医学の進歩で多くの「感染症」を克服【医療】

医学の進歩で多くの「感染症」を克服


- 日本の感染症との闘いの歴史 - 
 医学の進歩の歴史は、感染症との闘いの歴史といっても過言ではありません。感染症とは、寄生虫、細菌、カビなどの有害真菌、ウイルス、異常プリオンなどの病原体が、寄生する相手(宿主)を通して次々と感染させていく恐ろしい病気のことです。
 日本では感染症の拡大を防止するため、1897年(明治30年)に伝染病予防法を施行し、伝染性が高く生命に危険を及ぼす恐れのある11の伝染病を法定伝染病として指定しました。伝染病の感染者は強制隔離され、感染地帯への交通遮断、集会の禁止、強制消毒などの措置が取られました。
 しかし、内容が時代の変化に伴わないことや新しい感染症の出現などで、1999年(平成11年)に伝染病予防法は廃止されました。変わって施行された「感染症予防・医療法」では、感染を拡大する病気として感染症を広義にとらえ、1~5類感染症、指定感染症に分類することになりました。呼び方も、伝染病から感染症と呼ばれるようになりました。

医学の進歩で多くの「感染症」を克服 - 感染症の原因は「細菌」と「ウイルス」 - 
 1897年に制定された伝染病予防法では、痘瘡、コレラ、腸チフス、赤痢、ジフテリア、発疹チフス、猩紅(しょうこう)熱、ペストの8種が対象疾患になりました。以降、1922年(大正11年)の改定で、パラチフスと流行性脳脊髄膜炎が加えられ、1954年(昭和29年)の改定では日本脳炎が加わり、法定伝染病は11種になりました。これらの感染症の原因を調べると、撲滅宣言された痘瘡と日本脳炎はウイルスが原因ですが、これ以外は細菌による感染です。
 細菌による感染症が多いようですが、近年、大流行したという報告はなく、沈静化してきています。これは、研究者の長年にわたる研究の結果、各感染症の細菌を攻撃できる薬の開発によるものです。1928年に、アオカビから発見されたペニシリンに代表される抗生物質が、細菌に効果を発揮するようになったからです。一方、ウイルスに有効に働く薬はまだ見つかっていないのが実情です。
医学の進歩で多くの「感染症」を克服 - 「細菌」と「ウイルス」はどう違う? - 
 細菌もウイルスも人に感染して疾病の恐怖に陥れるため、「細菌」と「ウイルス」を同じように考えている人がいるようです。しかし、表にあるように細菌とウイルスはまったく異なります。
<細菌>
 細菌は「ばい菌」と呼ばれるように、自分で細胞を持つ微生物で、動物や植物の細胞とほぼ同じ構造をしています。このため、栄養・温度・湿度などの条件がそろえば、人間の体内だけでなく食品などの中でも増え続けることができます。
 人間の体内に入ると、細胞に取り付きます。細胞に取り付いた細菌は、細胞から栄養を吸い取る一方、毒素を出して細胞を壊していきます。栄養を吸収した細菌は、分裂を繰り返し仲間を増やし続けます。増え続ける細菌は、他の人にも感染して大流行を引き起こすのです。食品などに取り付けば、食品の中で毒素を作り、その毒素が食べた人間の体内に入り、おう吐や下痢などの食中毒を起こさせたりします。
 ほとんどの細菌の大きさは、1~5μmの範囲にあり、形状は円形、楕円形、長方形、らせん形などさまざまです。1μmは1mmの1000分の1の大きさですので、学校などに設置されている光学顕微鏡で観察することが可能です。
<ウイルス>
 ウイルスのほとんどは、20~300nmの範囲にあり、形状は細菌と同様、球状、繊維状、砲丸状などさまざまです。1nmは1μmの1000分の1と非常に小さいため、電子顕微鏡でないと見ることができません。
 ウイルスは、自分で細胞を持っていないため、他の生き物の生きた細胞に入り込まないと生きていけません。このため、食品の中などでは増えることが不可能です。人間など生物の身体に入ったウイルスは、細胞の中に入り込み、細胞の中で自分のコピーを作っていきます。大量にコピーされたウイルスで細胞は死滅し、他の細胞に入り込み増えていきます。この途中で、ウイルスは遺伝情報を変化させることがあり、まったく新しいウイルスが出現します。これをウイルスの変異と呼び、大変恐れられています。

- 細菌には抗生物質の投与で対抗 - 
 細菌が原因の感染症には、細菌の増殖を防ぎ、攻撃できる抗生物質の開発で感染の拡大を食い止めることが可能になりました。抗生物質とは、微生物によって作られる抗菌剤で、これによって他の微生物の増殖を抑制するというものです。1929年にイギリスのアレクサンダー・フレミングによって、世界で初めてアオカビから抗生物質「ペニシリン」が開発されたことはよく知られています。その後、各種抗生物質が開発され、細菌による感染防止に大きく貢献し、人間の平均寿命を大幅に伸ばすことになりました。
 ところが近年、抗生物質が効かない薬剤耐性菌が問題になっています。その一つとしてMRSAがあげられます。MRSAとは、メチシリンという抗生物質が効かない黄色ブドウ球菌のことです。この細菌はありふれた菌で、健康な人は心配するほどのものではありません。しかし、入院患者などの中には、抗生物質の投与でこれまでMRSAを抑える働きをしていた別の細菌が抑制され、MRSAが繁殖して消化器や呼吸器などに重大な影響を及ぼします。入院患者などに多く見られることから「院内感染症」とも呼ばれています。原因として、抗生物質の乱用が指摘されています。

- 「ウイルス」に有効な対策は免疫力? - 
 他方、ウイルスは細胞を持っていないため、細胞を攻撃する抗生物質では役に立ちません。このため、人間が本来備えている「病気と闘う力=免疫」を利用してウイルスに立ち向かってきました。
 ウイルスが身体に入ると、それを察知した人間の脳は闘い始めるように指令を出します。まず、咳やくしゃみでウイルスを体外に出そうとします。鼻水を出してウイルスを排出するとともに、傷ついた鼻の粘膜を補修します。さらに、熱に弱いウイルスの特性を利用して、体温を40度近くにまで上昇させてウイルスの死滅を企てます。
 こうした体の働きを免疫といい、ウイルスを撃退する過程でウイルスの形を記憶していきます。免疫ができると、次に同じウイルスが入ってきても瞬時のこれを認識し、攻撃を開始して身体が異常を感じる前に撃退してしまうのです。
 こうした仕組みを利用して作られたのが「ワクチン」です。あらかじめ、流行が予想されるウイルスに対し、ウイルスを弱めたものを人間に投与し、人間の免疫システムに覚えさせておくのです。
医学の進歩で多くの「感染症」を克服 - 「変異」して生まれる新型ウイルスが脅威 - 
 現在、小康を保っていますが「鳥インフルエンザ」の大流行が心配されています。一般に、鳥インフルエンザウイルスは、野生のカモなどの水禽類に自生し、腸管内で増殖していきます。この間、病原性を発揮することはなく、弱毒性インフルエンザとも呼ばれます。鶏やうずらなど家禽類が感染することで、病原性を拡大させていきますが、死に至ることは殆どありません。ところが、感染の過程で遺伝子の変異が起こり、鳥類の大量死亡など、非常に高い病原性を示すものがあり、これを「高病原性鳥インフルエンザ」と呼び、世界中から恐れられています。
 もし、鳥インフルエンザが変異して新型ウイルスが生まれ、これが人間に感染すると、誰も免疫を持っていないため大流行する可能性があります。交通網の整備などで世界が狭くなった今日、あっという間に「パンデミック」と呼ばれる世界的大流行に拡大することが心配されています。
 実際、1918年に起こった「スペイン風邪」は、鳥インフルエンザが変異したもので、世界中で4千万人以上が亡くなり、日本でも約39万人の人が命を奪われました。新型インフルエンザウイルスによるパンデミックは、10~40年おきに発生しているのです。
 対策としてワクチンの投与が考えられますが、変異した新型ウイルスの形が分からないため、ワクチンを作ることは不可能です。このため、通常のインフルエンザ対策と同様、ウイルスを体内に入れないように外出後の手洗いやうがい、人混みを避けるなどの予防が必要になります。また、バランスの良い食事の摂取も重要です。

- SARSも変異したコロナウイルスが原因 - 
 サーズ(SARS=重症急性呼吸器症候群)も、世界中を感染の恐怖に陥れました。SARSの症状は、インフルエンザのような症状を示しますが、抗生物質を投与しても改善せず、そのうち急性肺炎を起こし、高い確率で死亡に至ります。
 中国南部の広東省を中心に2002年頃から発生していましたが、国内事情について秘密の多い中国では、SARSの発生をWHOに報告せず、感染を世界的規模に拡大させてしまいました。SARSの原因を、「コロナウイルス」が変異したものであることを突き止めたのが香港大学の研究チームです。
 コロナウイルスは、太陽の回りのコロナと形状が似ていることから名付けられました。それ自体の毒性は弱く、大人になるまでに一度は感染し、風邪に似た症状を起こします。この弱いウイルスがなぜか突然変異し、2002年から2003年の2年間で8000人以上が感染し、死者は800人近くに達しました。
 原因については、中国国内のハクビシンというジャコウネコ科の動物に人間のコロナウイルスが感染し、ハクビシンの体内で変異したものが再び人間に感染したのではないかとみられています。

- 「エイズ(AIDS)」も人間の強敵に - 
 人間が苦戦を強いられているウイルスとして、エイズ(AIDS後天性免疫不全症候群)ウイルスもあげられます。
 エイズは、その原因となる「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)」が免疫細胞に入り込み、絶えず変異を繰り返しながら免疫細胞を破壊していきます。
 不幸にして生まれつき免疫のない人を「先天性免疫不全症候群」と呼んでいるのに対し、エイズは後天性免疫不全症候群といわれるように成長過程で、あるいは成長してからエイズに感染することです。エイズそれ自体は、何か一つの病気ではありません。エイズウイルスに感染することで免疫機能が破壊されているため、さまざまな細菌やウイルスの増殖を防ぐことができません。その結果、悪性腫瘍や急性肺炎などを引き起こし、非常に高い確率で死に至る恐ろしい病気です。
 エイズウイルスの起源は、アフリカのカメルーン地域という説が有力になっています。現在の感染者はアフリカやアジアを中心に、全世界で5000万人にも達するといわれています。日本では、1985年に初めてエイズ患者が確認されました。このため、1989年に「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」を施行するなど各種対策が取られています。エイズウイルスは感染者が使った注射針や性行為で感染し、それ以外では簡単に感染しないといわれています。
医学の進歩で多くの「感染症」を克服 - 「ウイルス」や「細菌」との限りない戦い - 
 ウイルスが原因とされる感染症は、他にも沢山あります。なかには、紹介したように感染の過程で変異し、過去の経験が生かせない新型ウイルスが現れて人類を恐怖に落とし込んでいます。今後も新しいウイルスの出現が心配、ワクチンの開発など有効な予防策が待たれます。
 細菌との戦いでは、抗生物質の発見で一段落したかに見えますが、耐性を持った細菌の出現や抗生物質の乱用による思わぬ疾病の出現など、克服すべき課題は残されています。
 これまで人類は、困難な疾病に立ち向かい、克服してきた歴史を持っています。現在、私たちを蝕んでいる疾病に対しても、人間の限りない英知で必ず解決していくでしょう。その日が一日も早いことを願うばかりです。
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