司法制度改革からの歩みを検証【社会】
【司法制度改革の三つの柱】
日本の司法制度は、戦後、新しい憲法の下でスタートを切りました。以来、年月を経過するとともに裁判期間の長さ、法曹界の閉鎖性、費用の高さなどさまざまな問題が指摘されるようになりました。
このため、1999年以降「国民に身近で、速くて、頼りがいのある司法」をめざして司法制度改革が進められてきました。この中には、よく知られている「裁判員制度の導入」「法科大学院の開設」「法テラスの設置」などが含まれています。これらの司法制度改革が、現在どのようになっているのか検証してみました。
- 21世紀型の司法をめざして -
司法制度改革は1999年(平成11年)7月に、内閣に司法制度改革審議会が設置されてスタートを切りました。2001年6月に司法制度改革審議会が最終意見書を内閣に提出し、11月には司法制度改革推進法が成立しました。これを受け、12月に司法制度改革推進本部を内閣に設置し、さまざまな司法制度の改革が進められることになったのです。
日本の社会構造は大きく変化し、これまでの事前の規制や指導を通じて個人や企業の活動を調整する「事前規制・調整型の社会」から、国民一人ひとりが自らの責任で自由に行動することを基本にした「事後チェック・救済型の社会」へと変化してきました。 こうした社会の変化に対し、21世紀を支える司法の役割として「国民に身近で、速くて、頼りがいのある司法」が望まれるようになりました。
そこで、司法制度改革では、裁判の迅速化、法曹人口の拡大と養成制度の改革、国民の司法参加を三つの柱として改革が進められてきたのです。
【開かれた司法をめざす「裁判員制度」】
司法制度改革は1999年(平成11年)7月に、内閣に司法制度改革審議会が設置されてスタートを切りました。2001年6月に司法制度改革審議会が最終意見書を内閣に提出し、11月には司法制度改革推進法が成立しました。これを受け、12月に司法制度改革推進本部を内閣に設置し、さまざまな司法制度の改革が進められることになったのです。
日本の社会構造は大きく変化し、これまでの事前の規制や指導を通じて個人や企業の活動を調整する「事前規制・調整型の社会」から、国民一人ひとりが自らの責任で自由に行動することを基本にした「事後チェック・救済型の社会」へと変化してきました。 こうした社会の変化に対し、21世紀を支える司法の役割として「国民に身近で、速くて、頼りがいのある司法」が望まれるようになりました。
そこで、司法制度改革では、裁判の迅速化、法曹人口の拡大と養成制度の改革、国民の司法参加を三つの柱として改革が進められてきたのです。
【開かれた司法をめざす「裁判員制度」】
- 国民の視点・感覚を司法の場に -
2009年5月に始まった裁判員制度の大きな目的は、国民の素直な視点、感覚を司法の場に生かそうというものです。
これまで裁判は、法曹三者と呼ばれる検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家が中心になって行われてきました。しかし、専門性を重視するあまり、国民にとって審議や判決の内容が理解しにくい面がありました。
裁判員裁判では、国民が裁判員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に判断する制度です。この結果、国民にとって裁判が身近なものになり、司法に対する理解や信頼が高まることを期待してスタートしました。
- 裁判員裁判の仕組み -
裁判員は選挙権のある人の中から、翌年の裁判員候補者となる人を毎年選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作り、候補者へ通知・調査票が送付されます。事件ごとに候補者名簿中からくじで裁判員候補者が選ばれます。そして、裁判所で裁判員になれない理由のある人や辞退が認められた人などを除いて6名の裁判員が選ばれ、3人の裁判官とともに審議を行い、合議のもとに判決を言いわたします。
裁判員が参加する事件は、殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、覚せい剤取締法違反などといった刑事事件です。すべての刑事事件に裁判員制度を導入すると国民の負担が大きくなりすぎるため、国民の関心の強い重要な裁判に限って裁判員制度を導入しています。
日本は三審制を取っており、裁判員が裁判に参加できるのは地方裁判所などで行われる第一審に限られています。このため、第一審の判断が上級審で覆ったり、量刑が変わることもあります。
- 5年後の裁判員裁判の実施状況 -
裁判員制度が導入されるとき、裁判員法の付則で「施行3年後に見直しを検討する」と定められています。2014年5月で丸5年を迎えた裁判員裁判の実施状況は以下のようになっています。
スタートから2013年末までに行われた裁判員裁判で、6060人の被告人に判決が言い渡されました。その内訳は、強盗致傷事件1348人(22.2%)、殺人事件1342人(22.1%)、現住建造物等放火事件553人(9.1%)などとなっています。
これらの裁判員裁判で裁判員に選ばれた人は34896人で、男性が54.9%、女性が43.2%、その他無回答となっています。年齢もほぼ各年代からまんべんなく選ばれており、職業も多岐にわたっています。すべての国民に開かれた司法という面では、その意図を十分に反映した裁判員の構成といえるでしょう。
一事件あたりの裁判員選任手続きでは、事件ごとに平均で約90人が裁判員候補となり、このうち59.2%の人の辞退が認められました。また、裁判所で行われる選任手続きには約29人が出席し、この中からくじで6人の裁判員が選ばれています。
- 裁判員制度の見直しに着手 -
施行後3年で必要に応じて見直すという規定を受けて、法務省は法曹三者や有識者で見直しを検討してきました。見直しの中で一番大きな問題は、いかに裁判員の負担を軽減するかということです。
昨年6月に検討会が改正すべきポイントとして、審議が年単位となるような長期裁判を裁判員裁判から除く、性犯罪被害者らのプライバシーの保護を裁判員候補者にも義務付ける、東日本大震災などの大規模災害時に、被災地に暮らす人々を裁判員候補者から外す、といった案がまとめられました。この改正法案は、今年の通常国会に提出され審議されることになっています。
また、裁判員の心理的ストレスを軽減させるため、遺体写真などの刺激が強い証拠を扱う場合は事前に予告したり、モノクロ写真やイラストで提示するなどの対応を求めています。
【制度の立て直しが迫られる「法科大学院」】
- 多様な人材で司法サービスを充実 -
法科大学院は、法曹人口を増やして国民に身近な司法をめざすという司法制度改革の趣旨に沿って2004年4月に開設されました。
従来の司法試験は、合格率が2~3%と国家試験の中でも最難関の試験とされ、受験生の多くは司法試験予備校などで受験技術を優先した勉強をしてきました。この結果、これから必要とされる幅広い教養や柔軟な思考力、国際的感覚などが不十分な法曹が誕生するのではと心配されるようになりました。
新設された法科大学院では、受験勉強偏重ではなく、理念としてプロセス重視の教育を掲げ、大学で法律を学んだ人以外にも、他学部出身者や社会人としてキャリアを積んだ人材などを幅広く受け入れてきました。
法科大学院でのこうした教育を通じて、司法を取り巻く諸課題を克服するとともに、多様な人材が法曹界に加わることで司法サービスをより充実させることを目的としています。
- 下がり続ける司法試験の合格率 -
政府の計画では、法科大学院の修了生の7~8割が司法試験に合格すると想定し、合格者数も順次増加させ、2010年ごろには3000人程度にする計画でした。ところが、法科大学院1期・2期修了生が受験した2007年の合格率は40.2%に過ぎず、それ以降下がり続けています。また、受験者数や入学者数も下がり続けているのが現状です。
その原因の一つとして、法科大学院の乱立があります。当初、適切な法科大学院数は20校程度と見込まれていましたが、実際には74もの法科大学院が乱立し、その定員は約5400人にも達しました。この結果、政府の7~8割の合格率で、3000人の合格という想定は、当初の入学者と合格率との関係から早くも大きく崩れてしまったのです。
また、法科大学院の高額な学費が学生に重くのしかかります。経済的に余裕のない学生は奨学金に支えられ、社会人は貯金を取り崩すというケースも珍しくありません。さらに、国民全てに開かれた司法が実現すると、司法を支える人的基盤が飛躍的に拡大すると見込まれていましたが、新人弁護士の就職難など実際のニーズはそれほど拡大していないという事実も見逃せません。
政府は昨年7月、法曹養成制度検討会議の提案を受け、司法試験の合格者を3000人とした当初計画の撤廃や、試験の合格率の低い法科大学院の退場や定員削減、統廃合などを進めることになりました。司法を支える人的資源を増加して、社会の隅々まで法の支配を行き渡らせるという目的は大きな曲がり角に差しかかっています。
- 注目集める「司法試験予備試験」 -
大きく揺らぐ法科大学院を横目に、司法試験予備試験が注目を集めています。司法試験の受験資格を得るには法科大学院の修了が原則ですが、経済的理由などで法科大学院を経由せずに受験資格を得る制度として2011年に開設されました。出願者は3年連続で増加し、2013年は前年より2137人多い11255人となっています。
増加している要因として、法科大学院に通う費用と時間を回避しようということと、予備試験合格者の司法試験合格率の高さがあげられます。2013年度の法科大学院修了者の合格率が26.8%だったのに対し、予備試験合格者の合格率は71.9%と大きく上回りっています。
しかし、予備試験の合格率は11年1.79%、12年3.05%、13年は3.8%と非常に狭き門でした。
【総合法律支援を行う「法テラス」】
2009年5月に始まった裁判員制度の大きな目的は、国民の素直な視点、感覚を司法の場に生かそうというものです。
これまで裁判は、法曹三者と呼ばれる検察官や弁護士、裁判官という法律の専門家が中心になって行われてきました。しかし、専門性を重視するあまり、国民にとって審議や判決の内容が理解しにくい面がありました。
裁判員裁判では、国民が裁判員として刑事裁判に参加し、被告人が有罪か無罪か、有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に判断する制度です。この結果、国民にとって裁判が身近なものになり、司法に対する理解や信頼が高まることを期待してスタートしました。
- 裁判員裁判の仕組み -
裁判員は選挙権のある人の中から、翌年の裁判員候補者となる人を毎年選び、裁判所ごとに裁判員候補者名簿を作り、候補者へ通知・調査票が送付されます。事件ごとに候補者名簿中からくじで裁判員候補者が選ばれます。そして、裁判所で裁判員になれない理由のある人や辞退が認められた人などを除いて6名の裁判員が選ばれ、3人の裁判官とともに審議を行い、合議のもとに判決を言いわたします。
裁判員が参加する事件は、殺人、強盗致死傷、傷害致死、危険運転致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、覚せい剤取締法違反などといった刑事事件です。すべての刑事事件に裁判員制度を導入すると国民の負担が大きくなりすぎるため、国民の関心の強い重要な裁判に限って裁判員制度を導入しています。
日本は三審制を取っており、裁判員が裁判に参加できるのは地方裁判所などで行われる第一審に限られています。このため、第一審の判断が上級審で覆ったり、量刑が変わることもあります。
- 5年後の裁判員裁判の実施状況 -
裁判員制度が導入されるとき、裁判員法の付則で「施行3年後に見直しを検討する」と定められています。2014年5月で丸5年を迎えた裁判員裁判の実施状況は以下のようになっています。
スタートから2013年末までに行われた裁判員裁判で、6060人の被告人に判決が言い渡されました。その内訳は、強盗致傷事件1348人(22.2%)、殺人事件1342人(22.1%)、現住建造物等放火事件553人(9.1%)などとなっています。
これらの裁判員裁判で裁判員に選ばれた人は34896人で、男性が54.9%、女性が43.2%、その他無回答となっています。年齢もほぼ各年代からまんべんなく選ばれており、職業も多岐にわたっています。すべての国民に開かれた司法という面では、その意図を十分に反映した裁判員の構成といえるでしょう。
一事件あたりの裁判員選任手続きでは、事件ごとに平均で約90人が裁判員候補となり、このうち59.2%の人の辞退が認められました。また、裁判所で行われる選任手続きには約29人が出席し、この中からくじで6人の裁判員が選ばれています。
- 裁判員制度の見直しに着手 -
施行後3年で必要に応じて見直すという規定を受けて、法務省は法曹三者や有識者で見直しを検討してきました。見直しの中で一番大きな問題は、いかに裁判員の負担を軽減するかということです。
昨年6月に検討会が改正すべきポイントとして、審議が年単位となるような長期裁判を裁判員裁判から除く、性犯罪被害者らのプライバシーの保護を裁判員候補者にも義務付ける、東日本大震災などの大規模災害時に、被災地に暮らす人々を裁判員候補者から外す、といった案がまとめられました。この改正法案は、今年の通常国会に提出され審議されることになっています。
また、裁判員の心理的ストレスを軽減させるため、遺体写真などの刺激が強い証拠を扱う場合は事前に予告したり、モノクロ写真やイラストで提示するなどの対応を求めています。
【制度の立て直しが迫られる「法科大学院」】
- 多様な人材で司法サービスを充実 -
法科大学院は、法曹人口を増やして国民に身近な司法をめざすという司法制度改革の趣旨に沿って2004年4月に開設されました。
従来の司法試験は、合格率が2~3%と国家試験の中でも最難関の試験とされ、受験生の多くは司法試験予備校などで受験技術を優先した勉強をしてきました。この結果、これから必要とされる幅広い教養や柔軟な思考力、国際的感覚などが不十分な法曹が誕生するのではと心配されるようになりました。
新設された法科大学院では、受験勉強偏重ではなく、理念としてプロセス重視の教育を掲げ、大学で法律を学んだ人以外にも、他学部出身者や社会人としてキャリアを積んだ人材などを幅広く受け入れてきました。
法科大学院でのこうした教育を通じて、司法を取り巻く諸課題を克服するとともに、多様な人材が法曹界に加わることで司法サービスをより充実させることを目的としています。
- 下がり続ける司法試験の合格率 -
政府の計画では、法科大学院の修了生の7~8割が司法試験に合格すると想定し、合格者数も順次増加させ、2010年ごろには3000人程度にする計画でした。ところが、法科大学院1期・2期修了生が受験した2007年の合格率は40.2%に過ぎず、それ以降下がり続けています。また、受験者数や入学者数も下がり続けているのが現状です。
その原因の一つとして、法科大学院の乱立があります。当初、適切な法科大学院数は20校程度と見込まれていましたが、実際には74もの法科大学院が乱立し、その定員は約5400人にも達しました。この結果、政府の7~8割の合格率で、3000人の合格という想定は、当初の入学者と合格率との関係から早くも大きく崩れてしまったのです。
また、法科大学院の高額な学費が学生に重くのしかかります。経済的に余裕のない学生は奨学金に支えられ、社会人は貯金を取り崩すというケースも珍しくありません。さらに、国民全てに開かれた司法が実現すると、司法を支える人的基盤が飛躍的に拡大すると見込まれていましたが、新人弁護士の就職難など実際のニーズはそれほど拡大していないという事実も見逃せません。
政府は昨年7月、法曹養成制度検討会議の提案を受け、司法試験の合格者を3000人とした当初計画の撤廃や、試験の合格率の低い法科大学院の退場や定員削減、統廃合などを進めることになりました。司法を支える人的資源を増加して、社会の隅々まで法の支配を行き渡らせるという目的は大きな曲がり角に差しかかっています。
- 注目集める「司法試験予備試験」 -
大きく揺らぐ法科大学院を横目に、司法試験予備試験が注目を集めています。司法試験の受験資格を得るには法科大学院の修了が原則ですが、経済的理由などで法科大学院を経由せずに受験資格を得る制度として2011年に開設されました。出願者は3年連続で増加し、2013年は前年より2137人多い11255人となっています。
増加している要因として、法科大学院に通う費用と時間を回避しようということと、予備試験合格者の司法試験合格率の高さがあげられます。2013年度の法科大学院修了者の合格率が26.8%だったのに対し、予備試験合格者の合格率は71.9%と大きく上回りっています。
しかし、予備試験の合格率は11年1.79%、12年3.05%、13年は3.8%と非常に狭き門でした。
【総合法律支援を行う「法テラス」】
- 法で社会を明るく照らすとの願いを込めて -
2006年4月、司法制度改革の一環として総合法律支援法に基づいて設立されたのが日本司法支援センター(法テラス)です。
これまでトラブルが発生しても、裁判に訴えれば時間がかかり、費用の心配や裁判の手続きも分かりにくいといった問題がありました。法テラスでは、全国どこでも法による解決に必要な情報やサービスを提供しています。
具体的には、各自治体や弁護士会、司法書士会などと連携して、紛争解決に必要な情報サービス、適切な法律機関の紹介、国選弁護士の選任に関する業務、司法過疎地での法律サービスの提供、犯罪被害者支援などの業務を行っています。経済的に余裕のない人のために、無料法律相談や弁護士・司法書士費用の立て替えも行っています。
全国に法律相談のネットを張り巡らせることで、裁判所へのアクセスが充実し、民事・刑事裁判の充実・迅速化が図れると期待されています。政府は第一審の裁判を2年以内に終わらせるように「裁判の迅速化に関する法律」を定めています。
日本司法支援センターが「法テラス」という愛称で呼ばれているのは、陽のあたるテラスのように法テラスを安心して利用できる場にしたいという願いが込められています。
2006年4月、司法制度改革の一環として総合法律支援法に基づいて設立されたのが日本司法支援センター(法テラス)です。
これまでトラブルが発生しても、裁判に訴えれば時間がかかり、費用の心配や裁判の手続きも分かりにくいといった問題がありました。法テラスでは、全国どこでも法による解決に必要な情報やサービスを提供しています。
具体的には、各自治体や弁護士会、司法書士会などと連携して、紛争解決に必要な情報サービス、適切な法律機関の紹介、国選弁護士の選任に関する業務、司法過疎地での法律サービスの提供、犯罪被害者支援などの業務を行っています。経済的に余裕のない人のために、無料法律相談や弁護士・司法書士費用の立て替えも行っています。
全国に法律相談のネットを張り巡らせることで、裁判所へのアクセスが充実し、民事・刑事裁判の充実・迅速化が図れると期待されています。政府は第一審の裁判を2年以内に終わらせるように「裁判の迅速化に関する法律」を定めています。
日本司法支援センターが「法テラス」という愛称で呼ばれているのは、陽のあたるテラスのように法テラスを安心して利用できる場にしたいという願いが込められています。