日常読み書きする「常用漢字」どれだけ読める?【社会】

日常読み書きする「常用漢字」どれだけ読める?

 パソコンやモバイル情報端末が普及した現在、私達は文章を書くことが少なくなりました。今私たちが日常使用する漢字の目安となる「常用漢字」は、2010年に29年ぶりに改定されました。常用漢字とはどういうものでしょうか。今後漢字は私達の暮らしにどうかかわっていくのでしょうか。改めて日本の漢字と漢字文化を考えてみましょう。

日常読み書きする「常用漢字」どれだけ読める? - 改定常用漢字は1945字から2136字へ。ただし、すべて書けなくても良い! -
 そもそも常用漢字とはどういうものでしょうか。ひとことで言えば皆さんが高校を卒業するまでに、書けるようになることが望ましい漢字が常用漢字です。
 この常用漢字は、役所の公文書や新聞、雑誌、放送など一般社会で使用する漢字の種類を目安としたもので、これは常用漢字表に収録されています。常用漢字表に載っている漢字が読み書きできれば、日常生活に困ることはないといわれています。
 現在の常用漢字表には1945字の漢字が収録されていますが、この常用漢字表が策定されたのは29年前の1981年でした。30年近く年月が過ぎれば、漢字の使い勝手もかなり変わってきました。時代の移り変わりとともに、ほとんど使わなくなった不要な漢字や、表現する場合にどうしても必要だ、という漢字も出てきます。
 文章、とくに漢字表現は、書くことより正確に読み、認識することに力点が置かれるようになってきました。
 29年ぶりに改訂された現行の常用漢字は、196字が追加され、5字が削除されました。これによって、常用漢字の種類は前回改定の1945字から2136字となりました。

- ITの進展、デジタル社会の到来で変わる漢字教育。漢字表現はより広く多彩に -
 パソコンや携帯情報機器の普及で、読み方が分かっていれば、簡単にいろいろな漢字を『変換』によって表記できるようになりました。
 生活のすみずみにIT機器が普及することによってデジタル社会になった今日、常用漢字は「読んで書けなければならない」から、「読んで書ければ理想だが、正しく変換などで表記できれば良い」に変わってきたのです。
 今の常用漢字は前回改定時に比べて196字が追加され、5字が削減されて差し引き191字増えました。しかも、漢字の表記がパソコンや携帯情報端末で簡単に変換できることから、画数が多くて書き取りが難しい漢字やいわゆる〝難字〟が多く加わっています。
 手書きすることは難しいけれど、きちんと読めて正しく意味を認識できればいい。つまり、「必ずしも書けなくても良い」ということで、日常的に使用できる漢字の種類、幅がぐっと広がり、日本語の表現がより多様化し、深みを増したのです。
日常読み書きする「常用漢字」どれだけ読める? - 憂鬱、語彙、賄賂などの難字とともに、岡山県、埼玉県、阪神、近畿などが加わる -
 現在の常用漢字表では、「語彙(ごい)」や「怨恨(えんこん)」、「隠蔽(いんぺい)」「賄賂(わいろ)」「浄瑠璃(じょうるり)」「憂鬱(ゆううつ)」「辣腕(らつわん)」といった、手書きするには難しい漢字がありますが、誰もがすらすらと書ける漢字ではありません。
 しかし、何故今まで常用漢字になかったのだろう、と首をかしげるような漢字があります。とくに日常的に絶対読み書きが必要な都道府県名である「栃木県」「岐阜県」「岡山県」「茨城県」「埼玉県」や、国名の「韓国」、地名の「鎌倉市」「近畿」「阪神」などです。
 また、読み書きできなければ社会生活に支障をきたすだろうと思われるような漢字もあります。「砂嵐」「椅子」「元旦」「枕元」「風呂」「宛先」「象牙」「串かつ」「熊」「お尻」「鶴」「蜂蜜」「両脇」「俺」などがそうです。
 一方で、ほとんど使われることがなくなった5つの漢字、「勺(しゃく)」「錘(すい・つむ)」「銑(せん)」「脹(ちょう)」「匁(もんめ)」が無くなりました。どういう基準で常用漢字表が制定されてきたのか疑問を感じるところですが、実は常用漢字の前に、戦後間もなく「当用漢字」というものが制定されていました。

- 「当用漢字」は漢字廃止の準備。終戦時、日本語から漢字が消えようとしていた -
 現在の漢字教育は、小学校で1006字の教育漢字(学習漢字とも言います)を教わります。社会に出て読み書きが必要とされる常用漢字はざっと教育漢字の倍ありますが、中学校では「常用漢字の大体を読むこと」を求めています。
 また高校教育では「常用漢字の読みに慣れ、主な常用漢字が書ける」ことを要求しています。この常用漢字の土台となったのが、戦後間もなく制定された当用漢字です。
 実は、日本が第二次世界大戦に敗れた終戦後の一時期、日本の文字(国語)から漢字が姿を消そうとしていました。
つまり、新しい日本の再建のために、複雑で難解な漢字を全廃してひらがなや、カタカナだけにしようとか、この際、日本語の表記をローマ字に変えてしまおういう意見や運動がありました。そして1946年、日本は将来漢字を使うのをやめようという考えから、当面必要な漢字を制限して使うための「当用漢字」が制定されたのです。
 当用漢字というのは、呼んで字の通り『当面用いる漢字』という意味で、日本が漢字をやめるための、準備期間として使用が制限された漢字だったのです。

- 46年制定の当用漢字は1850字。うち131字は簡素化された簡易字体 -
 当用漢字は、1946年(昭和21年)11月に、当時よく使用されていた漢字を中心に1850字を選び、公文書や新聞、雑誌などで使用すべき範囲の漢字として制定されました。
 同じ時期に、これまで複雑で書き取りに苦労していた旧字体を簡素化する試みがなされていました。
 戦前の日本の漢字は現在の漢字と比べて大変難しい字体でした。今の台湾では、ほぼ戦前の日本で使われていた漢字が使われています。今、私達が使っている漢字は「簡易字体」と呼ばれる簡素化された漢字が混じっています。画数も少なく、書きやすい漢字となっています。
 そして、当用漢字表の発表と合わせて新しい簡易字体(現在の漢字)が公表されました。
 例えば、驛→駅、學→学、國→国、發→発、萬→万、團→団、傳→伝、應→応、嶽→岳、氣→気、廳→庁、灣→湾、臺→台、軀→体、聯→連、實→実、轉→転 などがそうです。
当時、ざっと131字の簡略化された簡体字が誕生しました。現在、私たちが使っている漢字が、戦前の旧字体と比べてかなりやさしく簡素化されたことが分かります。

- 81年に当用漢字を廃し、現在の常用漢字が制定された -
 戦後間もない昭和21年(1946 年)に制定された当用漢字は、漢字の使用に厳しい制限を設けたため、公文書だけでなく、新聞や雑誌などマスコミも漢字と仮名を混ぜ合わせた「混ぜ書き表記」や「代用漢字」を使わざるを得なくなって、本来の日本語文章の意味するところが色あせたものになってしまいました。
 例えば、「亀裂」は「き裂」、「緻密」は「ち密」、「破綻」は「破たん」、「爬虫類」は「は虫類」、「醗酵」は「はっ酵」というような混ぜ書きとなっています。
 そして当用漢字制定から35年経った1981年(昭和56年)に、当面の使用のための制限された漢字だった「当用漢字」を廃して、日常よく使われる読み書きが必要な「常用漢字」が制定されました。
 制定の動機も、将来は漢字を廃するという後ろ向きの発想ではなく、漢字を国民が親しみやすく使用するためという前向きな発想でした。
 それから29年を経た2010年(平成22年)に、IT時代、デジタル社会にふさわしい、より便利で使い勝手の良い漢字活用の目安として今の常用漢字が改定されました。
日常読み書きする「常用漢字」どれだけ読める? 日本の漢字と漢字文化を考えてみよう。
- 漢字を通じて日本の歴史と文化を見直そう!今空前の漢字と歴史ブーム -
 ただ、今の常用漢字でも都市名の三鷹市の「鷹」や、「雀」などのように普段良く使っている多くの漢字が入っていません。
 ここ数年来、空前の漢字ブーム、歴史ブームです。京都や奈良、大阪など多くの都市で歴史と伝統文化の知識を競う「都市検定」が華やかです。こうした時代背景は、年代を超えて表意文字である漢字によって培われた日本の歴史と文化を見直そう、という探究心によって生み出されたといえます。
 私たちが親しんでいる常用漢字に対する認識を深めて、改めて漢字の歴史、漢字と日本文化や私たちの暮らしとの関わりを探求してみてはどうでしょう。
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