「守る」のか「罰する」のか!!【社会】

「守る」のか「罰する」のか!!


 日本の法律では、20歳未満の人間を「少年」あるいは「未成年」と規定しています。高校生のみなさんは「自分はもう子供じゃない!」と言いたいかも知れませんが、法律上はまだ「少年」なのです。
 そうした皆さんにも大きく関係する法律が「少年法」です。日本ではこの10年ほど「少年法の改正」をめぐって、さまざまな論議が闘わされてきました。少年法とは何か、法律のどこを変えようとしているのか、法改正でどんなことが問題になっているのか。「少年法改正」をめぐる最近の動きを紹介しましょう。

「守る」のか「罰する」のか!! - 少年法ってどんな法律? - 
 少年法とは、一言でいえば「犯罪(非行)を犯した未成年者をどう処分するか」を定めた法律です。大人の犯罪は「刑法」で取り締まられますが、未成年の犯罪行為はすべて「少年法」の対象となります。
 なぜこういう法律が必要かというと、子供がいろいろな意味で「未熟」だからです。自分の行為の危険性がわからない。的確な状況判断ができない。感情をコントロールできない。社会のルールもよく解っていない...そうしたことから、低年齢になればなるほど、ごく普通の子供でも、状況次第で犯罪的な行為に走ってしまう可能性が高くなります。そういう子供の犯罪は、大人の犯罪のように行為の結果だけを問題にして罰を与えるのではなく、犯罪に至ったプロセスを理解してやり、自分の行為の意味をじっくり考えさせたり、社会のルールを教えたりして、成長を手助けしていくことが大切になります。


- 「保護主義」という考え方 - 
 少年法の第1条には、「少年の健全な育成を期し、非行少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」とあります。つまり少年が何らかの犯罪を犯した場合は、その将来を考えて、刑罰を与えたり社会から締め出すのではなく、本人の性格や周りの環境を改善することで立ち直らせ、社会の中で健全に育てるようにすることです。
 こうした考え方を少年法の「保護主義」と呼びます。1900年頃にアメリカで始まった保護主義は、現在では世界共通の考え方となっています。この保護主義の観点から、わが国では1948年に本格的な少年法が作られ、子供の犯罪に対処する施設として、罰を与える刑務所ではなく、各自の問題に応じた教育を行う「少年院」と、子供を取り巻く環境を調査するための「家庭裁判所」が設けられました。
「守る」のか「罰する」のか!! - 少年犯罪への対処の仕方は? - 
 子供の犯罪に対する「裁判」や「罰」のあり方も、保護主義の考え方から、一般の大人の犯罪とは大きく異なっています。
 たとえば年齢の低い(14歳未満)子供の行為については、「犯罪」として扱わないという決まりがあります。14歳未満の子供が重大事件を起こした場合は、児童自立支援施設(昔で言う教護院)に送られることもありますが、少年院や刑務所に送られることはありません(ただし後述するように、この「14歳」という年齢は、最近の法改正で引き下げられました)。
 「14歳~19歳」の少年が犯罪を犯した場合は、まず「家庭裁判所」に送られ、子供・保護者が呼び出されます。一般の刑事裁判は、誰でも傍聴ができる公開の法廷で、本人の犯罪責任の追及と刑罰が決められますが、家庭裁判所で行われる調査や審理の内容は非公開。少年の名前も写真も一切公開されません。これは「子供の立ち直りをできるだけ支援する」という考え方によるものです。
 ただ重大犯罪の場合は、家庭裁判所の判断により、大人と同じ刑事裁判に回されることがあります。その場合は、大人と同じように傍聴人のいる法廷で裁判を受け、有罪になると刑務所(少年刑務所)に入ることになります。といっても近年の法改正までは、刑事裁判に回されるのは16歳以上で、しかもそうしたケースは「ごく例外的」とされていました。

- 「改正」では何が議論されてきたのか - 
 こうした少年法のあり方に対し、1990年代後半から改正論議が起こってきました。当時「神戸・連続児童殺傷事件」をはじめ、低年齢の少年による凶悪犯罪が相次いで起きたことをきっかけに、「少年法をもっと厳しくすべきだ」という意見が一部で高まったのです。「罪を犯しても、大人の刑事事件よりもずっと軽い処分しか受けないことが、少年犯罪を凶悪化させている」というのが改正推進派の主張です。
 こうした声を受け、2000年に少年法にとって初の改正が行われました。この改正の大きなポイントは「処分年齢の引下げ」です。具体的には「重大犯罪の場合は、14歳・15歳でも刑事裁判に回わせる」ようになったこと、さらに「16歳以上が重大事件を起こした場合は、刑事裁判に回すことが原則」となりました。
 もう一つのポイントが「被害者への配慮の充実」です。それまでは少年犯罪の被害者や遺族には、ほとんど救済措置がなく、事件の調査や裁判の内容を知ることもできませんでした。この改正によって、被害者側が事件のことを知ったり、意見を言ったりできるようになりました。
 この改正から5年後の2005年、少年法の改正論議が再び持ち上がります。2000年の改正後も、「長崎男児誘拐殺人事件」「佐世保小6女児同級生殺害事件」など、低年齢の子供による殺人など重大犯罪が続きました。政府が臨時国会に改正案を提出し、結局2007年の国会で「14歳未満の少年についても、必要があれば少年院に送致」できるよう、少年法の一部が改正されました。さらに現在では、大人と同じように「刑事処分の対象」となる年齢を、現状の「20歳以上」から「18歳以上」へと引き下げることが議論されています。

- 改正推進派の意見 - 
 このように見てくると、少年法改正の大きな流れは、子供の健全な成長をサポートするというそれまでの「保護主義」から、監視や罰を厳しくして少年犯罪を減らすという「厳罰主義」への転換だと言えるでしょう。
 「厳罰化」を推進する側の主張としては、「最近の子供は成長が早く、そのため低年齢層の起こす凶悪事件が増え、これまでの保護処分では対応できない」「昔のような生活に困っての犯罪よりも、遊び型の犯罪が増えている。だから大人並みに刑罰を与え、きちんと責任を持たせることが必要だ」「凶悪犯罪の被害者の立場に立てば少年院送致ぐらいの処分では甘すぎる」「海外の多くの国では18歳以上は成人として扱われる」といったものがあります。

- 厳罰化で犯罪は減らせるのか? - 
 こうした改正論に対して反対意見も数多くあります。中でも、最も根本的な反対が「厳罰化では少年犯罪は減らない」という主張です。つまり「少年法を厳罰化することで、少年犯罪を減らす」という推進派の考えそのものが、誤った認識に基づいているという指摘です。
 たとえば、「低年齢で重大事件を起こした少年の多くは、家庭環境などに深刻な問題を抱えている。それを改善しないまま少年院で教育したとしても効果は期待できない。逆に『少年院に入っていた』というレッテルが貼られることで、立ち直れなくしてしまう可能性が高い」という意見があります。
 「犯罪白書」などの統計を見ても、少年法改正(厳罰化)の前後において少年犯罪には増減の変化がほとんど見られません。また世界には、アメリカやドイツをはじめ少年法を厳罰化した国も多くありますが、それらの国の多くでは「単に処罰年齢を下げたり罰を厳しくすることでは、少年犯罪を減らせない」という反省や疑問が多く出ているといわれます。
「守る」のか「罰する」のか!! - 少年の凶悪犯罪は実は増えてはいない - 
 また「そもそも日本の少年犯罪は増えていない」という指摘もあります。実際、犯罪白書などのデータを見ても、この数十年間で少年犯罪が増加、あるいは低年齢化したという事実はありません。犯罪研究の専門家によれば、最近の10代、20代が起こす凶悪犯罪は、最も多かった1960年代の4分の1以下に減っているそうです。日本は先進諸国の中では例外的に少年の凶悪犯罪が減っている国なのです。
 これについては「え、そうだったの?」と、驚く人も多いのではないでしょうか。多くの人は「少年犯罪はどんどん増え、しかも凶悪化している」という印象を持っていると思いますが、これにはメディアにも責任があります。新聞・テレビ・雑誌などのマスメディアが「増え続ける少年犯罪!」「凶悪化する子供たち!」といったセンセーショナルな見出しを掲げ、派手な報道合戦を繰り返してきたことで、実際以上に少年犯罪が増えているイメージを多くの人々に植え付けてきたことは否定できません。
 ただし、数の点では減っているとしても、統計には表れない犯罪の「質」の面では疑問もあります。昔にはほとんど見られなかった異常な犯罪、動機のよくわからない犯罪、驚くほど些細なことで起こる凶悪事件が目立っているからです。
「守る」のか「罰する」のか!! - 少年法の精神に基づいた議論を - 
 そもそも「少年法」が刑法と別に存在することの意味は、「犯罪(非行)をおかした少年を立ち直らせ、社会の一員として健全に育てていく」ことが目的だったはずです。この目的をより達成できるように法を変えていくことが、少年法改正論議の中心でなければなりません。
 少年犯罪の被害者救済が遅れていたことを思えば、少年法の「厳罰化」は、被害者や遺族の気持ちに沿うものと言えるでしょう。しかし、もし「厳罰化しても少年犯罪は減少しない」のであれば、法改正だけでは問題解決にはつながりません。そもそも少年法の内容をよく知った上で犯罪に走る子供は極めて少なく、特に低年齢層は少年法の存在そのものを知らないことが多いのです。
 少年犯罪に長く関わった専門家は、現在の少年が驚くほど「幼児化」していると指摘しています。学力や知識の面では「早熟」であっても、その他の面では逆に幼くなり、少年事件の「質」を変えているのかも知れません。そうだとすれば、それは社会の「質」そのものの反映とも言えるでしょう。少年犯罪は警察や裁判所だけの問題ではなく、家庭や学校、地域社会など私たちをとりまく社会全体の問題なのです。
 さて、あなたは少年法改正についてどう考えますか?
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