日本の貿易と私たちの暮らしを考える【社会】

日本の貿易と私たちの暮らしを考える


 いま、世界では貿易自由化の動きが盛んです。国境を越えてモノやサービス、人材の行き来を活発にし、国籍を問わず自由にビジネスができるようにしようというものです。
 しかし、行き過ぎた規制緩和や自由化は激しい過当競争を招き、経済格差が一層広がっていくのではと心配されています。日本の貿易とその問題点を探ってみましょう。

日本の貿易と私たちの暮らしを考える - 日本は加工貿易で戦後の経済成長を遂げてきた! -
 資源の乏しい日本は、石油や天然ガスなどの資源や工業原料のほとんどを海外からの輸入に頼っています。世界各地からさまざまな原材料を輸入して製品化し、海外に輸出する加工貿易で日本は戦後の経済成長を遂げてきました。
 2012年の輸出額と輸入額を合計した日本の貿易総額は約134兆4166億円で、過去40年の間に貿易の規模は約8・8倍に拡大しました。
 日本は世界との貿易によって成り立っていますが、貿易は国内外の政治や経済の動き、産業活動の推移、国際情勢などによって大きく変化します。それだけに、私たちは常に国際社会の平和と安定を願わずにはいられません。

- 東日本大震災やEUの債務危機で日本は貿易赤字国に -
 「貿易立国」と呼ばれるように、日本は過去30年以上にわたって輸出が輸入を上回り、貿易収支は黒字を続けていました。
 しかし、東日本大震災の影響で、2011年は輸入が輸出を上回って、日本の貿易収支は31年ぶりに赤字になりました。
 2012年も原発の稼働停止によって火力発電向け燃料のLNG(液化天然ガス)の輸入が増加したり、EUの債務危機の影響で輸出が大幅に減少して、貿易収支は6兆9273億円もの大きな赤字となりました。
 輸入(支出)が輸出(収入)を約7兆円上回ったわけで、過去最大の貿易赤字を記録して国内景気低迷の要因の一つとなっています。

- 日本の食料自給率は約40%で、先進国ではかなり低い -
 日本の貿易を考えるうえで大切なポイントが食料自給率の問題です。日本は多くの食料を輸入に頼っています。
 小麦やトウモロコシ、大豆などは北米やオーストラリアからの輸入が大半を占め、農作物の肥料や家畜の飼料もほとんどが輸入です。
 日本の食料自給率は約40%(カロリーベース)で、アメリカの124%、フランスの111%、ドイツの80%、イギリスの65%に比べてかなり低くなっています。そのため、日本は常に安全な食料を世界中から安定して確保することが求められています。

- 日本の製造業は相次ぎ海外に工場を移して行った -
 戦後、日本は目覚ましい経済成長を遂げてきましたが、日本経済を支えていたのは優れた技術と勤勉な勤労者による製造業、いわゆるモノづくり産業でした。ところが2009年以降の急激な円高で、日本の輸出品は海外での販売価格が高くなり、韓国や台湾、中国などの低価格の製品に市場を奪われていきました。
 自動車や電機をはじめとした大手の製造業は早くから海外生産に乗り出し、中堅、中小企業の間でも製造コストの低減を図るため、数年前から中国や東南アジアなどに工場を移すケースが増えてきました。
 海外生産によって現地で直接資材が調達でき、日本より安い人件費で雇用できます。また現地生産のため現地の国との貿易摩擦も起こりません。

- 産業の空洞化で雇用問題や国内景気の停滞が深刻化 -
 製造業の海外生産比率は1985年当時は約3%でしたが、10年後の1995年は8.3%、2005年には16.7%、2011年は18.4%と増加していきました。国内から工場がどんどん海外に出ていけば、それまで働いていた人たちは働く場所が減って雇用問題が拡大します。
 工場が移転してしまった地域は、そこで働いていた人や家族もいなくなって活気を失います。国内の設備投資も減少して景気はさらに落ち込んでいきます。
 また、日本のモノづくりそのものが先細りとなって、これまで培ってきた高い技術水準が維持できなくなる恐れがあります。こうした事態を産業の空洞化といいます。

- 安い外国製品が大量に流入すれば国内産業がピンチに -
 貿易によって一方の国だけが潤って、もう一方が不利益をこうむることを貿易不均衡あるいは貿易摩擦といいます。海外から安い輸入品が大量に入ってくれば、国産品は売れなくなり日本の生産者は倒産に追い込まれます。
 政府は国内産業を守るため、輸入品にかける税金(関税)を高くして輸入を制限しようとします。例えば、海外からの輸入米には778%という高い関税をかけて国産米を守っています。
これに対して海外からは、「不公平だ」と不満の声が上がります。これが貿易摩擦です。
 日本は戦後ずっと最大の貿易国であるアメリカとの間で、牛肉、オレンジ、繊維、鉄鋼、自動車、半導体などで貿易摩擦を起こしてきました。そのたびに日米が交渉を繰り返して解決を図ってきたのです。

- 貿易自由化がさらに進めば、農業が最も影響を受ける -
 貿易自由化がさらに進めば、一番問題となるのが日本の農業です。世界の農業輸出国であるアメリカやカナダ、オーストラリアなどから、日本の主食である米を含め野菜、果物など価格の安い農作物がどんどん入ってくれば、日本の農業は崩壊すると心配されています。
 貿易摩擦は当事国同士が話し合って解決してきましたが、国家間で解決が難しい場合に、国際機関であるWTO(世界貿易機構)による調停や、民間の自主規制などで解決を図るケースがあります。
 最近では国と国との間でFTA(自由貿易協定)を結んで、お互いが納得した形で自由に貿易ができる仕組み作りが行われています。

- 貿易摩擦を調停する国際機関のWTO -
 ただWTOは参加国全員の意見が合わなければ決定できないというコンセンサス方式を採用しているため、トラブルが起こった場合スピーディに解決することは難しいようです。
 このためWTOを補う形で、貿易する当事国が個別に締結している協定がFTAやEPAです。そして今、日本が参加すべきかどうかを巡って盛んに議論されているのがTPPです。
日本の貿易と私たちの暮らしを考える - 貿易自由化のFTA、経済連携強化を目指すEPA -
 FTAは自由貿易協定、EPAは経済連携協定といいます。そしてTPPは環太平洋パートナーシップまたは環太平洋連携協定ともいいます。いずれも貿易をより自由に、活発に行うための貿易自由化の協定です。
 まずFTA(自由貿易協定)ですが、主に2国間で関税やさまざまな貿易の制限を撤廃したり軽減して、モノやサービスの貿易自由化を促進させようという協定です。
 EPA(経済連携協定)というのは、FTAの取り決めに加えて、雇用や投資、知的財産などの分野を含む幅広い経済連携の強化をめざした協定です。日本は2012年5月の時点で、シンガポール、メキシコ、マレーシア、インドネシア、スイスなど13の国・地域とEPAを締結または合意しています。現在オーストラリア、モンゴル、カナダそれに中東6カ国が加盟するGCC(湾岸協力理事会アラブ首長国連邦)と交渉中で、中断していた韓国との交渉も予定しています。
日本の貿易と私たちの暮らしを考える - 賛否が分かれて論議を呼ぶTPP -
 日本は特定の国とFTAやEPAを締結することによって、より自由で円滑な貿易を行い、資源やエネルギー、食料の安定的な確保につながるメリットがあります。両国間の経済が連携を深めることで、政治的にも良好な関係が保たれることになります。
 一方、TPP(環太平洋パートナーシップ)は、アメリカやオーストラリア、ペルーなど太平洋周辺の国々が、ヒト、モノ、サービス、カネの移動をほぼ完全に自由にしようという国際協定です。
 TPPはEPAの一種で、多国間EPAともいわれます。しかし、FTAやEPAが関税の撤廃や軽減の品目で、実情を考慮して例外を設けているのに対して、TPPは例外を認めず完全な自由化をうたっている点が大きな違いです。
 TPPは関税の撤廃のほかにもサービスや知的財産、環境、労働など21の分野にわたる自由化の取り決めを行います。
 広範囲におよぶ徹底した自由化は関係する業界に与える影響が大きく、日本がTPPに参加するべきかどうかを巡って激しい論議が交わされています。

【TPPの問題点とは?】
- 農業、食の安全、雇用、医療制度などが課題 -
日本の貿易と私たちの暮らしを考える  TPP(環太平洋パートナーシップ)は2006年5月にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で発足し、その後オーストラリア、ペルー、アメリカ、ベトナム、マレーシア、メキシコ、カナダが参加を表明し、現在太平洋を取り巻く11カ国で交渉中です。
 TPPではほぼ例外なく輸出入にかかる関税が撤廃されます。とくに農業分野での影響は大きいものがあります。農林水産省によると、TPP参加で農業や農業関係のGDP(国内総生産)は8兆円近く減少し、食料自給率は現在の40%から13%に低下すると試算しています。
 またTPPでは、現在日本が実施しているさまざまな基準や認証など、関税以外の制限や取り決め(非関税障壁といいます)も撤廃される見通しです。例えば遺伝子組み換え食品や残留農薬などの規制が緩和されれば、食品の安全性が脅かされるという心配があります。
 日本では健康保険を適用した診療報酬(医療費)は全国一律で、保険適用外の診療と併用することは制限されています。TPPによる自由化でこの制限がなくなる恐れがあり、病院にとって利益率の高い保険適用外の高額診療が拡大し、医療費の高騰を招くのではと警戒されています。公平であるべき医療が所得によって格差が生じ、現在の医療保険制度が崩れてしまうのでは、という指摘もあります。
 TPPで関税がゼロになれば日本製品は海外でより有利に商売ができ、国内の消費者は輸入品をより安く手にすることができます。
 その一方で、日本の農業や医療、あるいは雇用や食品の安全などさまざまな問題が指摘されています。改めて私たちの暮らしと貿易自由化、TPPの問題点などを考えてみましょう。
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