国立・国定公園内で地熱開発が可能に【科学】

国立・国定公園内で地熱開発が可能に

 環境省と経済産業省は、原則的に開発が禁止されてきた国立・国定公園内の特別地域内での地熱開発を認める方針です。しかし、「斜め掘り」によって環境への影響を抑えることを条件にしています。政府が方針転換をしたのは、東日本大震災で東京電力福島第一原子力発電所が事故を起こし、深刻なエネルギー危機に見舞われたことがあげられます。再生可能エネルギーとしての地熱発電の可能性とともに、開発と環境保護の在り方について考えてみたいと思います。

国立・国定公園内で地熱開発が可能に - 「火山列島日本」に大きな可能性 -
 日本はユーラシアプレート、北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートの4つのプレートがせめぎ合う所に位置し、その歪が崩れることで東日本大震災や霧島連山の新燃岳の噴火のように甚大な被害を及ぼします。そのため、日本は「火山列島」とも「地震列島」とも呼ばれています。
 脆弱な基盤に立地する日本ですが、地熱開発という視点で日本列島を眺めると、これほど恵まれた国はありません。エネルギー資源に恵まれない日本にとって、地熱は純国産の再生可能な貴重なエネルギー資源です。
日本列島の地下では、近海のプレートの動きによって地殻変動が起こり、そこに取り残された800~1200℃のマグマだまりが、地下数㎞から10数㎞程度の浅い所に横たわっています。地上から浸透した雨水はマグマだまりで高温に熱され、地熱貯留層と呼ばれる地熱資源となっています。地熱資源はプレートが接する地点で発生するため、日本は地震や噴火という自然災害の危険を抱える反面、地熱資源には大変恵まれているのです。

- 自然環境の保護と地熱開発 -
 しかし、残念ながらそれらを十分に生かし切れていません。現在、国内に3000万kW前後の地熱資源があると推定されていますが、その多くは国立公園や国定公園の特別地域の地下にあります。これらの地域には、「絶滅危惧種」とされる動植物が生息し、開発によって自然環境が破壊されると大変なことになります。このため、豊富な地熱資源を抱えながらも、開発が制限されてきました。
 政府の今回の措置は、原則禁止されてきた国立公園や国定公園の特別地域内の地熱開発を、環境に影響を与えない「斜め掘り」という方法に限って開発を認めるというものです。ただ、どこでも開発できるわけではなく、事前に環境省などとの協議が必要なことはいうまでもありません。現在、日本が直面している深刻なエネルギー問題に対して、自然環境の保護と地熱資源の開発という相反するテーマに対して、上手くバランスを取った施策といえます。
国立・国定公園内で地熱開発が可能に - 18か所の地熱発電所で、約54万kW -
 現在、日本には事業用12発電所、自家用6発電所の計18の発電所が稼働し、その総発電量は約54万kWです。これは世界で6番目の発電量になりますが、原子力発電所の半基分ほどで、総発電量に占める割合は1%未満に過ぎません。このように、地熱発電が日本のエネルギー需要にもたらす貢献度は低いものでした。
 その理由として、すでに紹介した自然環境保護という問題の他、温泉への影響を心配する観光業者の反対、また地熱を掘り出すコストの問題や、掘れば確実に地熱資源を得られるという保証がないことなどが原因となっていました。
 このため、政府は民間企業が安心して地熱資源の開発に取り組めるように、新年度予算に開発補助金を組み込んでいます。また、今年夏からは、地熱や太陽光、風力など自然エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取る「固定価格買い取り制度」をスタートさせるなど、開発事業者の支援に取り組んでいます。

- 地熱発電の仕組み -
 地熱発電とは、地中深くに横たわる地熱貯留層に向けて生産井と呼ばれる井戸を掘り、地上に噴き上げられる蒸気を利用してタービンを回して電気を作ります。現在一番深い井戸は、北海道の森地熱発電所で3250m、逆に浅い井戸は岩手県の葛根田地熱発電所や宮城県の鬼首地熱発電所の350mで、この深さまで井戸を掘って地下資源である温水や蒸気を取り出しています。
 地熱発電は、噴き上げられる温水や蒸気の利用の仕方によって、フラッシュサイクル方式とバイナリーサイクル方式に分類されています。地下から勢いよく噴き出す蒸気でタービンを回して発電するのがフラッシュサイクル方式で、温水が混じる場合は分離器で蒸気のみを取りだして使用します。日本の地熱発電所のほとんどがこの方式で発電しています。一方、バイナリーサイクル方式は、温度の低い熱水(120℃~200℃)でも、熱水のエネルギーをアンモニアやペンタンなど水よりも低沸点の媒体に伝え、高圧の蒸気を作ってタービンを回して発電できるため、利用範囲が広がると期待されています。
 地熱発電はCO2をほとんど出さないクリーンな純国産エネルギーです。今後、地熱発電がどのように推移していくか注目したいものです。
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