ストップ!児童虐待 子育てを社会全体で支援しよう【社会】

ストップ!児童虐待 子育てを社会全体で支援しよう


 ここ数年、警察に摘発されるなど事件化する児童虐待は年間300件を超え、死亡する児童は50人を上回っています。ほぼ一週間に一人以上が虐待で亡くなっているという深刻な状況です。2000年に「児童虐待法」が施行された後も、死亡件数は増え続けています。その中には、マスメディアで大きく取り上げられるような悲惨な事件がいくつも起こりました。一方で、地域ぐるみで児童虐待防止に活発に取り組んだり、児童福祉法の見直しが行われるなど、現状を何とか改善しようという動きも現れています。
 現在、児童虐待防止の活動でよく知られているのが、2005年から始まったオレンジリボン運動です。学校の掲示板や街なかのポスターなどで、シンボルであるオレンジリボンのマークを、目にした人もいるでしょう。「社会全体が子どもはもちろん、その親をも見守り、子育てにやさしい社会を作ることができれば、児童虐待の防止につながっていく」という理念に支えられたオレンジリボン運動は、子育てを社会で共有しようとする取り組みです。
 高校生のみなさんにも無関係ではない「子どもの人権」や「子どもの安全」。痛ましい児童虐待の実状を知り、オレンジリボン運動を通して、自分たちにもできることを考えてみませんか。

ストップ!児童虐待 子育てを社会全体で支援しよう - 2004年の小山市の虐待死事件がオレンジリボン運動の始まり -
 オレンジリボン運動が始まる発端となったのは、2004年に栃木県小山市で起こった兄弟殺害事件。3歳と4歳の兄弟が、父親の知人の男によって暴行を受けた後、橋の上から川に投げ込まれ死亡した事件です。事件前に、男が暴行をしている様子を目撃したコンビニエンスストアの店員が警察に通報しており、子どもたちは一旦児童相談所に保護されていました。ところが、それを知った父親が連れ戻して、再び男に預けたため、殺人という最悪の結果になってしまったのです。ちなみに、男は子どもたちの父親に勝手な振る舞いをされたため、その腹いせに二人に危害を加えたと供述しています。
 この事件には、児童虐待の問題点がいくつも含まれています。まず、死に至らしめた知人の男の残虐な行為。実の父親の育児放棄。そして、警察や児童相談所が介入しながら、事態の深刻さを見抜けず、二人を父親に引き渡してしまったという不適切な処置。特に、児童相談所の対応は悔やまれます。虐待の事実が歴然とあるにもかかわらず、十分に調査もせず、父親というだけで安易に帰してしまったからです。もし、そこで子どもたちを引き続き保護していたら、幼い命を奪われることはなかったでしょう。本来、児童相談所には、子どもを親から引き離し、保護する権限があるのですから、虐待への認識が甘かったと言わざるを得ません。子どもへの暴行を犯罪と考えず、軽いものとして対処していたことがわかります。 小山兄弟殺害事件が起こった翌年、「児童虐待ゼロのまちづくり」を目指して、地元のボランティアサークル「カンガルーOYAMA」が、オレンジリボン運動をスタートさせました。その後、児童虐待防止全国ネットワークが中心となり、全国規模の活動へと発展させました。現在では内閣府や文部科学省、厚生労働省、新聞社などが後援し、官民あげてのプロジェクトに育っています。

- 世論の高まりを受けて法改正が進む「児童虐待防止法」 -
 今年に入ってからも、1月には生後3ヵ月の息子に両親が暴行を加えて死亡、3月には3歳の息子を母親と同居の男がゴミ袋に入れて窒息死、5月には継父が2歳の娘の頭部を打撲して重傷を負わせる、など親や同居人による虐待事件が起こっています。
 もともと日本では体罰や折檻に対して、「しつけや家庭教育の一環」という考えが根強く、虐待する側の罪悪感が薄い風潮にありました。さらに、近隣の対人関係が希薄になる中で家は密室と化し、プライバシー保護の観点からも、他人の家庭に関わるという意識が薄れていきました。そのため、親子間のやりとりの実態がわからず、虐待は「家庭」という壁に阻まれて他人からは見えにくくなってしまいました。
 そんな状況を危惧して制度化されたのが、2000年5月に成立した「児童虐待の防止等に関する法律」(児童虐待防止法)です。それまでも日本には「児童福祉法」が定められており、子どもの虐待に関しては、「虐待を発見した者の通報義務」「虐待が行われている場所への専門機関の立ち入り」「虐待を受けた子どもの保護」などが盛り込まれていました。しかし、具体的な罰則もないため形骸化し、行使されることは極めて稀でした。それどころか、大半の国民は、児童福祉法にそのような項目があることを知りませんでした。そこで、これらを「生きた条例」にすべく、一歩踏み込んだのが「児童虐待防止法」です。
 「児童虐待防止法」は、児童福祉法では曖昧だった点を、より具体的に表現し、関係者たちが施行しやすいように改めています。まず第二条において、虐待の定義が明文化されました。それは次の四つの行為です。
一、児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二、児童にわいせつな行為をすること、又は児童に対してわいせつな行為をさせること。
三、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、又は長時間の放置。その他保護者としての監護を著しく怠ること。
四、児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
 このように、児童虐待に対する法令は厳格化しましたが、まだ内容が不十分として、その後も数度の法改正が行われています。例えば、「虐待を受けた」という証拠がなくても、「虐待を受けたと思われる」だけでも通報の義務が生じる、保護者だけでなく同居人の行為も該当する、子どもの前での夫婦間暴力なども心理的外傷に含む、などです。
ストップ!児童虐待 子育てを社会全体で支援しよう 親を孤立化させない。社会全体で親子をサポートする。
虐待の芽を摘むのは、開かれた子育て


- 11月には厚生労働省が中心となってオレンジリボンキャンペーンを展開 -
 オレンジリボン運動は、シンポジウムや集会を開き、法改正へ積極的に働きかけ、法改正への一翼を担っています。また児童虐待防止への関心を高めるために、オレンジリボンをシンボルとしたグッズ配布やイベント開催を定期的に行っています。
 11月は、厚生労働省が定める「児童虐待防止推進月間」です。この期間は、厚生労働省を中心に、各都道府県でもさまざまな取り組みが行われますが、その一環としてオレンジリボンキャンペーンが展開されます。みなさんの住む地域でも、ポスターなどでオレンジリボンのマークを目にすることが増えるかも知れません。そんな時は、児童虐待を自分に無関係な問題とせず、「子育て」「子どもの人権」「人のつながるあたたかな社会」などについて、考えるきっかけにしてほしいと思います。さらに積極的に協力してみたいと考えるなら、オレンジリボン運動のホームページなどを閲覧してみるのもよいでしょう。


ストップ!児童虐待 子育てを社会全体で支援しよう - 身体への暴力よりも最近増加している「ネグレクト」 -
 さて、ここで児童虐待の現状について、考えてみることにしましょう。グラフにあるように、虐待死した子どもの数はわずかな増減はあるものの、大枠では増加傾向にあります。児童相談所における、児童虐待の相談件数も増える一方です。これは、「育児の悩みは児童相談所へ」という広報活動が実を結んだと言えるでしょうし、「発見者にも通報義務がある」ということが、多くの人に認知されたため、周囲の人からの相談が増えたことも一因でしょう。皮肉なことに、悲惨な児童虐待事件がマスメディアを賑わすと、児童相談所への相談件数が増えるようです。
 ところで、虐待というと、まず身体への直接的な暴力を思い浮かべるでしょう。しかし、グラフを見てもわかるように、ここ数年は育児放棄=ネグレクトが、身体的虐待の数を上回っています。ネグレクトとは、ご飯を食べさせない、不潔な環境に放置する、病気にかかっても看護しない、学校へ行かせない、など、親が果たすべき育児行為をしないことです。昨年の夏には、若い母親が、大阪市内のマンションに3歳と1歳の子どもを監禁状態にしたまま放置し、餓死させた事件がありました。
 ネグレクトは、密室で一人で育児をしている母親の閉塞感、孤独感が大きな理由といわれます。子育ての相談をする人もなく、24時間、子どもと向き合うストレスが、育児に対する拒否へとつながっていきます。昔なら祖父母との三世代同居であったり、濃密な近所付き合いの中で、子どもは母親だけでなく、地域みんなで育てるという生活風土がありました。そのような環境では、例え体罰であってもあまりひどい仕打ちはできず、誰かが叱れば、誰かがなだめるというふうに、どこかに救いのある子育てでした。しかし現代は、育児の担い手は、ほぼ親に限定されています。核家族化、少子化が進む中で、子育てを取り巻く環境は、ますます過酷になっているのが現状です。

- 高校生の頃から子育てに関わることが虐待防止への一歩 -
 もちろん、どんな環境下においても、児童を虐待することは許されません。親の未熟さ、身勝手、育児への無知・無関心もあるでしょう。しかし、そこに救いの手を差し伸べ、話を聞く協力者がいるだけで、虐待に陥る手前でブレーキをかけることができるのです。
 虐待する親自身も、罪悪感や挫折感を感じ、深く悩んでいるといわれます。子どもを愛しながらも、思い通りにならない子育てに苛立ち、怒りがエスカレートして暴行や無視を引き起こしてしまう。核家族で子どもに接する機会が少ないがため、育児をリアルにイメージできないまま親になる人が増えています。
 最近では、高校生や中学生に、子どもとふれあう楽しさや大変さを疑似体験してもらおうと、子育て体験を学校活動に取り入れるところも増えてきました。またボランティアで学生が子育てに参加したり、宿題を教えたりする取り組みも見られます。このように学生時代から子どもと接することで、子どもに対する理解や、子育ての大変さへの共感は深まっていきます。これらの活動は、幼い子どものためだけでなく、学生にとっても意義のあることでしょう。子どもと積極的に関わることが、児童虐待防止への第一歩です。
【ご存じですか?さまざまなリボン運動】
オレンジリボン運動だけではありません。現在、各テーマに添っていろんな色の運動が展開されています。

■ピンクリボン運動
- 乳がんの早期発見・早期診断・早期治療を呼びかける -
 およそ16人に1人の日本人女性が、乳がんにかかると言われています。乳がんは早期発見すれば治癒する可能性が高いにもかかわらず、乳がん検診の受診率は約20%。この受診率を上げるために、早期発見・早期診断・早期治療を訴え、乳がん検診の重要性などをアピールしています。
■レッドリボン運動
- エイズへの正しい理解と啓蒙を促す -
 エイズに対する偏見を払拭し、エイズに苦しむ人々への理解と支援を示す運動。エイズへの正しい情報を発信し、チャリティコンサートなどを開いています。
■グリーンリボン運動
- 臓器移植医療の普及を目指して -
 移植医療についての正しい情報を伝える運動。臓器移植についての理解を深め、一人ひとりが命について考え、話し合うことで、よりたくさんの命が救われる社会を目指します。
■ブルーリボン運動
- 北朝鮮拉致被害者の救出と支援活動を推進する -
 1997年の拉致被害者家族会の結成を発端に、全国各地の「救う会」が生まれました。その救う会の活動を全国規模に押し上げたのがブルーリボン運動です。拉致問題を風化させず、拉致被害者の救出を求めて働きかけています。
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 これらはほんの一例で、世界中には数多くのリボン活動が存在しています。また、同じ色のリボン運動でありながら、国によって活動内容が異なることがあります。また日本国内においても、同じ色のリボンが複数の意味を持つ場合もあります。例えばイエローリボン運動とひとくちに言っても、「障害者の社会への自立支援」「いじめの撲滅」「東日本大震災復興支援」など複数の運動のシンボルになっています。
 リボン運動の元になる「リボン」はアウェアネスリボンとも呼ばれ、問題に対する関心を高める象徴であり、「気づき」のリボンとも言われます。リボンの存在を感じることで、自然とその問題に対する興味が喚起されるということです。またリボンシールを持ち物に貼るなど、身近にリボンを付けることで「私はこの問題に対して関心があります」という、社会へのアピールにもなります。リボンは「結ぶ」という意味を持ち、決して強制的ではなく、さりげなく社会に対して問題を喚起するにはぴったり のモチーフなのでしょう。
 なお、このリボン運動の始まりは、戦争に出かけた夫に向けて、無事の帰還を願った妻が、黄色いリボンを目立つところに掲げたエピソードに由来していると言われます。
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