宗教を知れば、もっと世界が見えてくる【国際】

宗教を知れば、もっと世界が見えてくる


 人間の根源的な問いかけとして、古今東西を問わず「我々が住む世界がどのように成立し」「人間はなぜ誕生したのか」、そして「なぜ生と死があり」「死後はどこに行くのか」、などといった不安や疑問が太古の昔から投げかけられてきました。こうした根源的な問いに対し、文明が発達し科学技術の進展がめざましい今日でも明確な答えを得ることが困難です。こうした中、宗教はある種の回答を用意し、多くの人々の不安感を解消するために貢献してきました。
 反面、考え方や価値観の相違などで、古くから多くの紛争を引き起こしてきたことも事実です。現在でも世界各地で多くの争いが起こっていますが、その要因の一つになっている宗教について考えていくことにしましょう。


- 宗教的観念は人類の誕生とともに -
 人類の祖先とされる、旧石器時代に出現したネアンデルタール人の遺跡から数種の花粉などが発見されています。おそらく、死者を追悼する気持ちを表したものと見られ、人類は太古の時代から「死」に対して特別な意味を感じ取っていたようです。
 後期旧石器時代になると、フランスのラスコーやスペインのアルタミラの洞窟には、クロマニョン人が何らかの呪術的な営みを行なったと伺わせる壁画が残されています。日本の古代遺跡にも、副葬品として土偶などが発見され、「死」に対して特別な感情を抱いていたことが分かります。
 宗教は人間のさまざまな「不安」、とりわけ「死」や死後の世界と深く関わって誕生しました。古代人は、人間を含めた動植物や自然現象すべてに霊が宿っていると考え、死や不安を取り除くために呪術的な観念を育んできたようです。このため、崇高な生命力の象徴として、太陽や樹木を信仰の対象にしたり、病気治癒のために身体の一部に呪術的に働きかけたりしてきました。
 また、原始共同体が形成されていく中で、人間が生きている社会の由来や社会の成り立ちを説明するために神話が生まれてきました。これらを含めて原始宗教と呼ばれています。


- 人間救済をめざして広がる宗教 -
 社会が複雑化し価値観が多様化することで、人間はさまざまな苦悩を抱え込んでいきます。時には絶望の淵に立たされることもあり、結果として自ら命を絶つ人も少なくありません。そのため、人間の救済を中心に据えた宗教は、紀元前の時代から現在まで時代の変遷を問わず、多くの人々の心を捉えてきました。
 宗教は、神という概念を中心に据え、独自に構築した教義や経典、寺院や教会、聖職者などを通して人間救済を目的に広がって行きます。その過程で、人間救済のメカニズムに応じて多数の宗教が誕生し、各々独自の様相を醸し出していきます。

宗教を知れば、もっと世界が見えてくる - 世界の宗教を分類してみると!! -
 宗教をグループごとに分けると、人種・民族・国家という枠を飛び越えて世界中に拡大しているのがキリスト教、イスラム教、仏教です。「世界宗教」とも呼ばれています。他方、世界で3番目の信徒数を持つヒンズー教は主にインドで信仰され、ユダヤ教はユダヤ人の間で深く信仰されています。こうした宗教を、世界宗教に対して「民族宗教」と呼んでいます。
 また、「一神教」と「多神教」という分け方もあります。一神教とは、万物を超越して宇宙を創造した唯一の神のみを信仰するもので、世界にはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つの宗教だけが一神教となっています。
 一方、多神教の代表として日本の神道があります。特定の神が世界を支配するのではなく、山や海、石や樹木など自然界の中に存在する神を信じるもので、八百万の神とも呼ばれています。他にも中国の道教、インドのヒンズー教などがあります。

【世界の3大宗教、キリスト教・イスラム教・仏教】
- 世界の宗教の源流を探っていくと!! -
 世界の半分以上の人の信仰を集めているのが世界の3大宗教です。しかし、それぞれが独自に生まれ、世界中に広がったものではありません。キリスト教とユダヤ教、イスラム教は同じ神を信仰しています。その天地創造者である唯一神は、旧約聖書の中では「エホバ(ヤハウェ)」と呼ばれ、イスラム教徒(ムスリム)が信じるコーランでは「アラー」と呼ばれています。このように名前は異なっても、同じ神を信仰しているのです。
 仏教とインドのヒンズー教は、起元前1000年頃に成立したバラモン教をルーツにしています。バラモン教の教えの中心になるのが輪廻という考え方です。人間は死んだ後も魂は永遠に生き続けるため、自分の置かれた階級で善行を重ねて行けば、生まれ変わる来世でさらに上の階級を目指せると説きます。ヒンズー教は、バラモン教の階級制度を受け継ぎ、現在でもインドでカースト制として残っています。
 ヒンズー教は多神教で、仏教を創設したブッダ(釈迦)もその中の神様の一人です。ブッダはバラモン教の輪廻の思想を引き継ぎながらも、人間を平等に扱うため階級制度を厳しく批判します。そして、信仰をもとに平穏な生活を送ることで心の安らぎが得られると説きました。
 このように、キリスト教、イスラム教、仏教は世界の3大宗教として、表にあるように世界の半数以上の人がこれらいずれかの宗教の信者となっています。その設立の背景を調べていくと面白い発見があります。こうしたことを頭に置きながら、3大宗教をもう少し詳しく見ていきましょう。
宗教を知れば、もっと世界が見えてくる - 世界で一番多くの信者を持つキリスト教 -
 ユダヤ教を抜きにして、キリスト教を考えることはできません。なぜなら、キリスト教はユダヤ教と同じ神の教えをもとに発展してきたからです。
 ユダヤ教の大きな特徴は、この天地創造の唯一絶対の神「エホバ(ヤハウェ)」がユダヤ人を選んで契約を結んだという宗教です。その旧約聖書を厳格に遵守することが、ユダヤ教徒の信仰の基本になっています。このため、キリスト教ではイエスを神の子としているのに対して、ユダヤ教では人の子と位置づけられています。
 ユダヤ人として生まれたイエスは、「神の子にして救世主(メシア)」という立場から、ユダヤ教の教えを基にしながらも人間を平等に扱い、愛することの重要性を説きました。イエスの死後、イエスを救世主としてする人たちによって神との新たな契約である新約聖書がまとめられ、キリスト教として世界中に広がっていきました。「旧約聖書」と「新約聖書」は、キリスト教の立場から見た呼び方で、ユダヤ教徒にとっては旧約聖書がすべてなので、こうした区別はありません。

- 分裂しながら「愛の宗教」として拡大 -
 キリスト教は、「愛の宗教」ともいわれます。キリスト教で言う愛とは、神が人類に注いでいる無条件の愛、一切の見返りを求めない愛のことです。そして、信者には「神を愛しなさい」「自分を愛するように、隣人を愛しなさい」と説き、この愛を貫くことで人々の貴賎や貧富、老若男女を問わず救われると教えました。
 こうしたキリスト教の教えが多くの人々の心をとらえ、世界中に広がっていきますが、その過程で分裂も経験していきます。マルティン・ルターが宗教改革運動を起こし、カトリックとプロテスタントに分かれたことは世界史などで学んだ通りです。
宗教を知れば、もっと世界が見えてくる - 今、世界を揺るがすイスラム教とは -
 イスラム教では、唯一神である「アラー」に絶対服従することが求められます。一神教であるユダヤ教やキリスト教では偶像崇拝は否定されています。イスラム教の神アラーは、世界を超絶した存在であるため一切の姿形を現さず、偶像崇拝をより強く否定することでもよく知られています。
 このアラーの言葉を直接聞いたのがムハンマド(マホメット)であり、アラーから授かった言葉をそのまま書き留めた「コーラン」がイスラム教の経典です。神は多くの人に言葉を授け、イエスも神の言葉を授かった預言者の一人です。しかし、神はこれら預言者に全てのことを話したわけではなく、言い残した言葉を伝えるために選らばれたのがムハンマドだったのです。イスラム教では、神がムハンマドにすべてを話したため、ムハンマドは「最後にして最大の預言者」として位置付けられています。
宗教を知れば、もっと世界が見えてくる - 急激に拡大し続けるイスラム教 -
 イスラム教は、世界に12億人を超えるムスリムを持ち、さらに拡大し続けています。この勢いで増加していくと、近い将来にはキリスト教信者を追い抜くのではないかと予測する人もいます。
 ムスリムが信仰するコーランは、アラーの声そのものをまとめたもので、他の宗教のように時代を経ていく中で信者が神の声を解釈したものではありません。コーランはアラビア語で書かれ、他国語に翻訳されたコーランは正式のものと認められていません。イスラム教の広がりはアラビア語圏の拡大であり、中東の文化もそれにともなって中央・西アジア、アフリカ北部へと広がり続けています。
 イスラム圏が拡大するにつれ、ムスリムの多様な生活様式を規定するため、コーランだけではなくイスラム法が制定されました。この中で、ムスリム間の強い絆が重視され、時には連帯感が民族や国家を越えるほどに強くなることがあり、自分たちの信仰を脅かす者には立ち向かうこともあります。
 現在、イスラム圏が拡大しているのは、その教えが分かりやすいという他、西欧の先進国の価値観が世界中に強まっている反動という側面も考えられます。
宗教を知れば、もっと世界が見えてくる - 仏教の基本精神は平等と中道 -
 紀元前1000年ごろのインドでは、業や輪廻、解脱などを説いたバラモン教が優位に立っていました。紀元前5世紀ごろ、バラモン教の司祭階級である「カースト制」などに見られる保守的なバラモン教に反発する釈迦などの思想家が誕生します。釈迦が説いた仏教の特徴として、絶対的な平等があげられます。それは、ユダヤ教の厳しい律法主義に反発したイエスが、愛を中心に据えたキリスト教を始めたことに相通じます。
 バラモン教の行者として激しい修行に励んだ釈迦は、極端な修行に疑問を抱き、平等や中道の道を探っていきます。その結果、菩提樹の木の下で悟り(菩薩)を開くことができました。仏教は一神教と異なり、個々人の内にある真理を会得することで心の迷いから解き放たれた境地、つまり「涅槃」に入ることを説きます。
 釈迦の死後、仏教が広がって行くにつれ、戒律の解釈を巡って対立が起こります。インドからスリランカ、東南アジアに伝わった上座部仏教(小乗仏教)は、戒律を厳しく保つことで、輪廻から解脱することに力を注いでいきます。一方、中央アジアを経て中国、朝鮮に伝わってきた大乗仏教は、地理的環境や生活習慣の違いなどから徐々に世俗化されていきます。
 大乗仏教の流れをくむ日本の仏教は、日本の風土を背景に独自の仏教文化を生み出し、今日に至っています。

- 日本の「常識」が、世界には通用しない -
 日本人の宗教との付き合い方は、正月や七五三は神社に詣で、結婚式は教会で挙げ、お葬式はお寺でというのが一般的です。外国人から見ると、他宗教の式典に参加するなど到底信じられない行為を日常的に行なっているのです。日本人の「常識」が、世界から見ると「非常識」になってしまいます。宗教に対して「無宗教」、「無関心」も一つの生き方として尊重されなければなりません。しかし、国際人として生きるためには、宗教を含む幅広い知識がより強く要求されてくるでしょう。
 世界情勢に目を転じると、東西冷戦が終結したことで紛争が減少するかと思われましたが、実際は以前より激化しているのが現実です。紛争の原因はさまざまですが、残念ながら宗教が大きく関係する紛争も見え隠れしています。同じ民族でも宗教間の対立、また宗教が同じでも民族が異なって起こる紛争もあります。
 宗教の基本は、人間を平等に扱い幸せにすることで、そのために多くの信者が祈りを捧げています。ところが、宗教が政治や経済、また民族間の対立に複雑に絡み合うことで泥沼の紛争に発展していきます。
 国際社会の中で生きていくには、政治・経済・文化などに大きな影響を及ぼしている宗教に対して深い洞察力が求められます。
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