地デジ化は何を変えたのか? 変わる見方・変わらない在り方【社会】

地デジ化は何を変えたのか? 変わる見方・変わらない在り方


 2011年7月24日午後12時、地上アナログテレビ放送が停波して地上デジタルテレビ放送、略して〝地デジ〟がスタートしました。高画質・高機能化など目に見える変化が取り上げられる一方で、「なぜ地デジ化が行われたのか?」という背景など、目に見えない部分はあまり認識されていないようです。
 地デジ化により、私たちの生活は今後どう変わっていくのか、テレビ放送の歴史を辿りながら考えてみましょう。


地デジ化は何を変えたのか? 変わる見方・変わらない在り方 【情報や感動を共有できる〝夢の箱〟の歩み】

- 日本のテレビ実験の成功に世界が湧いた -
 テレビの語源は、フランス語のTelevisionに由来しているといわれます。teleは「遠く」、visionは「見る、視覚」という意味から、テレビとは「ある場所のものを、その場にいなくても見ることができる技術および装置」となります。
 遠くの光景を目の前に再現する、まるで夢のような〝無線遠視〟が現実になったのは、静岡県浜松高等工業学校で行われたテレビ実験でした。
 大正時代最後の日、1926年12月25日にテレビの父といわれる高柳健次郎氏が、世界初となるブラウン管による電子式受像に成功。この時ブラウン管に映し出された手書きの「イ」の文字に、世界中が驚いたといいます。

- NHKで本格的なテレビ放送がスタート -
 1953年(昭和28)2月1日PM2時、「JOAK−TV、こちらはNHK東京テレビジョン」を第一声に、日本のテレビ放送の歴史が幕を開けました。約半年後の8月28日には、日本初の民放テレビ局となる日本テレビが開局。受信料を財源とするNHKとは異なり、広告収入を財源とする民放局の初めてのスポンサーは東芝でした。
 続いて1955年にはラジオ東京テレビ、1959年には日本教育テレビジョン(現テレビ朝日)、フジテレビジョンが開局。翌年にはNHKと民放各局が揃って、本格的にカラー放送をスタートさせました。
 当時、庶民にとってテレビは高嶺の花だったため、街中に置かれた街頭テレビが主流でした。高度経済成長期に入るとテレビの低価格化が進み、1959年の皇太子ご成婚パレードや64年の東京オリンピックというビッグイベントをきっかけに普及率が急増。テレビ放送は家庭で当たり前に見られるようになっていったのです。

地デジ化は何を変えたのか? 変わる見方・変わらない在り方 【なぜ、地デジ化は行われたのか?】

- アナログとデジタルの違いとは -
 昨年3月、震災で延期されていた東北3県の地上アナログテレビ放送が終了し、日本のテレビ放送は完全に「地上デジタルテレビ放送」となりました。従来の地上アナログテレビ放送では、テレビカメラが受光した映像と音声を連続的で滑らかな電気信号に変えて、電波にそのまま乗せて送っていました。30コマ/秒の静止画を連続的に電送することで動画として見える仕組みで、パラパラ漫画の高速版をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
 これに対して地上デジタルテレビ放送は、映像と音声に加えて字幕や文字、図形データといった部品をすべて「0」か「1」かの2進数で数値化し、デジタル信号として送ります。だたしこのままではデータ量が大きすぎるため、圧縮してチューナーに送り、受信側で圧縮データを復元するのです。地デジ化でチャンネルの切り替えに時間がかかるようになったのはこのためです。

- 地デジ化最大の目的は限りある電波資源の有効活用 -
 地デジ化は、2001年の電波法改正で決定されました。地デジ化が推進された目的は大きく二つで、一つは「電波資源の有効活用」にあります。
 目に見えない電波に限りがあるというと不思議に思うかも知れませんが、電波は使用目的に適した周波数帯が各国の法律に基づいて決められており、好き勝手には使えません。そこで、デジタル化によって空き枠を増やし、当時既に過密状態にあった周波数に余裕を持たせようと考えたのです。
 地上デジタルテレビ放送では、470M㎐から710M㎐の周波数帯を使用します。1チャンネルで使用する周波数は6M㎐のため、約40チャンネル分が用意できる計算です。しかし、番組数の多い東京地方でも10チャンネルほどしか使用されておらず、国民にとって将来性があり利便性の高い空き枠の活用法が待たれています。
 もう一つは「災害時に強い情報提供」です。デジタル波が障害物を回り込むという特性を生かして、災害対策のロボット操作などへ電波を運用するための運用方法の変更が検討されています。こちらは本年度中に実用化に繋げようと研究が進められています。
 その他、携帯電話や電車へのワンセグ放送、スマートフォンや電気自動車へのワイヤレス給電、スマートコミュニティを活用した社会インフラの整備など、この広大な空き枠を利用した新たな電波利用システムへの使用が模索されています。

- 見えない電波の「見える化」を推進 -
 携帯電話やスマートフォン、無線LANが広く普及したことで、今や国民のほとんどが電波の利用者といっても過言ではありません。そのため、より安心・安全で使いやすい電波利用の確保とともに、電波の性質や制度などについて国民全体が基本的な理解を深めていく必要があります。
 米国では既に連邦通信委員会によって、スペクトラムダッシュボードというウェブサイトを作り、無線局情報を公表しています。これを受けて総務省でも、見えない電波を国民に広く分かりやすく「見える化」するための取り組みを進めていく方針です。

地デジ化は何を変えたのか? 変わる見方・変わらない在り方 【地デジ化終了後も課題が続々と浮上】

- 地デジ化はまだ完全に終わっていなかった!? -
 日本のテレビ放送は「電波三法」により、全世帯が視聴できるユニバーサルサービスとして位置づけられています。そのため、当初2012年7月24日と定められた地上アナログテレビ放送の終了およびデジタル放送への移行にあたり、国を挙げたさまざまな対策が行われてきました。
 その中の一つが「地デジ難視対策衛星放送」です。地上デジタルテレビ放送が送り届けられない地区や、経済的な理由でテレビが視聴できない世帯にアンテナとチューナーを無償提供し、衛星放送を利用した地上デジタル放送の視聴を支援しています。ところがこのサービスは2015年3月末で終了するため、対象家庭は期間内に地デジ対策を整えて直接受信に切り替えなくてはなりません。
 こうした時に果たして「地デジ難民」の発生を防ぐことができるのか、国が推し進めてきた地デジ化対策の真価が問われるといえそうです。

地デジ化は何を変えたのか? 変わる見方・変わらない在り方 - 増え続ける産廃問題、地デジ化特需の反動も大 -
 地デジ化に伴うテレビの買い替えで、不要になったアナログテレビの不法投棄が問題となっています。廃棄物処理法第25条では、不法投棄に対して5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金などが科されていますが、年々不法投棄の数は増えているといいます。安易な気持ちで不法投棄された廃棄物は、各地方公共団体による多額の処分費用の支出でまかなわれることになります。
 一方、地デジ対応テレビの買い替え需要による特需の反動も深刻です。電子情報技術産業協会(JEITA)の予測では、本年度の薄型テレビの国内生産額が前年比12%減の788億円と、2010年のピーク時のおよそ10分の1以下にまで落ち込むとされています。売上高の減少が続く中、国内メーカーのテレビ部門からの撤退も相次いでいます。
 また、昨年の会計検査院の調査では、国が巨額の予算を投入した地上デジタルテレビ放送事業で、約20億円の無駄遣いや見直しの必要性が明らかになりました。2009年から総務省が行った低所得者層向けの支援策では、無償で配る予定だったアナログテレビ専用のチューナーのうち、約16万8千台が使われないままだといいます。
 地デジ対策の取り組みについては今後も調査が必要となるでしょう。


【テレビは「見る」から「使う」時代へ】

- テレビの「スマート化」でテレビライフを復権! -
 昨年11月、KDDI傘下のジャパンケーブルネットが「JCNスマートテレビ」の提供を開始しました。スマートテレビとはテレビにインターネットを接続し、72チャンネル以上の多チャンネル放送や動画配信、ネット通販などが楽しめる新サービスで、テレビを中心としたデジタル機器をネットワーク化したものです。
 内閣府が行った「消費動向調査」によると、デジタル放送への移行に伴いテレビの買い替えを行わなかった若者を中心に、テレビ離れが加速しているとみられています。地デジ化による新しいサービスの登場により、今一度テレビをデジタルライフの中心機器に据えた「家族が集まるテレビライフ」の復権が期待されています。

- 変わる見方・変わらない在り方 -
 総合メディアとして長く社会に受け入れられ、私たちに大きな影響を与えてきたテレビは、時代の移り変わりとともに大きく「見方」を変えました。かつて家族の団欒の中心にあったテレビはパーソナル化が進み、「音がないと寂しい」などの理由でつけっぱなしになるなど、もはや番組ではなくテレビを見ているような状態ともいえます。
 しかし、離れた場所にいながら多くの人たちと同じ時間の流れを共有できる、テレビの在り方はこの先も変わることはありません。地デジ化により今一度、〝魅力あるテレビ放送の復活〟が期待されているのです。

【Column】携帯電話代が地デジ化の財源に!
 携帯電話の請求書を見ると、月額8円が請求されている「ユニバーサルサービス料」という項目があります。これは国民的なインフラである電話の中で、離島や僻地など、施設コストが高くつく地域へのサービスを維持するための必要な予算を、電話利用者全員で負担しているためです。
 もう一つ、携帯電話料金の請求の中で項目立てされずに、年額250円が徴収されているのが「電波使用料」です。これは、携帯が一台一台無線を発する無線局という考え方に基づいて徴収されているもので、地デジ化の円滑な移行のための資金や、電波の管理費用、電波資源拡大のための研究開発費などに幅広く使用されています。
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