学びたい人を支える「奨学金制度」【財政】

学びたい人を支える「奨学金制度」


【自己破産につながる、奨学金の延滞問題】
 大学の授業料は1989年以降、国立大学、私立大学ともにおよそ1.5倍にまで増えています。その一方、景気の悪化により親が子どもにかけられる費用は減ってきています。その結果、今では学生の約4割が奨学金を利用するようになりました。奨学金利用者が増えるにつれて、奨学金の延滞が問題視されるようになってきています。なかには、奨学金の返還が理由で自己破産する人も出ており、各種報道で社会問題として大きく取り上げられています。

学びたい人を支える「奨学金制度」 - 奨学金の実施団体とその種類 -
 奨学金を運営する団体には、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)や大学などの教育機関、地方公共団体、民間が運営する公益財団法人などがあります。JASSOの調査によると、2013年度段階で奨学金制度を設けているのは、大学等の教育機関で1363校、地方公共団体で829団体、公益財団法人などで549団体あり、これらの機関・団体が奨学金を運営しています。
 奨学金には、お金を返す必要のない「給付型」と、卒業後に返す必要がある「貸与型」の2つがあり、「貸与型」には利息が付くものと付かないものがあります。奨学金を受け取る基準は、基本的に貸与型(利息有り)、貸与型(利息無し)、給付型の順に厳しくなっています。大学などの教育機関には「給付型」が多く、JASSOや地方公共団体には「貸与型」が多いのが特徴です。公益財団法人については、「給付型」「貸与型」ともに同じぐらいの割合となっています。
学びたい人を支える「奨学金制度」 - 日本最大の奨学金実施団体JASSO -
 奨学金を運営する機関・団体で、最大のものがJASSOです。2016年度に、JASSOの奨学金を利用した学生は約131万人で、貸与総額は約1兆465億円に達しています。131万人というのは、日本の高等教育機関に通う学生のおよそ38%に該当し、2.7人に1人が利用したことになります。また、貸与額1兆465億円というのは、日本の奨学金事業の総額のおよそ90%にあたります。
 JASSOの奨学金事業は、日本国憲法第26条第1項が定める「教育の機会均等」の理念に基づいて、能力のある若者が経済的理由により、高等教育機関への進学を諦めないように支援する国の事業です。
 この事業は1944年4月29日に、昭和天皇から下賜された金100万円の御内幣金を資金として始まりました。このとき奨学金事業を運営したのが、43年10月に設立した大日本育英会です。その後、53年8月に大日本育英会は、名称を日本育英会に変更しました。そして2004年4月に、日本育英会と日本国際教育協会、内外学生センター、国際学友会、関西国際学友会が合併して、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が誕生し、奨学金事業を引き継ぎました。
学びたい人を支える「奨学金制度」 - 約866億円にものぼる奨学金の延滞 -
 JASSOへの奨学金返還が開始された2004年度末の段階で約185万人だった奨学金返還者は、その後増加の一途をたどり、16年度末の段階では倍以上となる約410万人となりました。これにともない、総貸与残高と返還を要する債権額も増えていき、総貸与残高は約9.1兆円に、債権額は約6.8兆円にまでふくれあがっています。
 この債権額のうち、返還期限猶予などの手続きをしないまま延滞している人たちの延滞額は約866億円にのぼります。奨学金を借りた学生が卒業後に返還するお金は、次世代の学生に貸与する奨学金の原資になります。この奨学金の運転資金ともいえるお金の返還が一部滞っているのです。

- 減少傾向にある奨学金返還延滞者 -
 奨学金返還の延滞は、一部の報道機関などで大きく取り上げられていることもあり、年々増加傾向にあるように受け止められがちです。
 しかし、1日以上返還を延滞した人の数は、2010年度末をピークに、その後は徐々に減ってきています。3ヵ月以上返還を延滞している人についても、09年度末をピークに大きく減ってきており、約21.1万人いた延滞者は16年度末には約16.1万人となりました。
 これにともない、全体に占める延滞者の割合も下がっています。1日以上延滞した人の割合は、2004年度末の13.5%が最大で、16年度末には8.2%にまで下がりました。3ヵ月以上の延滞者は、04年度末の9.9%が最大で、16年度末には3.9%にまで下がりました。
学びたい人を支える「奨学金制度」 - 自己破産が増えた背景にあるもの -
 最近、奨学金の返還がからむ自己破産が問題になっています。自己破産とは、借金を返せる見込みがないことを、裁判所に認めてもらうことによって返済から免れる手続きです。しかし、自己破産が認められると、高額な財産は処分され、住所や氏名が官報に載り、住宅ローンなどの借り入れが一定期間制限されるといった不利益が出てきます。
 JASSOによると、2012年度から16年度にかけて、自己破産したことで奨学金の債務や保証債務が免責になった件数は、延べ1万5338件でした。内訳は、返還者本人が8108件(うち保証機関分が475件)、連帯保証人(返還者の父母)が5499件、連帯保証人が返還できない場合、代わりに返還する保証人(返還者の4親等以内の親族)が1731件です。保証機関分とは、連帯保証人および保証人を立てない代わりに、保証機関(公益財団法人日本国際教育支援協会)に保証料を支払うことで、奨学金を借り受けたものを指します。

- 返還困難者のためのセーフティネット -
 奨学金がからむ自己破産の背景には、学費の値上がりや景気の低迷、非正規雇用の拡大などとともに、JASSOが回収を強化してきたことが関係していると考えられます。
 JASSOでは、延滞3ヵ月までは文書や電話による働きかけを行い、4ヵ月を過ぎると債権回収会社に回収業務を委託します。そして、9ヵ月が経っても回収ができず、連絡も取れない場合は、支払督促申立の予告を行ったうえで、裁判所へ支払督促を申し立てます。支払督促を受け取った相手が異議申立をせず、支払いを行えば問題は発生しません。しかし、相手が異議申立をすると民事訴訟へと発展します。
 JASSOでは、国からの指摘があり2008年度以降、法的処理を早期化するようになりました。結果、04年度は208件しかなかった支払督促申立が、08年度には2173件となり、16年度には9106件にまで増加しました。また、民事訴訟についても、2004年度は58件でしたが、08年度に1504件となり、16年度には5845件となりました。12年間で、支払督促申立が約45倍に、民事訴訟が約100倍に増えているのです。

- 利用しやすい奨学金をめざして -
 JASSOでは、奨学金の回収を強化しつつも、返還が困難な奨学金利用者が無理なく返還できるようにセーフティネットの拡充にも努めています。
 2010年度に創設された「減額返還制度」は、返還期間が長くなるものの月々の返還額を減らすことができる制度です。これまでは返還額を2分の1にする選択肢しかありませんでしたが、17年度より3分の1にすることも可能になりました。制度の利用者は年々増えており、制度創設当初900件だった承認件数は、16年度には2.1万件以上になりました。
 「返還期限猶予制度」は、申請すると返還が困難な一定期間、返還を停止できる制度です。この制度は、JASSOが設立された2004年度より設けられています。経済困窮等を理由に申請する人が年々増えており、04年度は約4.9万件だった承認件数は、16年度には15万件以上となりました。
学びたい人を支える「奨学金制度」 - 奨学金の実施団体とその種類 -
 JASSOはセーフティネットの拡充とともに、誰もが奨学金を利用しやすい環境作りを進めています。国の「有利子から無利子へ」という方針のもと、JASSOは有利子で貸与する「第二種奨学金」を減らし、無利子で貸与する「第一種奨学金」を拡充させています。
 2011年度の「第一種奨学金(無利子)」の貸与総額は2565億円でしたが、14年度に3225億円にまで増えました。「第二種奨学金(有利子)」については、11年度に8021億円だったものが、14年度には7240億円まで減りました。これによって5年間で、「第一種奨学金(無利子)」は25.7%増額され、「第二種奨学金(有利子)」は9.8%減額されました。さらに17年度より、JASSOとしては初めて給付型奨学金を新設したほか、奨学金の返還方法を「定額返還方式」と「所得連動変換方式」の二つから選べるようになりました。
 「定額返還方式」とは、従来の返還方式と同様に決められた額を月々返還し続ける方式です。一方、「所得連動変換方式」は、年収に応じて月々に返還する額が変わる方式です。この方式だと、収入が少ない働きはじめは返還額を抑えることができ、収入が増加するのにあわせて返還額を増やせるため、より無理なく返還することができます。ただし、これは「第一種奨学金(無利子)」に限られます。

- 充実する大学の給付型奨学金 -
 18歳人口が減少するなか、優秀な学生を獲得するために独自の給付型奨学金を充実させている大学が増えています。私立大学の大規模校では、給付総額が何十億円にもなるところがあり、対象人数も数千人という大学もあります。
 また、従来の試験成績や経済状況などを条件にして給付するものに加え、「予約型奨学金」が増えてきました。これは地方からの受験生を主な対象とし、受験前に申し込み、合格したら支給される奨学金です。この奨学金が増えたことで、経済的な理由で遠方への進学を諦めていた地方の受験生が、希望する地域の大学に進学しやすくなる例が増えました。

- 奨学金を申し込む前に考えること -
 「平成26年度学生生活調査」(日本学生支援機構調べ)によると、4年制の大学(昼間部)に通う学生の年間生活費は、国立大学に通う自宅生で平均約110万円、私立大学に通う下宿生だと平均でおよそ203万円になります。この決して低くはない額を捻出するために、奨学金はとてもありがたい制度です。
 しかし、奨学金の多くは返還が必要な貸与型であり、安易な気持ちで借りてしまうと、将来、自分自身に大きな負担を課すことになります。日本学生支援機構の第一種奨学金・第二種奨学金であれば、卒業後半年から返還がはじまり、最長およそ20年をかけて毎月返還しなくてはなりません。返還された奨学金は、次世代の奨学金の原資となります。そのため、支払いが滞ることは本人だけでなく、これから奨学金を利用する多くの人が関わる問題となります。
 奨学金は、学びたいと思う誰もが等しく学べるように、経済面から支援する優れた制度です。だからこそ、この制度を永続させるためになぜ進学したいのか、なぜ奨学金が必要なのかといった「借りる理由」はもちろん、卒業後のシミュレーションも行い、「返す方法」についても十分に考えてから申し込むことが望まれます。
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