月面探査と有人火星飛行計画を追う【科学】

月面探査と有人火星飛行計画を追う


【人類が月基地から火星に旅立つ日】
 月の基地を中継して有人飛行船を火星に飛ばす宇宙プロジェクトが国際協力によって動き出しました。米航空宇宙局(NASA)は月を回る軌道上に宇宙ステーションを作り、2030年代に有人宇宙船を火星に着陸させる計画です。日本の航空宇宙研究開発機構(JAXA)はこの計画に参画し、無人探査機による独自の月面資源探査に乗り出します。一方、宇宙ベンチャーのアイスペース(東京)が21年半ばに、独自に開発した無人探査機を月面に着陸させる計画で、世界初の民間による月面着陸として期待が集まっています。月基地建設、月面資源調査から有人火星探査へと、人類の新たなフロンティアが始まりました。

月面探査と有人火星飛行計画を追う - 米国の探査機インサイトが火星内部を調査 -
 1969年7月21日、米国のアポロ11号が月面の「静かの海」に着陸しました。人類史上初めて月に降り立ったアームストロング船長の、「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大いなる飛躍だ」という言葉はあまりにも有名です。
それから半世紀。人類初の火星着陸を目指すアメリカは、昨年5月NASAが新しい火星探査機「インサイト」を打ち上げ、6カ月半をかけて約4億3300万kmを飛行して11月27日無事火星に着陸しました。
 「インサイト」には地震計や熱流測定装置、火星の自転と内部構造を調べる装置などが搭載されました。火星内部の液体(水)の有無や物性組成の調査をはじめ、過去に起こった隕石の衝突、火山噴火の痕跡なども調べます。火星の地下を調べて火星の進化を研究する試みは初めてで、「インサイト」による火星探査は2020年11月までの約2年間にわたって行われます。

- NASA、22年に月の周回軌道に基地建設 -
 米国は2030年代に、月基地を中継拠点にした有人宇宙船による火星探査の実現を目指しています。このためNASAは、地球の周回軌道にある現在の国際宇宙ステーション(ISS)に続く宇宙基地を、22年にも月の周回軌道上に建設する予定で各国に協力を呼び掛けています。
 有人火星飛行を視野に置いたNASAの月基地構想は、「月軌道プラットホームゲートウエイ」と呼ばれ、有人火星飛行の〝足場〟ともなります。
 この基地は月を南北方向に回る「NRHO」という極軌道に設置する案が最有力です。この軌道は常に地球と交信でき、月の上空約2000~6万8000kmを7日間で一周するといわれます。
月面探査と有人火星飛行計画を追う - 2030年代に火星に向かう有人飛行船を係留 -
 月基地は有人火星飛行の準備や技術の蓄積の場としても重要です。30年代には火星に向かう有人宇宙船「深宇宙輸送機」を係留し、技術の習得とともに本格運用時には数百日にわたる宇宙飛行士の長期滞在訓練などを行う拠点ともなります。
 また月基地では月面を探査する着陸船が係留され、探査の際に飛行士が乗り込んで月面に向かう中継基地としての役割も果たします。
 基地の周りには様々な観測機器が設置され、月面や火星から持ち帰った物質の選別や初期分析を行う研究拠点としての役割を担います。

- 火星の極地域の地下に氷の存在を確認 -
 米国の探査機「インサイト」が昨年11月に火星に着陸しましたが、2012年8月に火星に到着した探査機「キュリオシティ」以来のことです。
 火星探査は、1960年代に旧ソ連が進めた火星無人探査プログラム「マルス計画」が始まりです。1971年にソ連のマルス3号が最初に火星軟着陸に成功し、75年には米国のバイキング探査機が火星で生命の探査を行いましたが、生命の痕跡に繋がる証拠は発見されませんでした。
 2003年に欧州で初めての火星探査機「マーズ・エクスプレス」が打ち上げられ、2007年に米国が打ち上げた探査機「フェニックス」が火星の極地域を掘削して、地表下に氷の存在を確認しました。
 現在、米国NASAの「キュリオシティ」に搭載された重さ1トン近い大型のローバー(探査車)による火星探査が行われており、その成果が注目されます。

- JAXAが24年に火星探査機打ち上げ -
 NASAに続いてアラブ首長国連合(UAE)が火星探査機「アル・アマル」を20年に打ち上げる予定で、三菱重工業が製造した国産ロケット「H2A」が火星に運びます。
 また中国は今後2回にわたって火星探査を計画しています。1回目は2020年7月に探査機を打ち上げ、約10カ月の飛行後、火星の表面に着陸させる予定です。2回目は28年ごろに実施し、地球に火星の土壌サンプルを持ち帰る計画です。
 2013年に火星探査に初挑戦して成功を収めたインドも、その後継機を20年ごろに打ち上げる計画です。
 一方、日本のJAXAでは、フランス国立宇宙研究センターと協力して、火星の衛星「フォボス」を探査し、その岩石を地球に持ち帰る火星衛星探査計画「MMX」が進行中です。
 24年に火星衛星探査機を打ち上げ、1年後に火星の周回軌道に入って衛星の観測や表面に着陸してサンプル収集を行います。観測とサンプル収集後、29年ごろに地球に帰還する予定です。
月面探査と有人火星飛行計画を追う - 30年頃JAXAは月面に飛行士を送り込む -
 有人火星飛行の前段ともいえる月面探査ですが、JAXAは日本初の有人月面探査機を開発して2030年頃に月面着陸を目指しています。
 JAXAの構想によると、月面への有人着陸機は米国のロケットで打ち上げる予定です。着陸機は4本脚のテーブル状で、欧州宇宙機構(ESA)が開発する離陸船を上部に連結します。
 そして、米国が22年にも建設を開始する月軌道を周回する基地に係留し、飛行士4人が船内に乗り移って月面に軟着陸する計画です。
 月面ではカナダの探査車に乗って2日ほど滞在して探査を行い、帰還時には着陸機を月に残して離陸船だけが上昇して基地に戻ります。
 月の軌道を周回する月基地の出発から帰還まで4〜5日の期間で、年に1回、計5機程度の着陸を見込んでいます。
 JAXAの月面着陸機は、各国の宇宙機関による国際宇宙探査協働グループが作成した宇宙探査の工程表に盛り込まれており、宇宙探査国際プロジェクトの一環です。

- スペースXが23年に世界初の月旅行計画 -
 一方、民間ベースでの宇宙開発も活発です。60回ものロケット打ち上げ実績を持つ米国の宇宙ベンチャー、スペースXが昨年9月、同社が開発中の新型巨大ロケット「BFR」を使って2023年に世界初の月旅行を実施すると発表して話題を集めました。
 この月旅行には、日本のファッション通販サイトを運営する「ZOZO」の前澤友作社長が、画家や写真家、建築家など様々な分野のアーチストとともに参加し、「月旅行で生み出された作品を人類の財産として後世に残したい」と語って話題を集めました。
 スペースXは将来火星移住を目指していますが、開発中の「BFR」は直径9m、全長100mを超え、最大100人もしくは100トンの物資を打ち上げることができる、史上空前の規模のロケットです。

- 日本のベンチャーが21年に月面着陸目指す -
 日本でも宇宙ベンチャーのアイスペース(東京)が昨年9月、独自に開発した無人探査機を米スペースXのロケットで打ち上げる月探査計画「HAKUTO|R」を発表して注目されました。
 まず2020年半ばに第1回目の打ち上げを行い、月の軌道を周回させて技術的な課題を確認します。さらに21年半ばに第2回目を打ち上げて民間初の月面着陸を実現し、月を生活圏とするための探査を行う予定です。
 月には極地に氷が広範囲に分布していることがNASAの調査で確認されています。もし月面に十分な量の氷が存在すれば、将来的に月面探査、滞在のための資源として利用できることから、今後の月面探査に期待が膨らみます。
月面探査と有人火星飛行計画を追う 【火星に生物は生存するか】

- かつて火星に川が流れていたことを実証 -
 火星は太陽に近い方から4番目の惑星で、地球からの距離は約7500万㎞、宇宙船でざっと半年の距離です。大きさは地球の約半分で重力は地球の3分の1ほどです。地軸が約25度傾いているため四季の変化があり、1日の長さは24時間39分と地球とほぼ同じです。
 38億年前の火星は、地球のように厚い大気で覆われ、表面に液体の水(海)が存在していましたが、NASAの火星探査によって、今は火星の地下に蓄えられている可能性が高いということが分かってきました。
 火星の大気の90%以上が二酸化炭素で酸素は0・1%もありません。しかも大気が薄いので太陽からの熱を保つことができず、平均気温はマイナス43℃、平均表面温度はマイナス63℃。最低気温はマイナス140℃、最高気温はプラス20℃まで昇り、火星は寒暖の差が激しい過酷な環境といえます。
 2012年8月に着陸したNASAの火星探査機「キュリオシティ」は今も探査中ですが、川の流れでできる礫岩の地層などを発見し、火星に川が存在していたことを実証しました。また、昨年11月に着陸した「インサイト」が地震計や熱量測定装置を用いて火星の内部構造を探査しています。
 人類はこれまで多くの火星探査機を打ち上げてきましたが、火星探査の主目的は火星上の生命探しでした。太古の火星は穏やかな海に覆われ、生命が生まれやすい環境だったことが突き止められています。
 質量の小さな惑星である火星は、地球に比べてより早く進化した惑星ともいわれます。先端技術を駆使した火星探査によって、その歴史を解明するだけでなく、地球の将来を知る上でも火星の有人探査は科学的に重要なミッションといえるでしょう。

【月旅行への期待】

- 宇宙ベンチャーが相次ぎ月面探査を目指す -
 2023年に世界初の月旅行を実施する米宇宙ベンチャーのスペースXと契約した「ZOZO」の前澤友作社長が、日本人として初めて月へ旅立ちます。6日間の日程で地球を出発し月の周囲を回って地球に戻ります。
 費用は明らかにされていませんが、米国の旅行会社によると1人1億ドル(約112億円)かかるともいわれます。米国のスペースXが有人火星飛行を目指して開発中の大型ロケット「BFR」に搭乗する予定です。そのスペースXは、年内にもNASAからの依頼で、宇宙飛行士を国際宇宙ステーション(ISS)に運ぶ業務を始めるといわれます。
 月は地球から約38万km。月面や月を巡る軌道には、アメリカのNASAが1961年から実施したアポロ計画で、計6回の有人月面着陸に成功しました。アポロ計画が終了した72年を最後に人類は月に行っていません。
 月は有人火星飛行の中継拠点となることから、月の資源開発、中でも水の探査に力を入れてきました。これまでの調査で月の南極や北極に水が存在する可能性が高く、実際に月に着陸して確認する必要があります。
 日本の宇宙ベンチャー、アイスペースが米国のスペースXのロケットに自社開発の月着陸船を乗せて2033年半ばに月面着陸を計画しています。最終的には月面を地球のように、人類の生活圏にしようという大規模な基地建設を目指しています。
 このほかアメリカ、ドイツ、イスラエル、インドの宇宙ベンチャーが、民間による月面探査の実現を目指しています。
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