日本の明日を支える知的財産権【社会】

日本の明日を支える知的財産権


 「財産」といえば、皆さんは何を思い浮かべますか。多くの人は、お金や家、土地など、形のあるものを思い浮かべやすいものですが、今日のビジネス社会では「知的財産」と呼ばれる、形のない財産が注目を浴びています。
 知的財産とは、人々の知的な活動を通して生み出された発明、デザイン、著作物など、非常に価値のあるものや情報のことです。これらの知的財産が「知的財産権」と呼ばれる権利で保護されることで産業や文化が発展し、私たちの生活は豊かで便利なものになりました。しかし、近年のインターネットの発達などで、知的財産権の侵害が深刻な問題となっています。
 日本は他国に比べて天然の資源が乏しく、世界に対抗していくためには、唯一無二の財産といえる知的財産の保護と活用が欠かせません。世界最先端の知的財産立国を目指している日本で今、どのような取り組みが行われているのかを知り、問題点や将来性を考えてみましょう。


【無形の財産を保護する「知的財産権」】

日本の明日を支える知的財産権 - 人間の創造力は宝物 -
 いつも手にしている携帯電話や、何気なく見ているテレビ、外出には欠かせない自動車や電車、有益な知識を与えてくれる書物、心地よい気持ちにさせてくれる音楽・・・。私たちの暮らしは便利なもので溢れ、快適な生活を楽しむことが可能になりました。
 「もっとこんな生活がしたい」「こうしたらもっと便利じゃないか」といった人々の思いや知恵は、世に数多くのアイデアや技術を生み出し、私たちの生活をより豊かなものにしています。
 人々の知的な活動を通して生まれた発明や著作物など、人類共通の財産(知的財産)を保護する権利を「知的財産権」といいます。
 もし、あなたが長い苦労や努力の末に生み出したアイデアや技術が、誰かに簡単に真似され、勝手に売り出されたらどう思いますか。悔しさや悲しさ以上に、新しい創造物を生み出そうとする意欲がなくなり、やがては経済や文化の発展を妨げてしまいます。
 こうした事態を防ぐため、知的財産権によって人類共通ともいえる財産の価値を保護する必要があるのです。
日本の明日を支える知的財産権 - 法の下で多角的に保護される知的財産 -
 知的財産権とは、知的財産基本法によって保護・活用されている権利の総称で、「特許権」「著作権」など、左の表に見られるようにさまざまな種類があります。
 この中に、産業の発展を図ることを目的に制定された「特許権」「実用新案権」「意匠権」「商標権」という権利があります。これらはまとめて「産業財産権」と呼ばれ、特許庁に申請して認められることで権利が確保されます。
 一つの製品に、いくつかの産業財産権が掛かっている場合もあります。音楽プレイヤーのイラストを例に見てみましょう。液晶画面などの高度な技術や発明は「特許権」、使いやすさなどを考えたヘッドフォンの形状は「実用新案権」、愛着の湧くスタイリッシュなデザインは「意匠権」、信頼の証ともいえるブランドのロゴマークなどは「商標権」でそれぞれ保護されています。
日本の明日を支える知的財産権 - 「著作権」は誰もが持つ申請不要の権利 -
 産業財産権が産業の発展を支える一方で、文化の発展を図ることを目的に制定された「著作権」があります。
 著作権とは、映画、音楽、文化、学術、美術、プログラムなど、人々の思想や感情により表現された創作物を保護するための権利です。私たちの生活において、誰もが持ち得る身近な知的財産権だといえるでしょう。写真を撮ればその写真に、絵を描けばその絵に、音楽を作曲すればその曲に、そしてこの文章にも、著作物を創作した時点で自動的に権利が発生します。そのため、産業財産権とはとは異なり申請や登録の必要はありませんが、文化庁で登録を行うことで権利関係を公にすることも可能です。
日本の明日を支える知的財産権 【経済の発展を支える特許権とは】
- 意外にも身近な特許の数々 -
 知的財産権の中で、世界中の企業が多大な関心を寄せているのが「特許(権)」です。特許は、物や方法の発明を保護し、発明者に一定期間の利益の独占権を与えるもので、特許庁に申請し、厳しい審査に合格・登録されることで権利が発生します。
 特許を取得すると、その技術やアイデアは特許権の所有者に黙って勝手に使用することができなくなります。
 例えば、アイス売り場で見かける定番商品に、お餅の皮の中にアイスを忍ばせた大ヒット商品があります。しかし、同じような商品が異なるメーカーで発売されているのを見かけることはありません。これは、最初に製造開発した会社(メーカー)が特許を申請・取得しているため、他社が真似できないからです。
 また、特許について有名な話の一つに、主婦が考えた「洗濯機の糸くずとりネット」があります。洗濯物に糸くずやゴミが絡む日常の「不便・不快」を「便利・快適」に変えるアイデアで、数億円の特許使用料を受け取り億万長者になりました。
 ほかにも、東日本大震災後の節電対策で注目が集まる、長寿命電球に使用されている「LED」、ポキッと折るだけで切れ味が復活する「カッターの刃」など、私たちの生活空間はあらゆる特許で溢れています。

- 最新技術の共有で財産の活用促進 -
 日本では、特許に「先願主義」というシステムを採用しており、同じ発明であっても先に申請した人に権利が与えられます。特許は一定の期間が過ぎると、誰でもWEB上で閲覧が可能な「特許電子図書館」に公開されます。特許電子図書館には、約4800万件に及ぶ産業財産権関連をはじめとした情報が収蔵されています。こうした最新のアイデアや技術の共有により、特許権を持つ人の利益を保護するとともに研究や開発の重複を防ぐ目的があります。
 また、特許は申請から20年(一部は25年)が経過するとその権利を失い、その発明や技術は共通の財産として自由に活用されることが可能になります。
 代表的なものでは昨年、新薬(先発医薬品)の特許切れが相次ぎ話題となった「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」があります。特許が切れた医薬品を他社が製造・供給することで、従来と同じ効能・効果を持つ医薬品が安価に手に入るようになりました。

- 社会を活性化する知的創造のサイクル -
 『発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする』。特許法第一条の条文にもあるように、特許制度の目的は産業の発展にあります。
 発明者が苦難の末に生み出した知的財産に独占権を与え、そこで得た利益を元手にまた新しい研究開発に取り掛かり、より良いアイデアや技術を生み出すことは、産業や経済の発展の足掛かりとなります。このような仕組みを「知的創造サイクル」と呼びます。特許制度の持つ役割は、このサイクルをつくることといっても過言ではないでしょう。
日本の明日を支える知的財産権 - 世界トップレベルの特許大国日本の現状と課題 -
 日本での特許出願件数は年間約35万件に上り、世界トップクラスの出願数を維持し続けています。
 今年2月、世界知的所有権機関(WIPO)が特許協力条約(PCT)に基づく2010年の国際特許出願状況の速報値を発表しました。それによると、2010年の世界全体の国際特許出願件数はおよそ16万2900件で、国別出願件数トップの米国の4万4855件に続き、日本は3万2156件と2位につけています。
 特許には「国内出願」と「国際出願」がありますが、最近の動向としてはグローバル化を反映して、日本以外の国で特許を取得できる国際出願が増えています。
 これまで、天然資源の少ない日本では、海外の技術や文化を取り入れながら発展を続けてきました。国外で日本の特許が認められることは、日本独自の個性や勤勉さを生かしたアイデアや技術を世界にアピールする絶好の機会となります。
 最近では、京都大学の山中伸弥教授が開発したiPS細胞(新型万能細胞)の作製技術に関する特許が欧州の特許庁で成立しました。また、太陽光発電などの再生エネルギーにおける、世界各国で出願された4700件の特許のうち55%を日本が占めて世界最多!とのニュースが報じられたばかりです。

【日本における「知的財産権」の確立】
- 時代の変化に対応した法改正 -
 日本で知的財産についての認識が高まったのは2002年、当時の小泉首相が、「知的財産立国」を宣言し、知的財産基本法を成立させてからのことです。日本の「ものづくり」の力を維持するため、大学や企業などで生まれた科学技術の成果を特許化し、外部へ簡単に流出させない仕組みづくりを目指しました。
 このように、世界最先端の「知的財産立国」への挑戦を続ける日本では、刻々と移り変わる時代の流れを汲み取り、変化に対応していくことが重要になります。今年6月には、近年の技術の高度化や複雑化にともない、社外の技術を活用して研究開発や製品化を行う「オープン・イノベーション」の進展を受けて、特許権が一部改正されることが公表されました。
 この中で、企業が社外の技術を活用するために必要であるライセンス契約の保護強化や、共同研究開発による成果の適切な保護、中小企業などのユーザーの利便性向上を目的とする減免制度、近年の知的財産をめぐるトラブルの増加に対応した審判制度の見直しが行われています。
 2009年には著作権も改正されており、インターネットの利用による著作物利用の円滑化や、違法著作物の流通抑止、障害者の情報利用機会の確保など、時代の流れに沿った改正が必要とされています。

- 知らずに侵害しやすい知的財産権 -
 世界中で生み出されている知的財産は、日常生活のさまざまな場所に存在し、侵害されやすいという問題を抱えています。
 最近ではマンガの受賞作品が、既存作品のセリフを盗用していたことが発覚しました。また、一般公募で採用された消費者庁のシンボルマークが、商標登録済みの海外団体のマークと酷似していたため、差し止めが行われたばかりです。
 学校で使われる国語の教科書なども、引用されている作家や評論家の文章には著作権があり、いずれも著作者の了解のもとで使用しなければなりません。ただし、入試問題などで公表された著作物を複製する場合は、著作者の許諾を得なくてもよいと著作権で定められています。
 近年のインターネットの普及により、ワンクリックで画像や音楽などの著作物が簡単にダウンロードできるようになり、コピー製品の横行や著作物の無断使用は避けて通れない問題となりました。私たちも無意識のうちに権利を侵害してしまう危険性を知り、個人個人が人類共通の財産を守る意識を持つことが大切です。

- 大震災復興の要に!「クールジャパン」の推進へ -
 現在、日本では国際競争力強化を目指して、知的財産をベースにした「クールジャパン(素敵な日本)」推進という、新しい試みが起こっています。グローバル時代の到来で世界との垣根が取り払われてくると、その土地・地域にしかないものの価値が高まるようになります。
 日本独特のハシ、タタミ、着物、日本食、全自動トイレ、そして現代のアニメやマンガ、ファッションにいたるまで、文化や伝統、技術などさまざまな分野が海外から注目されています。
 政府は2010年10月にクールジャパン推進に関する連絡会議を立ち上げ、海外に通用する価値である「クールジャパン」の発掘・創造、発信に国を挙げて取り組んでいます。
 日本の良さを再認識することは日本全体のイメージを高め、新たな経済成長の原動力になるでしょう。東日本大震災で信頼が揺らいでいる日本のブランドイメージの回復が、日本のファンや訪日外国人を増やし、震災復興の加速化にも役立つとも考えられています。

- 日本の高校生も、特許多数取得中! -
 特許取得は、企業や大人だけのものではありません。岐阜県の工業高校生が、パンク時にチューブを簡単に交換できる「チューブ簡易交換自転車」で、愛知県の農業高校生が四角のメロン「カクメロ」でそれぞれ特許を取得するなど、高校生も多くの特許を取得しています。
 2002年から特許庁などが、全国の高校生、高等専門学校生や大学生を対象に、知的財産に対する意識と制度への理解向上を目的とした「パテントコンテスト」を実施しています。実際に特許や意匠の制度を利用して権利取得までを体験でき、特に優れた発明やデザインを選考・表彰しています。今年1月までの応募総数は1635件で、54件が特許として登録されました。我こそは!という方は、ぜひ一度挑戦してみてはいかがでしょうか。

◆特許庁の役割を知ろう
 特許庁(Japan Patent Office)とは、経済産業省の外局にあたる日本の中央省庁の一つで、特許権、実用新案権、意匠権、商標権を総称した産業財産権の審査及び審理を行っており、総務部、審査業務部、特許審査第一部~第四部、審査部から組織されています。初代特許庁長官は高橋是清(1854〜1936年)で、商標権や特許制度の制定に尽力した人物として知られています。
 特許庁の主な役割としては、①産業財産権の適切な付与、②産業財産権施策の企画立案、③国際的な制度調和と途上国協力の推進、④産業財産権制度の見直し、⑤中小企業・大学などに対する支援、⑥産業財産権情報提供の拡充などがあります。
 日本国内外において、知的財産権をめぐる情勢は様々に変化し続けています。なかでも、産業技術の発展と国民生活の向上のために欠かせない産業財産権は、21世紀の日本においてますます重要になると考えられており、変化に応じた柔軟で積極的な対応が求められています。

◆知的財産のエキスパート「弁理士」とは
 弁理士とは、特許庁に特許など産業財産権の出願、登録出願の代理や知的財産に関する異議申し立ての代理、また特許庁の審判に対して取り消しを求めるため裁判所への訴訟代理も行うことができる有資格者のことです。
 世界中で知的財産の保護意識が高まり、数多くの訴訟が行われている今日、知的財産のエキスパートである弁理士の存在がクローズアップされています。現在日本には約9000名の弁理士がいますが、年間35万件にも達する特許出願数を適切に処理するには不足しています。このように弁理士のニーズは高く、希少価値が高い国家資格となっています。
 弁理士の資格は、毎年1回行われる弁理士試験に合格しなければなりません。弁理士試験は難易度の高い国家試験であり、これに対応するため知的財産について専門的に学べる学部・学科を持った大学が増えています。こうした動きは、知的財産に関する注目度の高さを反映しているともいえるでしょう。

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