今年から「パリ協定」が本格的にスタート【国際】

今年から「パリ協定」が本格的にスタート


【17歳、グレタ・トゥーンベリさんは訴える】
 地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」が発効し、今年から本格的にスタートしました。パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃未満、可能なら1.5℃未満に抑えることを目標に掲げています。そのため、すべての国が協力して、地球温暖化の要因となっている温室効果ガスの排出量と、森林や海による吸収量とを均衡させ、発生量を実質ゼロにするというものです。しかし、アメリカのトランプ大統領は、パリ協定は「不公平」だとして離脱するなど数多くの難問が横たわっています。

今年から「パリ協定」が本格的にスタート - 地球温暖化はどうして起こる -
 地球は太陽からの熱で温められ、地表で反射した熱は赤外線となって宇宙に放出されます。大気中の二酸化炭素(CO2)やメタン、フロンなどの温室効果ガスは、赤外線を吸収して熱を逃がさないようにしています。温室効果ガスによって、地表面は各種生物にとって快適な環境が維持されてきました。
 しかし、産業革命以降、人間の活動が活発になり、石炭や石油などの化石燃料の燃焼によって次第に大気中のCO2の濃度が増加してきました。この結果、地表の温度が上昇して地球温暖化を引き起こしています。18年に公表された国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告では、1980年から2017年の間に地球の気温は平均1℃上昇し、2030年には1.5℃上昇すると予測しています。
 すでに、地球温暖化が原因とみられる海面の上昇、異常気象、農作物の被害などが世界各地で報告されています。このため、国際社会が一致団結して地球温暖化対策に取り組むことが不可欠になっています。

今年から「パリ協定」が本格的にスタート - 地球温暖化対策の取組の歴史 -
 気候変動枠組条約(UNFCCC)とは、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で採択された条約で、世界各国が大気中の温室効果ガスの濃度の安定化を最終的な目標としています。この条約に基づいて95年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されています。
 97年に京都で開催されたCOP3で、先進国に拘束力のある温室効果ガスの削減目標を明確にした京都議定書に合意し、世界全体で温室効果ガス排出削減に向けて大きな一歩を踏み出しました。京都議定書では、先進国に対し国別削減目標を決め、90年比で日本は6%、アメリカ7%、EU8%など先進国全体で5.2%の削減を定めました。一方、中国やインドなど開発途上国には削減義務を課せませんでした。これは、「これまで温室効果ガスを大量に排出してきた先進国が最初に削減に取り組むべきだ」という全体の意見を反映したためです。2001年にアメリカは、温室効果ガスの削減は経済成長に悪影響を及ぼすことや、開発途上国が削減義務を負っていないのは不公平だとして京都議定書から離脱を表明し、その実効性に疑問符が付くようになりました。
今年から「パリ協定」が本格的にスタート - 先進国と途上国間の不公平解消を目指して -
 京都議定書の採択以降、途上国の経済発展は目覚ましく、それに伴って温室効果ガス排出量も急増していきました。2016年時点で、世界のCO2排出量は約323億トン。これを国別排出量の割合でみると中国が1位で全体の28%を占め、2位がアメリカ15%、3位がインド6.4%、4位がロシア4.5%、次いで日本は3.5%で5位となっています。先進国と開発途上国との間でCO2の排出量が逆転してしまったのです。
 こうした状況を打開するため、国際社会は京都議定書に代わる新たな枠組みの構築に取り組みます。2011年に南アフリカのダーバンで開催されたCOP17で、すべての国が参加する新たな枠組を構築するための作業部会の設置を決めました。作業部会は長く厳しい交渉を経て15年11月、パリで開催されたCOP21で「パリ協定」が採択されました。
今年から「パリ協定」が本格的にスタート - 「パリ協定」で全世界が削減に取り組む -
 2016年4月、国連本部で過去最多となる175カ国・地域がパリ協定に署名し、採択から1年にも満たない11月に正式に発効し、20年以降すべての国が温室効果ガス削減に向けた取り組みをスタートさせました。
 パリ協定の目標は、地球温暖化を抑えるために、世界の平均温度上昇を18世紀後半の産業革命前に比べて2℃未満、可能であれば1.5℃未満にすることです。このため、今世紀後半までに温室効果ガスの排出量を、森林や海などで吸収できる範囲に収め、実質ゼロを目指します。このため、すべての参加国が削減目標を定め、5年ごとに目標を見直し、その進捗状況を報告するなど実効性を伴う内容となっています。さらに、先進国には途上国への支援が義務付けられました。

- パリ協定にまたしても懸念材料が -
 しかし、アメリカのトランプ大統領が、2017年6月にパリ協定から離脱を表明しました。協定から離脱するには、規定で発効後3年以内は脱退を通告できず、通告の1年後から効果が生じると決められているため、実際に離脱できるのは20年11月以降になります。
 京都議定書の交渉時、当時アメリカのクリントン政権は積極的に対応しました。しかし、01年にブッシュ政権に移行すると「途上国に削減の義務がないのは不公平」として議定書から離脱しました。オバマ前大統領は、地球温暖化は深刻な地球環境問題だとしてパリ協定の成立に力を注ぎましたが、政権がトランプ大統領に変わると同時に離脱表明となったのです。自国の経済情勢を重視するトランプ大統領は、選挙期間中から温暖化対策は経済成長を阻害すると強く訴えてきました。一方、IT企業や金融機関、再生エネルギーや自動車産業などでは、経済を活性化させる新たなビジネスチャンスだとして擁護する動きも見られます。
 パリ協定にみられるように地球温暖化対策は、国際社会が共有する問題です。しかし、各国の国情の違いや思惑などから、異なる削減目標の設定や、アメリカのように離脱する国が出るなど懸念材料も見逃せません。

- グレタさんに世界の若者から協賛の声 -
 昨年9月に国連本部で開催された「気候行動サミット」でスピーチしたスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん(17歳)に、いま世界の注目が集まっています。
 グレタさんは15歳の時に気候変動の深刻さを知り、「未来がないのに学校に行っても意味がない」と、一人でスウェーデン議会の前でプラカードを掲げてストライキに入りました。すぐに他の学生も抗議活動に入り、一緒になって毎週金曜日に「未来のための金曜日(Fridays For Future)」という運動を始めました。ただちに地球温暖化の危機に立ち向かうための行動を起こそうと呼びかけるグレタさんの訴えに、世界中の若者から協賛の声が寄せられ、運動はSNSなどを通じて世界中に拡大していきました。19年3月には、日本を含む世界160カ国、400万人以上がFFFのデモを行い、世界の指導者など大人世代に責任を問う大きなうねりを巻き起こしました。

- 「国連気候行動サミット」で注目のスピーチ -
 グテーレス国連事務総長は、昨年の気候行動サミットで「77カ国が50年までに温室効果ガス排出量を差し引きゼロにすると約束した」と述べました。ドイツのメルケル首相は38年までに石炭の利用をゼロに、フランスやイギリスは緑の気候基金への出資額を引き上げるなど意欲を示しました。しかし、排出量の多い中国や日本、アメリカなどは77カ国に含まれていません。日本の今世紀後半の早い時期に実質ゼロという目標は、「50年までに排出ゼロ」を掲げる多くの国から見劣りします。パリ協定離脱を表明しているトランプ大統領は、サミットに参加したものの発言せずに立ち去りました。
 このように加盟国の温度差が目立ち、50年までに排出ゼロが実現できるか不安視されています。グレタさんはこうした世界の国々の取組に、「よくそんなことが言えますね」と怒りの声を上げ、スピーチで「世界各国は温室効果ガス対策の緊急性は理解しているとしながら、取り組みが不十分だ」と厳しく指摘しています。グレタさんのスピーチ全文を掲載しましたので、是非目を通してください。
今年から「パリ協定」が本格的にスタート 【グレタ・トゥーンベリさんのスピーチ全文】
 私が伝えたいことは、私たちはあなた方を見ているということです。そもそもすべてが間違っているのです。私はここにいるべきではありません。私は海の反対側で、学校に通っているべきなのです。それなのにあなた方は、私たち若者に希望を見出そうと集まっています。よく、そんなことがよく言えますね。あなた方は空疎な言葉で、私の子供時代の夢を奪い取りました。でも私は幸運な一人です。人々は苦しみ、死にかけ、生態系全体が崩壊しかけています。私たちは絶滅の淵に差し掛かっているのに、あなた方が話すのはお金のことと、永遠に経済成長というおとぎ話ばかり。よくそんなことが言えますね。
 過去30年以上にわたり、科学が示す事実は極めて明瞭でした。しかし、あなた方は事実から目を背け、必要な政策や解決策すら見当たらないのに、ここにきて「十分やっている」なんてよく言えますね。あなた方は私たちの声を聞き、緊急性を理解したといいます。しかし、どんなに悲しみと怒りを感じようと、私はそれを信じたくありません。もし、本当に状況を理解しているのに行動を起こさないならば、あなた方は邪悪そのものです。
 今後10年間で、温室効果ガスの排出量を半分にしようという考え方があります。しかし、これによって気温上昇を1.5℃以下に抑えられる可能性は50%しかなく、人類が制御できない不可逆的な連鎖反応を起こす恐れがあります。あなた方は50%で満足かもしれない。だがこの数字は、「ティッピング・ポイント(気候変動が急激に進む転換点)」や、変化が変化を呼んで温暖化を加速させる(フィードバックループ)、有害な大気汚染による温暖化、そして公平性や気候の正義といった側面はほとんど考慮されていません。この数字は、あなた方が排出した何千億トンものCO2を、私たち世代が今は存在しない技術で吸収することを当てにしています。だから、私たちは50%のリスクは決して受け入れられない。その結果として、生きていかなければならないのが私たちだからです。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最善の試算では、気温上昇を1.5℃以内に抑えられる可能性は67%とされています。これを実現するには、2018年1月1日にさかのぼって数えると、世界に残されたCO2許容量は4200億トンしかありません。しかし、19年9月現在すでに3500億トン未満にまで減少し、このまま進めばあと8年半もたたないうちに許容できるCO2の放出量を超えてしまいます。
 現在、これらの数値に沿った解決策や計画はありません。なぜなら、これらの数値はあなた方にとってあまりにも受入れ難く、そのまま伝えられるほど大人になっていないのです。あなた方は私たちを裏切っています。しかし、私たちはあなた方の裏切りに気付き始めています。すべての未来世代の目は、あなた達に向けられています。もし、あなた方が私たちを失望させる選択をすれば決して許しません。今、私たちはこの瞬間から一線を引きます。ここから逃れることは許しません。世界は目を覚まし、変化が訪れようとしています。あなた方が好むと好まざるとにかかわらず。ありがとうございました。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について