増え続ける 奨学金の滞納【社会】

増え続ける 奨学金の滞納


  長引く不況で保護者からの仕送りが減り、奨学金を利用する学生が増えています。奨学金は成績優秀者など一部を除き、卒業後に返還しなければなりません。しかし、雇用状況の悪化などで、卒業しても十分収入が得られず、返済が滞るケースが増えています。この奨学金の滞納問題が大きな問題になっています。


増え続ける 奨学金の滞納 - 奨学金の形態や種類 -
 奨学金は、卒業後に返還義務のない「給付型」と、返還しなければならない「貸与型」に大別できます。さらに、貸与型には利息が付くものと、付かないものがあります。奨学金を運営する団体として、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)や、地方自治体、大学などの教育機関、民間の育英団体などがあります。
 この中で、最大の規模を誇るのがJASSOで、大学・短期大学・高等専門学校・専修学校および大学院生を対象に奨学金貸与事業を行っています。地方自治体の奨学金は、保護者がその地方在住であることを条件に奨学金制度を設けています。その中心になっているのが貸与型です。
 国公立・私立大を問わず、各大学には独自の奨学金制度が設けられています。その種類は給付型や貸与型、また、入試の成績優秀者には特待生制度や学費減免制度を設けるなど、大半の大学は複数の奨学金制度を導入しています。民間でも各種育英団体や企業、病院などで奨学金制度を設けています。新聞奨学生制度などもこの中に入ります。

- 教育を受ける権利を保障するために -
 JASSOは2004年、日本育英会、日本国際教育協会、内外学生センター、国際学友会、関西国際学友会が合併し、独立行政法人として誕生しました。
 憲法26条で、“国民は等しく教育を受ける権利を有する”と明記され、教育基本法にも、“国及び地方公共団体は、能力があるにも関わらず、経済的理由で修学が困難な者に対し、奨学の措置を講じなければならない”と記されています。こうした国の方針に基づいて、JASSOは学費の貸与などといった奨学金貸与事業、さらに留学生支援事業や学生生活支援事業などを行っています。

- 奨学金の利用者がこの10年で1.5倍 -
 JASSOの奨学金には、無利息の第一種奨学金と利息が付く第二種奨学金があります。長引く不況で、奨学金への依存度が高まり、2003年の貸与人数が約86万人だったものが、2012年では約134万人にも達し、この10年間で約1.5倍にも拡大しています。これは、大学生の約3人に1人、大学院生の約2.5人に1人の割合で利用していることになります。
 なかでも、1999年以降、成績や経済状況など条件が厳しい第一種に比べ、比較的穏やかな第二種奨学金を利用する学生が急速に増加しています。その貸し出し総額は、2012年で1兆1263億円にも達しています。奨学金制度とは、学生が自立して学ぶことを支援する制度で、学生が卒業後に返還した奨学金が、次の世代に利用されるというものです。この運転資金ともいうべき、貸与された奨学金の返還が円滑に進んでいないのが現状です。

- 2010年度の未返還額は約850億円 -
 JASSOの2010年度の奨学金貸与事業で、元奨学生からの返還予定額は第一種・第二種合わせて4384億円です。しかし、実際に返還されたのは3532億円で、852億円が未返還となっています。元奨学生の約34万人の返還が滞り、返還率は80.6%となっています。
 JASSOでは、回収強化のために電話や自宅・勤務先訪問などさまざまな督促を行っています。2010年度からは、3カ月以上の滞納者の情報を個人信用情報機関に提供しています。登録されると、クレジットカードや住宅ローンの利用が制限されるため、「ブラックリスト化」と呼ばれます。一旦登録されると、全ての返済を終えても5年間は継続して登録されます。2010年度の登録件数は4469件で、翌年には1万件を超え、それ以降も増え続けています。
 さらに、滞納が9カ月以上になると、JASSOは返還を求めて裁判所に督促を申し立てます。その件数は2006年度の1181件から、毎年のように増加しています。

- 奨学金の滞納で悩まないために -
 奨学金は保護者にあまり負担をかけず、貴重な学生生活をアルバイトに明け暮れることなく過ごせる大変ありがたいものです。しかし、将来設計も曖昧なまま安易に奨学金を借りると、紹介したような困難な事態に陥ります。奨学金の返還は、卒業の半年後から最長20年かけて毎月返還していかなければなりません。つまり、卒業後にきちんと就職し、安定した収入を得ないと返済が滞ることになりかねません。
 奨学金の申し込みは、高校在学中に申し込む予約採用と進学後に申し込む在学採用があります。現在、高校生の予約採用が急増しており、なかには友人が申し込んだからという安易な理由で申し込む人もいるようです。奨学金は、学生が背負う大きな借金であることに間違いありません。奨学金を申請する時は、将来の自分の姿をしっかり見据え、奨学金の「借り方」だけでなく、「返し方」についても慎重に考えなければなりません。
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