4年後に廃止される コメの減反政策とは?【社会】

4年後に廃止される コメの減反政策とは?


 コメは私たち日本人の大切な主食です。そのコメは50年近く減反政策と呼ばれる生産量の調整が行われてきました。コメの作りすぎによる値崩れを防ぐためでしたが、4年後の2018年4月から減反政策の廃止が決まり、日本の米作農業は大きく変わろうとしています。減反廃止の背景を通じて日本のコメ農業を考えて見ましょう。

4年後に廃止される コメの減反政策とは? - 1反(10a「アール」)は1石(150㎏)のコメがとれる水田の広さ -
 農家が作るコメの量を制限する生産調整のことを減反(げんたん)といいます。減反の「反」というのは古い単位の面積を表す言葉で、1反は約10a。テニスのシングルコート5面分程度の広さです。
 1反(たん)とはもともと、1石(こく)と呼ばれる量のコメが収穫できる水田の広さを表していました。1石は昔大人が1年間に食べるコメの量を示す単位で約150㎏です。
 つまり1反(約10a)とは、1石(約150㎏)の米がとれる田んぼの面積のことで、江戸時代に「1万石の大名」というのは、1万石(1500t)のコメが収穫できる1万反(1000ha「ヘクタール」)の水田を領地に持つ大名ということです。

- 政府が農家のコメを買い上げる食管制度が戦中から始まる -
 主食であるコメをいかに安定して領民(国民)に供給するかということは、古来から為政者の最も大きな課題でした。領地争いはコメの収穫を巡る争いでした。
 第2次大戦の末期から戦後しばらくの間、日本は食糧不足に悩みました。このため政府はコメの大増産を進めました。戦争中の1942年に食糧管理法を制定して、農家が作ったコメを政府が高く買い取り、消費者に安い価格で販売しました。
 作ったコメはすべて政府が高く買ってくれるので、農家は安心してコメ作りに精を出すことができたのです。これを食糧管理(食管)制度といいます。これによって日本の米の生産量は大きく増加しました。

4年後に廃止される コメの減反政策とは? - 60年代後半から食の欧米化で需要が減りコメ余り現象に -
 日本のコメの消費量は、ピーク時の1963年に約1340tありました。しかし、60年代の後半になると国内にコメが余るようになりました。
 食の欧米化が進んでコメの消費量が減少する一方、農業の機械化や品種改良が進んでコメの生産性が向上したためで、次第にコメ余りが深刻になっていきました。
 大人1人が1年間に150㎏のコメを食べていたのは遠い昔のことです。パンや麺類など食事の多様化で、1962年に約118㎏だった1人当たりのコメの消費量は、2012年には約56㎏と半減しています。
 政府は農家からコメを高く買って(生産者米価)、安く売る(消費者米価)ため、コメの生産量が増えれば増えるほど国の赤字は増大していきます。農家から買い上げたコメは売れ残り、大量の在庫米を抱えて国の財政負担はますます増えていきました。

- 1970年からコメの生産調整(減反)を開始 -
 そこで政府は1970年から農家に対して、コメの生産量を制限する「減反」と呼ばれる生産調整を実施しました。
 具体的には、毎年農協を通じて全国の農家に田んぼを減らす目標値が割り振られました。農家は田んぼの一部を休ませたり(休耕田といいます)、コメの代わりに麦や豆などを作って(転作といいます)目標通りコメの生産を減らした農家に補助金を支給しました。
 当時は、食糧管理法によって農家が政府にコメを売り渡すことが義務付けられていたので、「自由にコメを作りたい」と農家が減反を拒否して直接コメを消費者に売ると、不正規流通米(ヤミ米)として取り締まられました。

- 1995年に食管制度が廃止。減反政策はそのまま継続 -
 こうした状況に最初の変化が訪れました。1993年の冷夏で、コメが記録的な大凶作となり、「平成のコメ騒動」と呼ばれるコメ不足が起こりました。
 ヤミ米に頼る消費者が増大し、政府は一時的にコメの輸入に踏み切りました。食糧管理法に基づく食管制度では、気候変動による作柄の変動に対応できないなど制度上の限界が明らかになったのです。
 こうして1995年に、戦中から50年余り続いた食管制度が廃止され、農家が自由にコメを作って販売できる新しい食糧法が施行されました。ただ、減反政策はコメの需給と価格の安定を図るのに必要とされ、現在まで継続されてきました。

- コメの需要、価格は下がり続け多額の補助金が必要な減反政策は困難に -
 減反政策は、コメの生産量を制限して価格の安定を図る狙いで残されましたが、コメの消費量はその後も減り続け、価格も下がり続けています。
 食管制度が廃止された翌年の1996年に、主食用コメの需要は944万t、取引価格は60㎏(1俵)当たり2万751円でした。その後コメの需要も価格も下降をたどり、2012年のコメ需要は779万t、価格は1万6517円に下がっています。
 政府は2013年のコメの生産目標を、前年に比べて2万t少ない791万tと設定しましたが、14年はさらに目標設定を下げる見込みです。
 コメの価格は今後も下がり続ける可能性が大きく、多額の補助金を投入する減反政策をこのまま維持することは財政的に困難となってきました。

4年後に廃止される コメの減反政策とは? - 過保護のコメ農業から競争力のある自立したコメ農業へ -
 日本のコメ農業は、長年続いた食糧管理法や減反政策など、政府の手厚い保護の下にあったといわれます。海外からの輸入米には778%もの高い関税をかけて、日本産のコメを守っています。
 これは海外だと100円で買えるコメが778円の関税がかかるため、日本で買えば878円になる勘定です。
 今政府が交渉を進めているTPP(環太平洋経済連携協定)に日本が加盟して、コメをはじめとした農産物の関税が撤廃または軽減されると、海外から安い農作物が大量に国内に入ってきます。
 これに対抗するためには、コメ農業を自立した産業として大改革する必要があります。そのため農地の大規模化やコメ作りの法人化(会社組織)などで生産性を向上し、海外製品との競争力を高めることが求められます。

4年後に廃止される コメの減反政策とは? - 減反政策の廃止でコメ生産の大規模化、効率化をめざす -
 日本の農業に競争力がないのは、農家一戸当たりの耕作面積が非常に狭いからだといわれています。現在コメを作っている農家は約116万戸です。作付面積が10ha以上の農家は9%足らずで、72%が1ha以下の零細農家で占めています。日本の農家1戸当たりの農地面積は約1.8ha弱で、米国(約180ha)の90分の1、イギリス(55.6ha)の28分の1、フランス(48.6ha)の24分の1、ドイツ(43.7ha)の22分の1です。
 農地の集約化、大規模化を推し進めてコメの生産性を高めるには、補助金で零細農家を支えている現在の減反政策を廃止して、意欲のある自立したコメ農家の育成を急ぐべきだというのが政府の考えです。

- 今年度から減反補助金は半減、18年度に廃止 -
 昨年秋に安倍政権は、2018年度からコメの生産調整(減反)を廃止することを決めました。
 現在、国の生産目標に従って減反している農家に、10a(1反)当たり年間1万5000円が支給されていますが、2014年度から半分の7500円に減額し、18年度からは廃止されます。
 また、コメの代わりに麦や大豆、飼料用コメ(エサ米)などを生産している農家に支給している転作補助金を増額して、〝脱コメ〟へのシフトを促していきます。
 減反政策が廃止されれば、零細農家は補助金が支給されず、とてもやっていけなくなります。このため、農地を大規模農家や農業法人に貸し出して農地の集約化が進むと見られます。
 政府は農地の集約化がしやすいように、農地バンク構想などの仕組みづくりを検討しています。コメ農業の大規模化や会社組織の法人化によって生産性を高め、国際競争力の強化をめざしています。

4年後に廃止される コメの減反政策とは? 『TPPと日本の農業』
- TPPの締結で農業生産額は推計で約3兆円減少 -
 政府が減反政策の廃止を決めた直接のきっかけは、現在交渉中のTPP(環太平洋経済連携協定)が大詰めを迎えてきたためといえます。TPPはアメリカやオーストラリアなど太平洋沿岸12カ国がお互いに関税をなくし、貿易やビジネスをより自由に行おうと現在交渉中の協定です。
 TPPが締結されれば、海外から安いコメが大量に輸入され、日本のコメ農業は大きな打撃を受けることになります。政府はTPP交渉が合意して関税が引き下げられれば、日本の国内総生産(GDP)が3兆2000億円増大するとしていますが、一方で農業分野の生産額は3兆円減少すると推計しています。
 過去50年で、政府が農業分野に投入した財政資金は8兆2000億円にも上ります。コメ農家を保護する一方で、消費者に高い価格のコメを押しつけてきたという批判もあります。
 しかし、減反政策の廃止がそのまま日本の農業の競争力向上に結びつくのかという点では疑問もあります。優良な農地では大規模化によって生産性を高め、高級なブランド米を作って十分な競争力を発揮できるかもしれません。
 一方で、零細農家の農地には大規模化に向かない条件の悪いところも多く存在します。集約化にそぐわない多くの農地が放棄され、荒れ地として取り残されてしまうのでは、という心配の声もあがっています。
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