読書が変わる? 紙の本が消える?【社会】

読書が変わる? 紙の本が消える?

 「20××年、紙の本が世界から消えて無くなる」。こうした話題が持ち上がるのも、いまや珍しくありません。紙媒体市場が不況にあえぐ中、賑わいを見せているのが電子書籍市場です。スマートフォンやiPadといった新しい端末の利用者が増えたことに伴って、電子書籍の売り上げは2015年度には2千億円に上るとの予測もあります。こうして電子書籍が注目される一方で、紙の本ならではの良さも再認識されています。電子書籍のこれまでの歴史を辿り、今後について考えてみましょう。

読書が変わる? 紙の本が消える? - 紙から電子へ。移り変わる書籍の形 -
 経済力の低下による節約、若者の活字離れや読書量の低下、情報メディアの移り変り…。さまざまな要因により、紙媒体市場は長い不況に苦しんでいます。書籍の売上は1996年の2・6兆円をピークに低落が続き、2009年には2兆円を割り込みました。全国の書店数は、過去10年で約3割も減少し、ハリー・ポッターなどのメガヒット商品が有るか無いかでその年の販売実績が大きく左右されるなど、不安定な状態が続いています。
 雑誌や新聞も定期購読率の低下が激しく、休刊や廃刊が相次いでいます。紙媒体の不況は、1990年代に普及したパソコンによってインターネットという情報メディアが発達し、私たちの生活環境が変化したことが一因です。
 一方、従来の出版形式に代わり、電子機器のディスプレイ上で読める「電子書籍」が存在感を増しています。電子書籍は紙の書籍と異なり、印刷や製本、流通にあたっての経費削減が可能です。さらに読み上げ機能や文字の拡大縮小など、従来の紙の書籍にはない可能性を秘めていることから、急速に普及していきました。

- 長い電子書籍市場成立への道。始まりは日本だった -
 電子書籍の原型は、1992年に日本のボイジャー社が発売したパソコンで読む3タイトルの本だといわれています。その後、2000年前後にインターネット利用が一般化したことによって、テキストファイルによるコンテンツの提供が増加していきます。
 例えば、電子図書館「青空文庫」は、著作権切れの文学作品などをテキスト化し、ネット上で閲覧できるようにしています。この頃、日本では携帯電話でもインターネットが利用できるようになり、「ケータイ小説」という電子書籍に近い形態のものが大流行しました。
 2007年には、アメリカのアマゾン・ドット・コムが、「キンドル」という読書専用端末を発売。紙の書籍に近い感覚で読むことができると話題になり、アメリカで電子書籍が急速に普及しました。2010年6月には、早くも500万冊の電子書籍がダウンロードされました。
 また、2008年には日本でスマートフォンが登場。2010年4月にはアップル社が、多機能端末であるiPadを発売しました。多機能端末はカラー液晶画面であるため、写真付きの雑誌などを視覚的にも楽しむことが可能です。
 電子書籍市場の成立のために求められていた、使いやすい端末、端末を超えて統一されたフォーマット、明確な課金システム、なにより質の高いコンテンツが各企業の努力により実現したことで、少しずつ暮らしに浸透したといえるでしょう。
読書が変わる? 紙の本が消える? - 消極的だった業界の動きとその変遷 -
 電子書籍の流通にあたっては、電子書籍の出版社が直接著作者から出版権を購入して販売するため、書店や紙の書籍を出していた出版社が大打撃を受けると予想されていました。加えて、紙媒体市場の縮小も懸念されたため、多くの出版社や書店で電子化反対の声が上がり、国内での電子書籍の普及はスムーズでなかったといえます。
 しかし、2010年のiPad発売とともに、アメリカの大手企業が日本市場への本格的参入を表明。これを受けて日本企業が重い腰を上げたことで、電子書籍の普及に向けた動きが加速していきました。
 2010年3月には、出版社31社による日本電子書籍出版社協会が設立されました。電子書籍事業の発展と問題解決のために協力し、著作権者の権利を護ると同時に、読者に便利な事業展開を目指したものです。また、同年6月には書店業界の大手である紀伊國屋書店が、電子書籍の販売開始を表明。9月には丸善も中国のIT企業グループと提携し、中国市場への電子書籍の売り込みを開始するなど、動きは一気に活発化していきました。

- 国が書籍の電子化の後押しを決定 -
 今年5月、出版物の電子書籍市場を拡大するために、国内の出版業界が連携して新会社「出版デジタル機構」を設立します。この新会社に対して、政府が9割を出資する官民ファンド「産業革新機構」が、総額150億円の出資を決定しました。
 現在、国内の電子書籍市場は650億円ほどで、その多くが携帯電話で読むコミックだといわれています。今後は、スマートフォンやタブレット端末の普及により、携帯電話からの利用者の移行が予測されています。2015年度には年間2~3千億円へと市場が急成長する見込みです。出版デジタル機構では、書籍100万点の電子化を目指しており、出版社から提供を受けた本を電子化して保管し、ブックライブのような電子書店などに卸売りする方針です。

- 書籍の電子化に伴う問題点とは -
 これまでの紙書籍では、印刷や製本、流通にあたっての経費などが出版社に重くのしかかっていました。電子書籍ではこれらの費用が削減できるため、紙の書籍よりも安く提供することが可能です。一見魅力的に映りますが、売り数を確保できなければ、収益の確保が難しくなります。これが、電子書籍全体の市場が見えにくいといわれる理由の一つとなっています。
 日本の出版社は、作家との間に正式な契約書を交わしていないことが多く、電子化にあたってさまざまな著作権の問題が浮上しているのが現状です。作家自らが、出版社を通さずに新作の電子版を発表するといった事態も発生し、大きな注目を集めました。また、著作権を無視した出版なども多く見られ、出版社と著作権者の間で新たなルールを作る必要性があるでしょう。
 一方で、紙の書籍のページをスキャナーで読み込み、PDFファイルにして自分で電子書籍を作る「自炊」と呼ばれる行為も問題となっています。著作権法では、「私的複製」については基本的に問題になりません。しかし、紙の書籍を送れば、比較的安価で電子書籍化してくれる業者も出てきており、法律に触れるかどうかが議論になっています。このように、書籍のスムーズな電子化には、まだまだ多くの問題が多く残されているのです。
読書が変わる? 紙の本が消える? - 教科書も次世代へ。教育現場への影響は? -
 電子書籍が注目される大きな理由に、「新しい読書体験」があります。動画やインターネット上の関連情報へリンクできるほか、視覚障害者への読み上げ機能、視力が低下したお年寄りが文字を拡大できるなど、紙の書籍では不可能とされるさまざまな機能に期待が高まっています。
 文部科学省は2012年、最先端の情報通信技術を応用した電子教材「デジタル教科書」の学校現場導入に向けて、本格的な検討に入る方針を固めました。目的は、映像や音声などを駆使して新しい教育手法を開発し、双方向性という特色をもつ「次世代教科書」として学習指導に生かしていくものです。電子機器端末の利用は、興味・関心の向上や知識の定着に効果的という調査結果も出ており、今年3月、佐賀県や徳島県の一部の市がデジタル教科書の導入を表明しています。
 しかし、いじめや盗難などによる電子機器端末の紛失や故障、データの損失などに対する懸念の声も多く聞かれます。読書としての端末利用でも同じことがいえますが、書籍を電子化する問題の一つに、データの脆弱性があります。何らかの衝撃で、保存していたデータが壊れてしまったら?電子機器端末の不具合で、授業が中断してしまったら?バージョンアップについてはどうする?などの問題があげられます。
 また、画面上ならではの読み流しやすさによって、考える力が低下しないのか?視力の低下や眼精疲労の心配は?などについても、今後の動きが注目されています。

- 海外と国内で異なる電子書籍の広まり -
今年4月、米調査機関ピュー・リサーチ・センターが発表した統計によると、アメリカで過去1年間に電子書籍を読んだことのある人の割合は、18歳以上の人で21%という数字が出ています。さらに、2016年までには国民の4分の1が電子書籍端末を持つようになると予測されています。今年の電子書籍の売上高は、昨年のおよそ2倍となる35億5000万ドルに達すると見られており、普及は勢いを増しています。
 一方、日本の電子書籍市場は、統計を取り始めた2002年はわずか10億円ほどだったのが、現在では650億円と、アメリカをも凌ぐ成長ぶりを見せています。しかし、その広まりを実感している人は少ないのではないでしょうか。
 日本でも、iPadなどのタブレット端末が広まりつつも、こうした端末の位置づけについてはアメリカと明確な違いが表れています。電通総研が行った調査によると、タブレット端末上でどんなメディアを利用しているか?という問いに対して、電子書籍と回答したのは米国が35・2%だったのに対し、日本では5・9%と大きな差が見られます。
 この調査では、電子書籍の普及に伴う紙の書籍や雑誌の購読数に、マイナスの影響が確認されなかったという興味深い結果も出ており、紙と電子の両書籍が共存できる可能性が示されたといえるかもしれません。
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