海上保安官は海の警察官【社会】

海上保安官は海の警察官


海の治安と安全を守る「海上保安庁」- 警備海域は日本国土の約12倍 -

 2010年9月、沖縄の尖閣諸島沖で違法操業中の中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突するという事件がありました。2012年の尖閣諸島の国有化以降、中国の海洋監視船などの公船による相次ぐ領海侵犯。後を絶たない密入国や密貿易、漁船の違法操業、海難事故など日本周辺の海域でさまざまな事件が起こっています。
 日本周辺の海域の治安と安全を守るため、犯罪の摘発や遭難救助にあたるのが海上保安庁。海上保安庁の仕事の内容を調べると、島国日本が直面する問題が浮かび上がります。


海上保安官は海の警察官 - 海上保安庁の誕生 -
 戦前は、旧日本海軍が日本周辺海域の警備を行っていました。しかし、終戦後は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって海軍が解体されました。この結果、日本周辺海域の治安維持能力は低下しますが、GHQは日本海軍の復活への警戒心から海上警備の復活に否定的な態度を示します。
 しかし、密輸や密入国、海賊の横行、感染症の上陸などから、GHQも日本の湾岸警備に問題があることを認め、アメリカ湾岸警備隊(United States Coast Guard )をモデルにした組織の設置を認めます。これを受け、運輸省(現在の国土交通省)の外局として1948年5月、長官官房、保安局、水路局、燈台局の1官房3局で構成される海上保安庁(Japan Coast Guard)が誕生しました。昭和24年には、潜水士などが所属する警備救難部が追加されました。
海上保安官は海の警察官 - 創設期の海上保安庁 -
 海上保安庁開設にあたって、GHQは武装した海上保安機構の出現に難色を示し、1万人を超えない職員数、125隻以下の船艇で排水量は1500t以下、武装は小火器に限定など6項目の条件が科せられました。任務を遂行する海上保安官は、旧海軍幹部が公職から追放されていたため、警察機構を管轄していた旧内務省出身者、警察官や東京・神戸の商船学校出身の海事の専門家が海上保安庁の幹部を占めていました。
 ところが、1950年に朝鮮戦争が起こり、アメリカ軍の指揮のもと海上保安庁の21隻の掃海艇が目的も知らされずに朝鮮半島に出動し、1隻が機雷に接触して沈没するという事件が起きました。海上保安庁の海上保安官は国家公務員の一員で、生命の危険を冒して任務の遂行を行う義務がありません。このため、1952年に海上警備隊が設置され、海上警備隊と掃海部隊は海上保安庁から分離され、1954年の防衛庁の発足とともに海上自衛隊へ組み込まれました。
 こうした変遷を経ながら、現在、約1万2500人の職員が日本各地にある11の海上保安本部で任務にあたっています。警備には巡視船121隻、巡視艇234隻など455隻の船艇、飛行機やヘリコプターなどの航空機計73機、海上の交通安全を図るために約5500基の航路標識の設置や維持管理を行い、日本周辺海域での治安維持、海難救助、交通安全、防災や環境維持に努めています。

【どこまでが日本周辺海域?】
海上保安官は海の警察官 - 領海と排他的経済水域 -
 日本の面積は約38万㎢、海岸線の長さは約3万5千㎞で、この長さは地球一周の88%にあたります。日本は海洋国家であり、海を介して恩恵を得る半面、海上での違法行為や、領土や海洋資源などの帰属について厳しい目を向けていなければなりません。
 海上保安庁が守るべき日本の海と、そうではない海の境はどこにあるのでしょう。日本の領土があり、その沿岸から3海里(約22㎞)が日本の領海です。日本の領海の面積は約43万㎢で、この水域には許可なく外国の船が航行でません。領海の外は公海ですから、どの国の船も自由に航行でき、漁なども行うことができます。しかし、沿岸から200海里(約370㎞)までの海は排他的経済水域(EEZ)で、他の国の経済活動はできません。日本の排他的経済水域では、日本が天然資源、海洋調査、海洋環境保護、海洋構築物などに関する権利を持っているのです。
 日本が守るべき海域は、領海+EEZで約447万㎢(領土の約12倍、世界第6位の広さ)にも達します。
海上保安官は海の警察官 - 海上でEEZが重なる時は中間線 -
 日本はこれだけ広大な領海とEEZを保持していますが、隣国の韓国や中国、ロシアも200海里のEEZがあり、日本のEEZと重なるところがあります。こうした時は、その中間で区切ろうというのが一般的な国際ルールとなっています。これを中間線と呼んでいます。
 現在、尖閣諸島周辺の日本の領海でトラブルが頻発しています。2010年には、領海内で中国漁船が違法操業し、巡視船が退去を命じたらぶつかってきました。その後、日本は大型巡視船やヘリコプターも投入して警備を強め、日本領海への不法侵入に備えています。一方、中国も尖閣諸島はもともと中国の領土だとしてしばしば侵入し、互いに厳しくけん制し合っているのが現状です。
 尖閣諸島の領有権問題は、領海やEEZに眠る海洋資源の権利問題でもあるのです。ロシアが不法占拠する北方4島周辺海域でも、日本漁船がロシアにだ捕される事件が後を絶ちません。

【多彩な仕事をこなす海上保安官】
- 増加傾向を示す海上犯罪 -
 海上保安庁の仕事として領海警備について触れましたが、海の警察としてさまざまな海上犯罪の取締りを行っています。このため、巡視船には万一に備え機関砲が備えられている船もあります。また、海上火災に備えて消防艇、原油流出事故に対応する油回収船、さらに沿岸や海底の状況を探る測量船なども配備されています。
 海上保安官は拳銃を所持することができ、容疑者を逮捕することもできます。海上犯罪は増加傾向にあり、犯罪の半数近くは無検査航行や船舶安全法関係法令違反となっています。その他、密輸や密航、密漁などの防止や摘発など警察官が陸上で行っている職務を海上で行っています。
 さらに、海難事故への即時対応や救難活動、青い海を守るための環境保全、海洋の科学調査などといった幅広い分野を担当しています。

- 海難事故への即応体制 -
 海難事故などで救援活動にあたる海上保安官の姿をよく目にします。救援活動をするには特別な資格が必要ですが、海上保安庁には潜水士、機動救急士、特殊救難隊といった国家資格を持った人が24時間体制で待機しています。
 潜水士になるには、厳しい訓練を経て試験に合格しないとなれません。海難事故の遭難者の救出や漂流者の捜索、最近では東日本大震災による行方不明者の捜査の姿をテレビなどでよく目にしました。
 ヘリコプターで救助地点に行き、ロープを伝って傷病者を吊り上げて救助するのが機動救急士。全国6か所の航空基地に56名が配置され、救援体制を強化しています。
 特殊救難隊は、潜水士と機動救急士の能力を併せ持つ救難のスペシャリストです。羽田特殊救難基地で36名の隊員がいつでも出動できる態勢を整えています。1975年の創設以来、救助人数は約2000人にも達しています。要請があれば海外にも応援に駆けつけます。

- 海上保安庁と海上自衛隊、水上警察の違い -
 海上保安庁は国土交通省、海上自衛隊は防衛省が管轄し、水上警察は川やその河口を警備する警察というように各々管轄が異なります。
 海上保安庁は海の治安や安全を目的にし、海上自衛隊は外国の侵攻から日本を防衛することを最大の任務としています。このため、海上保安庁の船や飛行機は遠くからも見えるように白とブルーに塗り分けられています。船体や機体の横のSマークは、海上保安庁の使命であるSafety,Searchand rescue,SurveyとモットーとするSpeed,Smart, Serviceを表しています。
一方、自衛艦は標的にされないように目立ちにくいグレーに塗られています。
海上保安官は海の警察官 【海上保安官になるためには】
 海上保安官は、海上での厳しい環境の中で多様な業務を要求されるため、業務施行に必要な知識・技能の習得、気力・体力の向上が求められます。このため、海上保安大学校及び海上保安学校が設置され、全寮制で教育訓練が行われます。
 広島県呉市にある海上保安大学校は、将来の海上保安庁の幹部として必要な高度な知識と技能を持つ人材の育成をめざします。18〜21歳未満の人が受験できます。教育期間は本科4年、専攻科(遠洋航海実習など)6カ月の計4年6カ月となっています。
 海上保安学校は舞鶴市にあり、18〜24歳未満の人が受験できます。卒業後の業務に応じて船舶運航システム(航海・機関・主計の3コース)、航空、情報システム、海洋科学の4過程3コースが設置され、教育期間は情報システム過程では2年、それ以外は1年となっています。
 両校とも入学と同時に国家公務員として採用され、給与(毎月約14万円)の支給を受けながら海上保安となるための教育を受けることができます。ただ、両校とも入学は大変狭き門になっていることを覚悟しなければなりません。
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