東京大が5年後を目標に 秋入学を検討【社会】

東京大が5年後を目標に 秋入学を検討

 入学時期についての在り方を検討してきた東京大学が1月20日、これまでの4月入学を廃止し、5年後を目途に秋入学に全面移行するという素案を発表しました。4月には、京大や阪大、早稲田、慶応など有力11大学とともに協議会を設置し、移行を円滑に行うためにさまざまな角度から意見交換を行っていく予定です。しかし、まだ秋入学に慎重な大学も多く、移行が決まったわけではありません。それは、入試から入学までの約半年に及ぶ空白期間の対応、就職面などでも克服すべき問題が数多く残されているからです。
 こうした問題を含みながらもなぜ今、秋入学が打ち出されたのかを考えてみましょう。

東京大が5年後を目標に 秋入学を検討 - 夏休み明けの秋入学が世界のすう勢 -
 桜の咲く春4月、新入学や新学年を迎えるというのが日本の風物詩となってきました。ところが世界を見回すと、表にもあるように世界の7割を超える国々が秋入学となっています。 なかでも、世界の主要国とされるアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、イタリア、フランス、ロシア、中国などは9月に新入学や新学年を迎えます。オーストラリアやニュージーランドは1~2月、ブラジルでは2月に新学年になりますが、これは南半球にあるため季節が逆になり、やはり夏休み明けに新学年を迎えます。日本と同じように春に新学年を迎えるのは、3月の韓国、5月のタイ、6月のフィリピンなど東南アジアの国々に目立ちます。多くの国々が9月を新学年としている理由として諸説ありますが、中世イギリスの大学制度にならったのではないかと考えられています。当時、学生は農作物の収穫を手伝うという習慣があったため、農作物の収穫の時期に合わせて入学式が行われたという説が有力です。
東京大が5年後を目標に 秋入学を検討 - 日本の春入学は大正時代から -
 日本では1877年(明治10年)に、東京開成学校と東京医学校が合併して東京帝国大学、現在の東京大学が誕生しますが、学年の始まりは欧米にならって9月が新学期となっていました。他の旧制高等学校や大学も9月入学となっていました。
 しかし、1921年(大正10年)に入学時期が4月に変わります。これは、国の会計年度の始まりが4月で、国からの補助金を必要とする学校は国の会計年度にあわせる必要が出てきました。また、軍隊が新兵募集を4月に行っていたため、9月入学では優秀な学生が軍隊に入隊してしまう恐れなどから変更となったのです。
この結果、明治時代半ばから小中学校、師範学校などが順次4月入学に統一されていったため、大正10年からすべての学校が4月入学と足並みを揃えることになりました。

- 国際化に対応できる大学をめざして -
 世界のすう勢は、紹介したように秋入学を導入している国が多数を占めています。政治・経済など私たちを取り巻く諸問題は、グローバルな視点なくして対応できない時代に入っています。教育・学問の世界でも、世界の大学・学生と切磋琢磨しながら研究を深化させなければ国際化に立ち遅れてしまいます。こうしたことから、秋田の国際教養大学や上智大学、早稲田大学、九州の立命館アジア太平洋大学などでは一部の学部で秋入学制度を導入しています。しかし、外国人留学生が多い国際教養学部などごく一部に限られた取り組みで、今回のような大きな動きとして取り上げられませんでした。戦後の経済成長を支えてきたのは、日本の優れた「科学技術」であり、世界に類を見ない「モノづくり」にあったといえます。しかし、今日の日本は先進諸国との厳しい競争にさらされる一方、途上国から激しく追い上げられているのが実情です。こうした日本の現状に危機感を抱き、打破する一つの手段として秋入学が検討されているのです。

- 秋入学のメリット・デメリット -
 秋入学を導入すれば、国際的な学期とスケジュールが合致するため、海外からの留学生が増えるとともに大学の国際化が進みます。さらに、海外の大学や研究機関などと交換留学や協力関係を結びやすくなります。大学キャンパスに優秀な海外の留学生を受け入れることで、学内は国際化・活性化し、教育・研究成果の向上が望めると期待されています。学生にとっても、春に入試を受けた後、大学入学までの空いた期間を海外留学やボランティアなど多様な経験を積むことで、社会的キャリアを高めることが可能です。
 反面、この期間をすべての学生が有意義に過ごすとは考えられません。受験競争を乗り越えた学生が、無意味に半年間を過ごすことがないようにケアしなければならないなど克服すべき問題も数多くあります。
 現在、秋入学を検討しているのは東大などの有力大学が中心で、他の大学の多くはまだ秋入学にどう対応するか態度未定となっています。実際、東大が素案を発表した直後の調査では、肯定的に捉える大学に比べて不要や未定という大学の方が上回っています。なかでも、国家試験と直接関係する医療分野や教員養成分野などでは秋入学には慎重です。
 卒業生を受け入れる企業も、一部通年で採用する企業もありますが、大半は春卒業を前提に新卒採用のスケジュールを組んでいます。このため、企業の理解を得ないと卒業してから就職までの間にブランクが出来てしまいます。幸い、世界との競争を意識した企業が増えており、秋入学という今回の取り組みを歓迎する企業も少なくありません。

- 他の分野にも大きな影響を及ぼすか? -
 秋入学への移行という東京大学の素案は、大学のみならずそこで学ぶ学生、卒業生を受け入れる社会に大きなインパクトを与えることになりました。
 現在、半数を上回る大学が態度を明確にしていませんが、東大をはじめとする主要大学が正式に移行すると、続々と秋入学が大学の主流になる可能性があります。企業も国際感覚に秀でた人材確保をめざしていますので、採用方法も自ずと変わって来ると思われます。大学入試はこれまで通り春に行なわれるため、現在のところ皆さんに直接関係しないと思われます。しかし、大学では世界を視野に入れた教育・研究に移行しているため、高校時代から世界を意識しながら学ぶ必要がありそうです。
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