高校生の為の新聞ハイスクールタイムス（High School TImes）のオンライン版

　連日ユーロ危機、ヨーロッパの金融不安に関するニュースが報じられています。ギリシャの財政破綻をきっかけに、ＥＵ全体にその影響が広がり、各国の財政や金融機関の経営が悪化してヨーロッパ全体が経済危機に見舞われるのでは、と心配されています。どうしてそうなるのでしょうか。日本や世界にどう影響するのでしょうか。
　ＥＵや統一通貨であるユーロの問題点とともに考えてみましょう。

-　二度と戦争のない一つのヨーロッパをめざして！　-
　ヨーロッパの歴史は戦争と内乱、革命の歴史とも言われます。
　17世紀に入って神聖ローマ帝国（今のドイツを中心とした地域）を舞台に戦われた30年戦争では、ドイツの人口が1800万人から700万人に減少したといわれます。傭兵による虐殺やペストの流行などが人口減の大きな原因といわれますが、30年戦争が終わった1648年に結ばれたウェストファリア条約で、ほぼ現在の姿に近いヨーロッパの領土国家が誕生しました。それ以降もヨーロッパは、王位継承や植民地の争奪を巡って国家間の戦争に明け暮れました。
　さらに19世紀以降、ナポレオン戦争、クリミア戦争、普仏（プロイセンVSフランス）戦争、仏墺（フランスVSオーストリア）戦争など、帝国の覇権を争う戦いが続きました。
　20世紀に入って第一次、第二次の二つの悲惨な世界大戦を経験したヨーロッパでは、「二度と戦争はしない。一つのヨーロッパを作ろう」という考えが広まりました。

-　ＥＥＣ、ＥＣを経て1993年に欧州連合（ＥU）が発足　-
近いヨーロッパの領土国家が誕生しました。　
　それ以降もヨーロッパは、王位継承や植民地の争奪を巡って国家間の戦争に明け暮れました。さらに19世紀以降、ナポレオン戦争、クリミア戦争、普仏（プロイセンVSフランス）戦争、仏墺（フランスVSオーストリア）戦争など、帝国の覇権を争う戦いが続きました。
　20世紀に入って第一次、第二次の二つの悲惨な世界大戦を経験したヨーロッパでは、「二度と戦争はしない。一つのヨーロッパを作ろう」という考えが広まりました。このため、近代戦争の火種となった石炭と鉄鋼を共同で管理しようと、1952年にドイツやフランスなど6カ国で欧州石炭鉄鋼共同体（ＥＣＳＣ）を設立しました。
　58年には、アメリカ、ソ連に対抗できる経済圏を設立しようと、欧州経済共同体（ＥＥＣ）が発足しました。ＥＥＣでは、①関税（輸出入にかかる税金）の統一、②どこでも自由に働け、投資ができる資本と労働力移動の自由化、③農業政策の共通化などが実施されました。そして67年７月に、ＥＣＳＣとＥＥＣ、そして欧州原子力共同体（ＥＡＥＣ）の3つの組織が統合して、欧州共同体（ＥＣ）が発足しました。
　その後ＥＣへの加盟国が増え、93年11月 に現在の欧州連合（ＥＵ）が誕生し、ヨーロッパの一体化はさらに進みました。
　本部をベルギーのブリュッセルに置き、現在27カ国が加盟しています。

-　99年にユーロ導入開始。現在17カ国でユーロ圏を形成　-
　一つのヨーロッパを目指す次のステップとして、《通貨を統一しよう》と誕生したのがユーロです。
ヨーロッパの国々にはそれぞれ自国の通貨がありました。ドイツのマルク、フランスのフラン、イタリアのリラ、スペインのペセタなどです。自国の通貨を発行し、その種類や量を決めることは国の重要な権限ですが、「一つのヨーロッパを目指そう」という強い思いから、99年に統一通貨として「ユーロ」の導入が始まり、2002年にはユーロ紙幣、硬貨が流通しています。しかし、ＥＵの加盟国全てがユーロを導入しているのではありません。英国やスウェーデン、デンマーク、ポーランドなどは国内世論の支持が得られず、ユーロの導入を断念して自国の通貨を使用しています。現在ユーロを導入しているのは、今問題になっているギリシャのほか、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど17カ国です。
　ユーロを導入している国々で「ユーロ圏」を形成しています。ユーロを使用している人口は約3億2600万人です。

-　ばらまき行政の放漫政策で財政悪化を招いたギリシャ　-
　ユーロ危機の発端となったギリシャとはどんな国でしょうか。
　第ニ次大戦中のギリシャは、ナチスドイツ、イタリア、ブルガリアの3国の侵攻を受け、分割占領されていました。戦後も王制派と共産主義派との内戦が繰り広げられました。その後、軍部のクーデターが起こり、軍事独裁が続きました。現在の民主政体になったのは1974年のことです。波乱に満ちたギリシャの政情は決して安定したものではありませんでした。
　政権についた政党は国民の歓心を得るために公務員ポストをばらまき、国の財政を余り考えずに賃金を高く引き上げ、税金は低く抑え、年金など手厚い社会保障を行なってきたため、国の財政は悪化していきました。

-　財政破綻したギリシャは国の赤字をごまかして借金していた　-
　一般に国の財政、つまり税金などの収入（歳入といいます）よりも、公共事業や公務員の給与などの支出（歳出といいます）が多ければ赤字となります。財政が赤字になれば、政府は赤字を補填するため「国債」という証書を発行し、銀行や国民に買ってもらってお金を集めます。つまり借金をするわけです。
　ギリシャは、安易に国の財政赤字を他のＥＵ各国からの借金でしのぎ、少しでも赤字を減らす財政改革の努力を怠ってきたといわれます。とくに問題なのは、財政赤字を少なく偽って、つまりごまかして国債を発行するという、『赤字隠し』をしていた点です。

-　ユーロの信用が低下してユーロ危機がはじまる　-
　当然、ギリシャにお金を貸している国や金融機関は、ギリシャに不信感を持ち、きちんと借金を返済してくれるのか不安になります。
　また、ユーロという通貨に対しても、「そんないいかげんな国が使用しているユーロは大丈夫なのか？」と世界中が厳しい目を向け、ユーロそのものの信用も落ちていきました。これがユーロ危機のはじまりです。
　ギリシャのほかにもイタリアやスペイン、ポルトガル、アイルランドなどは国の財政が苦しく、他の国々から多額の借金をしており、債務危機が心配されています。

-　イタリア、ポルトガル、スペインなども財政ピンチ　-
　国が金融機関から借金したお金を返せなくなることを「デフォルト」（債務不履行）といいます。
　ギリシャがデフォルトを宣言して借金が返せなくなれば、金融機関はこれ以上損失を出したくないため、国債を引き受けている（つまりお金を貸している）他の国々に強く返済を迫ったり、借金の利息を上げるなど一段と引き締めを強化します。
　そうなれば、財政難に苦しんでいるイタリアやスペイン、ポルトガルなどは連鎖的に財政破綻を起して、ＥＵ全体が金融危機に見舞われることになります。これをＥＵの債務危機といいます。

-　ギリシャのデフォルト（債務不履行）回避へＥＵが資金援助　-
　ユーロ危機はＥＵやヨーロッパ全体を巻き込んで、各国政府の財政悪化、金融機関の経営危機を招いていきます。
　それは、金融、経済、貿易などでヨーロッパと深い関係にあるアメリカ、日本、そして中国、アジアにも大きな影響をおよぼし、世界規模の金融恐慌に発展していく可能性も否定できません。このためＥＵでは、ギリシャがデフォルトにならないように、ギリシャの借金を一部免除して、多額の資金援助を行なっています。
　ギリシャに対する資金援助は、2010年に第1次として1090億ユーロ（約10兆9000
億円）を行っています。今年は第2次で、援助額は1300億ユーロ（約13兆円）にのぼります。

-　ユーロ危機克服に求められるギリシャの努力とドイツの指導力　-
一方、ＥＵはギリシャに対して、公共工事を大幅に減らして政府の出費を抑えること。最低賃金を引き下げ、公務員を1万5000人削減することなどを骨子とした「緊縮財政」の完全実施を強く迫っています。
　ギリシャ政府がこの緊縮財政を完全実施して放漫財政を改めなければ、いくら資金援助を行っても、今後デフォルトの危機は繰り返されることでしょう。
　ユーロ危機を克服するには、ＥＵとユーロ圏の中核的な存在で、最も経済力のあるドイツの助けが必要だといわれます。さらに、ＥＵと経済的な結びつきが急速に高まっている元気な経済大国中国が、どれだけＥＵを支援することができるかにかかっているともいわれています。

-　信用力低下で金融不安を警戒する国際社会と世界の金融機関　-
　今、世界の経済は非常に不安定な状態にあります。アメリカは、アフガニスタンやイラクなどでの長期の対テロ戦争の影響で深刻な財政赤字に陥り、国内景気の停滞が続いて高い失業率に悩んでいます。
　米国の財政赤字は2009年から4年連続で1兆ドル（約78兆円）を超え、ドルの値打ちが下がってドル安が続いています。
　日本は円高によって輸出が落ち込み、賃金が下がってモノが売れないデフレ不況が長期化しています。さらに東日本大震災の発生や原発事故の影響で国内の景気はさらに悪化し、雇用問題が一層深刻になっています。
　ユーロ危機で不安が高まるヨーロッパの経済は、いつ世界規模の金融危機に発展してもおかしくないほど不安定な状態にあります。