけている牛肉、バター、砂糖、乳製品の四品目は、例外としてそのままになっています。
 2007年からはじまったオーストラリアとのEPA交渉はいまだ合意に達していませんが、これはオーストラリアが四品目の例外を認めないためです。
 しかし今年6月に、日本政府が参加の判断を決めようとしているTPPは、例外を認めない厳しい関税撤廃を十年間で行なう内容となっています。
 日本が本当に貿易自由化に踏み切り、平成の開国が実現するのは、TPPへ参加するときだ、といわれています。
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