厳しくなる若者の雇用問題【社会】

厳しくなる若者の雇用問題


 高校や大学を卒業して、あこがれの職場でバリバリ働きたいと思っている人は多いと思います。しかし、バブル崩壊以降の景気低迷、さらに2008年のリーマン・ショックを受け、企業は人件費を抑えるため、中高年の従業員の整理・解雇などとともに新卒者の採用を抑制し、一連の「就職氷河期」が続いています。そして、不足する労働力は、派遣やパート、アルバイトなどの非正規雇用で補っているのが現状です。この非正規雇用など新しい雇用形態が若者に暗い影を投げかけています。

厳しくなる若者の雇用問題 - 就職率は2年連続上昇したが!! -
 文部科学省が昨年8月にまとめた学校基本調査(図1)によると、就職率は高卒、大卒、大学院卒とも2年連続で上昇しています。高校卒業者の就職率は前年度より0.5ポイント上昇して16.8%、大学卒業者の就職率は前年度より2.3ポイント上昇して63.9%となり、いずれも2年連続して上昇しています。しかし、その背景を探ると若者が決して喜べない厳しい現実が横たわっています。
 大学卒業者は約55万9千人で、このうち約35万7千人が就職者となっています。しかし、就職者のうち約2万2千人は「正規の職員等でない者」であり、卒業者に占める割合は3.9%になっています。さらに「正規の職員等でない者」と「一時的な仕事に就いた者」、「進学も就職もしていない者」を合わせると12万8千人にも上ります。大学卒業者のうち、非正規社員とされる派遣やパート・アルバイトなど、安定的な雇用に就いていない者は22.9%にも達しているのが現実です。高卒就職率もわずかながら上昇して16.8%になっていますが、大卒就職者と同様に「一時的な仕事に就いた者」や「進学や就職もしていない者」が6.2%を占めているのです。
厳しくなる若者の雇用問題 - さまざまな雇用形態がある非正規社員 -
 現在問題となっている非正規社員について考えていきますが、その非正規社員とはどのような人をさすのでしょう(図2)。厚生労働省では、正社員以外の契約社員、嘱託社員、出向社員、派遣労働者、臨時的雇用者、パートタイム労働者、その他を合わせて非正規社員と呼んでいます。
 契約社員とは、特定職種に従事し、専門的能力の発揮を目的として雇用期間を定めて企業と契約している人のことです。例えば、科学技術者、機械・電機技術者、プログラマー、医師、薬剤師などです。嘱託社員とは、定年退職者などが一定期間再雇用を目的に契約している人をさします。他企業から出向契約に基づいて出向しているのが出向社員で、出向元に籍を置いているかどうかは問いません。
 労働者派遣法に基づいて、派遣元事業所から派遣されている人が派遣労働者です。派遣会社に派遣スタッフとして登録しておく登録型と、派遣会社に常用労働者として雇用されている常用雇用型があります。臨時的雇用者とは、臨時的に日々雇用されている労働者のことで、雇用期間が1ヵ月以内の者をさしています。パートタイム労働者は、正社員より労働時間が短い労働者のことで、雇用期間は1ヵ月を超えるかまたは定めのない人のことです。
 非正規労働者の中で大半を占めるのがパートタイム労働者となっています。

- 長引く不況で労働環境が激変 -
 戦後の高度経済成長を支えてきたのは、日本独自の雇用形態である終身雇用や年功序列型賃金形態でした。正社員として真面目に働けば、家族を養える安定した賃金を得、しかも毎年昇給していきました。さらに健康保険や雇用保険、年金などといった社会保障も完備され、定年を迎えるまで安心して仕事に取り組むことができました。
 ところがバブル崩壊以降、各企業は長引く不況に対応するため、希望退職による人員整理・解雇、新卒者の採用抑制などの合理化策を打ち出します。また、グローバル化によって諸外国との価格競争が熾烈になり、この面でも人件費などのコスト削減が急務となってきます。各企業は進展するIT技術など最新技術を積極的に導入し、価格競争に打ち勝つことをめざします。この結果、高度な技術者への需要が高まる半面、単純労働はIT技術に委ねたり、コストの低い非正規労働者が担うことになっていきました。
厳しくなる若者の雇用問題 - 正規雇用と非正規雇用の二極化が進行 -
 正社員は合理化によって仕事量が増え、残業などによる長時間労働を強いられるようになる一方、不安定な労働条件の下で単純作業を担う非正規社員が増えていったのです。バブル崩壊以降、労働環境はこのように二極化していきました。他の先進国でもこうした傾向が見られますが、日本ではこれに日本独特の要素が加わります。
 正社員は法律や組合などによって雇用が守られています。しかし、非正規労働者は正社員と同じような仕事をしても賃金は大きく異なり、健康保険や年金などの社会保障を得られないなど労働条件も劣ります。さらに雇用の調整弁としての役割を持っていますので業務縮小期には解雇の不安が付きまといます。
 日本では正社員と非正規社員との間の溝は深く、他の先進国のように相互の流動化はあまり期待されません。このため両者の関係は固定化され、格差が広がっていくことが心配されています。

- 非正規社員の割合が過去最多に -
 高度経済成長期には、正社員の割合は80%を超えていました。非正規社員の人も、自分の都合を優先できることや、副業や兼業ができることで前向きに受け入れた人も少なくなかったようです。
 しかし、2011年の厚生労働省の調査では、企業で働く労働者のうち、非正規社員の割合が38.7%にも達し、1987年の調査開始以来、最多の割合となりました。1987年の16%と比較すると、2倍以上の伸びとなっています。雇用情勢の悪化で、実に働く人の3分の1以上の人が仕方なく非正規雇用を受け入れています。なかでも、家計を補助する主婦のパート労働だけでなく、家計の主な担い手である男性でも、約4分の1の人が非正規社員となっている現状は深刻なものがあります。
厳しくなる若者の雇用問題 - 非正規社員のメリット・デメリット -
 非正規雇用の拡大で、主として時間的に制約の多い女性にとって、自分の都合に合わせた仕事が可能になりました。また、専門的な知識や技能を持つ人は多くの企業を経験し、スキルアップの向上が望めます。
 しかし、非正規社員の大半は、正社員と仕事内容がほとんど変わらなくても賃金は低く抑えられ、昇給は期待できず、賞与や退職金も支給されません。しかも、短期間の労働が多いためキャリアアップにつながりにくく、将来の展望を描くことが困難です。
 現在、図4にあるように派遣労働者や契約社員として働く人の多くは、現在の就業形態について正社員として働ける会社がなかったことを理由に掲げています。その反動が図5のように、正社員を希望する理由につながっていると考えられます。
 専門的知識を駆使して、非正規社員としてキャリアを高めていける人以外は、非正規社員で働くにはデメリットが多すぎます。早くから自分の適性や将来像を見据え、それを実現できる働き方を考えることが重要です。
厳しくなる若者の雇用問題 【社会構造の変化で、新卒者にさらに厳しい状況が】

- 定年延長が若者にしわ寄せ -
 バブル崩壊やリーマン・ショックなどで不況は長引き、日本はデフレスパイラルの傾向を色濃くしています。このため、若者の雇用環境は悪化していますが、加えて少子高齢化という社会構造の変化が若者に重くのしかかっています。
 政府は厳しくなる財政問題に対応するため、国家公務員の人件費2割削減を掲げ、2013年度は政権交代直前の2011年度よりも新規採用を大幅に削減します。国家公務員を目指す若者を不安に陥れ、若者いじめとの批判も浴びています。
 加えて、定年の延長を打ち出し、医療や年金など社会保障費の削減をめざしています。60歳以上の労働力人口は、団塊の世代の定年退職もあって2005年には1130万人、2010年では1330万人にも達し、2015年以降は減少に転じるとみられています。定年を延長して65歳まで企業に止まって働くことで社会保障費などが削減できるとしても、このしわ寄せとして若者の新規採用に影響するのではないかと心配されています。

- 職場の国際化で外国人社員が増加 -
 企業間の競争は国内にとどまらず、世界規模で行われているのが現状です。国内市場が縮小しているため、海外でいかに打ち勝つかが生き残りの必須条件になっています。このため、大手企業を中心に1千人単位で正社員として外国人を採用しています。中小企業でも規模は異なるものの外国人の採用に力を注いでいます。現在でも新規採用枠が縮小する中、外国人社員が増えることで日本の新卒就職希望者の採用枠はさらに狭まります。外国語を駆使できるだけでなく、グローバルな視点で将来を見通せるように自らを切磋琢磨することが重要です。
 また、国際化の影響で国内企業の語学力強化が目立っています。楽天やファーストリテイリング、シマノなどは社内の公用語を英語化しています。日産自動車は会議や社内資料は英語、武田薬品は新卒採用の条件としてTOEIC 730点以上が条件になっています。伊藤忠やクボタでは、新入社員には海外での語学研修が科せられています。
 企業を取り巻く環境が大きく変化してきていることを理解し、これに対応できるスキルを身に付けなければなりません。

- 中小企業にも多くの優良企業が -
 中小企業にも多くの優良企業があり、世界に羽ばたくオンリーワン企業も少なくありません。昨今、大企業が業績不良などで倒産などが相次ぎ、大企業神話は薄れてきています。こんな時代だからこそ、大企業や中小企業の枠を超えて自分の適性をじっくり見据え、将来の自己実現に向けてどのような企業で、どのように働くかを模索することが重要です。
 中、高、大学の卒業後、3年以内に離職する割合は、「七・五・三」ともいわれる現実があります。こうしたミスマッチを避けるため、会社を支える社員として自己展開できる企業、自分を必要とする企業を見つけ出さなければなりません。 このためには、国内の動きはもとより、世界の動向に関心を寄せることが求められます。そうした作業を通して自分の立つ位置が明確になると思われます。
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