厳しくなる「労働環境」、大きく変わる「働き方」【社会】

厳しくなる「労働環境」、大きく変わる「働き方」


【失業率・有効求人倍率とも最悪に!!】
 - 悪循環に陥る日本の労働環境 - 
 高校や大学を卒業して、将来あこがれの職に就き、世界を舞台にバリバリ働きたいと思っている人が多いと思います。しかし、雇用情勢は2008年以降、急速に悪化の一途をたどり、昨年4月には完全失業率は5%台になり、その後も5%台で推移し、現在の景気後退が続くとすると6%台にも達するのではないと心配されています。
 一方、昨年の6月の有効求人倍率は、0・43倍と過去最低を記録しました。つまり、仕事を探す人一人に対し、求人は0・43しかないという厳しい労働環境の下に置かれています。現在の日本の労働環境はこのように失業者が増え、求人は減少するという悪循環に陥っているのが現状です。
 これから社会に出て、自分像の実現を考えている皆さんにとって、厳しい問題が待ち受けています。しかし、それを乗り越えるために日々の学習に励むとともに、現実の問題をしっかり見据えて欲しいと思います。

厳しくなる「労働環境」、大きく変わる「働き方」  - 大量失業者を生んだリーマン・ショック - 
 この原因として、08年秋のリーマン・ショックがあげられます。アメリカの住宅バブル(サブプライムローン問題)をきっかけに資産価格の暴落が起こりました。この結果、アメリカ証券4位の名門企業リーマン・ブラザーズは、サブプライムローン関連の損失が巨額になり、負債総額約64兆円にも達し破綻しました。これをきっかけに全世界で金融危機が深刻化し、株式市場は暴落し景気が急速に悪化しました。
 日本でもこの影響をモロに受け、中でも輸出依存度の高い自動車や電気関連企業などでは、非正規社員を中心に従業員を減少させる動きが顕著になってきました。さらに、雇用調整は拡大し、希望退職などで正社員にもリストラの波は押し寄せてきました。現在、産業界全般に最悪の時期からは持ち直しつつあるようですが、雇用拡大には慎重な企業が多いのが実情です。
厳しくなる「労働環境」、大きく変わる「働き方」 【景気悪化と歩調を合わせる非正規社員の増加】
 - バブル崩壊以降、崩れる日本型雇用形態 - 

 戦後、日本は急激な経済成長を遂げ、経済成長を支えた要因の一つとして日本型雇用形態が世界中から注目を集めました。日本の雇用形態は「終身雇用」という言葉に代表されるように、会社と従業員が一体となって社業に取り組むことで生産性を上げようというものです。従業員は会社に忠誠を誓う一方、会社は責任を持って従業員の職場を守ることで、従業員は安心して仕事を行ってきました。
しかしバブル崩壊以降、経済のグローバル化などによって、日本の企業は厳しい国際競争にさらされ、会社の利益を守るために高騰する人件費の削減に取り組むようになりました。この結果、従来の雇用形態を続けていては費用がかかるし、辞めさせにくいということで、賃金が安く必要な時期だけ働いてもらえるパート、アルバイト、契約社員、派遣社員などといった非正規社員に切り替える会社が増えてきました。この傾向は今後も強まると見られています。

 - 増え続ける非正規社員とは? - 
 非正規社員とは、フルタイムで期間を決めないで働く正社員以外の労働者を指します。日本では働く時間が短く、臨時に雇用される労働者を「パートタイマー」や「アルバイト」と呼びますが、「パートタイム労働法」では、呼称の違いだけで両者を明確に区別していません。
 さらに、企業と短期契約を結んで働く労働形態を「契約社員」と呼んでいます。企業が派遣会社と契約し、派遣会社から企業に送り込まれる労働者を「派遣社員」と呼んでいます。1986年に労働者派遣法が制定され、当初は通訳など専門職の分野に限られていましたが、1999年と2004年に法律が改定され、派遣社員の業種は規制緩和され一般職や現業職などにも拡大しています。

 - 3割を超える非正規社員の割合 - 
 2009年現在、総務省の労働力調査によると会社からの給料で生活を営んでいる人は5039万人。このうち正社員は3362万人となっています。1980年以降、正規社員に比べて非正規社員の割合が目立って増加し、現在では30%を大きく上回っています。非正規社員1677万人の内訳は、パート・アルバイト(1118万人)が一番多く、次いで契約社員・嘱託(432万人)、そして派遣社員などその他(127万人)となっています。非正規社員を男女別で見ると、男性が505万人であるのに対して女性は1172万人と多数を占めています。
 非正規社員の割合が20%を超えたのは1990年で、1999年には25%、2003年には30%を超え、2008年には33・9%に達し、同年の10~12月の平均データでは、過去最高の34・6%を記録しました。
 このように、非正規社員の増加傾向に歯止めはかかりません。こうした流れは、戦後の経済成長期からバブル経済期、そして90年代以降のバブル崩壊と今日まで長引く景気の動向と関係しています。日本の経済の動向に歩調を合わせたかのような、非正規社員の増加は日本の労働環境が大きく変わってきていることを示しています。
厳しくなる「労働環境」、大きく変わる「働き方」 【雇用調整の役割を果たす非正規社員】
 - 非正規雇用を拡大する企業のメリット - 

 正規雇用に対して、非正規社員の特徴や傾向について目を向けてみましょう。
 非正規労働に従事する人は女性の方が多く、とりわけ若年層でその傾向が目立っています。大企業と中小企業との比較では、中小企業のほうが非正規雇用の割合が大きくなっています。
 企業にとって非正規雇用を拡大することで、景気動向に伴う需要や収益の変化に対応した調整を非正規社員の増減で対応することができる。総じて時間当たりの賃金が安く済むだけでなく、各種社会保険や退職金の負担も少なく、社員教育費も大幅に削減できます。
 反面、短期間の雇用のため、社内でノウハウの蓄積が難しいことや、製造現場では熟練工が育ち難いなどの問題を抱えます。さらに、非正規社員は正社員に比べて会社への忠誠度や責任感が低くなります。

 - 雇われる労働者のメリット・デメリット - 
 非正規雇用の拡大で、主として時間的に規制が多い女性にとって、自分の都合に合わせた仕事や時間の調整が可能になりました。また、専門的な知識・技能を持つ人は多くの企業に触れることでスキルアップの向上が望めます。
 こうしたメリットがある反面、さまざまなデメリットが報告され、社会問題に発展しているのが現実です。仕事内容が正社員とほとんど変わらなくても賃金は低く抑えられ、賞与の支給は望めません。経験を積み仕事の効率が向上しても昇給は期待できず、退職金も支払われません。さらに、短期契約で働く場合が多く、将来の展望を描くことが難しく、キャリアとしての職歴にカウントされることはありません。


 - さらに厳しい外国人労働者 - 
 雇用情勢の悪化に伴い、日系外国人の離職が相次いでいます。日系外国人の大半は日系ブラジル人で、2008年には約11万3千人が働いていました。しかし、その多くは非正規社員として生産現場に就業していたため、リーマン・ショック以降の雇用悪化で真っ先に解雇されました。その結果、外国人労働者の失業者が急増し、昨年春までに3万人を超える日系ブラジル人が帰国しました。
 政府は昨年4月から、日系外国人離職者に対し帰国支援事業をスタートさせ、帰国旅費として本人に30万円、扶養家族一人当たりに20万円を支給することにしました。しかし、「日本のご都合主義」「外国人労働者追放政策」といった批判も寄せられています。
 このため、帰国支援と並行して再就職をめざす定住外国人に対する研修や就業支援、家族に対して日本の各種制度の説明・指導、子どもたちに対する就学支援などを行っています。このように、非正規社員の雇用問題は、日本人労働者以上に外国人労働者に厳しく暗い影を落としています。

【生活困窮者にセイフティーネット(安全網)を!!】
 - 労働環境悪化が及ぼす社会的影響 - 

 残念ながら連日のように生活困窮者に関するニュースが流れています。そのうち、よく見聞きする事例を見てみることにしましょう。
<ネットカフェ難民>
 失業などで生活の拠点を失い、インターネットカフェや漫画喫茶で一夜を過ごすのが「ネットカフェ難民」。20代を中心とした若者の利用が多く、多くはパートやアルバイト、派遣労働者として生計を立てていますが、失業者も数多く含まれています。
<年越し派遣村>
 一昨年暮れに、職や住居を失った人が東京の日比谷公園に集まり、炊き出し支援などを受けながら新年を迎えた「年越し派遣村」の姿は大きな話題となりました。昨年は全国各地で国や各自治体が中心になって、生活困窮者の年越し支援とともに、就労・住宅相談などの相談窓口を開設して対応しました。
<名ばかり管理職>
 店長やリーダー、主任などといった肩書きのもと、権限や裁量も持たされないまま厳しい仕事を強いられ、残業代も支給されない名前だけの管理職。コンビニや量販店などで残業代の支払いを求める裁判が起こっています。また、病院でも「部長」など名ばかり管理職の問題が発生するなど、さまざまな労働現場で問題化しています。
<急増する過労死>
 厳しさが増す労働環境によって、正社員・非正規社員を問わず長時間過密労働、深夜勤務、単身赴任など極度の過労やストレスが原因で死亡する例が目立ちます。さらに、うつ病や燃え尽き症候群などによって自殺する人も多くなっています。2007年度の労働者災害補償保険(労災)の申請件数は931件にのぼり、2003年度に比べて25%増となっています。
 また、自殺者数は毎年3万人を超える異常事態になっていますが、この原因や動機別で最も多かったのは病気ですが、それに次ぐのが負債となっています。仕事を失い負債を抱えることで、命さえ失いかねない事態になっています。

 - 雇用拡大で生活困窮からの脱出を!! - 
 政府はセイフティネットの拡大・拡充をめざす一方、雇用環境の改善に乗り出しています。そのためには、企業が雇用を増やし、賃金を引き上げるためには景気回復や新しい産業の創出・育成が急務です。政府が打ち出す雇用拡大・景気刺激対策が上手く機能すれば、各家庭で自由に使えるお金が増え、消費が拡大することで市場が活性化し経済の好循環が望めます。
 一日も早くこうした日が来るよう、政府の思い切った対策が待たれるとともに、これから社会に羽ばたく皆さんは、しっかりと将来を考え、目標に向かって歩んで下さい。就職難だからといって、当面アルバイトやフリーターで過ごそうという考えだけは起こさないで下さい。
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