過酷な労働を強要する「ブラック企業」【社会】

過酷な労働を強要する「ブラック企業」


 法律を無視して長時間にわたる過重労働や残業代の不払い、退職強要、パワーハラスメントなど、社員を酷使する「ブラック企業」が社会問題化しています。なかでも、雇用環境の悪化に伴って弱い立場にある新入社員がブラック企業の被害を受けやすく、若者の離職率を高める要因にもなっています。
 厚生労働省もこうした事態を放置できないとして、昨年からブラック企業の調査に乗り出し、さまざまな対策を講じています。ブラック企業が出現した背景を探るとともに、被害を受けないための方策を考えてみました。

過酷な労働を強要する「ブラック企業」 -ブラック企業とは-
労働者に対して違法行為を常態化させた会社のことを指します。労働者の権利は、法律によって守られています。労働基準法では、1日の労働時間は8時間、週40時間と定めています。これ以上働く場合は、会社は残業代として割増賃金を支払わなければなりません。その場合でも、残業時間は月間45時間以内と決められています。また、正当な理由なく会社を辞めさせられることはなく、健康で安全な環境の下で働く権利を持っています。
 ブラック企業はこうした法律を守らず、労働者を酷使・選別し、厳しい労働環境に耐え抜いた者だけを引き上げます。落伍したものは、業務とは直接関係しない研修やパワハラなどで肉体的、精神的に追い詰めて自主退社させるのです。つまり、企業が必要ないと判断した労働者は、簡単に使い捨てられてしまいます。
 ブラック企業という言葉が誕生したのは、20代の若者が2008年頃にインターネットの掲示板に悪辣な会社を「ブラック企業」と呼んだのが始まりとされています。

-日本企業特有の現象?-
 日本では、1970年以降の高度経済成長の時代から、労働者の長時間労働やサービス残業などの問題が指摘されてきました。その結果、「過労死」という言葉が生まれ、この言葉は今でも引き継がれています。
 しかし、当時の労働者は過酷な労働環境下にあっても、企業の終身雇用・年功序列の賃金制度などで、社員の暮らしを保証するという暗黙の合意があったのです。新入社員の指導も、時間をかけて企業風土に合致するように行われてきました。その是非は別としてこうした指導が、「滅私奉公」という日本型雇用慣行を生み出し、高度経済成長を支えてきました。しかし、バブル崩壊以降の長引く景気の低迷で、日本型雇用慣行は崩壊していきます。
 こうしてみると、以前から日本の多くの企業には、潜在的にブラック的な体質があったといえるかもしれません。

-「景気の悪化」と「ブラック企業」-
 バブル崩壊以降、日本の景気は長期低迷を続け、リーマンショックはそれに追い打ちをかけました。景気の悪化に伴って、多くの企業は新入社員の採用を減らし、現在でも改善されていません。
この結果、学生の就職難が深刻になり、「仕事がないより、厳しい職場であっても正社員として採用されれば…」と考えるようになり、多くの若者がブラック企業に流れ込み、厳しい環境下で働くようになりました。
 ブラック企業が求めるのは、労働者の権利よりも労働の効率性の追求です。その具体例として、低賃金で沢山の社員を採用して、必要な人だけを残す「選別型」。長時間労働や高いノルマを課して社員を酷使する「使い捨て型」。成績が伴なわない社員に対するパワハラやセクハラが横行する「無秩序型」などがあります。また、社員を形だけの管理職扱いにする「名ばかり管理職」で、残業代を免れる例も見られます。

-社会に及ぼすブラック企業の悪影響-
 ブラック企業の悪辣なやり方に対し、働く意欲をなくす若者が増えることは当然といえるでしょう。これが若者の「早期退社」の一因となっています。熟年世代でも、古くは「窓際族」、今では「追い出し部屋」という表現で、生産性の低い社員は厳しい労働環境下に置かれています。
 これまで、若年労働者の問題は「ニート」や「フリーター」という言葉で表わされ、若者の働くという「意識の欠如」に焦点が当てられてきました。「ブラック企業」の登場は、働く若者だけの問題ではなく、企業の問題であるという側面を色濃く表しています。
 さらに、ブラック企業の問題は、そこで働いた人の心身の健康を害したという個々の問題だけに止まりません。ブラック企業は、日本が築き上げた伝統的な雇用関係を崩壊させ、うつ病などで心身を病んだ若者を増やし、国の医療費負担を増加させています。若者が安定した職場を確保できないことで少子化に拍車をかけ、市場の縮小などで将来の日本経済に多大な影響を及ぼします。
 ブラック企業の問題は、単に若者の労働問題という側面だけでなく、社会問題としての両面から考えて行く必要があります。
過酷な労働を強要する「ブラック企業」 -ブラック企業を見極める-
 ブラック企業は、経営者や組織内部の考え方に起因していることが多く、外から見ただけでは簡単に見極めることができません。
 各種就職情報サイトでは、企業がスポンサーのため、会社が見せたい情報しか掲載されていません。また、会社説明会などでも、自社の都合のいい面だけを印象付けようとしますので、ブラック企業を見抜くのが困難です。
 ブラック企業を見分けるには、外部に公表された「会社四季報」や「就職四季報」、企業のHPなどの客観的データを分析することが大切です。そこで、各種労働条件をしっかり調べることはもちろん、過去の採用実績数と従業員数、平均勤続年数、離職率などを調べることが重要です。
 離職率が高い会社は、若者の使い捨てが心配される会社だからです。掲載されていない会社があるかもしれませんが、こうした企業は掲載できない何らかの理由があると考えられます。

-ブラック企業から身を守る-
 もし、ブラック企業に入ってしまっても、自分が悪いとあきらめる必要はありません。身を守るためには、労働者の権利を守る労働法と照らし合わせ、違法行為があれば労働基準監督署や労働組合に相談することです。また、NPOや弁護士などさまざまな機関が相談窓口を開設しているので、そこで相談することもできます。
 ブラック企業で無理して働き、心身の健康を害することは本人にとっても不幸であり、後に続く若者にも悪影響を及ぼします。勇気を出して会社の違法行為を訴えることは、ブラック企業をなくすためにも有効な行為です。
過酷な労働を強要する「ブラック企業」 -国も対策に乗り出す-
 厚生労働省は昨年9月、ブラック企業への関心の高まりを受けて、離職率の高さや長時間労働などで労働基準法違反が疑われた5111社(事業所)を対象に調査しました。その結果、全体の82%にあたる4189社で違法行為が行われていたことが分かりました。
 法令違反で最も多いのは、「違法な時間外労働」の2241社で、全体の43.8%。次いで「賃金不払いの残業」で、1221社で23.9%。過重労働による「健康障害防止措置」が実施されていない会社が71社で、1.4%となっていました。
 厚生労働省では、こうした調査結果を受けて、各企業に法令違反がないように指導し、再発防止の徹底を図ります。それでも悪質な違反が確認され、改善が見られない企業に対しては、社名を公表するだけでなく送検していく方針です。
過酷な労働を強要する「ブラック企業」 『増え続ける非正規労働者』
-新卒者の3割以上が3年以内に離職-
 近年、パートやアルバイト、契約社員といった非正規労働者が増え続け、2012年の非正規労働者は労働者全体の3分の1を超える35.2%に達し、過去最高となっています。特に目立っているのは15~24歳の若年層で、1990年代半ばから大きく上昇しています。
 家庭の都合などで、拘束時間などにある程度自由がきくパートやアルバイトを希望する人もいますが、多くは正規社員を望みながらも希望が叶えられていないのが現実です。非正規雇用には、雇用が不安定、賃金が安い、能力開発の機会が乏しい、セーフティネットが不十分などの課題があります。
 しかし、学校を卒業した若者の卒業3年後の離職率は30%を上回っています。この中には、ブラック企業に使い捨てられた人も少なくないと見られています。若者を取り巻く労働環境をじっくり考え、正規労働者であればいいという安易な企業選択に走ることは絶対に避けなければなりません。
『知って役立つ「労働法」』
-働く時に必要な基礎知識-
 会社に就職する場合、会社と労働者の間で「雇います」「働きます」といった約束(労働契約)が結ばれます。どのような条件で働くかといった契約内容も、会社と労働者の間で取り決めます。
 労働者は、給料や勤務時間などより良い条件を求めますが、会社に「不満があれば働かなくてもいいよ」といわれると生計を立てることができません。その結果、立場の弱い労働者は、低賃金や長時間労働などの劣悪な条件のもとで働かなければなりません。このため、労働者を保護するために労働法があるのです。
 ところで、労働法といっても「労働法」と名前が付いた法律はありません。労働問題に関するたくさんの法律をひとまとめにして労働法と呼んでいるのです。なかでも「労働基本法」「労働組合法」「労働関係調整法」の三つの法律は、労働法の根幹をなすものとして労働三法と呼ぶこともあります。
 1947年に制定された「労働基準法」は、雇用をめぐる諸問題について労働者保護の観点に立って規制している法律です。身近な例として、勤務時間や残業の扱いなどを定めています。「労働組合法」は、名前の通り労働者の団結権、団体交渉権など労働者の地位向上を図ることをめざした法律です。そして、労働争議の予防や解決を目的にしたのが「労働関係調整法」です。
 ブラック企業から身を守るために法律を知ることは大切です。
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