期待が膨らむ日本近海の海底資源【社会】

期待が膨らむ日本近海の海底資源


【日本の海洋資源開発を展望する】
 日本は資源の乏しい国といわれていますが、日本近海の海底には、多くのエネルギー資源や鉱物資源が眠っていることが分かってきました。
 天然ガスの主成分となるメタンハイドレート。さらに銅、亜鉛、金などの金属、ハイテク機器の材料となるレアメタル(希少金属)やレアアース(希土類)などを含んだ海底熱水鉱床、コバルトクラストと呼ばれる鉱脈がそれです。
 政府は今年度から本格的な海底資源開発に乗り出しました。将来、日本は資源国に転換できるのでしょうか。

期待が膨らむ日本近海の海底資源 - 世界第4位のエネルギー消費大国日本のエネルギー自給率は4% -
 周りを海に囲まれた少資源国日本は、石油や天然ガスなどのエネルギー資源、鉄鉱石やレアメタル(希少金属)などの鉱物資源のほとんどを海外から輸入しています。
 日本は世界第4位のエネルギー消費大国ですが、エネルギー自給率はわずか4%で、主要なエネルギー源である石油は99%以上を輸入に頼っています。
 福島第1原発事故以来、エネルギーの約20%をまかなっていた原発がすべて稼働を停止し、石油や天然ガスなどへの依存度が増し、エネルギー資源の安定した供給確保が大きな課題となっています。

- 天然ガス消費量100年分のメタンハイドレートが日本近海に -
 こうした中で、最近日本近海の海底に大量のエネルギー資源や鉱物資源が存在することが分かってきました。
 産業界が大学や官公庁と連携して組織する日本プロジェクト産業協会(JAPIC)によると、日本近海の海底資源の推定埋蔵量はメタンハイドレートが12兆6000億㎥。これは日本の天然ガス使用量の100年分に相当します。
 また海底鉱物資源では、海水中のコバルトやマンガン、ニッケルなどの金属が沈殿して、海底の岩石などに堆積してできたコバルトリッチクラストと呼ばれる鉱脈があります。その規模は約5万㎢にのぼり、そこに含まれる鉱物資源量は24億tと見積もられています。
期待が膨らむ日本近海の海底資源 - 銅、亜鉛、金、銀、レアメタルなどを豊富に含む海底熱水鉱床 -
 海底鉱物資源にはこのほか、マグマの活動で海底から噴き出した熱水に含まれる金属成分が冷却されて固まり、海底に沈殿してできた海底熱水鉱床があります。
 伊豆、小笠原、沖縄などの海域で200カ所にわたって分布し、レアメタル(希少金属)などを豊富に含みます。この海底熱水鉱床に含まれる亜鉛や銅、金、銀などの原鉱石は7・5億tと推定されています。
 いずれも理論上で導き出された賦存量(ふぞんりょう)と呼ばれる数値ですが、このうち回収可能な量はメタンハイドレートが4・1兆㎥。熱水鉱床が4・5億t。コバルトリッチクラストが11億tといわれます。
 このほか、太平洋側の公海の海底には、マンガンやニッケル、コバルトなど30種類以上の金属を含んだマンガン団塊が分布しています。

- 「燃える水」メタンハイドレートは、天然ガスに代わる有望資源 -
 エネルギー資源として有望視されるメタンハイドレートとはどういうものでしょうか。
 メタンハイドレートは、メタン分子が海底の低温高圧の条件下で水分子とくっついたシャーベット状の物質で、「燃える氷」とも呼ばれます。日本が輸入に頼っている天然ガス(都市ガスの原料)に代わる資源として期待されています。メタンハイドレートは太平洋側の南海トラフの海底に大量に存在しているほか、日本海からオホーツク海にかけての海底にも確認されています。

- 愛知県・三重県沖でメタンハイドレートの発掘に成功 -
 経済産業省の委託を受けた石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、今年3月地球深部探査船「ちきゅう」が愛知県と三重県の沖合でメタンハイドレートの発掘(海洋産出試験)に成功しました。
 水深約1000mの海底を200~300m掘り下げて、6日間の試掘で12万㎥のメタンハイドレートを産出しました。洋上でのメタンハイドレートの採掘は世界で初めてです。この海域だけでも、日本の天然ガス消費量の11年分のメタンハイドレートが存在するといわれます。

- 政府が今年度からメタンハイドレートの本格調査を開始 -
 昨年、東京大学や明治大学の研究グループも、北海道網走市と秋田県の沖合でメタンハイドレートの採取に成功しています。秋田県と山形県を結ぶ沖合や、島根県隠岐諸島周辺でもメタンハイドレートの埋蔵が有力視されています。
 経済産業省は2013年度から3カ年の予定で、北海道から島根県の日本海沿岸沖合の6地域でメタンハイドレートの調査に乗り出しました。今年6月に新潟県上越市沖、石川県能登半島沖で調査を開始し、来年度には秋田県と山形県沖、隠岐諸島周辺。15年度に北海道周辺海域で調査を行います。
 2014年度には、上越沖の一部で音波を使って海底の地形を探るための試掘を始める計画です。

- 南鳥島沖の海底で、レアアース消費量の230年分に相当する鉱物資源 -
 昨年から産官学の連携で、日本近海に存在する海底鉱物資源の開発が活発化してきました。
 昨年8月から9月にかけて産業技術総合研究所の研究チームが、沖縄県久米島周辺で銅や亜鉛、レアメタル(希少金属)を含む海底熱水鉱床を発見しました。今年始めには、海洋研究開発機構と東京大学の加藤泰治教授らの研究グループが、日本最東端の南鳥島沖の海底で、貴重な電子材料であるレアアース(希土類)を大量に含む泥の存在を確認しています。
 これらの周辺海域には、ハイテク機器の製造に欠かせない希少鉱物資源が約680万t埋蔵されていると推定されます。これは日本国内のレアアース消費量の230年分に相当するといわれます。
期待が膨らむ日本近海の海底資源 - コバルトリッチクラストが太平洋岸の海底に広く分布 -
 2010年にまとめた国の報告書によると、伊豆・小笠原海域の海底熱水鉱床には、1t当たり金11・5g、銀290gなどを含む鉱石が採取されました。この含有量は陸上の一般的な鉱山より多いといわれます。
 このほか、海底の鉱物資源の一種で、レアメタル(希少金属)のコバルトや、合金に使われるニッケルなどを多く含むコバルトリッチクラストと呼ばれる鉱床が、日本近海の太平洋側の海底に多く分布しています。
 コバルトリッチクラストは、海水中に溶けているマンガン、コバルト、ニッケル、白金、レアアースなどの金属成分が、長時間かけて水深800~2400mの海底の斜面や岩石に付着し、層状に堆積してできた鉱床です。
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、経済産業省の委託を受けて1987年から、小笠原諸島の南鳥島南東沖合いの公海上で調査を行っています。

- 南鳥島沖合の公海上で、コバルトリッチクラストの探査鉱区が承認 -
 今年7月、国連海洋法条約に基づいて海底鉱物資源を管理する国際海底機構から、南鳥島南東沖合約600㎞の海域(面積3000㎢)が、わが国のコバルトリッチクラストの探査鉱区として承認されました。
 今年度から向こう15年間、日本はこの探査鉱区で独占的に海底鉱物資源の調査、開発を行います。
 これまで海外にほぼ100%供給を仰いでいたコバルト、ニッケル、白金などのレアメタルを、日本が独自に入手できる道が開かれることになります。
期待が膨らむ日本近海の海底資源 【海洋開発と海の領有権】
- 海洋資源を巡って激しさを増す周辺国との対立 -
 日本は約6800の島々からなる島嶼国家ですが、長い海岸線と大きな周辺海域を持つ海洋国家でもあります。
 人口は世界第10位、国土面積は第61位ですが、領海と排他的経済水域(EEZ)を含めた支配権の及ぶ海洋面積は、国土の約12倍の447万㎢で、世界第6位の海洋大国です。
 領海は海岸線(基線)から12海里(約22㎞)までを指し、排他的経済水域は200海里(約370㎞)までで、それ以外は公海です。
 領海は領土に準じて国家主権がおよぶ海域です。排他的経済水域とは、漁業資源や鉱物資源の開発や管理に関して自国の法令が適用できる海域のことです。
 日本を取り巻く広大な排他的経済水域に、メタンハイドレートや、銅、亜鉛などの鉱物資源、ハイテク機器に不可欠な貴重なレアメタル(希少金属)、レアアース(希土類)が大量に存在しています。
 20世紀は食糧や石炭、石油、鉄鉱石など陸上資源の争奪をめぐる戦争の世紀といわれました。その後、陸上の資源開発の余地は次第にせばまり、21世紀は海洋資源開発に向けた競争の時代だといえます。
 竹島や尖閣諸島の領有権を主張している韓国や中国との対立。ロシアとの北方領土交渉の行方など、今後海洋資源を巡る周辺海域の支配、領有権争いが一層激しさを増すと見られます。
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