山積する国際問題にどう取り組むか【国際】

山積する国際問題にどう取り組むか


第9代国際連合事務総長に、元ポルトガル首相で国連難民高等弁務官を務めたアントニオ・グテーレス氏が選出されました。国際社会は相次ぐ内戦や紛争、飢餓、核問題、環境汚染など数多くの難問を抱えています。こうした中、国際連合事務局のトップに立つ新事務総長の手腕に注目が集まっています。

山積する国際問題にどう取り組むか 【新たに導入された選出方法】
- 今年1月からグテーレス新事務総長に -
 国際連合は数多くの機関で成り立っています。国連事務局は国際連合の主要機関の一つで、中立的な立場で平和維持活動(PKO)の管理、国際紛争の調停や問題解決に向けた会議の開催、経済・社会などの国際的調査、国連での演説や文書の翻訳や出版など多岐に及ぶ活動を行っています。こうした活動に携わるのは、国連加盟193カ国出身の約4万4千人の職員で、そのトップに立つのが事務総長です。この新事務総長に昨年10月、国連総会で元ポルトガル首相のアントニオ・グテーレス氏が選出されました。国連事務総長の任期は1期5年で最長2期10年となっています。
山積する国際問題にどう取り組むか - 事務総長選びに大国の思惑が -
 国連事務総長の選出については、国連憲章で「安全保障理事会による勧告に基づいて、総会が任命する」と記されているだけです。このため15カ国で構成される国連安全保障理事会、とりわけ拒否権を持つ常任理事5カ国(アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス)の意向に大きく左右されてきました。常任理事国が相談して候補者を決定し、安保理15カ国の大半の賛成、そして国連総会での承認を経て新事務総長を決定してきました。わずか5カ国の常任理事国の思惑、あるいは密室での駆け引きで決定されてきたのです。  国連事務総長の任期は、国連憲章で規定されていませんが、慣例として1期5年、最長2期10年となっています。また、原則としてアジア、ヨーロッパ、アフリカなど、各地域から順番に選出されてきました。しかし、時に常任理事国の思惑通りに事が進むとは限りません。これまでの事務総長のうち、辞任や再選をあきらめた事務総長は、アメリカやロシア、中国といった国々の拒否権によるものが少なくありません。

- 「密室型」から「公開型」に移行 -
  こうした事務総長の選出方法に、他の国連加盟国の間から不満が噴出しました。一握りの大国以外の国々は、「候補者は誰なのか」、「どのような形で決められたのか」など、全く知らされない現状に対して不満が鬱積していたのです。  そのため、デンマークを中心とした加盟国によって、国連憲章上の手続きは変更しないものの、常任理事国だけの利益に合致しない方法が提案されました。この方法とは、各加盟国が事務総長候補者を推薦し、その候補者の履歴や所信を全世界に発信するというものです。さらに、立会演説会を開いて候補者の国連運営の方針を聞き、質疑応答が出来るというものです。この提案が2015年の国連総会で受け入れられ、今回の選出から導入されました。

- 推薦された候補者は12人 -
昨年1月から次期事務総長を選ぶ選挙がスタートしました。加盟国から推薦された候補者は12名です。歴代の事務総長は男性ばかりが務めてきました。このため、今回は女性事務総長を誕生させようという声が加盟国の間で高まり、2015年の総会決議でも女性の積極的な立候補を呼びかけました。今回立候補したのは12名で、この内女性は半数の6名です。地域別では東欧諸国からの立候補が8名と多数を占めています。これは、世界の各地域から選出するというこれまでの慣例から、まだ事務総長を出していない東欧諸国が有望と考えられたためと思われます。立候補した12名の特徴は、国際機関での勤務経験者が多いことです。この背景には、現在の国連は多くの難問を抱えており、事務総長となるべき人は中立的な立場で国連の機構改革を進め、組織を管理できる人が相応しいと認識されているためです。

- グテーレス事務総長とはどんな人 -
 立候補者は複数回の演説や質疑応答を経て所信表明してきました。国連安保理は個々の候補者について「支持」「不支持」「意見なし」という予備投票を繰り返し、候補者を絞り込んでいきました。日本も非常任理事国として選出に関わっています。そして6回の予備投票を経てグテーレス氏を事務総長に任命するように勧告し、10月13日の国連総会でグテーレス氏を任命する決議を全会一致で採択しました。アントニオ・グテーレス新事務総長は、ポルトガルの首都リスボン生まれの67歳。政治家として、1974年に社会党に入党し、1976年のポルトガル初の民主選挙で初当選、そして1995年に首相に就任しました。その後10年にわたって国連高等難民弁務官を務め、シリアや中東、アフリカなどで深刻化している難民問題に積極的に取り組みました。また、実務重視をモットーに世界の紛争地を飛び回り、日本にも難民支援を呼びかけるために政府や企業をたびたび訪問しています。国連は常任理事国の一致した協力を得なければ、なかなか前に進むことが出来ません。シリア内戦などに見られるように米ロの対立が続き、国連は大国の狭間でリーダーシップを発揮することが出来ないのが現実です。グテーレス新事務総長には、大国の意向に振り回されることなく、国連のトップとして難問解決に取り組んで欲しいものです。日本も非常任理事国として事務総長の選出に関わりました。日本が今後どのように国連を支え、関わっていくかが強く問われています。
山積する国際問題にどう取り組むか 【日本と国際連合】
- まだまだ少ない日本人の国連職員 -
 日本は1956年12月18日、世界で80番目の国連加盟国となりました。今年で加盟61周年となります。日本が拠出する国連の「分担金」は、2016年では全体の9・68%(約2億3700万ドル)を占め、アメリカに次いで2番目に多い分担金となっています。国連事務局が拠出金などを基に毎年発表している「望ましい日本人職員数」では、2015年現在で186人から252人となっています。しかし、実際の職員数はその3分の1程度の約80人で、加盟国全体の7番目となっています。ちなみにこの数字は国際公募採用の職員数で、通訳や翻訳職などは除かれています。外務省では、より多くの日本人が国際機関で活躍すれば、国際社会における日本のプレゼンスが高まるとし、国際機関への日本人職員の増強に向けた取り組みを強化しています。そして、国際関係機関に勤務する日本人を、現在の約800人から2025年には1000人に増やしていく方針です。そのため、政府は国際機関で勤務を希望する若者に対し、給与等を国が負担して国際機関へ派遣し、勤務経験を積むJPO派遣制度を実施しています。さらに、潜在的希望者の発掘や、海外の採用情報の提供にも力を入れています。

- 国連で活躍した日本人たち -
 1956年に日本が国連に加盟し、翌年の2月に明石康氏が日本人として初めて国連職員に採用されました。79年に広報担当事務次長。事務総長特別代表として、カンボジアや旧ユーゴスラビアで平和維持活動(PKO)の先頭に立って活躍しました。97年に退職するまで、国連の「日本の顔」としてよく知られています。また緒方貞子さんは、紛争が生み出す難民の保護や援助にあたる国連難民高等弁務官事務所のトップを1991年から2000年まで務めました。旧ユーゴスラビアなどの内戦では自ら現地に飛び、難民の救済にあたりました。退職後は国際協力機構(JICA)の理事長を務めるなど幅広い活躍を行っています。1999年にアジアから初めて国際教育科学文化機構(ユネスコ)の事務局長に就任したのが松浦晃一郎氏。組織の立て直しに取り組む一方、世界無形文化遺産の保護に取り組みました。また、1984年にユネスコを脱退したアメリカも、松浦氏の改革を評価して2003年に復帰しました。このように、日本は優れた人材を国連に送り込み、国連を支えてきました。
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