いよいよスタートする裁判員制度【社会】

いよいよスタートする裁判員制度


 社会の多様化・複雑化などにともなって、司法制度の改革が叫ばれてきました。高校生が身近に感じているものとして、2004年に誕生した「法科大学院」が上げられます。とかく閉鎖的とされる「法曹界」に、多彩な能力を持った人や社会人にも門戸を広げようという趣旨で開設されました。この「法科大学院」とともに、大きな関心を集め、司法改革の目玉とされる「裁判員制度」が、この5月からいよいよスタートします。

いよいよスタートする裁判員制度 〓 6人の裁判員と3人の裁判官で刑事事件を判断 〓
【「裁判員制度」ってどんな制度?】
- 新設される裁判員制度に強い関心を! -
 新しく導入される裁判員制度では、20歳以上の日本国民であれば、一部の例外を除いて原則として裁判員に選ばれる可能性があります。「僕は裁判に興味がない」とか、「私は人を裁くのは嫌だ」と言う理由だけで拒否することはできません。皆さんもあと2~3年すれば裁判員の有資格者になるのです。裁判員制度を正しく理解し、国民に開かれた司法制度を構築する一員になりましょう。

- 国民が参加できる司法制度 -
 刑事裁判はこれまで裁判官、検察官、弁護人(法曹三者)という法律の専門家によって行われてきました。このため日本の裁判は、外国に比べて慎重でしかも正確だと高く評価されています。反面、裁判の長期化といった弊害や、正確さを重視するあまり国民に近寄りがたいイメージを醸し出していることも事実です。
 このため、国民が司法に参加する制度の導入が急がれていました。この結果、国民から選ばれた裁判員と法律の専門家である裁判官が、それぞれの経験や専門知識を生かしながら一緒に判断(裁判員と裁判官の協働)する司法制度、すなわち「裁判員制度」が導入されることになったのです。
いよいよスタートする裁判員制度 - 裁判員制度の仕組み -
 日本がこれまで実施してきた刑事裁判は、1人または3人の裁判官によって被告人が有罪か否かを検討し、有罪の場合はどのような刑にするのかを決めてきました。裁判員制度のもとで行われる刑事裁判では、3人の裁判官と6人の裁判員の計9人が刑事裁判の審理に参加し、証拠調べや弁論に立会い、合議のもとに判決を言いわたすことになります。

- 裁判員制度は日本独特のもの -
 刑事裁判に国民が参加する制度として、陪審員制度がよく知られています。アメリカやイギリスなどで採用され、映画やテレビなどで見た人も多いかも知れません。この制度は、有罪か否かの認定を事件ごとに選ばれた陪審員が行い、裁判官は法解釈と量刑を行います。
 ドイツやフランス、イタリアなどでは参審制を導入しています。裁判官と任期制で選ばれた参審員が、犯罪事実の認定や量刑とともに法律問題についても合議体を形成し、最終判断を行う制度です。
 日本が採用する裁判員制度とは、裁判官と裁判員が合議体を形成して判断するという点で参審制と同じですが、法律問題は裁判官のみで行うことや、任期制で参審員を選ぶという点で異なります。裁判員制度では、裁判員が量刑まで関わるため、陪審員制度とも異なる日本独自の制度になっています。


- どのような事件に参加する? -
 裁判は、日常生活を過ごす上で起こる金銭の貸し借りなどの法律上の争いを判断する民事裁判と、人を傷つけたり物を盗んだりした人を裁く刑事裁判に大別することができます。
 裁判員が参加するのは刑事裁判です。具体的には、表にあるような殺人、強盗致死傷罪、危険運転致死罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪などの重大な事件を扱います。
 平成19年には、地方裁判所だけで10万件近い刑事事件がありました。すべての刑事裁判に裁判員制度を導入すると、国民の負担が大きくなるため、国民の関心の高い重要な裁判に限って裁判員制度の対象になっています。
 また、日本は三審制を取っており、裁判員が裁判に参加するのは地方裁判所などで行われる第一審に限られています。
いよいよスタートする裁判員制度 〓 20歳以上の日本国民は、
            原則として誰もが有資格者に! 〓

【裁判員はどのように選ばれる?】
- 衆議院議員の選挙権(20歳以上)があれば有資格者に -
 裁判員には、衆議院議員の選挙権があれば、原則として誰でも裁判員に選ばれる可能性があります。選任の手続きは、表にあるように選挙人名簿をもとに裁判員候補者名簿が作成され、この名簿の中から一つの事件ごとに、裁判所の選任手続きによって選ばれます。
 裁判員の候補者になってもすべて裁判員になるわけではありません。担当する事件ごとに裁判員候補者がくじによって選ばれます。選ばれた人は、裁判所に出かけて裁判長から辞退希望などの質問を受け、最終的にくじで裁判員に決定されます。

- 希望しても裁判員になれない人がいる -
 原則として20歳以上の人は、裁判員の有資格者だと紹介しました。しかし、例外としてなれない人もいます。
 義務教育を終了していない人や禁錮以上の刑に処せられた人、心身の故障によって職務の遂行に著しい支障のある人などは裁判員にはなれません。
 国会議員や国の行政機関の幹部職員、司法関係者、知事・市町村長、自衛官、逮捕または拘留されている人なども裁判員の職務に就けません。
 また、当該事件の被告人や被害者本人、その親族などは不適格とされます。その事件の証人や鑑定人も当然除外されます。このほか、裁判所が不公平な裁判をする恐れがあると判断した人は裁判員になることはできません。

- 裁判所が認めれば辞退することができます -
 広く国民が参加する制度のため、原則として辞退することはできません。しかし、さまざまな配慮から、裁判所が認めれば辞退することができます。
 その例として、70歳以上の人、学生・生徒、地方公共団体の議員(会期中)、過去5年以内に裁判員や検察審査員などを経験した人などが辞退できます。さらに、やむを得ない理由があって裁判所へ行くことができない人となっています。
 しかし、やむを得ない理由について、親族の介護や仕事で損害が発生するなどさまざまなケースが報道されており、裁判所の判断に注目したいものです。

- 法律の専門的知識がなくても大丈夫 -
 裁判員に選ばれた人の中には「法律や裁判の専門的な知識がないから不安だ」という人もいると思われます。
 裁判員制度が目ざしているのは、国民に開かれた司法という点にあります。法廷で聞いた証人の証言などの証拠に基づいて、裁判員には「私の視点、私の感覚、私の言葉」で考え、意見を発表することが期待されているのです。
 審理の手法や手続き、判断にいたるまでの流れは裁判官から分かりやすく説明されるので心配はありません。
いよいよスタートする裁判員制度 〓 裁判員は、「私の視点、
              私の感覚、私の言葉」で参加 〓

【裁判員が裁判員裁判で行う仕事とは?】
- 裁判官と一緒に公判に参加 -
 裁判員に選ばれると、裁判官と一緒に刑事裁判の審理(公判)に出席します。テレビや映画等で目にした事があると思いますが、法廷の正面に3人の裁判官が座り、裁判員は左右に3人ずつ分かれて座ります。
 公判では、検察官の起訴状の朗読、弁護人や被告人の起訴状に対する意見陳述に耳を傾けます。検察官や弁護人が提出した、凶器などの証拠物やさまざまな書類を調べます。また、裁判官が証人や被告人に対して行う質問などに耳を傾けるだけでなく、裁判員自身も質問することができます。

- 非公開の評議・評決で活発な意見交換 -
 公判で得られた証拠などに基づいて、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合どんな刑を処すのかを、裁判官と一緒に議論(評議)し、決定(評決)します。非公開で行われる評議・評決では、それぞれが自由闊達に意見を述べ、最終結論へ進めていきます。全員一致の結論が得られない場合は多数決で行われます。ただし、有罪と判断するためには、裁判官・裁判員のそれぞれ1名以上を含む過半数の賛成が必要と決められています。


- 裁判員は判決宣言にも同席 -
 裁判官・裁判員の評議・評決の結果が、判決として被告人に言い渡されます。これをもって、裁判員の仕事は終わります。判決に対して被告人が不服の場合、上級(二審)の裁判所に不服の申し立てを行うことができます。さらに、二審の判決に憲法違反などが考えられる場合などは、三審の最高裁判所に不服を申し立て、ここでの裁判が最終のものとなります。
 これが日本の三審制の概略ですが、裁判員が担当するのは第一審の裁判に限られています。

- 裁判員が裁判に参加する期間はどのくらい? -
 裁判員制度の狙いの一つに、迅速な裁判が掲げられています。このため、裁判員裁判では、争点を絞った迅速な裁判が行われるように、裁判官、検察官、弁護人の三者があらかじめ事件の争点や証拠を整理し、審理計画を明確にするための手続き(公判前整理手続)が行われます。さらに、裁判員の負担を苦慮し、できる限り毎日裁判が行われるように計画されています。
 こうしたことから、試算によると約7割の事件が3日以内の審理で終わることができそうです。

- 裁判員に課せられる守秘義務 -
 裁判長が被告人に判決を言い渡すことで、裁判員の仕事は終わります。しかし、評議・評決の内容については裁判員に守秘義務が課されています。これは、非公開の席上で行われた評議の際、誰がどのような意見を言ったかなどということです。これが後で明らかにされると、批判などをおそれて裁判員が自由に率直な意見を述べにくくなります。
 さらに、記録から知った被害者など事件関係者のプライバシーに関する事柄、裁判員の名前などについても守秘義務の対象となっています。
 このように、裁判員の守秘義務は、裁判に参加している時はもとより、裁判員としての役割が終わった後も守ることが義務づけられ、これに違反すると刑罰が科せられることがあります。
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