文字はどうして生まれた?【歴史】

文字はどうして生まれた?


【文字の誕生と進化の歴史を探る】
 私たちが日常読み書きする文字。漢字や仮名文字、アルファベットだけでなくア
ラビア文字やハングル文字、キリル文字(ロシア文字)など世界には実に様々な形の文字があります。人類はいつ、何のために文字を発明したのでしょうか。文明を記録し、歴史を刻んできた文字はどのように変化し、進化を遂げてきたのでしょうか。人類ならではの貴重な遺産である文字について考えてみましょう。

文字はどうして生まれた? - 最古の楔形文字は3000年間使用された -
 世界最古の文字はBC3500年頃にメソポタミアのシュメール人が発明した楔形文字で、粘土板に彫って農作物や家畜の数を記録する勘定道具として誕生したといわれます。楔形文字はメソポタミア文明を支える文字となり3000年以上にわたって使用されました。
 BC3000年頃にエジプトで、ヒエログリフと呼ばれる人・鳥・獣などを絵として表した象形文字、神殿・墓・ピラミッドなどに使用された聖刻文字が誕生しました。
 さらにBC1500年頃、中国の殷王朝後期に漢字の源流となる象形文字の甲骨文字が生まれました。甲骨文字は祭政一致の神権政治の亀ト占いから考案されたといわれます。
 文字誕生のルーツは大きくメソポタミア、エジプト、中国の三つが考えられますが、このほかにBC2600年頃にインダス文字が誕生し、そこからも多くの文字が派生しました。ただインダス文字は未解読のため詳細は分かっていません。
文字はどうして生まれた? - ヘレニズム文化と共にアラム文字が東方へ -
 シュメールの楔形文字は、その後BC7世紀にオリエントを統一したアッシリア帝国の下で衰退し、BC1000年前後にアラビア半島から現れてユーフラテス川上流からシリア地域に定住して交易していた、アラム人のアラム文字にとって代わられました。 アラム文字はアッシリア、新バビロニア、アケメネス朝ペルシアなどの帝国内で国際共通語としての地位を確立し、エジプトからアフガニスタン・中央アジア、インドまで広範囲に普及しました。 その後BC4世紀のアレクサンドロス大王の東方遠征によって、アラム文字はギリシャ文化とオリエント文化が融合したヘレニズム文化と共にさらに東方に広がっていきました。そこで多くの文字を派生し、突厥文字、ソグド文字、ウィグル文字、モンゴル文字、満州文字などにつながっていきました。

- 多くの文字体系を派生したフェニキア文字 -
 一方BC15世紀頃にフェニキア人が、イタリア、ギリシャ、トルコなどの地中海沿岸部に都市国家を形成し始めます。フェニキア人は世界最初の貿易の民とも言われ、商売上の必要からフェニキア文字を発明しました。 フェニキア文字は右から横書きの単子音文字で、アラム文字、ヘブライ文字、アラビア文字などが派生していきました。 後にギリシャ人が単母音文字を追加してフェニキア文字を発展させ、さらに左から横書きにして現在のアルファベットの原型が生まれました。そして、ローマ人がギリシャ文字をベースにしてラテン文字を発明しました。 その後アルファベットはBC3世紀にG、同1世紀にZとYが加わり、11世紀に英語やドイツ語などのゲルマン系言語に対応するためW、14世紀にUとJが追加されて現在の26文字になりました。 フェニキアの商人によってヨーロッパと中東をまたいで広がったフェニキア文字は、現在に
至る多くの文字体系を派生していきました。

- ギリシャ文字からラテン文字とキリル文字 -
 文字の誕生から5000年以上が経ちますが、その間文字は絶えず進化を繰り返してきました。フェニキア文字を起源とするアルファベット( ラテン文字)はギリシャ文字を経由して進化し、西ヨーロッパのドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、英語の表記に用いられました。 また東ヨーロッパでは、ポーランド語、クロアチア語、ハンガリー語、チェコ語、スロヴェニア語などに広がっていきました。 同じくギリシャ文字を経由して900年前後にスラヴ語派のキリル文字(ロシア文字)が生まれ、現在のロシア語、ウクライナ語、ブルガリア語、セルビア語、カザフ語などで用いられています。 キリル文字はギリシャ正教を広めるために、ブルガリアの僧侶のキリルとメトディウスの兄弟がギリシア文字を元にして作ったと伝えられています。
文字はどうして生まれた? - 4大文明から生まれた文字が現在に連なる -
  世界4大文明を出発点とした文字は、実に多彩な文字体系を生み出してきました。メソポタミアやエジプト文明から生まれた楔形文字やヒエログリフは、複雑な混交を経てアルファベットやアラビア文字、インド系文字へ連なる多様な文字系統を形成していきました。 中国の黄河文明が残した甲骨文字からは漢字や仮名をはじめ、契丹、女真、西夏といった歴史上の文字が生まれました。 現在世界で用いられている文字は、ヨーロッパ大陸ではラテン文字、キリル文字、ギリシャ文 字の三つの文字体系に分けられます。コーカサス地方にはグルジア文字とアルメニア文字があり、中東とアフリカ大陸の北半分はアラビア文字圏となっています。 しかし、中央アジア、南アジア、東南アジア、東アジアに連なるユーラシア大陸のアジア地域は、国境が変われば文字が変わり、一つ国の中でも多数の文字が共存する多様な文字社会を形成しています。

- アジアで約14億人のインド系文字文化圏 -
 南アジアから東南アジアに広がる多彩な文字はインド系文字から派生したもので、その源流はB C3世紀にインドのアショーカ王碑文に刻まれたブラーフミー文字といわれます。 インダス文字からブラーフミー文字の登場まで南アジアにおける文字の歴史に約1000年の空白があるため、ブラーフミー文字の起源については、インダス文字を起源とする説やアラム文字の変種から派生したとする説、あるいはインドで独自に考案されたとする説など諸説があります。 インド系文字は、サンスクリット語、ヒンディー語、ネパール語などに用いられるデーヴァナーガリー文字をはじめ、ベンガル文字、タミル文字、タイ文字、チベット文字、ビルマ文字、クメール文字、ラオ文字など実に多彩な文字を派生して使用されています。現在南アジア、東南アジアで約14億人のインド系文字文化圏を形成しています。

- 秦の始皇帝が字体を統一して篆書体を生む -
 人類史上最も文字数が多い文字体系である漢字は、1994年の『中華字海』には8万5 5 6 8 字が収録されています。 漢字の起源とされるのが、殷(BC 17 世紀|BC1046年)の時代に占いの結果を書き込むために使用された甲骨文字です。 甲骨文字を引き継いで漢字の祖形を示しているのが殷・周時代を中心にした金文(きんぶん)です。金文というのは青銅器に鋳込んだり刻み込んだりした文字のことです。  B C 2 2 1 年に中国を統一した秦の始皇帝が、字体を統一して生まれたのが小篆(しょうてん)とよばれる書体です。漢字の書体は金文から篆書体(てんしょたい)、隷書体(れいしょたい)を経て後漢(1〜2世紀)の時代に現在の漢字の標準体である楷書体(かいしょたい)が生まれました。 また隷書や楷書をより簡略化した草書や行書も生まれました。表意文字の漢字は、発音が違っても理解できます。そのため、異なった言語を話す多民族国家である中国が、大帝国を築くことができた理由の一つは漢字だといわれます。

- 日本語は表意・表音の漢字仮名交り文字表記 -
 漢字は450年頃日本に伝わりました。日本語を漢字の音を借りて記す方法が8世紀後半に編纂された万葉集で用いられ、万葉仮名と呼ばれます。 900年頃の平安時代に万葉仮名をもとに漢字(草書体)全体を簡略化して「ひらがな」が誕生し、日記や私的な書簡、和歌、物語などに多く使用されました。 一方の「カタカナ」は、ひらがなよりも少し早い9世紀に、漢文を読むときの補助記号として、漢字(楷書)の一部を使って生まれました。現在の日本語は、表意文字の漢字と表音文字のひらがな、カタカナの漢字仮名交り文字で表記しています。 朝鮮半島ではかつて日本と同じように漢字と表音文字の朝鮮文字(ハングル)が混ざった表記をしていましたが、戦後韓国、北朝鮮共に国策で漢字が事実上使用禁止となってほぼ全面的にハングル表記となっています。 かつて漢字圏だったヴェトナムも戦後漢字からアルファベット表記に移行しています。

「表意文字と表音文字」
 世界の文字情報をWeb上で公開している中西印刷の「世界の文字」LODによりますと、現在世界で使われている文字は28種類、過去に存在が確認された歴史的文字が97種類記録されています。 一般に文字は、表意文字と表音文字に分かれます。表意文字は絵文字から発達した漢字や象形文字などのように、一つひとつの字が意味を表す機能を持つ文字です。 シュメールの楔形文字やエジプトのヒエログリフ、中国の漢字などは表意文字で、1字が1語を表すことが多いので、表語文字や単語文字とも呼ばれます。 これに対して表音文字は、一つひとつの字には意味をもたず、音のみを表す文字です。表音文字はひとつの文字でひとつの音素を表す音素文字と、一つひとつの文字が発音のまとまりである音節を表す音節文字とがあります。例えば日本語の「学校」は仮名で示すと「がっ」と「こー」の2音節になります。 音素文字の典型はアルファベットです。現在ではローマ字、ラテン文字、アラビア文字などがそうです。一方の音節文字は、日本語のひらがな(カタカナ)が代表的で、梵字(古代サンスクリット文字の表記)などが当てはまります。

「文字と言語」言葉を記録し伝える文字が文明を築く
 読み書きする文字に対して、私たちが会話する言葉は世界にどれだけあるのでしょうか。言語の百科事典といわれる「Ethnologue」第15版には、世界6912の言語が収録されています。ユネスコでは毎年2月21日を国際母国語記念日としていますが、1999年のユネスコ決議文でも、「地球上で話されている6000余りの母国語を称えるために」と記しています。ただ、話す人が少なくなって多くの言語が消滅しつつあります。ユネスコが2009年2月に発表した報告書では、1950年以後に219の言語が消滅し、現在世界で2500の言語が消滅の危機にあるといいます。少人数しか通じない言葉よりも、多くの人とコミュニケーションがとれる言葉の方が便利なため、話す人が少ない言葉は淘汰されていきます。消滅の危機にある言語の多くは記録されない言語、つまり文字を持たない言語です。文字は言葉を記録する記号です。記録を残し情報を伝えるための文字は、「話し言葉」ではない「書き言葉」という言語を生み出し、論理的思考能力を向上させました。それは学問を発展させ、さまざまな技術を伝え、交易を拡大していきました。また体系だった宗教や思想を形成し、教典や法典を編纂し、こうした文書が巨大なコミュニティを形成し、国家を運営するツールとなりました。文字は豊かな文明社会を構築し、人類の知的生産活動を断続的に発展させ、文明の遺伝子を後世に伝えるメディアの役割を果たしてきたといえます。
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