「完全失業率」って何だ?【社会】

「完全失業率」って何だ?


 サブプライムローンの焦げ付きに端を発した金融不安は、瞬く間に世界中を揺るがす大問題に発展しています。アメリカでは大手金融機関の経営破綻や統廃合、またGMなどアメリカを代表する自動車メーカーの経営危機が毎日のように報道されています。
この間、日本でも景気の落ち込みは激しく、政府は各種経済対策を打ち出しています。具体的な例として「定額給付金」や土日祝日の高速道路の割引など、実際に恩恵を受けた人も多いと思います。しかし、その効果については、さまざまな角度から議論されているのが現実です。このように景気浮揚に努める日本政府ですが、私たちが簡単にできる景気判断の目安になるのは「完全失業率」です。

「完全失業率」って何だ?  - 「完全失業率」はどのように計算される? - 
 景気動向を示す指標として、GDPなどさまざまな統計上の数値で示されます。しかし、高校生にとって一番身近で分かりやすい指標として「完全失業率」があげられます。働きたいのに景気が悪く仕事をなくす人、仕事を探しても見つからない人の割合を「完全失業率」として示されます。では、この完全失業率はどのように計算されているのでしょうか?
 完全失業率とは、労働者人口に占める完全失業者の割合のことを指します。この完全失業率は、総務省の「労働力調査」で毎月発表されています。
完全失業率は、ILO(国際労働機関)の定めた国際基準に準拠して計算されています。つまり、完全失業率(%)=(完全失業者数÷労働力人口)×100で計算されます。ここで出てくる完全失業者、労働力人口という言葉の定義が問題になってくるのです。

 - 働く意欲をなくした人は完全失業者ではない - 
 完全失業者とは、15歳以上で現在仕事に就いていない人、求職活動中の人、仕事が見つかればすぐに働ける人という三つの要件を満たす人のことを指しています。このため、病気で働けない人、義務教育中の生徒や高校・大学で勉強している学生、年をとって働けない人、専業主婦などは除かれます。
 また、いくら仕事探しをしても職が見つからず「あきらめた人」、若くて元気だが「働く意思のない人」など、求職意欲をなくした人は完全失業者には含まれません。さらに、資格を取って求職活動に生かしたいと考えて学校通いをしている人も、実際に求職活動をしないと完全失業者から外れてしまいます。

 - 就業者とはどのような人を指すのでしょうか? - 
 さきほどの、完全失業率を計算する式の母数になっている労働力人口は、15歳以上の就業者と完全失業者を合計したものです。
 総務省の「労働力調査」は、月末の1週間を対象に行われます。この期間に、賃金を得る目的で1時間以上働くと就業者として扱われます。毎月安定した収入を得られる定職に就くまで、アルバイトで生活を支えているという人も、統計上は就業者として計算されます。
 2008年度の労働力調査で、月末の1週間の就業時間が15時間以内という就業者は200万人近くで、就業者全体の約3%を占めています。
「完全失業率」って何だ?  - 過去最大の完全失業率は2001年の5.5% - 
 今年3月の完全失業率は4.8%と非常に高い数字を示し、経済事情の深刻さを反映した数字となっています。
 労働力調査は1947年から実施されていましたが、完全失業率の調査は1978年からスタートしました。それ以降、しばらく2%台を超えることはありませんでした。しかし、バブルの崩壊など景気低迷の長期化で、95年には3%を上回り、98年4月には4%を超える完全失業率を記録しました。その後、景気はさらに悪化し、2001年7月には5%台に突入し、12月には5.5%と長期にわたる雇用情勢の深刻さを浮き彫りにしています。その後、若干持ち直したものの完全失業率は4%前後で推移しており厳しい経済状況、雇用状況にあることは変わりありません。

 - 統計に表れる数字以上に厳しいとの声も - 
 統計上の就業者には、1週間の調査期間中に1時間でも働いた人は就業者として扱われるなどの例を紹介しました。また、失業者の中には、不況のため求職活動を一時控えたり、資格取得で就職に有利な条件を整えようという人などは失業者から外されます。こうした結果、計算上では完全失業率の数値は下がり、見かけ上、失業率は改善したような錯覚に襲われます。
 現在のような経済状況が続き、企業はリストラや派遣切りなどの人員削減を推し進めると、求職活動をあきらめる人が増えてくることが考えられます。こうなると、完全失業率という数値だけで、経済事情を考えることは難しくなってくるかも知れません。
 表れた数値の背景をじっくりと考えながら、数値を吟味する必要があります。経済の専門家の間では、統計に表れた数字以上に雇用情勢は厳しいと指摘する人も少なくありません。

 - 世界の先進国と比較して低い水準で推移 - 
 3月の4.8%という完全失業率を、世界各国と比較するとまだ低水準を保っているといえます。完全失業率の定義は、各国ともILOの国際基準に基づいているため、共通しているといえます。しかし、細部については、国ごとに調査対象の範囲や調査方法が異なっているのが現状です。
 さらに、労働を取り巻く環境の違いも考慮しなければなりません。このため、完全失業率を数値だけで単純に比較することを疑問視する向きもあるようです。
 
 - 数字に惑わされることなく現実を見すえて - 
 ここまで説明してきたように、100人に5人近い人が「働きたいのに仕事がない」という厳しい状況に置かれています。この数字も、じっくりと考えると不確実な要素が多く、現実はさらに厳しいかも知れません。
 毎月発表される「完全失業率」は、景気判断の絶好の指標といえます。総務省から発表される完全失業率の数値と、その背後にある日本の雇用状況などを考え合わすと、より広く、より深く日本経済の実態が見えてくると思います。こうした視点で、完全失業率の数値を見直してみてはいかがでしょう。
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