次世代の送電網「スマート・グリッド」とは?【社会】

次世代の送電網「スマート・グリッド」とは?


- 発電側と消費者側とを双方向で送電する - 
 スマート・グリッドとは、直訳すれば賢い送電網の意味です。最新のコンピューター技術とインターネット通信技術を使って、太陽光や風力など自然エネルギーによって発電した大容量の電力を送電することができます。
 しかも、電気を供給する(発電所)側と、電気を使う(消費者)側の双方から、送電する電気の状態をきめ細かくチェックし、最適の状態に調整して送電します。

次世代の送電網「スマート・グリッド」とは?  エネルギーロスの少ない効率のいいスマート・グリッドの構築によって、低炭素社会にふさわしい、自然エネルギーを多く含んだ電気の安定供給と省エネ、低コストを実現しようというものです。
 スマート・グリッドがマスコミに取り上げられるようになったのは、オバマ米大統領が地球環境保全や温暖化防止に関連する事業を拡大して米国の景気を回復しよう、と提唱したグリーン・ニューディール政策の中心プロジェクトに掲げてからのことです。
 全米に張り巡らされた送電線を、〝賢い〟次世代送電網に入れ替えようという、とてつもない大事業です。



- 市場規模は20年で95兆円、新たに1000万人の雇用を生む一大プロジェクト - 
 日本でも経済産業省がまとめた2030年までのスマート・グリッドの事業スケジュールを見ると、関連する市場規模は今後20年で95兆円にものぼります。また、これによって新しく1000万人の雇用が生まれると試算しています。
 こうした大事業はデフレ不況で冷え切った日本の経済を活性化し、景気を回復する有力な材料となりますが、巨額の資金が必要です。
 今、日本の景気は悪く、政府も財政赤字で、財源を捻出するための事業仕分けに大わらわです。何故、今、巨大な資金が必要なスマート・グリッドなのでしょうか?

- 自然エネルギーの電力量は、10年後には今の約20倍に拡大する - 
 今、政府はCO2(二酸化炭素)をはじめとした温室効果ガスの排出量を、2020年までに90年の排出量の25%を削減する目標を掲げています。
 私たちが使っている電力の多くは、火力発電や原子力発電、一部で水力発電によって作られています。政府は太陽光や風力などCO2(二酸化炭素)を排出しない自然エネルギーで発電した電力の割合を、20年までに現在の0.8%から10%に引き上げる方針を打ち出しています。
 とくに、自然エネルギーの中で最も期待されている太陽光発電は、2020年には2008年の20倍に当たる最大5000万kwを発電する計画です。これは、水力発電を追い抜いて原子力発電と並ぶ規模になります。

- 現在の送電線では自然エネルギーの電気を大量に送れない - 
 太陽光や風力など自然エネルギー(再生可能エネルギーともいいます)による発電量が増えてきますと、現在の電力送電線ではうまく送電できないのです。
 電力業界によると、現在の送電網で送電が可能な自然エネルギーによる電力量は1000万kwまでです。しかし、国の目標では、自然エネルギーによる電力量を2020年で2800万kw、30年で5300万kwに引き上げる方針で、さらに上回る可能性があります。
 つまり、次世代送電網であるスマート・グリッドが整備されなければ、自然エネルギーを利用した大きな容量の電力を送ることができないのです。CO2排出量の削減によって低炭素社会を形成するには、どうしてもスマート・グリッドの建設を急がなければなりません。
次世代の送電網「スマート・グリッド」とは? - 世界で最も高い品質と安定を誇る日本の電力 - 
 欧米諸国では停電が大きな問題となっています。スマート・グリッドを導入する最大の理由は、停電対策のために電力の安定した供給を確立するためだといわれます。
 電気事業連合会の公表資料によると、2006年度の事故による停電時間は、日本が1件当たり19分なのに対して、米国では復旧に97分もかかっています。しかも、電気の送電状況がたちどころにチェックできる日本と違って、例えば米国では、停電した現場から電話連絡がなければ停電箇所が分らないということです。
 どこの国についてもいえることですが、安定した電圧、電流を維持した信頼性の高い電気を、安定的して供給するということは、非常に重要な国家的課題なのです。
 工場やオフィス、病院、学校、商店、住宅、交通・運輸などあらゆる場面で、電気の供給が不安定であれば、大きな事故やトラブル発生の危険性が増します。
 これによって、地域社会は常に危険とリスクと隣り合わせになり、社会生活に大きな影響を受けます。水と同じように電気は重要なライフラインだからです。
 日本の電気は世界で最も安定した質の高い電気だといわれます。従って日本がスマート・グリッドを導入する理由は、電力を安定的に供給するというよりは、自然エネルギーを大量に導入するという地球環境保全のためなのです。
 風力発電や太陽光発電など自然エネルギーによる大容量の電力をスムーズに供給できる双方向の送電網を整備して、低炭素社会のインフラ(基盤)を確立しようというものです。


- 自然エネルギーの電気は天候と時間で変動する気まぐれなエネルギー - 
 太陽光発電や風力発電は、自然を対象とするだけに天候や気候の変動に大きく影響されます。無風状態では風力発電は機能しませんし、雨天や夜間は太陽光では発電できません。
しかもこれまでの送電線は、発電所から消費者に電気を送り込むだけの一方方向でしたが、これからのスマート・グリッドでは双方向となります。
 それは、一般家庭やオフィス、工場などの事業所が、太陽光発電や風力発電、燃料電池といった新しいエネルギーによる電気の供給者となるためです。
 つまり、これまで電気を使うだけだった家庭や事業所が小規模の発電所となって、送電網を通して電力会社に電気を販売(供給)するという逆潮流現象が起こってきます。
 しかも新しい自然エネルギーによる電力は、容量も出力も気候や日時によって大きく変動する非常に不安定な電力なのです。さらにこの不安定で、出力の変動が激しい電力による逆潮流が増えてくると、これまで電力会社から送られていた既存の電力系統が乱れてくる恐れがあります。
 自然エネルギーで発電する不安定な電気をいかに安定的に送電網に組み入れて、必要な場所に、必要なとき、必要な量の電気を双方向に送電するか?そこで賢い送電網のスマート・グリッドの出番となるのです。
 それでは、スマート・グリッドはどんな機能をもち、どういう働きをするのでしょうか?

- スマート・メーターは賢い送電線網の頭脳 - 
 まず、スマート・グリッドの最も重要な機能は、気候変動や天候によって出力が左右される不安定な自然エネルギーの電力を、安定した発電システムとして電力系統(送電網)に組み入れていく調整機能です。
 それと同時に、地域内の住宅や工場、オフィス、商店街などで使用する電力の消費状況をきめ細かく検知し、必要とする電力量に応じた電気を振り分けて送電する制御機能です。
 こうした機能を発揮するためには、高度で専門的な装置が必要です。まず、あちこちで発電された電気をいったん貯えて、必要に応じて供給するための調整弁としての大型蓄電池が設置されます。
 それに、家庭や事業所などでの発電量と消費量の情報を詳細に計測し、制御センターにリアルタイムで伝送する進化した賢い電力計(スマート・メーターといいます)がセットされます。
 そして、地域内の電気の消費量と発電量のデータをもとに、電気の需給バランスを最適に制御して送電する監視制御装置があります。
 各家庭やビル、工場に設置された太陽光発電や風力発電の直流電気を交流電気に変換するパワーコンディショナーを備えています。
 スマート・グリッドを支えるこれらの機器の性能、技術は日本が世界のトップクラスにあります。
次世代の送電網「スマート・グリッド」とは? - 「電気を送るライン」から「考えて送るライン」へ - 
 スマート・グリッドは、単に電気を一方向に送電するだけの「ライン」から、電気の需給バランスを検知して、最適な電力量をコントロールして双方向に送電する「考えるライン」に進化を遂げていきます。
 例えば、ある地域内で発電量が消費量を上回った場合は、その余剰分の電気を蓄電池に貯えます。逆に消費量が発電量を上回った場合は、貯えた電気を引き出して、足りない分を補充します。また昼間、太陽光発電で得た電力を蓄電池に貯え、雨天や夜間に取り出して使用することができます。
 2010年度から4年計画で、米国と共同でスマート・グリッドの日米共同実証事業がニューメキシコ州で始まりました。新エネルギー・産業技術総合研究所(NEDO)がリーダー役となって、東芝や京セラ、日立製作所、シャープなど31の民間企業や機関が参加しています。

- 全国3市1地域で実証実験を開始将来はスマート(賢い)タウンへ - 
 また、経済産業省が中心となって大規模なスマート・グリッドの実証実験が、国内の3市1地域で今年度からスタートしています。横浜市、愛知県豊橋市、北九州市の3市と、関西文化学術都市(けいはんな)です。
 とくに横浜市では、横浜市内の港北ニュータウン、みなとみらい、金沢グリーンバレーの3地区で、計4000世帯の一般家庭やオフィスが参加します。
 4000世帯に通信機能を持った次世代電力計(スマート・メーター)を取り付けて電力の需給を自動的に調節し、留守中や夜間の電気を節約できるようにします。
 計画では、合わせて2万7000kwの自然エネルギーによる発電や燃料電池を導入するほか、約2000台の電気自動車、高速充電器、さらに太陽光発電でまかなう次世代のガソリンスタンドを整備して、スマート・グリッドをめぐらせた低炭素社会のモデルタウンを形成する予定です。
 いま、CO2の排出量削減のため、原子力発電や太陽光、風力、燃料電池といった自然エネルギーへの転換が叫ばれていますが、これを実現するための前提としてスマート・グリッドが整備されなければなりません。
 そして政府は将来、賢い送電網(スマート・グリッド)の次のステップとして、環境にやさしい賢い街(スマート・タウン)の建設を計画しています。
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