危機に立つ日本の農業、私たちの食糧は大丈夫?【社会】

危機に立つ日本の農業、私たちの食糧は大丈夫?


今、農家でお米を作る人の約60%が65歳以上の高齢者だといわれます。また、長年政府による「減反政策」の影響で、全国で米作をやめて放置されたままになっている耕作放棄地が、神奈川県を上回る広さになっています。次の世代にお米を作る若い人材がいなくなり、お米を作る土地がなくなっていけば、いったい日本の農業はどうなるのでしょうか。私たちが口にするお米は、日本の食糧は大丈夫でしょうか?

危機に立つ日本の農業、私たちの食糧は大丈夫? - 戦後、農家は4割に、農地は半分に、農業人口は2割に!! - 
 まず、今の農家の様子を知る上で基本となる数字を押さえておきましょう。
 日本の国土面積は約3779万haですが、山間部が多いため農地面積は約467万haで、国土に対する比率は約12%に過ぎません。この狭い農地面積に約285万戸(2005年)の農家が存在します。それでも、昭和25年(1950年)には618万戸の農家がありました。今はその4割に減っています。
 このうち、主として農業収入で生活している専業農家は約12%の34万戸(2005年)です。農家で働く人は約335万人(2005年)です。最も多かった昭和35年(1960年)には1454万人もいましたが、今はその2割にすぎません。
 さらに、お米を作っている水田の面積は、162万1000haです。最も多かったのが昭和44年(1969年)の317万3000haで、今はその約半分です。収穫量は、平成21年に採れたお米が846万6000トン。最も多かった昭和42年(1967年)には1425万7000トンあり、今はその約6割です。
 まとめると、次のようになります。今の日本の農業は戦後の最も多かった時期に比べて、農家の数は4割に、農業で働く人は2割に、米作面積は半分に、そして収穫量は6割になりました。日本の農業の衰退ぶりがよく分かります。
 では、どうしてこういうことになったのでしょうか?
 それでも、お米の自給率は96.3%で、野菜の78.6%、魚介類の61.2%、果物の37.8%に比べて断トツです(いずれも2008年度・カロリーベース)。お米は、ほとんど国内でまかなえる一番安定した、唯一の安心できる食材なのです。
 これは一体どういうことなのでしょうか?
危機に立つ日本の農業、私たちの食糧は大丈夫? - ライフスタイル・食の洋風化で、お米の消費は50年で半減 - 
 昔から日本で食事といえば、その大半が米飯でした。戦後日本の暮らしは、生活の洋風化とともに食事の洋風化が進みました。
 小麦を原料とするパンや麺類、パスタなど主食も多様化して、お米の消費量が減っていきました。インスタント食品やレトルト食品、「マクドナルド」や「モスバーガー」といったファーストフードの普及がそれに輪を掛け、女性の社会進出、主婦の職場進出、共稼ぎの一般化などを背景に、食生活はライフスタイルの変化と共に、米飯以外に一層多様化が進みました。
 皆さんが毎日食べるお米は、ほとんど日本の農家で作られた国産米です。08年度のお米の消費量は1人当たり年間60 kgを切って、最も消費量の多かった昭和37年(1962年)の約半分です。はっきりいって、誰もが昔ほどお米を食べなくなったのです。
 お米の収穫量は、最も多く採れた年の6割に減りましたが、お米の消費量も約半分に減っていますから、数字の上でお米が100%近い高い自給率を示しているのは不思議ではありません。
 消費量が減ってお米が売れなくなると、供給過剰となって余剰米があふれます。当然値段は下がります。お米が売れず、価格も下がってお米が余ったのでは、日本の米農家はやっていけません。
 そこで歴代政府は、お米の生産量を減らす生産調整に乗り出し、米作を一部休止する「減反政策」を実施してきました。消費が減った分、お米を減産(減反)して価格を維持し、米農家の経営を守ってきたのでした。
 また、減反政策に協力して、米作を休止した農家に補助金を支給して、麦や大豆などお米以外の作物に転作する支援を行ってきました。

- 40年におよぶ減反政策でお米価格を維持し、農家を救済 - 
 政府の減反政策は、お米の価格を維持して農家の保護にはつながってきました。しかし、消費者にとってみれば主食であるお米を長年にわたって高い値段で買わされ、米農家の保護を税金で負担してきたということになります。
 また、減反政策によってお米を作らない休耕地が増え、お米を作る人は減っていく一方です。とくに休耕地の増加は深刻です。農林水産省の2008年度の調査によると、減反政策によって米作を休止した耕作放棄地は全国で28万4000万haにのぼります。神奈川県(24万1500ha)を軽く上回る広さです。
 「お米をあまり作るな」という減反政策によって農家は米作で自立することに消極的になり、農業を次の世代に引き継ぐべき若い担い手を育成する努力を怠ってきました。「このままだと日本の米農家は滅んでしまう。将来、日本の食料自給率が危ぶまれる」と、農業を営む人たちの中からも、これまでの政府の減反政策を見直して、日本の農業を再構築しようという動きが活発になってきました。
日本の優れた米作技術、農業の大規模化や法人化の試みで、より生産性の高い農業を目指し、国際競争力をつけた強い農業を育成しようという取り組みです。
 こうした動きの背景には、日本の食料自給率(野菜や魚介類、肉類などを含む広い意味の食料)を高めようという食料安全保障上の理由が強く働いています。
危機に立つ日本の農業、私たちの食糧は大丈夫? - 日本の食料自給率(カロリー換算)は約40%で先進国中最下位 - 
 皆さんは、食料自給率という言葉を耳にしたことがあると思います。この場合の「食料」は、お米や麦などの穀類を中心とした「食糧」ではなく、肉や魚、野菜や果物など含めた食べ物一般を指す「食料」です。
 食料自給率は、一般には主食のお米やパン、うどん、肉、魚、野菜から様々な副食品、加工食品、家畜の飼料など一切を含めてカロリーに換算して、国内で手当てできる割合を示したものです。
 現在、日本の食料自給率は約40%です。これは、日本人が生きていくために摂取する食料(カロリー)の60%を輸入に頼っているということです。この数字は、フランスの122%、カナダの122%、アメリカの128%、ドイツの84%、イギリスの74%などと比べていかに低いかが分かります。
 政府は、大きな自然災害や戦乱、政情不安などで海外から食料が輸入できなくなった場合、国内でどれだけ必要な食料を確保できるか、という食料安全保障の面からも、当面食料自給率を50%に引き上げようとしています。
 50年前の1960年、日本の食料自給率は79%でした。半世紀の間に自給率は半減したのです。その最大の原因は食の洋風化です。

- 輸入に依存していると、予期せぬ困難が!! - 
 例えば、1960年代の朝食の多くはご飯、わかめの味噌汁、大根や白菜のお漬物、それに卵焼きや魚の干物といったものでした。主食のご飯はすべて国産米なので自給率は100%です。魚は62%。味噌汁のワカメは海藻なので71%。大根や白菜はほぼ100%。卵は96%ですからこの献立で見る限り、昔の日本の朝食の自給率は極めて高いことがわかります。
 これが洋風化して、ハンバーガーにミルク、コーヒーとオレンジという献立ならばどうでしょう。ハンバーガーのパンの原料である小麦の自給率は14%。ハンバーグの主な材料はブタ肉と牛肉です。ブタ肉の52%、牛肉の43%は国産ですが、エサのほとんどが輸入なので、これを勘案した自給率はブタ肉で5%、牛肉で11%となります。卵やミルクは日本でほぼ生産されていますが、乳牛のエサは100%近く輸入ですからミルクの自給率は40%。オレンジ、コーヒーはいずれもほぼ全量が輸入で自給率は0%です。食事の洋風化は、その食料の大半を海外に依存しているため、自給率が大きく低下することが分かります。
 輸入に依存していると、世界的な気候変動や自然災害による飢饉、それによる食料の価格高騰の心配。また、国際テロや紛争の多発、武力衝突などによる海上輸送の途絶などによって、食料の輸入が滞った場合の国内の混乱、国民生活への影響は想像を超えるものがあります。
 食料自給率を高める最も手っ取り早い方法は、自給率がほぼ100%のお米をたくさん食べることです。また、主食であるお米を素材にした新しい食材や料理の工夫、お米をベースにした加工食品や健康食品、デザートなどの開発が挙げられます。
 しかし、何より大切なのは減反政策を見直して品質、価格ともに世界の農作物と十分競争していける経営的に強い農業を構築すること。そして、食料自給率を高めるために放置された広大な耕作放棄地を活用することです。
危機に立つ日本の農業、私たちの食糧は大丈夫? - 耕作放棄地を活用して国際競争力のある強い農業を - 
 昨年9月、自民党から民主党に政権が移行し、これまでの減反政策に代わって、2011年度から「農家者個別所得補償制度」という新たな農家への支援事業が本格スタートします。
 この制度は、お米の生産過剰を防ぐため農家に生産量を割り当て、お米の生産にかかる費用からお米の販売価格を引いた慢性的な赤字部分を補償します。簡単に言えば、100万円のコストをかけて作ったお米が60万円でしか売れなかったら、政府が40万円を農家に埋め合わせするというものです。農家の赤字を税金で補償することに変わりはなく、生産目標の設定という名を変えた減反政策に変わりはないようです。
そもそも米農業の衰退、食料自給率の低下は、食の洋風化が大きな原因ですから、原点に戻って米の消費拡大を図ることが大切でしょう。 
 同時に、広大な耕作放棄地を活用して地方の活性化を図り、農業の再生に結びつけ、雇用を拡大し、日本の食料自給率の向上にもつながる方策を考えていかなければなりません。今のままでは利用できない耕作放棄地は約28万4000haありますが、このうち整備すれば半分の14万9000haの土地が農地として活用可能だとされています。
 耕作放棄地の活用には、農地の所有、売買、転用の制限を撤廃する思い切った農業自由化が必要でしょう。すでに農業の競争力を強化するため、農業の大規模生産化、会社組織(農業生産法人化)による農業の生産性向上と雇用の促進に向けた取り組みが始まっています。



- 収穫量トップクラスの日本の稲作の実力を世界に示す - 
 さらに今、農業の6次産業化ということが叫ばれています。一般に一次産業は農業や漁業、林業などを指します。二次産業はモノづくりの製造業。三次産業は小売・流通や外食、飲食サービス業を指します。
 農作物を収穫するだけの第1次産業である農業が、米菓子や加工食品といった第2次産業の製造業の分野を手がける。さらに、産地直送で販売したり、ネット販売や農産物直売所での直販など、農家が流通、販売という第3次産業分野に入り込む。これを第1次産業+第2次産業+第3次産業=第6次産業。つまり、農業の第6次産業化といいます。
 そして、産地の地名や生産者の名前を商標やブランドに登録し、ここだけのオリジナル作物としてスーパーや百貨店で販売する。有名な「夕張メロン」や「山梨ブドウ」「岡山のマスカット」「南紀の南高梅」などがそうです。
 日本の稲作は、単位面積当たりの収穫量は世界のトップクラスです。日本産のお米は、中国では3倍の高値で取引されるなど、海外では引っ張りだこなのです。
 耕作面積の狭い日本では、消費者から高く評価される付加価値の高いお米を、高い生産技術と、効率的な生産システムで生産し、世界に供給して強い農業を目指していかなければなりません。
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