産業や医学に応用が進む数学【社会】

産業や医学に応用が進む数学


 日常的な暮らしに直接関係ないと思われがちな数学ですが、
近年、産業や医学分野での応用が急速に広がっています。政府は高度な数学や数学理論を環境や産業技術、医学研究に役立てようと「数学イノベーション」の推進に力を入れています。私たちの暮らしに役立つ数学の可能性や魅力について考えてみましょう。

産業や医学に応用が進む数学 - 数学は科学と技術の言語 -
 私たちは学校で数学を学んでいますが、「数学はどういう形で社会に役立っていますか」と質問されるとなかなか答えに詰まります。むしろ「代数や幾何など数学は日常の生活にあまり関係がないのでは」と思いがちです。
 ところが数学は私たちの暮らしのあらゆる分野で大きく貢献しています。天気予報や台風の進路、地震情報といった自然観測から、私たちが手にするスマートフォンやテレビ、食品や薬品の製造、交通、通信、金融など社会生活を営む上で、数学の恩恵に浴さないものはありません。
 数学は科学と技術の言語だといわれます。私たちが日常観察し、利用するものすべては、数学によって支えられていると言っても過言ではありません。

- 数学は頭の中で考える論理の学問 -
 ところで数学とはどんな学問なのでしょうか。一般的に数学とは?といえば、数や図形、集合などの抽象的な概念を取り上げて、それぞれの構造や原理、関係性などを論理的に追求していく学問ということになります。
 数学はもともと測量や金銭の計算や暦など、必要に応じて日常的な知恵として誕生し、人間の知的好奇心によって近代に大きく発展しました。観察や実験よりも、人間の頭で考えて組み立てていく、いわば哲学のような論理の学問だといえるでしょう。
 そして、数学によって構築された図形の公式や計算方法、確率の理論などが、自然科学の理論を検証するための重要なツールとして、近代以降の科学技術の発展をサポートしてきました。

- 学校で学ぶのは代数や幾何などの純粋数学 -
 数学を大きく分けると、純粋数学と応用数学があります。私たちが学校で学んでいるのは純粋数学と呼ばれるもので、代数学、幾何学、解析学の体系を基礎から学んでいます。
 代数学では、数の性質(集合も含みます)を文字記号に置き換えて考えます。幾何学は曲線や曲面などの図形を、「位相」という概念でそれらの性質を詳しく調べていきます。
 そして、解析学では微分や積分を中心に連続して変化する量を分析の対象とし、「極限」の概念によって高度な方程式の定義や解法を研究します。

- 実社会に役立つ数学の研究は応用数学 -
 一方、応用数学というのは、実社会で起きる様々な現象や、工学、経済学、物理学など他の学問や世界が抱える数学的な問題にアプローチして、社会に役立つように数学理論を展開していく研究のことです。
 例えば、一見不確定と思われる事柄から何らかの法則を見出す確率論や、個々の要素の分布を調べて集団の傾向や性質を導き出す統計論。さらにコンピューターの基本的な計算法であるアルゴリズムや暗号・符号理論などがそうです。
 応用数学は、数理科学や計算機科学、コンピューターの基礎理論を研究する情報科学と呼ばれる学問分野へ広がり、自然や社会のあらゆる現象を分析して問題の解決に導いていきます。

- コンピューターの登場で数学は大きく変身 -
 数学は20世紀のコンピューターの登場で大きく変わりました。コンピューターは大量のデータ処理や複雑な計算を短時間で行うことができます。
 実際に起きている現象や動きを再現させるシミュレーション技術や、小さくて目に見えないものや抽象的なことがらを視覚的に表現するグラフィック技術などによって、感覚的にとらえにくい問題を目に見える形で解析することができます。
 数学はこれまで論理だけの学問で、実社会とは関係ないように考えられてきました。しかしコンピューター技術の発達によって、ICT(情報通信技術)や先端のメカトロニクスなどを学問的にサポートし、極大(宇宙)から極小(素粒子)までさまざまな分野の課題解決のツールとして大きな期待を集めています。
産業や医学に応用が進む数学 - コンピューター技術と数学理論が未知を解明 -
 21世紀に入ってコンピューターの技術性能はさらに加速し、高度な数学や数学理論が社会生活や産業経済との関わりで一段と注目されるようになりました。
 膨大な情報は、数値に置き換えられてコンピューターが演算処理します。例えば、生命活動を支えるタンパク質の構造解析や人間の遺伝子「ヒトゲノム」の解読などは、超高速演算ができるスーパーコンピューターの出現ではじめて可能となりました。
 コンピューターによる情報処理には代数学や幾何学、統計学や整数論、確率論などの数学理論が活用されます。
 自動車や建物の設計や宇宙開発、地震観測や気象予報、エネルギー開発、医薬品の開発、遺伝子研究などの分野で、高度なコンピューターと最新の数学理論が日々新たに未知の領域を解明しつつあります。

- 医学分野で数学の応用に大きな期待 -
 数学を活用して、がんやインフルエンザなどの感染症の解明や病気の治療に役立てようと、医学の分野で数学の応用に大きな期待が集まっています。
 ガンの増殖を抑える抗がん剤は、副作用のため患者に負担がかかりますが、使い続けると抗がん剤が効かなくなる耐性を持ったがん細胞が現れたりします。
そこで、がん細胞の増殖のスピードに対して効果的な薬の投与量や、薬剤耐性によって薬が効かなくなるまでの時間を計算して、最適な治療効果が発揮できる数理モデルが東京大学生産技術研究所の合原一幸教授らの研究で見出されました。
 医師の経験に頼ることが多かった抗がん剤治療を、数学的なアプローチでシュミレーションし、最適な治療効果を計算する数理モデルに基づいて抗がん剤投与を行うものです。
 また、3次元空間図形を扱う幾何学を活用して、血管内の血流と大動脈瘤(りゅう)の関係を解明して、大動脈瘤発症のメカニズムを明らかにしようとする研究も進められています。

- さまざまな数理モデルが将来を予測可能へ -
 医学と数学のコラボレーションとしてその成果が期待される例が他にもあります。
 ウイルス学が専門の京都大学の佐藤佳助教と、数理科学が専門の九州大学の岩見真吾准教授が、エイズウイルス(HIV)が人体で増殖するメカニズムの解明をテーマに、学際的研究を展開して注目されています。
 このほか、コンピューターソフト開発やアニメ・CGの制作、保険や投資などの金融関係、災害予測、環境エネルギーの分野でも多様な数理モデルが開発され、幅広く活用されています。
 このように数学は医療分野をはじめ、さまざまな金属・化学材料の研究やロボットの開発などモノづくりの指針を提供しています。

- 「宇宙の全ての現象は数字に変換できる」 -
 古代ギリシャの数学者ピタゴラス(BC572〜492)は、「宇宙の全ての現象は数字に変換できる。これは逆に数の理論がそのまま技術にもつながるということだ」と述べています。21世紀のビッグデータ時代の現代にピッタリあてはまる格言だといえるでしょう。
 文部科学省は、2014年度から「社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働戦略目標」を掲げて、数学の力を活用して新たな社会的価値や経済的価値を生み出す「数学イノベ―ション」の推進に力を入れています。
 今、数学が21世紀に大きく飛躍する学問として新たな期待が高まっているのです。
 数学好きの青少年が集う数学の祭典「国際数学オリンピック」が1956年から毎年開かれています。今年7月南アフリカで開催された第55回大会(参加101カ国)で、日本は国別順位で5位という好成績を残しました。  皆さんもどしどし数学にチャレンジしてみてはどうでしょうか。

「数理モデルとは」
- さまざまな現象を数式でモデル化する -
産業や医学に応用が進む数学  現代を生きる私たちは、地球規模のさまざまな問題に直面しています。地球温暖化や水・食料不足、感染症や異常気象、内戦や地域紛争、巨大地震やエネルギー問題など様々です。さらに、これらの問題が地球の隅々までをネットする高度な情報通信技術(ICT)の進展によって、問題が複雑に絡み合って解決をより困難にしています。
 こうした現象の背後にひそむ本質をとらえて具体的に分析していくために、表面に現れた現象(ビッグデータなど)を数式や方程式、確率や統計解析などを駆使してモデル化することを数理モデルといいます。3次元CGで図形化したりグラフで視覚化したりします。
 台風の予想進路や異常気象のメカニズム、株価の動きや景気の予測、保険の掛け率や農作物の収穫予想、放射能汚染の推移、選挙の当落予想など、現実の社会で起きる複雑な現象の理解や推測に用いられます。
 巨大地震や大津波が発生した場合の想定被害をうまく反映した数理モデルが構築できれば、的確な防災対策や避難計画を整備して被害を最小限に抑えることができます。


「数学ミニ歴史」
- 近代科学と共に成長を遂げてきた数学 -
 数学は、人類の歴史のはじまりから存在していました。古代人は農業や航海、暦(時間)の作成など、自然の周期を理解する必要から数学を編みだしました。
 BC1800年頃の古代バビロニアから出土した粘土板には、正方形の対角線の長さの計算が記されていました。紀元前6世紀には、ピタゴラスがピタゴラス学派を開いて幾何学や天文学、数論を教えていました。
 紀元前3世紀のギリシャでは幾何学が発達し、ユークリッドが「原論」を著して公理に基づいて命題を論理的に証明する方法を確立しました。同時期に、アルキメデスは円周率を3・14とし、球の体積や浮力の法則、テコの原理などを発見しました。
 16世紀になって、近代科学の進展と共に数学は飛躍的に発展を遂げました。ガリレイは落下運動の法則を見出し、ケプラーは惑星運動「ケプラーの法則」を生み、デカルトは座標を考案して代数と幾何学を結び付けました。
 17世紀に哲学者のライプニッツは微分法、積分法を発見し、彼のライプニッツ記法は現在の微分・積分の記号として用いられています。同時期に万有引力の法則を発見したニュートンも独自に微分・積分法を確立しました。
 わが国では江戸時代に「和算」と呼ばれる独自の数学が発達し、江戸後期に関孝和(1642?〜1708)が代数の計算法を発明し、行列式や連立高次方程式などの高等数学を大成させました。また関孝和は18桁までの円周率を求めました。
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