日本の空の旅を変えたLCC【社会】

日本の空の旅を変えたLCC


 -就航後一年で、早くも再編に-
 「空飛ぶ電車」とも呼ばれる、国内LCC(Low Cost Carrier)の誕生から一年が経過しました。日本の空の旅に新たな選択肢を増やしたLCCは、レガシーキャリア、フルサービスエアラインと呼ばれる既存の大手航空会社とは異なる手法で、その存在感を高めつつあります。こうした中、LCCが就航した路線では、旅行者の数が軒並み上昇する一方で、早くも再編と淘汰が始まっています。今後、日本の航空業界の勢力図は、どのように塗り替えられていくのでしょうか。


日本の空の旅を変えたLCC - 訪日外国人客数が過去最多に -
 日本政府観光局の発表によると、今年上期の訪日外国人旅行者数が前年比22・8%増の495万5千人と、過去最高を記録しました。 円安の追い風とともに、日本でも本格的なLCC普及が進んだことが要因です。観光庁の試算では、今年度の訪日外国人が1000万人に達すれば、経済効果は1兆3000億円規模に拡大するとのデータもあります。
 就航からわずか一年、日本の空の旅に「安さ」という選択肢をもたらしたLCCは、これまで飛行機を利用してこなかった層も開拓しながら、日本経済を動かす存在へと成長し始めています。
 日本では、LCCを「格安航空会社」と訳すことが一般的になっています。LCC先進国の欧米に目を転じると、地域や企業によって多彩なビジネスモデルを展開しており、必ずしも「LCC=格安」を意味するわけではありません。しかし、LCCが人を惹きつける最大の特徴は、やはり「安さ」にあります。大手航空会社の2~8割引ともいわれる安い運賃は、従来の機内や空港でのサービスをできる限り省略してコストを抑えたり、旅客機の運用効率を上げるための工夫を重ねるなど徹底した企業努力の結晶なのです。

- 世界的な航空規制緩和が台頭を後押し -
 すでにLCCが一定のシェアを占めている欧米やアジア各国では、大手航空会社をしのぐ勢いのLCCが台頭してきています。これに対して、日本でのLCC始動が「欧米より20年、アジアの中でも10年」といわれるほど、後れをとったのはなぜでしょうか。
 航空業界は、国の安全保障や外交政策などに大きな影響を与える重要な産業です。戦後の日本には10社近い航空会社が存在していましたが、小さな市場だったことからたびたび経営の危機に見舞われました。そこで政府は、航空市場の発展や安全確保を図ろうと、航空会社の統廃合を進めたほか、空港の発着枠や運賃、航空路線、企業の新規参入などに対して厳しい規制を設けてきたのです。
 一方、欧米では国際線の利用者が急増したことをきっかけに、1970年代後半、航空規制緩和や撤廃に向けた動きが加速し、LCCの設立が相次ぎました。しかし、当時の日本では、既存航空会社の無理な運賃値下げなどにつながるとして、こうした動きを受け入れなかったのです。

- 海外LCCが続々参入、対抗の動きが広まった -
 1980年代後半、日本とアメリカの間で貨物便や旅客便の新規参入が行われたのをきっかけに、日本の空は自由化に向けて舵を切りました。86年には国際線の新規路線参入、90年頃には国内線での運賃・便数設定の自由化、航空会社制限の廃止など、段階的に緩和が進んでいったのです。そして2000年に行われた「航空法改正」により、運賃、参入・退出、便数設定の3点が完全自由化となりました。しかし、実際には資金面や発着枠の問題が大きく立ちはだかっていたため、自由化と呼ぶには程遠いものでした。
 ようやく自由化の兆しが見え始めたのは2007年。前安倍政権の「アジア・ゲートウェイ構想」に基づき、外国航空会社が首都圏以外の空港に自由に乗り入れることを、韓国やタイなどと合意してからのことです。厳しい経営環境に立たされていた地方空港の多くは、海外LCCの誘致に力を入れ、積極的に生き残りを図ろうとしました。 そして2007年にオーストラリアの「ジェットスター」、翌年にはフィリピンの「セブ・パシフィック航空」と、日本市場に海外LCCが続々と進出。2010年5月に政府が発表した「国土交通省成長戦略」では、LCCの参入促進が明確に掲げられ、海外の格安航空に対抗しようとする動きは着実に広がっていったのです。


【LCCは日本の空に根付くのか!?】
日本の空の旅を変えたLCC - LCC元年から一年で3本柱体制が崩壊 -
 昨年、「ピーチ・アビエーション」「エアアジア・ジャパン」「ジェットスター・ジャパン」という、3社の国内LCCが誕生しました。高水準のサービスに慣れた日本にLCCは根付かないのでは?という声もささやかれていましたが、着実に存在感を強めています。
 しかし、3本柱体制となってからわずか一年足らずの今年6月、「エアアジア・ジャパン」に共同出資しているマレーシアのエアアジアとANAホールディングスは、業績低迷や経営体制の違いなどを理由に提携解消を発表しました。エアアジア・ジャパンはANAの子会社となり、今年12月下旬にはリゾート路線中心のLCCとして、装いも新たに再始動する予定です。
 同じく成田空港を拠点とするジェットスター・ジャパンでも、収益が予想を下回っており、巻き返しを図るべく国内線の強化に乗り出しました。今年7月にはローソンと提携を開始し、現金決済という選択肢を増やして販路を拡大しています。さらに国内線で最大の運航便数を提供するネットワークを生かし、国内LCCでは初となる貨物事業も展開する方針です。
日本の空の旅を変えたLCC - サービスの充実など価格以外での競争が激化 -
 LCCの採算ラインは座席率80%といわれますが、これを唯一上回るのが関西国際空港を拠点とするピーチ・アビエーションです。
 「ピーチ」は就航後から高い運航品質にこだわり、定時制運航やジャパン・ブランドの勝負で他のLCCとの差別化を図ってきました。今年6月には国内LCCに先駆けて、人気の高い関西-石垣島路線の運航をスタートしたほか、今秋には沖縄を2つ目の国際拠点とし、台湾便など国際路線の増強を進めています。
 またサービス面でも、独自のおもてなし路線を追求しています。今年3月には、関西空港の国内線待合室で、スマートフォンやタブレット型端末に1000種類以上の映画やゲームをダウンロードできるサービスを開始。LCCではコストを抑えるため、座席にはテレビ画面は設けられていないのが一般的ですが、このサービスは乗客の持つ端末を利用しながら、機内のエンターテインメント性を高められるメリットがあります。
 さらに、サービスを受けようと利用者が早めに搭乗口に集まるため、定時就航率を高める材料にもなっているようです。


【航空業界は激動の時代へ】
日本の空の旅を変えたLCC - 来年には第4のLCC、新興LCCも参戦 -
 早くも明暗の分かれるLCC業界ですが、来年2014年には第4のLCCといわれる、中国の「春秋航空」の就航が予定されています。
 春秋航空は中国最大級の旅行会社のグループ会社で、すでに茨城-上海間で定期チャーター便を運航しており、片道4000円という驚きの安さで注目を集めています。好調な伸びを見せるアジア地域の海外旅行客の中で、唯一中国だけが減少しているため、今後の手法が注目されます。
 また、国内初となるリージョナルLCC「リンク」も、福岡空港・北九州空港に来春の就航を計画中です。リージョナルLCCとは、主要都市と近距離の地方都市を結ぶ路線をリーズナブルな運賃で提供する会社の総称で、就航地間の経済の活性化を目的としています。これまでの国内LCCと大きく異なるのは、機内での飲み物や基本的なサービスが無償で提供される点でしょう。来年、晴れてリンクが就航となれば、LCC間のサービス競争の火ぶたが切って落とされる可能性もあります。

- 大手・中堅航空会社は迎撃態勢に -
 早くもLCC間での再編や淘汰が始まる様子を、大手航空会社や中堅航空会社も黙って見ているわけではありません。特にLCCの台頭により、厳しい経営状況に追い込まれた中堅航空会社では、LCCで掘り起こされた新たな空の旅の需要を取り込むなどの迎撃対策を進めています。
 国内LCCの草分け的存在だったスカイマークは、運賃競争だけでは太刀打ちできないと考え、高級路線へのシフトを表明しました。来年度から国内線に全席プレミアムシートの新型機を投入するなど、上級のサービスを低価格で提供する作戦で、格安航空会社との差別化を図ります。

- 円安による燃料高騰の不安も -
 こうした中、航空業界全体を震わせているのが、円安による燃油高騰です。海外では既に、燃油高騰の影響を受けてLCCの運航停止や倒産、合併などが相次いでおり、日本の航空業界も〝明日は我が身〟の状況です。しかし今年6月には米ボーイング社が「2032年には世界の航空便の半分以上をLCCが占める」との予測を示すなど、世界がLCCビジネスに懸ける期待は、まだまだ膨らんでいるといえそうです。
 LCCは私たち消費者に〝自分で欲しいサービスを選んでお金を掛ける〟という、これまでの航空業界にはなかった「自由」と「選択肢」を与えてくれました。LCCビジネスに新時代が訪れようとしている中、出遅れた日本の航空業界がどのように巻き返しを図っていくのか、今後の展開に目が離せません。
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