曲がり角にきた「法科大学院」【社会】

曲がり角にきた「法科大学院」

 法科大学院は、1999年以降進められてきた司法制度改革の一環として2004年4月に創設されました。司法は国民の基本的人権を擁護し、安全な社会の構築などのために大きな役割を果たしてきました。しかし、社会の複雑化・多様化、国際化といった社会環境の変化や裁判の長期化や高額な費用、複雑な手続きなどで、国民の法的要望に対して十分な法的サービスを行うことが難しくなってきました。このため、政府は司法を国民がより身近に感じとれるよう、多岐にわたる司法制度改革に取り組んできました。この中に、皆さんもよく知っている裁判員制度や法科大学院の設置なども含まれています。
 この法科大学院が、現在大きな曲がり角を迎えています。国民への司法サービスの充実を掲げた取り組みがなぜ曲がり角を迎えたのでしょう。その原因を探ってみました。
 法科大学院は、1999年以降進められてきた司法制度改革の一環として2004年4月に創設されました。司法は国民の基本的人権を擁護し、安全な社会の構築などのために大きな役割を果たしてきました。しかし、社会の複雑化・多様化、国際化といった社会環境の変化や裁判の長期化や高額な費用、複雑な手続きなどで、国民の法的要望に対して十分な法的サービスを行うことが難しくなってきました。このため、政府は司法を国民がより身近に感じとれるよう、多岐にわたる司法制度改革に取り組んできました。この中に、皆さんもよく知っている裁判員制度や法科大学院の設置なども含まれています。
 この法科大学院が、現在大きな曲がり角を迎えています。国民への司法サービスの充実を掲げた取り組みがなぜ曲がり角を迎えたのでしょう。その原因を探ってみました。


【多くの期待を集めて開設した法科大学院】

- 多様な人材を法曹界に受け入れるために -
 従来の司法試験は、国家試験の中でも最難関の試験とされ、受験生の多くは司法試験予備校などの専門機関で受験技術を優先した勉強をしてきました。当時の司法試験の合格率が2~3%だったことを見ても、いかに司法試験が困難であり受験技術を高めることに力が注がれたかがわかります。
 こうした受験勉強の結果、難関の司法試験に合格しても、これから必要とされる幅広い教養や柔軟な思考力、国際的感覚などが不十分な法曹(裁判官、検察官、弁護士)が誕生し、放置すれば法曹の質的低下につながると心配されるようになって来ました。
 法科大学院では、受験勉強偏重ではなくプロセス重視の教育を理念として掲げ、大学で法律を学んだ人以外にも、他学部出身者や社会人としてキャリアを積んだ人材を受け入れることにしました。こうした教育を通じて、諸課題を克服するとともに、多様な人材が法曹界に加わることで司法サービスをより充実させようというものです。

曲がり角にきた「法科大学院」 - 法曹人口の拡大を目指して -
 司法制度改革によって、司法試験はこれまでの試験結果だけで合否が決まる試験から、法科大学院修了を原則とした現在の形に移行しました。ただ、昨年から法科大学院の高額な学費と時間的な制約などで、法科大学院に進めない人のために例外的に司法試験の予備試験が設けられています。
 法科大学院には、2年制の法学既修者コースと3年制の法学未修者コースがあります。当初の想定では、法科大学院のすべての課程を修了した人の7~8割が司法試験に合格すると見込まれていました。
 政府の計画では、法科大学院の開設で司法試験の合格者を順次増加させ、2010年ごろには年間3000人程度にする計画だったのです。ところが、法科大学院1期・2期修了生が受験した2007年の合格率は40・2%に過ぎず、以降、毎年合格率が下がり続けてきました。
 今年は2102人が合格し、合格率は25・1%と昨年を1・6ポイント上回ったものの、2割台と低い水準で推移しています。もっとも、合格率が2~3%に過ぎなかった旧司法試験に比べると、合格者や合格率は上がっているが、政府が想定した目標には程遠いものがあります。

- 国際的にも少ない日本の法曹 -
 政府が司法試験の合格者を増やそうとしたのは、先進諸外国に比べて法曹の数が少ないという批判に応えるためです。実際、社会はグローバル化、複雑・多様化し、個人と個人、個人と企業、企業と企業、企業と国、企業と外国などとの利益が相反し、訴訟に持ち込まれるケースが増えています。
 また、高齢化社会が進行し、訴訟ではなく財産管理や遺言書の作成などさまざまな法的手続きを依頼されるケースも目立ってきています。このため、ホームロイヤーという言葉が生まれました。弁護士は、身近な法律相談という役割も担う法律の専門家ととして期待されています。
 政府は司法サービスをより広範な人々に提供するためにも、法曹人口の増加を目指したのです。

【法科大学院をめぐる諸問題】
曲がり角にきた「法科大学院」 - 法科大学院数と入学者数、合格率 -
 法科大学院の開設が議論された当時、7~8割の合格率となるように充実した教育が求められました。そのため、20校程度の開設が適正と考えられていましたが、実際には想定を大きく超える74校もの法科大学院が乱立し、定員が約5800人にも達しました。
 法学部を設置する多くの大学は、大学間競争もあって積極的に法科大学院の開設に取り組み、乱立ともいえる状況になったのです。この結果、政府の7~8割の合格率で3000人の合格者数という想定は、当初の入学者数と合格率の関係から大きく崩れてしまいます。
 さらに、新司法試験では法科大学院修了後5年以内に3回までの受験機会となっており、不合格者はあまり期間をおかずに再チャレンジすると見られ、受験者数は増え続けることになります。
 このため、新司法試験の制度設計自体に多くの問題点があるという指摘もあります。

- 法科大学院の高額な学費 -
 法科大学院の学費は、国立大学で約80万円、私立大学では100~230万円と非常に高額になっています。新設による設備投資、徹底した少人数教育、法曹界などからの実務化教員の招聘などが関係しています。このため、一部の学生の学費免除や各種軽減策をとっている大学もありますが、大半の学生に高額な学費がのしかかります。このため、ある程度経済的に余裕がないと進学できないという事態も起こっています。社会人の場合はこれまでの貯蓄を取り崩し、学生は奨学金に支えられているケースが目立ちます。
 経済的理由で勉強の機会が奪われることは問題だという声も聞かれます。また、多額の学費を納め、懸命に勉強しても司法試験合格という保障はありません。法科大学院開設当初、多くの社会人が法曹界に夢を抱き、国民に開かれた司法を信じて職を投げ打ち、貯蓄をはたいて法科大学院に進学しました。しかし、理想と現実を前にして、社会人の挑戦が減少しているのが現実です。

- 都市部の法科大学院に集中 -
 9月に発表された2012年の司法試験の合格者数は、表に示したように合計2102名で合格率は25・1%です。このうち、上位5校(中央、東京、慶応、早稲田、京都)で889名が合格し、全体に占める割合は42%にも達しています。この5校以外にも上位にランクされた学校は都市部に立地し、比較的大規模な法科大学院を開設していることがわかります。
 司法制度改革によって、法科大学院は優秀な法曹を数多く誕生させ、地域に役立つ法曹の育成をめざしていました。その先頭に立つべき、地方の法科大学院の苦戦が続き、格差は大きくなってきています。地方の学生は、少しでも合格率の高い都市部の大規模法科大学院をめざし、その結果、地方の合格率の低い法科大学院は志願者が減り、さらに合格者も減るという負のスパイラルに陥っているのです。

- 法科大学院の定員割れが加速 -
 今年の法科大学院73校の入学定員は、前年度比87人減の4484人。入学者数は同470人減の3150人で、ピークだった2006年度の約54%に落ち込んでいます。このため、全体の86%に当たる63校で定員割れを起こし、その内定員の半数にも満たなかった法科大学院は35校にも上りました。地方の小規模法科大学院を中心に、学生を募集しても集まらない、司法試験の合格も難しいという事態に陥っています。
 文部科学省は、前年度の入試の競争倍率が2倍未満、3年連続で司法試験の合格率が全国平均の半分未満に当たる法科大学院に対して、補助金を削減してきました。2014年度からは、2年連続で入学定員の充足率が50%未満という条件を加え、これら3条件のうち複数に当てはまると削減対象になると圧力を強めています。伸び悩む法科大学院では、こうした国の方針を受けて大学院の統廃合、定員の削減などで対応していくようです。
 2011年には姫路獨協大学法科大学院が学生募集を停止し、2013年度以降5法科大学院が学生募集を停止すると発表しています。法科大学院を取り巻く状況は、激しく揺れ動いているのが現状です。

【昨年から始まった「司法試験予備試験」】
曲がり角にきた「法科大学院」 - 司法試験の制度が揺らぐ可能性 -
 司法試験の受験資格を得るには、原則として法科大学院を修了しなくてはなりません。しかし、2011年から高額の学費負担や時間的制約などから、法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格を得る道が開かれました。
 予備試験とは、法科大学院の修了者と同程度の知識や応用力があるかを問うもので、受験資格や回数は問われません。この予備試験に合格すると、法科大学院の修了者と同じとみなされ、5年間で3回まで司法試験を受験することができます。
曲がり角にきた「法科大学院」 - 予備試験通過者の約7割が合格 -
 今年、初めて司法試験を受験した予備試験ルートの受験生は、85人のうち56人が合格し、合格率は68・2%にも達しました。これは、法科大学院修了者の24・6%を大きく上回っています。
 予備試験は、法科大学院に進めない人に例外として認められたもので、誰でも受験できます。このため、予備試験のルートに期待が高まれば、多大な負担がかかる現在の法科大学院ルートを通して法曹を養成するという制度が揺らぎかねません。
 しかし、昨年の予備試験に6477人が受験し合格者は116人、合格率は1・78%過ぎませんでした。このため、予備試験ルートが拡大するかどうかについては予断を許しません。
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