経済のグローバル化と貿易摩擦を考える【国際】

経済のグローバル化と貿易摩擦を考える


 米国のトランプ政権が進める「アメリカファースト」の通商政策が、国際社会で激しい貿易摩擦を巻き起こしています。今年6月のG7(先進7か国首脳会議)では、保護主義的な姿勢を強めるアメリカに他の6カ国が反発しました。米国と中国との間では貿易戦争ともいえる激しい報復関税が繰り広げられています。EU(ヨーロッパ連合)は世界貿易機構(WTO)に保護主義色を強める米国を提訴しました。今国際社会は、自国産業の保護を第一に考える米国の保護主義的な姿勢と鋭く対立しています。経済のグローバル化と貿易摩擦を考えてみました。

経済のグローバル化と貿易摩擦を考える - 米トランプ政権が保護主義政策を打ち出す -
 アメリカのトランプ大統領は、今年3月から鉄鋼の輸入品に25%、アルミニウムに10%の新たな課税(関税をかける)を打ち出しました。安全保障上の脅威になっているというのが理由ですが、これに対して中国をはじめ、カナダやメキシコ、EU(ヨーロッパ連合)などが一斉にアメリカの課税措置に反発しました。
 とくに中国とアメリカは、それぞれが再三追加関税を発動するなど報復合戦を繰り広げ、貿易戦争の様相を見せています。
 関税というのは外国からの輸入品にかける税金のことです。アメリカが関税を引き上げるということは、米国内で輸入品の値段が上がることになり、商品は売れなくなって結果として輸入量が減ります。これによって外国からの安い産品の流入を制限して、国内の産業と雇用を守ろうというものです。
経済のグローバル化と貿易摩擦を考える - 米中で関税の報復合戦を繰り広げる -
 今年7月以降米国は、中国に対して知的財産権の侵害による制裁措置として、ハイテク製品を中心に1102品目、総額約500億ドル(約5兆5000億円)相当の輸入品に25%の追加関税を課しました。これに対して中国も、米国から輸入する自動車、農産物など659品目、総額約500億ドル分の産品に25%の報復関税を実施しました。
 さらに米国は9月以降中国からの2000億ドル(約22兆2000億円)相当の輸入品に25%の関税を課し、これに対抗して中国は5207品目、年間600億ドル相当の米国製品に追加関税(LNGなど全体の約5割の品目に最高税率25%)を課す報復措置に出ました。
 関税を上げて自国の産業を守ることを保護主義、保護貿易といいますが、アメリカが保護主義色の強い通商政策を打ち出した背景には、増大する米国の貿易赤字(輸出額より輸入額が多い)が挙げられます。
経済のグローバル化と貿易摩擦を考える - 対中国を筆頭に拡大する米国の貿易赤字 -
 輸出量と輸入量の差額のことを貿易収支といいますが、輸出が輸入を上回る状況を貿易黒字(貿易収支が好調)、輸入が輸出を上回れば貿易赤字(貿易収支が悪化)といいます。
 アメリカの貿易赤字は90年代以降年々拡大し、2017年の赤字幅は7962億ドル(約87兆円)に達しました。その約47%が中国との貿易によるものです。
 17年に米国が中国から輸入したモノの総額は5054億ドル(約56兆円)で、輸出は1298億ドル。差し引き3750億ドル余りの赤字となり過去最大でした。
 中国製品の大量輸入で自国産業が圧迫され、米国民の雇用が失われるとの危機感から、トランプ大統領は中国に対して厳しい輸入制限に乗り出しました。米中の二大経済大国は互いに高い関税をかけあって、本格的な「貿易戦争」を繰り広げています。

- EUはWTOに米国を提訴 -
 一方EUは、アメリカの鉄鋼、アルミニウムに対する関税を不服として、国際的な貿易ルールを監視・運営する世界貿易機関(WTO)に提訴しました。さらにEUは報復措置として、米国からの輸入品に対して今年7月から28億ユーロ(約3600億円)規模の関税を課しました。
 アメリカとEUの間で取引されるモノやサービスの総額は、毎年1兆ユーロ(約128兆円)を超えます。EUは今回のWTOへの提訴が解決しなければ、第2弾として約160品目の米国製品に総額37億ユーロ(約4740億円)の関税をかける方針です。

- 国家が貿易に介入する「保護貿易」 -
 外国から商品を輸入するときにかける関税をはじめ、輸出入について国家による制限や干渉がなく、国と国が自由に取引することを「自由貿易」といいます。
 これに対して外国との貿易に国家が介入し、自国の産業を保護・育成することを「保護貿易」といいます。国家が介入する方法として関税や輸入数量の制限、輸入する際の手続きや検査基準を厳しくする非関税障壁などがあります。
 かつて日本との間で貿易赤字の増大に悩んだアメリカは、70年代、80年代に日本製品に対して厳しい輸入規制(日米貿易摩擦といいます)を行いました。繊維、鉄鋼、自動車、カラーテレビ、VTR、半導体などの日本製品がやり玉に挙げられ、全米で日本叩き(ジャパン・バッシング)が広がりました。
 1987年には日本製のコンピュータ、カラーテレビ、電動工具に100%の関税をかけるなど、アメリカの厳しい輸入規制にあって、当時の日本政府はアメリカ向け輸出を自主規制しました。

- 自由貿易で国際分業を推進 -
 ここ10数年の間に経済のグローバル化が進んで自由貿易主義が浸透してきました。自由貿易を行うことで他国との売買・取引が活発となり、世界的に国際分業が広がって経済は活性化し生産性が高まります。また消費者は商品の選択肢が増え、海外からのより安い商品を購入できるようになります。
 しかし自由貿易にも問題があります。それは関税が撤廃されて他国の安い製品が大量に国内に出回ることによって、国産商品が売れなくなるということです。
 そのため国際競争力の低い産業には国が何らかの保護政策をとる必要があります。日本では米や小麦、こんにゃく、乳製品など農畜産品の一部に高い関税をかけて国内業者を保護しています。

- 保護貿易は国際社会の格差拡大を招く -
 アメリカのトランプ政権による保護主義的な通商政策で、世界規模の貿易摩擦が広がっています。自由な交易を阻害する保護貿易は、世界で食料やエネルギーをはじめとした富の偏在を加速し、政情不安や国際紛争を引き起こす要因となります。
 世界の多くの国々が自由貿易を推進するのは、これによって各国がそれぞれの得意分野に特化する国際分業(経済連携)のメリットが大きいからです。
 英国の経済学者のD・リカードは『比較生産費説』で、「各国が得意な産業に特化して貿易で足りない分を補い合えば、国内で全産業を平均的にまかなうよりも総生産量は増える」と自由貿易の有利性を説いています。

- 自由貿易推進のためガット、WTOが設立 -
 1929年の世界大恐慌では、イギリスやフランス、アメリカなどが自国と植民地や自治領などの勢力圏を高い関税で取り囲み、他国からの輸入品をシャットアウトして自国産業を守る保護経済政策(ブロック経済といいます)を打ち出しました。
 これによって世界の貿易は縮小し経済は萎縮しました。ドイツやイタリア、日本など不況にあえぐ「持たざる国」は、武力に訴えて自国権益の確保や勢力圏の拡大を図り、第2次大戦を引き起こす要因となりました。
 こうした反省から戦後国際社会は、関税や輸出入規制など貿易上の障害を排除し、多角的な自由貿易の促進を目的とする国際経済協定のガット(関税及び貿易に関する一般協定)を1948年に発足させました。日本は55年に加入しています。
 その後貿易ルールの大幅な拡充が行われ、これらを運営するためのより強固な国際機関として95年1月に世界貿易機関(WTO)が設立されました。

- 21世紀に入って登場したFTA、EPA -
 こうして戦後世界は保護貿易の台頭を抑えてきましたが、WTOの規定では条約を締結するには加盟国(161カ国・地域)の「全会一致」が必要なため、経済状況が違う先進国と途上国の意見が対立して2001年以降、新たな条約交渉は停滞しています。
 そこで自国と相手国の2カ国で効率的に自由貿易協定を結ぼうと、21世紀に入ってFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)が登場しました。
 FTAは関税の撤廃や削減などでモノやサービスの自由な貿易を一層進めることを目的とした協定です。一方のEPAは経済連携協定と呼ばれ、FTAの自由貿易に加えてヒトの移動や知的財産の保護、投資の促進など、より幅広い分野で経済上の連携を強化しようとする協定です。
 日本は2002年に初めてシンガポールとEPAを締結し、現在メキシコ、チリ、タイ、インドネシアなど16の国・地域との間で署名あるいは協定が発効しています。
【TPPとRCEP】
- 広域的な自由貿易経済圏を目指す -
 FTAやEPAは基本的には、2国間で締結する自由な貿易や経済連携を進める協定です。とくに経済連携のEPAを、広域的にまとまって効率的に推進しようというのが太平洋を囲む11カ国が参加するTTP(環太平洋戦略的経済連携協定)や、東アジア16カ国が団結するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)です。
 TPPはもともとアメリカが主導してカナダやオーストラリアなど環太平洋の国々12カ国で交渉してきましたが、トランプ政権の誕生で米国が脱退し、日本が中心になって11カ国でスタートを目指しています。日本は今年6月に国会承認がなされました。
 一方のRCEPは、日本と中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国が交渉中で年内に大筋合意を目指しています。実現すれば世界人口の約半分の34億人、貿易総額で世界の3割という広域経済圏が誕生します。
 さらにアジア太平洋地域の21の国と地域が参加する経済協力の枠組みであるAPEC(アジア太平洋経済協力)を、世界の貿易量の約半分を占める一大自由貿易圏にしようというFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)構想があります。
経済のグローバル化と貿易摩擦を考える 【日本とEUのEPA】
- 世界の貿易総額の約37%をカバー -
 日本とEU(ヨーロッパ連合)の経済連携協定(EPA)が今年7月に調印し、2019年3月までに発効する見通しです。EUは日本にとって輸出の約11%、輸入の約12%を占める重要な貿易相手です。また投資関係をみると、EUから日本への投資は世界で最も多く、日本からEUの投資は米国に次いで第2位となっています。
 日欧EPAは世界の国内総生産(GDP)の約30%、世界の貿易総額の約37%をカバーする広域自由貿易圏で、日本が妥結した最大級の「メガ自由貿易協定」となります。日欧EPAでは、日本がEUに輸出する産品の約99%で関税が撤廃されます。日本製自動車は現在10%の関税がかかっていますが、発効後8年目に撤廃されます。
 一方、EUが日本に輸出する産品の約94%(農林水産品約82%、工業品100%)の関税が撤廃されます。とくに1本あたり93円、もしくは15%の関税がかかっているEU産ワインは協定発効後ゼロになります。
 また、現在日本が29.8%の関税をかけているカマンベールやモッツァレラなど日本で人気の高い欧州産のソフトチーズは、最大3万1000トンまで新たな輸入枠を設け、協定の発効後年々関税を削減して16年目にゼロとなります。
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