「男らしさ」「女らしさ」って何だろう?【社会】

「男らしさ」「女らしさ」って何だろう?


 みなさんは「ジェンダー(gender)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。この言葉は一般に「社会的・文化的性差」と訳されます。性差とは、簡単に言えば「男女の違い」のことです。
 多くの生物と同じく、人間も男性/女性という二つの性に分かれます。この「男女の性別」は、子供を産める/産めないという最大の違いをはじめ、体の構造や機能のさまざまな違いとしてあらわれます。こうした生物としての男女の違いを「生物学的性差」と呼びますが、じつは男女の違いの中には、生物学的な性差とは別に、それぞれの社会や文化の中で生まれ、受け継がれてきたものが多くあります。わかりやすいのは男女の服装の違いですが、そのほかにもいわゆる「男らしさ」「女らしさ」のように、社会や文化によって〝男女それぞれのあるべきモデル〟が存在します。それらを一般化した概念が「ジェンダー」なのです。
 近年、このジェンダーが世界的に議論の対象になっています。ジェンダーの何が問題にされているのか、そして、私たちはどのような「性差」のあり方をめざしていくべきなのか、考えてみました。

「男らしさ」「女らしさ」って何だろう? - 「男女の違い」は社会や文化で異なる -
 人々が〝男女の違い〟と見なしているものの多くは、実は社会や文化の中で形づくられたものである│この「ジェンダー」という考え方は、近代の社会科学の発達の中で生まれました。世界各地の国や民族は、「男らしさ・女らしさ」あるいは「男性の役割・女性の役割」などについて、それぞれにある一定の基準やモデルを持っています。その中には時代を超えて受け継がれているものもあれば、時代とともに少しずつ変化してきたものもあります。もちろん日本においても、古くから男女の違いやそれぞれの役割に関するいろいろな基準・モデルが存在し、その一部は今も私たちの社会に生き続けています。
 世界各地のさまざまなジェンダーには、ある程度共通する部分と、文化によってかなり異なる部分がありますが、いずれにせよ、どのような民族・文化にもジェンダーという男女の区別が存在し、「男性らしさ」や「女性らしさ」について、誰もが何らかのイメージ、基準となるモデルを持っていることは確かでしょう。

- 「男女平等」と伝統的ジェンダー -
 しばしば誤解されるのですが、ジェンダーという概念自体には、それが「良い」とか「悪い」という価値判断は含まれていません。男女の性差が存在することは、ある意味で人間社会における必然であり、それは社会の成り立ちの基本だと言えます。
 では今、なぜジェンダーが世界的に議論の的になっているのでしょう。その理由をひとことで言えば、社会の発展につれて、今までは広く認められてきたジェンダーの在り方が、「現状に合わなくなってきた」ということにつきるでしょう。
 近代以降、世界の多くの国々では、社会に生きるすべての個人が、生まれながらに同等の価値を持つ、つまり「すべての個人は平等」という理念、考え方を基本に置くようになりました。これは男女についても同様です。男性であれ、女性であれ、その存在価値は人として同じであり、同じ権利が保証されなければならない、すなわち「男女平等」です。この考え方は、今では多くの国で憲法などによって根本的な価値観として定められています。日本においても、かつては女性には選挙権(参政権)が与えられないなど男女の権利に差がありましたが、現在では日本国憲法の第24条に「すべての男女は本質的に平等である」と明記され、「男女平等」が基本原則となっています。
 もちろんこれは「男女は全く同じ」という意味ではありません。子供を産むことをはじめ、男女の間には生物としての違いがいろいろあります。そうした生物学的性差を前提とした上で、社会的な権利については、男も女も同じように保証しようというのが、現代社会の基本原則なのです。
「男らしさ」「女らしさ」って何だろう? - 男女の雇用とジェンダーの関係 -
 ただし「男女平等」が法的に定められ、それが社会の原則になってはいても、実際の社会生活において、あらゆる面で男女が同等の扱いを受けているかというと、必ずしもそうとは言えません。そして、まさにこの点に「ジェンダー」が問題にされる理由があるのです。
 男女の不平等や不公平は、少なくとも公的な場面においてはかなり是正されています。しかし社会のいろいろな場面で、まだまだ多くの「性別による不公平や格差」が存在します。その最も大きな例の一つが、企業などで働く場合、つまり「雇用」における男女の違いです。
 この根底には「男性は外で働いてお金を稼ぎ、女性は家庭で家事や育児をになうのが本来あるべき姿」という日本人の男女の役割観、すなわちジェンダーがあったことは確かでしょう。たとえ企業で働いたとしても、女性は結婚すれば、あるいは結婚して子供を産めば、退社することが暗黙の了解でした。そのため企業も女性を重要な戦力とは見なさず、男性並みの賃金を払わなくてもよかったのです。そして、多くの女性のライフコースが「結婚して家庭に入ること」であった時代は、女性の側もこうした処遇の差を受け入れていました。

- 価値観の多様化と「女性の社会進出」 -
 このように「男性は会社で働き、女性は家庭を守ることが望ましい」としてきた日本のジェンダーですが、その後の社会の発展とともにこうした〝モデル〟は、少しずつ変化を見せはじめます。それは主に、女性の側の意識の変化となってあらわれてきました。「結婚して家庭に入ること」が〝普通の生き方〟なのだと考えていた女性たちが、時代とともに多様な価値観を持ち、今までとは違う生き方を求めるようになってきたのです。
 男性に頼り切るのではなく、経済的にも自立したい。家事や子育てだけでなく自分なりに打ち込める生きがいを見つけたい。そういったさまざまな理由から、多くの女性が男性と同じような本格的な職業、仕事を求めるようになり、それとともに企業側の姿勢も少しずつ変化し始めました。これには「男女平等社会」の実現に向けた国の諸施策だけでなく、市場での競争に勝つため優秀な人材を確保したいという企業側の思惑も大きくはたらきました。
 その結果、採用を男性に限る企業は減り、大部分の企業が女性にも門戸を開くようになりました。現在では多くの職場において、女性が以前よりもはるかに重要な役目を任されることも珍しくなくなっています。これがいわゆる「女性の社会進出」と呼ばれる現象です。

- 子供を産めば仕事に戻れない -
 ただし、このように女性の社会進出が進んだことで、日本のジェンダーの中身がまったく新しい形に進化したかというと、そうとも言い切れない面があります。これが端的にあらわれるのが「仕事と家庭」の問題です。
 社会に出て働く女性たちは、別に「結婚しない人生」を選んだわけではありません。職業人として働くことと、結婚して家庭を持つことの両方を望む女性は数多くいます。しかし結婚すること、というよりも「子供を産み、育てる」ことは、職業人としての生き方に大きく影響します。膨大な時間と労力が求められる子育ては、これまで通りに働き続けながらできることではありません。そのため子供を産んだ女性の多くは、仕事を辞め、子育てに専念せざるを得なくなります。
 そうした女性には、子どもがある程度成長して手がかからなくなったら、再び仕事に復帰したいと考えている人も少なくありません。しかし現在の社会には、そういった女性たちの願いを受け入れる体制が必ずしも整ってはいません。子育てが一段落して「さあ働こう」と思っても、パートタイマーのような、やり甲斐が少なく賃金も低い仕事しか見つからないのが現状です。こうした事情があるため、働く女性には「子どもは産みたいが、産めない」という人が増えています。これは個人にとってだけでなく、社会全体にとっても大きな問題です。
「男らしさ」「女らしさ」って何だろう? - 「仕事と家庭の両立」は女性だけの問題か -
 こうした問題を解決するため、最近では大企業を中心に、長期の育児休暇制度や企業内託児所の設置、元の職場への復帰保証など、女性の「仕事と家庭の両立」を助けるための仕組みが少しずつ整備されてきてはいます。しかし、実はこの問題には、「家事や子育ては女性の役目」という、〝伝統的〟なジェンダーが深く関わっているのです。
 「仕事と家庭の両立」は、女性の結婚相手である男性にとっても、同様に大きな問題のはずですが、男性の場合、女性ほどにはこの問題が深刻になっていないようです。「子育てに専念したいから」と会社を休む男性は極めて珍しく、いたとしても周囲の理解を得ることはなかなか難しいでしょう。それは、仕事をしないと経済的に苦しいという理由だけでなく、「男性は仕事が第一」「女性は家庭が第一」という昔ながらのジェンダーによる役割観が根強く残っているせいでもあります。
 「家事・育児は女性が果たすべき社会的義務である」などと法律に規定されているわけではありませんが、実際にはそうした考え方が多くの人々の行動に影響を与えていることは確かでしょう。そのために働く女性は、自分が個人として望む生き方と、社会から求められる役割の間で板ばさみになり、悩んでしまうのです。本当に「女性の社会進出」を認め、男女がともに生き生きと働き、家庭生活を送れる社会を作っていくには、女性の育児をサポートするだけでは十分ではありません。根本的には、そうした女性の悩みの背景にあるジェンダーのあり方そのものを、問い直す必要があると言えます。

- 多様な考え方を受け入れる社会に -
 繰り返しますが、ジェンダーには、正しいものや間違ったものがあるわけではありません。どのような社会にも、その社会なりのジェンダーが存在するはずです。
 ただし、現代社会においては、そのジェンダーがひと通りではなく、人によって、あるいは組織や集団によって、非常に多様なジェンダーのとらえ方が存在します。今の日本で男らしさ・女らしさ、あるいは、男性の役割・女性の役割などについて尋ねてみれば、実にさまざまな答えが返ってくることでしょう。そのように考え方が多様化しているにもかかわらず、ある特定のジェンダーだけをベースに社会の制度やシステムが決められているとしたら、理不尽な「押しつけ」を感じる人も多くなり、さまざまな混乱が起こって当然でしょう。
 これからの時代はグローバル化がさらに進み、世界中の多様な文化・価値観が日本社会にどんどん入ってきます。ジェンダーについても、さまざまな考え方の存在を認めることがさらに必要になってきます。その上で、現代の「男らしさ・女らしさ」とは何か、
〝伝統的〟とされてきたジェンダーをどこまで維持するのかといったテーマについて、開かれた議論ができる場を設け、一つひとつ決めていくしかありません。
 皆さんも、身の回りにある「男女の違い」や、自分にとっての「男らしさ・女らしさ」について、ぜひ考えてみてください。
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