日本のエネルギー危機を救う「燃える氷」【社会】

日本のエネルギー危機を救う「燃える氷」


今、日本のエネルギー自給率はわずか4%。
しかし、わが国の周辺海域には、日本で一年間に消費する天然ガス(都市ガスなどの原料)約100年分近いエネルギー資源が眠っています。それが、21世紀の夢の国産新エネルギーとして、専門家の間で話題になっていた燃える氷といわれる「メタンハイドレ―ト」。
 そして最近、国の海洋資源開発計画で、メタンハイドレートを2018年度までに適用化するという具体的なスケジュールが打ち出されました。実現すれば、日本のエネルギー安全保障が確立されるだけでなく、資源小国日本が、一躍資源大国に変身する可能性を秘めています。

※図表の出典はすべてMH21研究コンソーシアム資料

日本のエネルギー危機を救う「燃える氷」 【メタンハイド1㎥にメタンガス164㎥最大埋蔵量は推定10兆トン】
 『燃える氷』と呼ばれるメタンハイドレートは、天然ガスの主成分であるメタンを中心にして、周囲を水分子が取り囲んだ形の結晶構造になっている物質です。メタンガスが低温高圧状態で氷の分子に閉じ込められたシャーベット状になっているもので、最大埋蔵量は10兆トンと推定されています。
 見た目には氷に似ていますが、火をつけると燃えるため「燃える氷」と呼ばれています。石油や石炭に比べて、燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が約半分となるため地球温暖化対策の観点からも、大変有望な新国産エネルギー資源ということがいえます。
 政府の総合海洋政策本部が今春まとめた「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」で、10年後をメドにメタンハイドレートからメタンガスを採取して商業化する計画が盛り込まれました。
 メタンハイドレートは、一部シベリアの永久凍土の地下を除けばほとんどが海底に埋蔵しています。しかし、これまでにメタンガス採取にたどりついた国はなく、日本が成功すれば、今後世界で有利に開発を進めることができると期待されます。
 問題の埋蔵場所ですが、水深500mから1000mの大陸陸棚が海底へつながる海底斜面の地下数十メートルから数百メートルに存在するといわれます。
 とくに日本近海は世界でも有数のメタンハイドレートの埋蔵地帯なのです。なかでも四国と紀伊半島の南側一帯の近接海域の南海トラフが最大の埋蔵量を持つと推定されています。また、北海道周辺と新潟沖、南西諸島沖にも存在しています。
 日本政府は、メタンハイドレート資源開発コンソーシアムを組織してメタンハイドレート採取の研究を進め、1999年から2000年にかけて南海トラフで試掘を行ないました。
 このほか、東京大学や海洋研究開発機構、産業技術総合研究所などが、日本海沿岸で発見された海底面に露出したメタンハイドレートの調査を行っています。
日本のエネルギー危機を救う「燃える氷」 【日本近海に天然ガス96年分相当が埋蔵 難しいメタンハイドレート産出技術】
 わが国周辺海域でのメタンハイドレートの資源量は、産業技術総合研究所の佐藤幹夫氏の研究によると、1996年時点で天然ガス換算七・三五兆立方メートルとしています。
 2003年に日本が消費した天然ガス量は七六五億立方メートルですから、日本が消費する天然ガスの九十六年分に相当する膨大なものです。
 メタンハイドレートの中心であるメタンは、地層内にあった動物や植物の遺骸である有機物が、バクテリアの分解や熱分解によって発生したものといわれます。
 ただ、メタンハイドレートは、海底や海底地層に分布し、シャーベット状のため石油や天然ガスのように、うまく井戸を掘り当てれば自然に圧力の低い上方に移動する(自噴といいます)というわけにはいきません。
 一つ間違えば大量のメタンハイドレートが気化して、大気中にCO2の20倍もの温室効果を発揮するメタンガスが撒き散らされることになるからです。
 もともと海中に湧き出したメタンが、大気中に出ることによって地球温暖化の原因の一つになっていると考えられています。そして、メタンハイドレートは、海底の温度が数度上昇するだけで溶け出し、海底内で放出されたメタンガスは、海中を経由して大気中に放出されるといわれています。
 恐ろしいのは、地球温暖化が進んで海水の温度が上昇すると、メタンガスが大気中に大量に放出されます。このため温暖化が進み、海水温度を上げ、さらに多くのメタンガスが排出されるという悪循環を起こすということです。
 史上最大の生物の大量絶滅が発生したとされる、約二億五千万年前。つまり、古生代と中生代の境目に相当するP―T境界で、この悪循環の現象が実際に起こったのではないかと推察されています。
日本のエネルギー危機を救う「燃える氷」 【政府、2018年度にも商用化を目標 160倍以上のメタンガスを取り込む】
 メタンハイドレートの採取には、地層中でうまくメタンガスと水とに分解させる必要があります。
 経済産業省では、2016年度をメドにメタンハイドレートの商業化に必要な採掘技術の確立を目標に掲げ、2009年度から2011年度まで南海トラフを中心に実証実験を行います。そして2012年度から海洋からの産出試験を実施し、2018年以降の商業化を目指しています。
 水深500mから1000mの海底斜面の地中数十メートルから数百メートルにメタンハイドレートが存在すると見られていますが、それはメタンハイドレートが、低い温度と高い圧力、すなわち「低温高圧」な環境下に存在するからです。
メタンハイドレートは、普段私たちが生活している1気圧のもとでは、マイナス80度Cという低温下でなければ存在しません。10気圧ならマイナス30度C以下、50気圧で6度C、100気圧で12度Cといったところに存在します。
 水深500m以下の海底では、水圧のため圧力は50気圧程度になります。また、水温は水深と共に低くなり、最終的には海底付近で4度C程度になってメタンハイドレートが存在できる環境となります。
 メタンハイドレートは、水分子で構成される立体の網状の中に、メタン分子が取り込まれたような固体結晶となっています。そして、1立方メートルのメタンハイドレートを分解すると、約160~170立方メートルのメタンガスを得ることができます。つまり、メタンハイドレートは自分の体積の中に、約160倍から170倍ものメタンガスを取り込むことができるのです。
 こうした特性を利用して、天然ガスの高効率輸送システムの研究が進められています。つまり、メタンを主成分とした天然ガスを、逆にメタンハイドレート化させ、体積を小さくして効率よく天然ガスを輸送しようという試みです。
日本のエネルギー危機を救う「燃える氷」 【資源小国日本から資源大国日本へ 夢多い21世紀の国産新エネルギー】
 天然ガスの90%以上の成分を占めるメタン。資源としてのメタン=天然ガスは、都市ガスや発電所の燃料として利用されるだけでなく、最近ではクリーンを売り物にした天然ガス自動車が普及し始めています。
 また、話題となっている燃料電池の原料である水素を作る原材料として、天然ガス中のメタンの利用も始まっています。
 現在、日本で生産されている天然ガスは、消費量の3%に過ぎず、石油と同じようにその大半を海外からの輸入に頼っています。
 21世紀の国産新エネルギー資源としてメタンハイドレートの商用化=天然ガスの主原料であるメタンの産出に国をあげての取組みが今始まったのです。その背景にはポスト石油資源、とりわけCO2発生量が少ないクリーンエネルギーである天然ガスへのエネルギー転換があります。
 クリーンな天然ガス転換と、これを支える主原料のメタンガスを、日本の周辺で採取し、新国産エネルギーの安定供給を将来にわたって確かなものにする。まるで夢のような資源大国日本の誕生が現実味を帯びてきました。それがメタンハイドレートの資源開発なのです。
 私たちは、21世紀のエネルギー資源開発の推移を、夢と期待を持って注視していきたいと思います。
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